episode9
宣言通り、明楽は雅臣に家の前まで送ってもらった。
本当は大通り沿いにあるコンビニまででいいと彼女は言ったのだが、「女の子一人の夜道は危ないから」との事で彼女の家までとなった。初めて受ける女の子扱いに彼女はどうしようも無い感情を抱いた。
「あ、雅臣先輩、ウチここです。」
「了解。今日はお疲れ様。また明日学校でね。」
「ありがとうございました。」
「...おやすみ明楽。」
「はい。おやすみなさい。」明楽は雅臣を見送ったのだが、彼は来た道を戻って行ったのである。自分を送るためだけにここまで来たのかと思うと彼女は申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいになるのであった。
「ただいまー。」
「おかえりなさい明楽。面接どうだった?」
玄関へと入ると明楽の母親と、後ろに隠れているつもりなのか父親の姿もあった。余程気になっていたのだろう。
「うん。来週から来てほしいって。詳細はまた連絡くれるそうだよ。」
「そう。良かったわね。そう言えば薄ら話し声が聞こえてきたけど...?」
そう母が問うと、明楽は照れくさそうに頬を赤く染めながら応える。
「あぁ...バイトを紹介してくれた学校の先輩が家まで送ってくれたんだ。」
そう明楽が言うと、母は「まぁまぁ!お礼にお夕飯でも食べていったら良かったのに。」と言い、父は後ろで「明楽に男...男...」とブツクサ呟いていた。
「仕方ないよ。先輩は家逆方向みたいだし、そんなに時間とらせたら悪いって。あ、お礼はもうしたから安心して?」
明楽が「お礼はした」と言うと、母も父も目を丸くした。そして母は興奮気味に「お礼は何にしたの?」と食いついてきた。
「えぇっと...今日調理実習で作ったクッキー...」
そう言うと母は「キャー!」と乙女な反応をし、父は「明楽の手作りクッキーがぁ」と絶望した。そんな反応をされ明楽は気恥ずかしくなり、それを誤魔化す様に、「ほら!夕飯食べるんでしょ?!」と二人の背を押しながら彼女はダイニングへと向かった。そうして質問攻めの夕飯を済ませ、明楽はお風呂へ入り、両親に「おやすみなさい。」と声をかけて自室へと入っていった。自室に入ると明楽はスマホを握りしめながらベッドへと仰向けにころがった。そしてスマホチェックをすると雅臣からLINEが入っていたので思わずバッと起き上がりながら彼の名前をタップする。すると、「ガマンできなくて食べちゃった(笑)凄く美味しかったよ。」と言うメッセージとイイね!のスタンプが押されていた。明楽は嬉しさのあまり、操作を誤って通話ボタンを押してしまう。急いで切ろうとしたけれど、通話はワンコールで繋がってしまった。
「もしもし?明楽?どうかした??」
「あ、いえその、メッセージで返信しようとしたら間違えて...」
「フハッ!そうだったんだ。クッキー美味しかったよ。ありがとう。」
「いえ!そんなのがお礼だなんて申し訳ないです...」
明楽がそう言うと、雅臣は「そんな事ない!」と何故か声を荒らげたので彼女は「雅臣先輩?」と聞いた。
「いや、その...今まで貰ったお菓子の中で一番嬉しかっ...いや!いい!忘れて!ほら明日も学校だし早く寝よう!」
「あ、そうですね。」
「それじゃ...おやすみ。」
「おやすみなさい。」
通話を終えると、明楽は雅臣の言いかけた「一番嬉しかった」の言葉に心を踊らせた。「嬉しすぎて眠れるかな...」と思いながら彼女はベッドの中に入り目を瞑るのであった。




