8*
今週はテスト前で部活が休みに入ってしまって、ちょっと残念。
でも、帰りの時間がみんな一緒だから、七尾さんとも途中までいっしょに帰れる。
「今日、木村君にお返しって、マカロンもらっちゃった」
七尾さんが照れながら、教えてくれる。
「マカロン? いいな、いいな。どこの? なに味だった?」
「コンビニのだったんだけど、ストロベリーだった」
「ストロベリー?」
「うん。昼休み食べたけど、おいしかったよ?」
「よかったね」
ほんと、いいな。順調に仲よくなっていってる感じ。
あたしはクリップのことで、ちょっと話せたけど、なかなか仲よくなれていってる感じはしないもんな。
今日見たらペンケース新しいのになってて、クリップついてなかった。家では、使ってくれてたりするかな? それともペンケースといっしょに捨てられちゃったりするかな? 別に、あげたものだからどうされててもいいんだけど、そういう感じなのは知りたくないな、とか………。
気配を感じて横を見上げる。
やっぱりっ。鳥飼くんだっ。
そっか。そうだよね? 部活なかったら、帰る時間いっしょだもんね。帰りまで会えるとか、ラッキーだっ。
なんか話したいっ。チャンスだよねっ? もしかしていっしょに帰れたりっ? でも、なに話したらっ?
鳥飼くんがちらっと、あたしのほうを見た気がしてつい目をそらしてしまう。
今っ、見てたのバレた?
「………海原さんも、好きなの? マカロン」
「え? うん」
鳥飼くんにきかれて、思わず振り向く。今の話、聞いて? あっ。
「鳥飼くんも、マカロンすきなのっ?」
ちょっとびっくりした顔をする。
「僕は、別に」
「あ、そうなんだ?」
今、あたしすごい勢いできいちゃった。ちょっと引いてたよね。はずかしっ。
「………どこのがおいしいとか、あるの?」
………そんなの、きいてどうするんだろ?
「おくりもの?」
「あ、まあ、うん」
てれてるっ? だ、だれにっ? か、彼女とかっ? もしそうだったら、やだな。
でも、せっかくきかれてるんだから、きいてよかったって、思われたいっ。
「この辺だったらね、with coffeeっていうところのマカロンおいしいよ。駅の北口のほうにあるんだけどね、種類もいっぱいあって、間にアイス挟んでるのもあるよ」
「アイス?」
「うん。今ね、期間限定でさくらんぼ味とか出てるみたいだった」
「海原さんは、食べた?」
「さくらんぼ味はまだだけど、おいしそうだったよ」
女の子だよね? ぜったい。やだな。
「それ………」
「何の話?」
うしろから、手嶋くんが来て話の中に入ってくる。
「with coffeeのね、マカロンアイスの話」
簡単に説明すると、手嶋くんは少しびっくりしたように反応する。
「へえ?」
「海原さん、帰ろー?」
「あ、うん」
七尾さんに、よばれてあわててかけ寄る。
ちょっとほっとしてる。鳥飼くんといっぱい話せたのはうれしいけど、内容が………ぜったい、相手女の子だよねっ? やっぱり彼女とか、すきな子とかなのかな?
でも、お母さんとかって可能性もあるよねっ? 妹とかお姉さんとか。うん。きっとそうだ。そういうことにしようっ。
テスト近いし、もう考えないっ。
*♠︎*♠︎*♠︎*
何、言おうとした? あり得ないからな?
そもそも海原さんは手嶋君のこと好きだし、手嶋君もそうなんだから。
「もしかして、オレ邪魔だった?」
僕が靴に履き替えるのを待っていた手嶋君が話し掛けてきて、どきっとする。
「何で?」
「海原と喋ってたみたいだからさ」
「そんなことないよ」
僕がどくと、手嶋君が自分の靴箱から靴を取り出して履き替える。
帰ろうとすると、さらに話しかけて来た。
「なんだ。誘ってんのかと思った」
「何のこと?」
どきっとしつつも、少しイラっともしていた。
僕が手嶋君と海原さんのことを邪魔するとでも? そんなことする訳ないし、できる訳がない。
それでも、お礼なんだから、少しくらいいいよな? と思ったのを見透かされたような気分だった。
靴に履き替えた手嶋君が僕の肩を軽く叩く。
「ま、いいや。明日よろしく」
「明日?」
「オレら日直」
手嶋君は、にっと笑って昇降口から出て行った。
*♡*♡*♡*
「お母さんとか、妹とかなんじゃない?」
「そ、そうだよねっ? きっと」
考えないっ、て思ったけど、やっぱり気になってしまって次の日の朝、紅実ちゃんに言ってしまった。
紅実ちゃんもそう思うってことは、そうだよねっ?
………でも、気使って言ってくれてるだけってこともあるか。
その気持ちを察してくれたのか、さらに言う。
「あんまり気になるんだったら訊いてみたらいいのに。マカロン、誰にあげるの? って」
「それで、家族とか以外だったら、ショックじゃない? だって、マカロンだよ?」
男子にはおくらなくない?
「自分で食べるつもりかもよ?」
「鳥飼くんは、別に、って言ってたし………おくりものって………」
やっぱり、ちょっと落ち込んできた。
「でも、何であんたにきいたんだろうね?」
「なんで、って。たまたま、近くにいたから?」
「それだけ? 鳥飼くんって、近くにいる人だったら、話しかけるの?」
「そんなことは、ない、と、思う………」
そうだよね? 近くには七尾さんもいたもんね。
もしかして、鳥飼くんの中では、ほかの子よりちょっと話しやすい女子、くらいには格上げしてくれてるってことっ?
「あいさつの成果っ?」
「…………そうかもね」
ちょっと冷たい感じで言われる。
なんで?
そういうことじゃないの?
おそるおそるもう一度きいてみる。
「少しは仲よくなれてるって思ってもいいよね?」
「いいんじゃない」
今度もため息まじりだけど、ちょっと笑ってくれる。へへっ。
そっか。ちょっとは、仲よくなれてるって、思ってもいいんだ。うれしーっ。
もっと、がんばろっ。
*♠︎*♠︎*♠︎*
「日誌、僕書こうか?」
「いいよ。もうちょっとだし、待っててくれる?」
授業の合間とかに書いとけばいいのに。
今日は手嶋君と日直で、他の人達はすでに帰りのホームルームを終えて、教室から出てしまっていた。
手嶋君って、いつも教室から出て行くの早いのにな。部活あるからって……テスト前で部活は休みか。
何か、言われたりするかな?
僕が、海原さんのこと好きって、気付いてるみたいだったもんな。
邪魔するつもりなんか、全くないのに。
そもそも、手嶋君と張り合ったとしても、海原さんは手嶋君を選ぶに決まってる。
僕が自分の席に座ると、手嶋君が日誌を持って振り向いた。
「今日、遅刻した奴いたっけ?」
「寝屋川君と吉岡君」
「そっか」
僕の机で、遅刻者の名前を書く。
手嶋君が2人の名前を書いて、日誌を閉じたあと僕の顔を見てくる。
その目に、気付かないふりをした。
「日誌なら、僕が持って行くよ?」
「あ、そう? 助かる」
「うん。じゃあ」
手嶋君も僕なんか相手にならないのはわかってるだろうしな。
少しほっとしたあと、日誌を受け取って、帰ろうと立ち上がったところで、話しかけられる。
「鳥飼ってさ一一……」
振り向くと、後を続ける。やっぱり、何か………?
「オレが海原のこと好きとか思ってる?」
真剣な顔をして訊いてくる。
心臓の音が激しくなるのを、必死に隠しながら、自分の気持ちまでバレてしまわないように平静を装って、答える。いつでも誤魔化せるようにと。
「思ってる、よ?」
「オレ、他に好きな子いるよ?」
「え?」
手嶋君の好きなのは海原さんじゃない? でも、あれだけ話してて………?
「徳永幸穂って言うんだけど、知らない?」
「ごめん。僕、同じクラスになったことない女子はあんまり………」
「結構目立つんだけどね。きれいだし。海原とは全然違うタイプ」
「そうなんだ?」
本当に、好きなの海原さんじゃないんだ?
「それに、海原もオレのこと好きな訳じゃないよ? むしろ、苦手な方だと思う」
「仲良さそうだけど?」
「………1年の時、オレ海原泣かしたことあるんだよね」
「泣かした?」
思ったより、勢いよく訊いてしまっていたのか、手嶋君が慌ててストップをかける。
「実際に泣いてたかは知んないよ? でも、声震えてたし、多分ね」
「どういうこと?」
手嶋君も女子に酷いことなんかしそうにないけど、海原さんが手嶋君を怒らせるようなことをするとも思えない。
「オレ、徳永に振られてんだけど、そこんとこちょうど見られててさ、虫の居所が悪かったのもあるけど、怒鳴っちゃったんだよね。それで」
「でも、それ………」
「いや、100%、オレが悪いと思ってるよ? だから、謝ったし、なるべくやさしくしたりとかで………まあ、今の状態?」
それで納得なんかできなくないか?
「だから、遠慮とかしないでよ、って話」
「え、遠慮?」
手嶋君がにっと笑う。
「好きなんでしょ? 海原のこと」
「な……え? あ、いや……」
こんな話の後で、そんなことを言われるとは思っていなくて、思わず顔が熱くなる。
「はははははっ。やっぱ、嘘つけないのな?」
言葉が出てこない。多分、ものすごく顔が赤くなっているんじゃないかと思う。
「鳥飼って、わかりやすいよな? ちょっと見てたらわかるっていうか……」
いや、そのまま、海原さんのこと好きか? とか訊かれると思ってた。手嶋君が他に好きな子がいるっていうのとか、手嶋君が海原さんのこと泣かしたとか、思ってもなくて油断した。だからだと思うのに、わかりやすい?
「どこが?」
「結構見てるでしょ? しかも海原見る時だけ、ちょっと視線が熱っぽいっていうか……」
「そんなこと、ない、と思う、けど?」
観てたの、バレてる? そんなに観てたか? しかも熱っぽい?
「あるって。しかも、オレが海原と話してるときとか圧すごいし、クリップもらった時とかめっちゃ嬉しそうな顔してたろ? 昨日も………」
「き、気のせいじゃない?」
「隠す気ないのかなー? とか思ってたけど、自覚ないだけなんだ? でも、まあ、海原鈍いし、そんくらいわかりやすい方がいいかもね?」
恥ずかしい。もう、否定しても無駄、だよな?
「海原さんには、気付かれなくても………」
「でもさ、まったく気付かれないのって、寂しくない? 少しくらいはオトコとして意識されたくない?」
「………どう、かな?」
手嶋君はふっと笑って、僕のそばに近付いてくる。
「頑張ってな?」
にっと笑った後、僕の背中を叩いて、先に教室から出て行こうとする。
「ほ、他の人には、言わないでくれる?」
手嶋君は振り向いて、きょとっとした顔をする。
「言わないけどさー、そこそこ察しのいい奴は気づいてると思うんだよね?」
「だ、誰?」
「坂上とか」
「は? え? それって………」
海原さんとよく一緒にいる?
「1回、呼び出されてきかれたし。とぼけといたけど、あれは確信してると思うよ」
「もしかして、海原さんに言ったり、とか………?」
「それはないよ。言って欲しかったとしてもね?」
手嶋君は笑いながら教室を出て行った。
あり得ない。坂上さんとか。そんなに顔合わせたことないよな? 何でバレてるんだ?
………そんなに、わかりやすいか?
「熱っ…………」
*♡*♡*♡*
「海原さん、ここわかる?」
昼休み、予鈴のなるころに教室に戻ると七尾さんが数学をききにくる。
めずらしいな。七尾さん、数学けっこう得意なはずなのに。
「あ、それはわかったよ。こっちの公式あてはめて一……」
「なんで、この公式?」
「え? んーと……」
わかるけど、説明するのはむずかしいな。
昼休みが終わって、予鈴の鳴ったあと、木村くんが席に戻ってくる。
「あ、木村君、ここわかる? 何でここの公式使うのかとか………」
「え? あ、うん。多分。ここってさ……」
あ、あれ? もしかして、あたし、ついで? え? なんか、ずるくない? この前まで手嶋くんすきーって言ってたのに、木村くんって。
あーー、なんか心せまいなー、あたし。
前よりは仲よくなれてるのかもしれないけど、あんなふうに気軽にはしゃべれないもんな。
それに、鳥飼くんすきな人いるっぽいしな………。
ちょっとうらめしそうに、戻ってきた七尾さんを見ると、てへっ、といった感じで笑って自分の席に着いた。
やっぱり、もう木村くんのことすきなんじゃん? しかも、ぜったいわかってるのにきいてたよね? 七尾さんって、けっこうあざといっ。見習いたいっ。
5時間目の授業は英語で、終わった後に前の時間にやった小テストを先生に渡された。
「これ、返しといてくれるか?」
「はい」
あ、これ、チャンスじゃない? 鳥飼くんの返すときにちょっとしゃべれたりとか……?
教室をうろうろしながらくばりはじめる。
「僕、半分配ろうか?」
と、とと、と、鳥飼くん? え? なんで?
鳥飼くんが席の近くを通ったときに声をかけてくれた。
ここは、お願いして、あとでありがとー、助かっちゃった、てへっ、みたいな?
「え? あ、でも……」
うーー。ここで、素直に頼れないから……。
「いいよ」
言って、手を差し出してくれる。
やさしいっ。こんなされたら、これ以上断るほうが失礼だよね? いいよねっ?
「あ、ありがと」
きっちり半分くらいとかは、申しわけないよね? ちょっと少なめくらいで………。わたす部分をわけようとしたところで、鳥飼くんの名前を見つけた。その手前までを渡す。
「じ、じゃ、これくらい?」
「うん」
「ありがとう」
「気にしないで」
言って、渡された分をくばりはじめてくれる。
い、いいよね、これくらい。
こっそりと、鳥飼くんのテストを一番後ろに回す。
戻ってきたタイミングで渡そ。
鳥飼くんがくばり終わって、席についたところで渡しに行く。
あ、でも、鳥飼くんの名前って………。
明るく、笑顔で、かわいい感じを心がける。
「はいっ」
「ありがとう」
受け取ったテストを確認してる。今、今よねっ?
「鳥飼くんの名前って、なんて読むの?」
あたし、顔赤くなってないかな?
ちょっと照れたような顔をあげる。
かわいいっ。
「………そのまま、だけど?」
「あ、じゃ、す……」
「僕、自分の名前嫌いなんだよね」
さえぎるように、ちょっと強く言われて、顔をそらされる。後が続けられなかった。
「そ、そっか。ごめんね」
「別に………」
俯いたまま、ぼそりと答えられる。
怒った?
や、やっぱり、慣れないことするからっ。鳥飼くんの名前、呼んでみたいな、とか。みんな名字で呼んでるから、名前で呼んだらどんな顔するのかなって…………英語得意なんだね? とか、どうやって勉強してるの? とか、ほかにもいっぱい話せそうなことあったのに。
よくばんなきゃよかった。




