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光輪

作者: 雉白書屋

「ここが天国か……」


 周囲を見回しながら、彼は呟いた。若くして死んだが、そんなことはどうでもいいと思えるほど、ここは心地良い。陽だまりに漂う穏やかな香り。他の住人たちもみな、のんびりとした表情を浮かべ、まるで海を漂うクラゲのように、ゆったりした動きで歩いている。


「しっかし、みんな間の抜けた顔してるなあ……ん?」


 一瞬、違和感を覚えた。何かが引っかかる。しかし、瞬きをするうちに気のせいだと思い直し、大きなあくびを一つした。


「さて、何をするかな……ん? なんだ、あいつ」


 少し離れた場所に、じっと彼を見つめる男がいた。動かず目を見開き、ただ真っ直ぐにこちらを凝視している。


「クソ気持ち悪い野郎だな……ん?」


 またしても違和感が走る。ほんのわずかだが、周囲が暗くなった気がした。


「おい、おい、君……」


「ん、なんだよ」


 凝視していた男が、急ぎ足で近づいてきた。男は声を潜め、妙に落ち着かない様子でこう言った。


「あまり、良くないことを言わないほうがいい……」


「良くないこと? なんの話だよ。いちゃもんつけてんじゃねえぞ、変態野郎」


「だから、それだよ、それっ」


「それってなんだよ。お前、キチガイか?」


「それだよ! いや、それにしても君、すごいな。よく平然とそんなことが言えるな……」


「なんだってんだよ……ん?」


「気づいたかい? 少し暗くなったように感じただろう。それは気のせいじゃない。君の周りだけ暗くなっているんだ。ほら、その頭の上の……」


 男はおそるおそる彼の頭上を指差した。そこにある光の輪を。


「ああ? こいつのことか? あんたにもあるよな」


 天国の住人の頭上には光の輪が浮かんでいる。彼もそのことにはすぐ気づいたが、何も不思議に思わなかった。今身に着けている白い服も然り。漠然と思い描いていた天国のイメージそのものだ。


「神様の趣味かねえ。服も半袖短パンだし、絶対にガキ好きの変態野郎だよな。クソきめえ」


「だから! そういうことを言ったら、また! あ、私も、あああ……」


「おい、今……」


 彼も気づいた。自分の光の輪がさっきよりもわずかに暗くなったことに。


「そうだよ。天国にふさわしくない言動や行動をすると、光が弱まるんだ……」


「なるほどな……。でも、あんたはなんで今、光が弱まったんだ?」


「大きな声を出したからさ」


「その程度で!?」


「ああ、ほら、また君の光が弱まったよ」


「いや、厳しすぎだろ……」


「仕方ないよ。ルールがなければ秩序が保てない。おかげでみんな、平穏に暮らしているんだ。心を無にして、ゆらゆらー、ゆらゆらーっと漂うようにね」


「そんなのつまんねえだろ……。それで、光が消えたらどうなるんだ?」


「それは君、決まってるよ……」


 男がゆっくりと下を指差した。


「……地獄行きか」


「うん……だから、君も静かにゆっくりとした動きで過ごすんだ。……ん? どうしたんだい?」


 彼が突然、大きく息を吸い込んだ。そして、天を仰いで叫んだ。


「おい! クソッタレの神様よお! てめえ、こんな窮屈な場所におれを連れてきた挙句、くだらねえルール押しつけやがって! どういうつもりだよ! すぐにこのクソくだらねえルールを撤廃しやがれ! おれが気に入らねえなら、今すぐ地獄に落としてみろよ! そしたら這い上がって、もぎ取った鬼の角をてめえのケツの穴にねじ込んで、へそから糞をひり出してやるからな!」


「あー! あー! 君、そんなこと言ったら!」


「ん? 神様にへそってあるのか?」


「そんなことはどうでもいいよ! 君、光が……え、すごく光ってる……」


「あの野郎、興奮してやがるな」


「じゃあ、神様って本当に子供好きの変――ああああああ!」


「あーあ、じいさん、落ちちまったな。まあいいか」


 その後、イメージ通り、天国には子供たちの笑い声がよく響くようになったのだった。

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