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スズサキ*  作者: さより
意識
8/63

8*

 今週はテスト前で部活が休みに入ってしまって、ちょっと残念。

 でも、帰りの時間がみんな一緒だから、七尾さんとも途中までいっしょに帰れる。

「今日、木村君にお返しって、マカロンもらっちゃった」

 七尾さんが照れながら、教えてくれる。

「マカロン? いいな、いいな。どこの? なに味だった?」

「コンビニのだったんだけど、ストロベリーだった」

「ストロベリー?」

「うん。昼休み食べたけど、おいしかったよ?」

「よかったね」

 ほんと、いいな。順調に仲よくなっていってる感じ。

 あたしはクリップのことで、ちょっと話せたけど、なかなか仲よくなれていってる感じはしないもんな。

 今日見たらペンケース新しいのになってて、クリップついてなかった。家では、使ってくれてたりするかな? それともペンケースといっしょに捨てられちゃったりするかな? 別に、あげたものだからどうされててもいいんだけど、そういう感じなのは知りたくないな、とか………。

 気配を感じて横を見上げる。

 やっぱりっ。鳥飼くんだっ。

 そっか。そうだよね? 部活なかったら、帰る時間いっしょだもんね。帰りまで会えるとか、ラッキーだっ。

 なんか話したいっ。チャンスだよねっ? もしかしていっしょに帰れたりっ? でも、なに話したらっ?

 鳥飼くんがちらっと、あたしのほうを見た気がしてつい目をそらしてしまう。

 今っ、見てたのバレた?

「………海原さんも、好きなの? マカロン」

「え? うん」

 鳥飼くんにきかれて、思わず振り向く。今の話、聞いて? あっ。

「鳥飼くんも、マカロンすきなのっ?」

 ちょっとびっくりした顔をする。

「僕は、別に」

「あ、そうなんだ?」

 今、あたしすごい勢いできいちゃった。ちょっと引いてたよね。はずかしっ。

「………どこのがおいしいとか、あるの?」

 ………そんなの、きいてどうするんだろ?

「おくりもの?」

「あ、まあ、うん」

 てれてるっ? だ、だれにっ? か、彼女とかっ? もしそうだったら、やだな。

 でも、せっかくきかれてるんだから、きいてよかったって、思われたいっ。

「この辺だったらね、with coffeeっていうところのマカロンおいしいよ。駅の北口のほうにあるんだけどね、種類もいっぱいあって、間にアイス挟んでるのもあるよ」

「アイス?」

「うん。今ね、期間限定でさくらんぼ味とか出てるみたいだった」

「海原さんは、食べた?」

「さくらんぼ味はまだだけど、おいしそうだったよ」

 女の子だよね? ぜったい。やだな。

「それ………」

「何の話?」

 うしろから、手嶋くんが来て話の中に入ってくる。

「with coffeeのね、マカロンアイスの話」

 簡単に説明すると、手嶋くんは少しびっくりしたように反応する。

「へえ?」

「海原さん、帰ろー?」

「あ、うん」

 七尾さんに、よばれてあわててかけ寄る。

 ちょっとほっとしてる。鳥飼くんといっぱい話せたのはうれしいけど、内容が………ぜったい、相手女の子だよねっ? やっぱり彼女とか、すきな子とかなのかな?

 でも、お母さんとかって可能性もあるよねっ? 妹とかお姉さんとか。うん。きっとそうだ。そういうことにしようっ。

 テスト近いし、もう考えないっ。

 

     *♠︎*♠︎*♠︎*


 何、言おうとした? あり得ないからな?

 そもそも海原さんは手嶋君のこと好きだし、手嶋君もそうなんだから。

「もしかして、オレ邪魔だった?」

 僕が靴に履き替えるのを待っていた手嶋君が話し掛けてきて、どきっとする。

「何で?」

「海原と喋ってたみたいだからさ」

「そんなことないよ」

 僕がどくと、手嶋君が自分の靴箱から靴を取り出して履き替える。

 帰ろうとすると、さらに話しかけて来た。

「なんだ。誘ってんのかと思った」

「何のこと?」

 どきっとしつつも、少しイラっともしていた。

 僕が手嶋君と海原さんのことを邪魔するとでも? そんなことする訳ないし、できる訳がない。

 それでも、お礼なんだから、少しくらいいいよな? と思ったのを見透かされたような気分だった。

 靴に履き替えた手嶋君が僕の肩を軽く叩く。

「ま、いいや。明日よろしく」

「明日?」

「オレら日直」

 手嶋君は、にっと笑って昇降口から出て行った。


     *♡*♡*♡*


「お母さんとか、妹とかなんじゃない?」

「そ、そうだよねっ? きっと」

 考えないっ、て思ったけど、やっぱり気になってしまって次の日の朝、紅実ちゃんに言ってしまった。

 紅実ちゃんもそう思うってことは、そうだよねっ?

 ………でも、気使って言ってくれてるだけってこともあるか。

 その気持ちを察してくれたのか、さらに言う。

「あんまり気になるんだったら訊いてみたらいいのに。マカロン、誰にあげるの? って」

「それで、家族とか以外だったら、ショックじゃない? だって、マカロンだよ?」

 男子にはおくらなくない?

「自分で食べるつもりかもよ?」

「鳥飼くんは、別に、って言ってたし………おくりものって………」

 やっぱり、ちょっと落ち込んできた。

「でも、何であんたにきいたんだろうね?」

「なんで、って。たまたま、近くにいたから?」

「それだけ? 鳥飼くんって、近くにいる人だったら、話しかけるの?」

「そんなことは、ない、と、思う………」

 そうだよね? 近くには七尾さんもいたもんね。

 もしかして、鳥飼くんの中では、ほかの子よりちょっと話しやすい女子、くらいには格上げしてくれてるってことっ?

「あいさつの成果っ?」

「…………そうかもね」

 ちょっと冷たい感じで言われる。

 なんで?

 そういうことじゃないの?

 おそるおそるもう一度きいてみる。

「少しは仲よくなれてるって思ってもいいよね?」

「いいんじゃない」

 今度もため息まじりだけど、ちょっと笑ってくれる。へへっ。

 そっか。ちょっとは、仲よくなれてるって、思ってもいいんだ。うれしーっ。

 もっと、がんばろっ。


     *♠︎*♠︎*♠︎*


「日誌、僕書こうか?」

「いいよ。もうちょっとだし、待っててくれる?」

 授業の合間とかに書いとけばいいのに。

 今日は手嶋君と日直で、他の人達はすでに帰りのホームルームを終えて、教室から出てしまっていた。

 手嶋君って、いつも教室から出て行くの早いのにな。部活あるからって……テスト前で部活は休みか。

 何か、言われたりするかな?

 僕が、海原さんのこと好きって、気付いてるみたいだったもんな。

 邪魔するつもりなんか、全くないのに。

 そもそも、手嶋君と張り合ったとしても、海原さんは手嶋君を選ぶに決まってる。

 僕が自分の席に座ると、手嶋君が日誌を持って振り向いた。

「今日、遅刻した奴いたっけ?」

「寝屋川君と吉岡君」

「そっか」

 僕の机で、遅刻者の名前を書く。

 手嶋君が2人の名前を書いて、日誌を閉じたあと僕の顔を見てくる。

 その目に、気付かないふりをした。

「日誌なら、僕が持って行くよ?」

「あ、そう? 助かる」

「うん。じゃあ」

 手嶋君も僕なんか相手にならないのはわかってるだろうしな。

 少しほっとしたあと、日誌を受け取って、帰ろうと立ち上がったところで、話しかけられる。

「鳥飼ってさ一一……」

 振り向くと、後を続ける。やっぱり、何か………?

「オレが海原のこと好きとか思ってる?」

 真剣な顔をして訊いてくる。

 心臓の音が激しくなるのを、必死に隠しながら、自分の気持ちまでバレてしまわないように平静を装って、答える。いつでも誤魔化せるようにと。

「思ってる、よ?」

「オレ、他に好きな子いるよ?」

「え?」

 手嶋君の好きなのは海原さんじゃない? でも、あれだけ話してて………?

「徳永幸穂って言うんだけど、知らない?」

「ごめん。僕、同じクラスになったことない女子はあんまり………」

「結構目立つんだけどね。きれいだし。海原とは全然違うタイプ」

「そうなんだ?」

 本当に、好きなの海原さんじゃないんだ?

「それに、海原もオレのこと好きな訳じゃないよ? むしろ、苦手な方だと思う」

「仲良さそうだけど?」

「………1年の時、オレ海原泣かしたことあるんだよね」

「泣かした?」

 思ったより、勢いよく訊いてしまっていたのか、手嶋君が慌ててストップをかける。

「実際に泣いてたかは知んないよ? でも、声震えてたし、多分ね」

「どういうこと?」

 手嶋君も女子に酷いことなんかしそうにないけど、海原さんが手嶋君を怒らせるようなことをするとも思えない。

「オレ、徳永に振られてんだけど、そこんとこちょうど見られててさ、虫の居所が悪かったのもあるけど、怒鳴っちゃったんだよね。それで」

「でも、それ………」

「いや、100%(パー)、オレが悪いと思ってるよ? だから、謝ったし、なるべくやさしくしたりとかで………まあ、今の状態?」

 それで納得なんかできなくないか?

「だから、遠慮とかしないでよ、って話」

「え、遠慮?」

 手嶋君がにっと笑う。

「好きなんでしょ? 海原のこと」

「な……え? あ、いや……」

 こんな話の後で、そんなことを言われるとは思っていなくて、思わず顔が熱くなる。

「はははははっ。やっぱ、嘘つけないのな?」

 言葉が出てこない。多分、ものすごく顔が赤くなっているんじゃないかと思う。

「鳥飼って、わかりやすいよな? ちょっと見てたらわかるっていうか……」

 いや、そのまま、海原さんのこと好きか? とか訊かれると思ってた。手嶋君が他に好きな子がいるっていうのとか、手嶋君が海原さんのこと泣かしたとか、思ってもなくて油断した。だからだと思うのに、わかりやすい?

「どこが?」

「結構見てるでしょ? しかも海原見る時だけ、ちょっと視線が熱っぽいっていうか……」

「そんなこと、ない、と思う、けど?」

 観てたの、バレてる? そんなに観てたか? しかも熱っぽい?

「あるって。しかも、オレが海原と話してるときとか圧すごいし、クリップもらった時とかめっちゃ嬉しそうな顔してたろ? 昨日も………」

「き、気のせいじゃない?」

「隠す気ないのかなー? とか思ってたけど、自覚ないだけなんだ? でも、まあ、海原鈍いし、そんくらいわかりやすい方がいいかもね?」

 恥ずかしい。もう、否定しても無駄、だよな?

「海原さんには、気付かれなくても………」

「でもさ、まったく気付かれないのって、寂しくない? 少しくらいはオトコとして意識されたくない?」

「………どう、かな?」

 手嶋君はふっと笑って、僕のそばに近付いてくる。

「頑張ってな?」

 にっと笑った後、僕の背中を叩いて、先に教室から出て行こうとする。

「ほ、他の人には、言わないでくれる?」

 手嶋君は振り向いて、きょとっとした顔をする。

「言わないけどさー、そこそこ察しのいい奴は気づいてると思うんだよね?」

「だ、誰?」

「坂上とか」

「は? え? それって………」

 海原さんとよく一緒にいる?

「1回、呼び出されてきかれたし。とぼけといたけど、あれは確信してると思うよ」

「もしかして、海原さんに言ったり、とか………?」

「それはないよ。言って欲しかったとしてもね?」

 手嶋君は笑いながら教室を出て行った。

 あり得ない。坂上さんとか。そんなに顔合わせたことないよな? 何でバレてるんだ?

 ………そんなに、わかりやすいか?

「熱っ…………」


     *♡*♡*♡*


「海原さん、ここわかる?」

 昼休み、予鈴のなるころに教室に戻ると七尾さんが数学をききにくる。

 めずらしいな。七尾さん、数学けっこう得意なはずなのに。

「あ、それはわかったよ。こっちの公式あてはめて一……」

「なんで、この公式?」

「え? んーと……」

 わかるけど、説明するのはむずかしいな。

 昼休みが終わって、予鈴の鳴ったあと、木村くんが席に戻ってくる。

「あ、木村君、ここわかる? 何でここの公式使うのかとか………」

「え? あ、うん。多分。ここってさ……」

 あ、あれ? もしかして、あたし、ついで? え? なんか、ずるくない? この前まで手嶋くんすきーって言ってたのに、木村くんって。

 あーー、なんか心せまいなー、あたし。

 前よりは仲よくなれてるのかもしれないけど、あんなふうに気軽にはしゃべれないもんな。

 それに、鳥飼くんすきな人いるっぽいしな………。

 ちょっとうらめしそうに、戻ってきた七尾さんを見ると、てへっ、といった感じで笑って自分の席に着いた。

 やっぱり、もう木村くんのことすきなんじゃん? しかも、ぜったいわかってるのにきいてたよね? 七尾さんって、けっこうあざといっ。見習いたいっ。

 5時間目の授業は英語で、終わった後に前の時間にやった小テストを先生に渡された。

「これ、返しといてくれるか?」

「はい」

 あ、これ、チャンスじゃない? 鳥飼くんの返すときにちょっとしゃべれたりとか……?

 教室をうろうろしながらくばりはじめる。

「僕、半分配ろうか?」

 と、とと、と、鳥飼くん? え? なんで?

 鳥飼くんが席の近くを通ったときに声をかけてくれた。

 ここは、お願いして、あとでありがとー、助かっちゃった、てへっ、みたいな?

「え? あ、でも……」

 うーー。ここで、素直に頼れないから……。

「いいよ」

 言って、手を差し出してくれる。

 やさしいっ。こんなされたら、これ以上断るほうが失礼だよね? いいよねっ?

「あ、ありがと」

 きっちり半分くらいとかは、申しわけないよね? ちょっと少なめくらいで………。わたす部分をわけようとしたところで、鳥飼くんの名前を見つけた。その手前までを渡す。

「じ、じゃ、これくらい?」

「うん」

「ありがとう」

「気にしないで」

 言って、渡された分をくばりはじめてくれる。

 い、いいよね、これくらい。

 こっそりと、鳥飼くんのテストを一番後ろに回す。

 戻ってきたタイミングで渡そ。

 鳥飼くんがくばり終わって、席についたところで渡しに行く。

 あ、でも、鳥飼くんの名前って………。

 明るく、笑顔で、かわいい感じを心がける。

「はいっ」

「ありがとう」

 受け取ったテストを確認してる。今、今よねっ?

「鳥飼くんの名前って、なんて読むの?」

 あたし、顔赤くなってないかな?

 ちょっと照れたような顔をあげる。

 かわいいっ。

「………そのまま、だけど?」

「あ、じゃ、す……」

「僕、自分の名前嫌いなんだよね」

 さえぎるように、ちょっと強く言われて、顔をそらされる。後が続けられなかった。

「そ、そっか。ごめんね」

「別に………」

 俯いたまま、ぼそりと答えられる。

 怒った?

 や、やっぱり、慣れないことするからっ。鳥飼くんの名前、呼んでみたいな、とか。みんな名字で呼んでるから、名前で呼んだらどんな顔するのかなって…………英語得意なんだね? とか、どうやって勉強してるの? とか、ほかにもいっぱい話せそうなことあったのに。

 よくばんなきゃよかった。

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