episode7
来る調理実習の日。明楽は朝からヤル気満々であった。
「明楽、小鳥遊先輩にはいつLINEするんです?」
薫子にそう問いかけられ明楽は笑顔で「うん!」と応えて言葉を続けた。
「実は、昨日小鳥遊先輩からバイトに関するLINEが届いてね。今日な放課後面接に行く事になったんだ。小鳥遊先輩は休みの日らしいんだけど、予定が無いから付き添ってくれるって。だからその時に渡したい物があるんですって送っておいた!小鳥遊先輩からも楽しみにしてるって返信が来て...フフッ」
薫子は思わず目を見開く。
「凄い急ですけど履歴書とかは...」
「あぁ、店長さんが小鳥遊先輩同伴ならいらないって!」
「はぁ...そうですか。」
LINE交換した時よりも急展開で薫子は若干頭が痛くなった。
「貴方、小鳥遊先輩と二人きりで大丈夫なんですか?」
「まぁ、緊張しなくはないけど、いつも通りでいくよ。」
この間家に来た時は百面相だったのに、今日はなんだかどっしりと構えている感じであった。
...そんな様子に薫子は少し嬉しく思うのであった。どうか明楽の第一歩が上手く行きますように。
調理実習で明楽が作ったクッキーは思いのほか上手くいった。ラッピングのリボンも思い切ってピンクにした。そのクッキーをカバンに入れ、雅臣の待つ玄関へ向かおうと教室を出ようとしたところで「明楽君!」と声をかけられた。
「どうしたの?少し急いでるんだけど...」
「あの、あのね!クッキー受け取って下さい!」
「あ!私のも貰って!」
「明楽君、私も!」
クラスの女子生徒達が明楽に群がって来た。
「皆慌てないで。ちゃんと受け取るから。」
明楽がそう言うとエプロンの入ったふくろに貰ったクッキーを入れていく。最後の一人が明楽にクッキーを渡し去って行った時...約束の5分前であった。明楽は「それじゃあ、私行くね!皆ありがとう!」と残っている女子生徒達にお礼を言って廊下を走って玄関へと向かった。すると雅臣がスマホを構いながら待っている姿が見えた。明楽が大声で「小鳥遊先輩!」と彼に声をかけると、彼はスマホから顔を上げ笑顔で「花ヶ崎さん」と呼んだ。
「すみません、お待たせしてしまって...」
「いや、大丈夫だよ...大変だったね。」
雅臣は明楽の持っている袋を見ると何か悟った様で、労いの言葉をかけた。
「じゃあ行こうか。」
「はい!...あ、小鳥遊先輩!」
「ん?...これは?」
明楽は雅臣に渡すためにとっておいたクッキーを彼に差し出した。
「小鳥遊先輩が嫌でなければ...その...今日のお礼です。先渡しになっちゃいますけど...」
雅臣はキョトンと少し固まったが、ハッと我に返った。
「もしかして花ヶ崎さんが作ったやつ?」
「はい...一応...」
「オレなんかが貰っちゃって良いの?」
そう雅臣が言うと、明楽はバッと顔を彼に向けた。
「もちろんです!小鳥遊先輩に貰って欲しくて...あ。」
つい明楽がポロッと言ってしまうと彼女は顔を真っ赤にしてしまった。そんな様子を見た雅臣は思わず笑顔になった。
「ありがとう。本当に嬉しい。大切に頂くよ。」
「...ハイ。」
こうして明楽は大きな第一歩を踏み出すことが出来たのだった。




