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突然のクリスマス休暇。

 今年のクリスマスも、勤務シフトが入ってしまった。

 小売業に勤務し、クリスマスから年末にかけては稼ぎ時で、忙しくなるのは承知しているし、小売業に従事する人間がいないと新年を迎えられない人々がいるのも知っていた。しかしその事実を受け入れ続けて八年も経つと、さすがに僕も他の人々に混じってクリスマスの休みを満喫したいと思い、思い切って仕事場の上司にお願いしてクリスマス当日に休暇を貰えないかとお願いすると、なんとクリスマス当日に休みがもらえる事になってしまった。



 そしてクリスマス当日、僕は普段よりも熟睡してから目覚めた。ベッドから這い出て、朝食にドリップコーヒーと買い置きのチョコチップクッキーを二枚口にして、今日をどのようにして過ごすか考えた。お願いして手に入れたクリスマス休暇とはいえ、何か信仰心や、会いに行きたいに人が居る訳ではない。例年なら仕事で埋まっているはずのクリスマスをどうやって過ごすべきだろうかと、当日になって考えてしまった。

「とりあえず、身だしなみを整えて街に出るか」

 僕は誰もいない部屋で自分に言い聞かせるような声を出すと、身だしなみを整えて外に出る事にした。

 黒いジャケットを羽織り、ワンルームの部屋を出る。何も考えずに駅に向かい、改札を抜けてホームに出た。上り線が来るかそれとも下り線が来るか、先にホームに滑り込んできた電車に乗り込んで、そこから繁華街に繰り出そうと決めた。

 やがてホームの天井に備え付けられたスピーカーから上り電車がやってくるアナウンスが流れた。上り電車は都心へと向かう電車だから乗り込んで十数分もあれば、クリスマスの装飾に彩られた繁華街にたどり着く。そこには普段の日常の色々を、クリスマスという年に一度のイベントで修飾した様々ものにあふれて、僕のような平凡で無個性な人間に対して、「特別な時間を過ごしている」と錯覚させてくれる筈に違いないだろう。

 ホームに流れ込んできた上りの電車に乗り込み、車内を見回す。僕以外の乗客は繁華街に向かうらしい家族連れに、高校生らしい学生のグループ。お一人様僕以外にも何人かいたが、「クリスマスなど特別ではない」とでも言いたげに、手に持ったスマートフォンを凝視していたり、あるいはイヤホンの音楽に聴き入っていたりしている。電車の中づり広告に目を凝らすと、かつてはよく目にした週刊誌の広告は激減し、代わりに怪しげな雰囲気が漂う、自称経済評論家やスピリチュアルカウンセラーの著書の広告が占めている。こういうネタに惹かれるのは、いわゆる主観的な意見を鵜吞みにする、時代に即したアップデートが成されていない人間なのだろうと、主観的な意見を僕は抱いた。

 発射のベルが鳴った後にドアが閉まると、僕を乗せた電車は繁華街の方向へと走り始めた。

 十数分吊革につかまり、電車に揺られて繁華街の駅にたどり着く。電車を降りてホームから改札を抜けると、何度も来た繁華街は緑、赤、白のクリスマスの色彩と電飾の明りで彩られていたが、それ以外は普段の休日と本質的に変わらないような気がしたが、彩りが特別感を演出して、何かが違うと錯覚させているのだ。と僕は自分に言い聞かせた。

 そのいつもとは異なる時間を過ごしているのだぞと自分に言い聞かせても、僕にクリスマスの休みをどのようにして過ごせばいいのかという、明確な目的も、アイデアも生まれなかった。

 僕は駅前を離れて、クリスマスの装飾が施された繁華街へと足を踏み入れた。どこかに備えつけられたスピーカーからは、クリスマスの音楽が流れている。街を行き交う人を見ると、家族連れは少なく、カップルや同世代のグループで何かをしようとしている人間が多かった。そして空らの向こう側にいる店舗に目を向けると、クリスマスであっても自分達の仕事を黙々とこなしている人の姿が見えた。本来なら僕も彼らと同じように働いていた筈なのに、今年に限って休みを貰っていると思うと、なんだか申し訳ないような気分になった。

 賑わう中心部を離れて、住宅街に近い喧騒から少し離れた路地に入る。路地はクリスマスムードとは違う日々の生活に基づいた面構えで、浮足立った様子が無かった。僕はここで何かしようと思い、通りにどんな店が軒を連ねているのか確認した後、この地域で唯一らしい、メキシコ料理の店を見つけた。僕はそこでタコスを食べようと思い、そこの店の扉を潜る事にした。



 メキシコ料理の店で僕はビーフとフィッシュのタコスと、単品のフライドポテトを食べて、自分の部屋に戻った。クリスマスにタコスを食べるのはメキシコのクリスマスでは普通かもしれないが、日本では珍しいはずだった。

 僕は部屋に戻って、そのままベッドの上で仰向けになった。もうサンタクロースが物を届けてくれる事は無い。むしろ子どもに夢を与えなければならない時期に来ているのに、僕は子ども時代から進歩していない。そんな気がした。

 目を閉じてぼんやりしていると、僕はいつの間にか眠ってしまった。目を覚ますとすっかり日は落ちて、クリスマスの夜の帳が部屋と世界を覆っていた。一番楽しい時間まで僕は眠っていたのかと思って起き上がると、何をする事が無いと思い、また横になった。

「特別な日は、無理やり特別にする必要のない日か」

 僕は闇に向かってそう漏らした。


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