クリスマス休暇
小売業に従事する友樹のクリスマスは毎年必ず仕事が入っているのだが、今年の十二月二十五日は日曜日だったので、まだ年末シフトに入っていなかった彼は久々にクリスマスを休日にする事が出来た。
偶然で手に入れたクリスマス休暇なのだから有意義に過ごそうと思った友樹は、クリスマスの三日前に彼女である絵里奈にLINEを送った。
「今週のクリスマス当日は俺休みなんだ。何か行きたいところとか、予定はある?」
絵里奈からの返信は次の様に書かれていた。
「私も特に予定はないよ。ただ次の日は朝の八時から仕事だから夜遅くまで付き合う事は出来ないよ」
返信を受け取った友樹は次のように返事を返した。
「了解。それじゃ君の地元である大宮に行くよ」
友樹はあっさりとした一文を添えると、クリスマスを待った。
クリスマス当日、午後二時過ぎの大宮駅は混雑していた。年末の休暇を地方で過ごす人間や、東京や埼玉に帰省して過ごすだろうサラリーマン、例年の友樹と同じように年末商戦に駆り出されて様々な商品の販売に携わる人間など。だがそれもクリスマスと言う華やかな言葉に彩られたせいなのか、普段の混沌とは異なる、どこかに人間の血が通っているような不思議な活気に満ちていた。
待ち合わせ場所に指定していた西口方面の改札に向かうと、多くの人が行き交う中、改札の向こう側で自分を待ってくれている絵里奈を友樹は見つけた。彼は改札を抜けて絵里奈の元に向かう。絵里奈は淡いグレーのダウンコートに黒いジーンズという格好だった。対する友樹はダッフルコートに青いジーンズという組み合わせ。クリスマスだから日常生活であまり着ない上着を選んだのは良かったが、絵里奈と並ぶとチグハグになってしまうかもしれない。と言う配慮を忘れていた事を友樹は後悔した。
「お待たせ。待ったかい?」
「ううん、待っていない」
絵里奈は朗らかに答えてくれた。クリスマスと言う、愛しあう人間同士には特別な響きを持つ一日だったが、年齢を重ねて定期的に会う関係になると、言葉の持つ響きも薄れて、特別な物ではなくなるような気がした。
「なんか、今日の友樹は学生さんみたいな恰好だね」
「そう?」
後悔したばかりのことを、単刀直入に絵里奈は指摘した。特別な日だからと言って普段から着ていない服を着ると、ちょっと変化をつけようとしているのが簡単に分かってしまうのだろうと友樹は思った。
二人は大宮駅西口にある、デパートや量販店などが並ぶエリアに向かった。東口の向こう側に広がる様々な店舗は大衆的だが、多くが平日の疲れを癒し日常の生活に根付いた形態の店舗が多数を占めている。逆に西口は単価の高い商品を並べる店舗が多く、普段とは異なるハイソな空気を味わえるし、普段足を運ばない場所だから特別な気分にもなれる。と言うのが理由だった。
大宮駅から一番近いデパートに入り、何か自分達の興味を駆り立てそうな物がないかとフロアガイドを眺める。催事場ではクリスマスギフトの販売や、正月用品の予約等が行われている様だった。
「クリスマスは今日だけれど、お正月はどうやって過ごすの?」
絵里奈は不意に友樹に訊ねた。
「普通に家でのんびり過ごすよ。三十一日まで仕事だからね」
「お疲れ様」
「だから今日は特別な物を買う事にするよ」
友樹の言葉に、絵里奈は微笑んだ。
二人はエレベーターに乗って催事場に向かった。催事場はクリスマス用品や正月用品を手に入れようとする買い物客で賑わっていた。販売形態や取り扱う商品は違ったが、普段は販売する側に居る友樹にとっては、少し不思議な感覚があった。
絵里奈と一緒に催事場を進み、何か買えそうなものが無いかと目を泳がせていると、青山に本店がある洋菓子店の出展ブースが、焼き菓子の詰め合わせを売っているのが見えた。友樹はその出展ブースに向かい、売られている焼き菓子の詰め合わせの種類を見る。
「クリスマスのお祝いに、ここで何か好きなお菓子でも買ってあげようか?」
「良いの?」
友樹の言葉に絵里奈は声を弾ませた。
「先月の終わりから、彼氏らしい事をしてやれなかったからさ」
その言葉を口にした友樹は、なんて言い訳がましい台詞なのだろうと思ったが、絵里奈は喜んでくれたようなので安心した。
「じゃあ、この一五六〇円の詰め合わせのやつが欲しい」
絵里奈はそう言って、ランドクシャやフィナンシェが入っている詰め合わせを指さした。友樹は「了解」と言って販売員に商品を求めた。
商品を買い終えると、二人はするべき事が無くなってしまった事に気付いた。クリスマス当日に出来た時間を使って中途半端な時間に出て来たのはいいが、何をすべきか具体的な事は一切考えていなかった。
「これからどうする?」
絵里奈が呟いた。友樹はどうすればいいのか分からず、少し考えた。
「どこか、コーヒーでも飲もうか」
友樹が提案すると、二人はデパートの催事場を離れた。
結局二人の過ごしたクリスマスは大宮のデパートで焼き菓子の詰め合わせを買い、駅近くのカフェでコーヒーを飲んで終わってしまった。偶然空いた休みに無理矢理予定を組み込んでも中途半端な物になってしまう。と言うのがよく判るクリスマスになってしまった。
別れ際、友樹は改札近くで絵里奈を抱き寄せた。抱き寄せた理由は最後に二人だけの特別な時間を過ごしたいからだった。
「なんか中途半端なクリスマスになってごめんね」
友樹は絵里奈に詫びた、せっかくのクリスマスなのに、自分のせいでよく判らない物にしてしまった事の後悔だった。
「大丈夫、私も一人で過ごすより、一緒に誰かと過ごせるほうがいい。短い時間でも、クリスマスはクリスマスだよ」
絵里奈の言葉に、友樹は思わず笑みがこぼれた。
「ありがとう」
友樹は小さく囁いた。




