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スズサキ*  作者: さより
意識
62/63

*62

 おにぎりサンドを買って戻ろうとすると、サッカー部のジャージを着た緑星高校の男子を見かけて、慌てて後ろを向く。

 ど、どうしよう? もし、あの中にいたら…………。

 未練があるとか、そういうわけじゃないけど、顔合わせたくない。

 それに、何となく………アイツに知り合いだって知られたくない気もする。付き合ってたとか…………。

 恐る恐るまた振り向いて、顔が判別できるか確認する。

 大神君、じゃない? あの左側の人。多分、背格好とか雰囲気とか………絶対そうだ。

 何してるんだろ? 練習試合とかで、近くに来てたのかな? 昼休憩とか?

 うそ! 何か話してない? アイツと大神君と…………やっぱり、知り合いだった?

 それで余計に落ち着かなくって、公園の端にあるベンチが空いているのを見つけて座る。

 後で戻る時、気付いてないふりとかできるかな? 別れた時も咲妃の前では普通にしてるつもりだったけど、気使われてたっぽいもんな…………帰ろっかな? そんな気分じゃなくなっちゃったし…………。

 1人でさっき買ったおにぎりサンドを食べながら、なんとなく考えていた。

 こんなことならこれ買わずにカツサンド食べれば…………あ。

 1年前? 何かの大会の時? って、もしかして……………あの時?

 座ってたのは私じゃなくて…………。


「帰りに柳達とたこ焼き食べて帰ることになったから」

「あ、そう。でも、次から途中で予定変わったんならラインくらいしときなさいよね?」

「ごめん。帰ったら食べる」

「いいわよ。私お昼まだだし、自分で食べるから」

 大会の後、そのまま学校戻って練習とかミーティングとかあるかもしれないから、おにぎりだけじゃ足りないかも、って言ってたから持って来たのに。無駄になっちゃったじゃない?

 持って帰るのも億劫で、どこか食べるところがないか探してたら頭からタオルかぶってて、落ち込んでるっぽい男の子が花壇の隅に座っている。

「どうしたのよ?」

「…………………」

「試合終わった後? 何か食べた?」

「いえ………………」

「試合終わった後って、何か食べたほうがいいんじゃなかったっけ?」

「弁当、ないんすよね………ちょっと、ダメんなって…………」

「落としたの?」

 でも、そんな感じじゃないっぽい気がする………。

「落としたっつーか………落とされたっつーか…………」

「…………イジメ?」

「どー……なんすかね?」

 やっぱ、そんな感じなんだ?

「どっちにしても食べ物粗末にするやつなんか呪ってやればいいのよ」

「呪って…………?」

 こっちを向くけど、まだ半分くらいはタオルで顔が隠れててよくわからない。

「そう! ハゲろ………だけじゃ、生ぬるいか………全身ハゲろ! とか? 眉毛とかまつ毛とかもよ? どう?」

「ぶはっ………あははははは………それ、いーっすね………ははっ……」

 ちょっと元気付けようと思って言ったものの、思った以上に大笑いされてちょっと驚いたけど、ほっとした。

 笑いがおさまった後に、手に持っていた紙袋を渡す。

「アレルギーとかないんだったら、これ食べる? カツサンドだけど……気になるなら衣剥いで」

「え? あ………」

 目の前に差し出すと、戸惑いつつも手を出して来たので、安心してカツサンドの紙袋を渡した。

「本当は運動後の揚げ物とかよくないんだろうけど、うちの弟は気にしないって言うから」

「おれも気にしないですけど………弟?」

「いいのよ。おにぎりだけじゃ足りないかもって言うから持って来たんだけど、友だちとたこ焼き食べに行くからいらないって言われて。もらってくれたら助かる」

「あ、ありがとうございます」

「気にしないで」

 言って、帰ろうとすると後ろから呼び止められる。

「ら、ラインとか、教えてもらえませんか?」

 振り向くと立ち上がってて、背の高い子だな、と思った。逆光で顔はよくわからなかったけど、ちょっとは元気になったかな?

「次会ったらね」

 言って、手を振って帰った。


 ……………言ったわ。多分、あれよね? 顔よく見えてなかったから覚えてなかったんだ。あれだけ顔よかったら絶対覚えてるはずと思ったけど。

 でも、さすがに初対面じゃ教えないでしょ? だからって、落ち込んでるみたいだったところに、教えないってはっきり言って突き放しちゃうのもどうかと思ったんだと思うのよね……………普通、その程度で間に受けるとか思わないじゃない?

 しかもたったそれだけの中に、何を特別に感じるわけ?

「それ! もしかして作って来てたんすか⁉︎」

 その声にびっくりして、持っていたカツサンドが手から落ちる。

「っぶねっ」

 絶対落とした、と思ったのに自分の持っているカレーも落とすことなくヤツにキャッチされていた。

 ほっとした後で、無性に腹が立つ。

「おっきな声出すんじゃないわよ‼︎」

 あ…………大神君とか、いないわよね?

 慌てて周りを見回す。

「すみません。これ…………」

 言って、カツサンドと私の顔を交互に見る。

「いるなら、食べていいわよ」

「いいんすか? ありがとうございます!」

 言って、すぐにかぶりつき、当たり前のように私の隣に座る。

「やっぱ、うまいっすね。やっと食べれた」

 いい食いっぷりだこと。ちょっと嬉しくなっちゃうくらいには。

「…………さっき、話してた人とかはよかったの?」

「緑星高校のサッカー部の人っすか?」

 カツサンドの半分くらいはすでになくなっていて、口の中の物を飲み込んでから聞き返してくる。

「り、緑星高校だったんだ? 知り合い?」

「中学ん時、試合したことある人いて、うち来いよ、みたいな」

 言って、残りのカツサンドを頬張る。

「そ、そうなんだ?」

 そんな事になったら、どうなるのよ? もしかして………ううん。ない。ないわよね? いや、でもわからなくない? 何かのはずみで、とか………。

「紅実さんもこの辺の中学ですよね? どこですか?」

 カツサンドに続けて、カレーを食べながら聴いてくる。

「あ、青葉…………」

 言っても、大丈夫だった? やばくない?

「だったら、知らないですか? 大神さんって言うんですけど」

 やっぱりさっきの大神君だったんだ⁈ 知り合いだったんだ? 仲いいの? 本当にちょっと試合したことあるとかその程度? コイツ馴れ馴れしいし、結構仲よかったりとか……………………でも、待って? 別にコイツにバレてもよくない? そもそも今日1回きりなんだし、どう思われても…………。

「そうね。弟から聴いたことあるかも」

 何で言わないのよ? 実は付き合ってたのよね、とか。

 …………そ、そうよ。鳥飼君にバレて、咲妃にバレちゃったら、自分で言ってないのに、感じ悪いものね? だから……………。

「あんまり話したことないけど、いい人っすよね?」

「そうらしいわね」

 そんなの知ってる。話も合ったし、文句だって言い合ってた。友達みたいなまま付き合っていけると思ったのに。

「もしかして好きだった?」

 心配そうな顔で見られて、どきっとする。

「は? え? な、何で?」

 私、普通だったわよね? 変だった? 未練あるとか、そんな感じだった?

 普段へらへらしてるくせに、顔がいいからってだけじゃくて、見透かされてる感じがしてどきっとする。

「何となく」

 言って、へらっと笑う。

 ばれてないわよね?

「でも、大丈夫っすよ? おれ、紅実さんに彼氏いたとしても。今はいないんでしょ?」

「な、ななな何の話よ?」

 やっぱり気付いてる? もしかして知ってたりする?

「さすがに二股とかはよくないと思うんすけど、昔のことなら…………おれにだってそのくらいの包容力はあるつもりっすよ?」

「だから、何でそういう話になるのよ⁉︎」

「これから先、おれと付き合うのに気にしてるのかなー? とか」

「ばかじゃない? 誰が付き合うって言った?」

「今日のデート来てくれたのって、そーいうことでしょ?」

「そんなつもりないけど⁉︎」

 どうなのよ? とぼけてるの? それとも本当に知らないの?

「じゃ、何で来てくれたんすか?」

「そ、そんなの……………」

「そんなの?」

 だから、そんな顔で見てんじゃないわよ!

「ひ、暇だったからよ」

「それだけっすか?」

「………自分が引っかかったのに、認めないのも大人気ないと思ったし…………」

「大人気ないと思ったし?」

「ちょっとくらい……………」

 楽しいかなって……………。

「ちょっとくらい?」

 そのまま言うのは期待しているコイツを喜ばせるだけだと思うと悔しくて、ほんとのことは言えなかった。

「顔いいヤツと歩いてみたいと思っただけよ!」

「顔?」

「そうよ。アンタ、顔だけはいいじゃない? それだけだからね?」

「つまり、おれのことタイプってことっすか?」

「か、顔だけよ⁉︎ 顔だけ‼︎」

 ものすごく嬉しそうな顔をする。

 しまった。コイツ、とんでもないポジティブシンキング野郎だった。

 皮肉とかわかんないんだ?

「いやー、顔ね、顔…………」

 しかも、喜びを噛み締めてるような顔がムカつく。

「おれね、紅実さんのこと、落ち込んでる奴でも笑かしてやれるのって、かっけーなとか思って、おれもそんなふうになりてーなとか思ってんすよね。全身ハゲの呪いって……」

 言ってて思い出したのか、ちょっと笑っている。

 やっぱり、あの時の子で、そんなふうに思ってたんだ?

 今思うと恥ずかしすぎよね。もうちょっとなんか、マシな言い方とか………。

「けど、おれが何か言うとめっちゃ反応してくれるでしょ? そーいうとこ、めっちゃかわいいっすよね? おもれーし」

「お、かわいくはないでしょ? 面白くも………結構キツイことも言っちゃうし」

「けど、そう言う時気にしてるでしょ? ちょっと言いすぎたかな? とか。そーいうとこもかわいいっすよ?」

 咲妃からも、こんなふうに可愛いとか言われることってそんなにないのに…………どう反応していいのかわかんないんだけど?

 顔、熱い。

「多分、前会った時より好きだなー、って思う。だから、付き合いましょ?」

「な、ないからっ!」

「何でですか⁉︎ 今そういう流れだったでしょ⁉︎」

「そんなわけないでしょ⁉︎ 年下とか、友達との付き合いとかあるでしょ? それに高校入ったらサッカー部とか、また入るんでしょ? そんな相手とか、ないから‼︎」

「そんなの関係あります?」

「あるわよ!」

 言うと、コイツはわざとらしくため息を吐いて、やれやれと言ったふうに、説明をはじめる。

「しゃーないっすね。んじゃまず、年のこと? 2コしか違わないし、よくないです? 実際うちのかーちゃん、とーちゃんより2コ上ですし。ちょうどいいって言ってましたよ? 文句言いやすいし、使いやすいって」

 そうなんだ? でも、確かに年上だと思うと文句も言いづらい………のかな? 今コイツに言ってるようなことの半分以上は言えない気がする。

 コイツの性格もあるんだろうけど、何でも言えるっていうか…………。

「それに、友達との付き合いとか一緒でもよくないです? 紅実さんが嫌なら別ですけど、紹介くらいはさせて欲しいです。仲いい奴いて彼女連れてきたり惚気られたりされんの。おれもしてーんで」

 私のこと話してくれるってこと? けど…………。

「周りに可愛い子とか腐るほどいるでしょ? あんた顔だけはいいんだから…………」

 それに、一緒にいて楽しいんだから、人は集まってくるはずだもの。

「そんなん言ったら紅実さんだってでしょ?」

「は?」

「紅実さんだって、美人だしモテるでしょ?」

「そんなことないわよ」

「じゃ、告白されたこともないですか? 1回も?」

「そ、それは………ある、けど…………」

「ほら」

「そ、そんなに何回もはないわよ!」

「何回かはあったんですね?」

「あ………あんただってあるでしょーが? それこそ何回も!」

「だからですね、意味ないんですよ。周りに何人いるとか、どんな奴がいるとか。その中に紅実さんいないとね?」

 何で恥ずかしげもなくこんなセリフ吐けんの?

「………ば、ばかじゃない?」

 こいつは、ははっと笑って何でもないみたいに話を続ける。

「あと、サッカー? それって何が気になってるんすか?」

 本当は、それが一番気になってる。

 もし、大神君がサッカーやってなかったら………部活入ってなかったら………もしかして別れてなかったかも、って。

「高校入ったらまたサッカー部入るんでしょ? 練習とか試合とか…………」

「休みくらいありますよ。なくても会いに来ますけど。ラインだってあるし」

「そ、そんなこと言ってても、最初だけでしょ?」

 あ、やばい。声、震える。

「とにかく! 嫌なの! ごめん。帰る!」

 言って、その場から走って離れる。

 もうやだ。思い出したくない。付き合わなきゃよかったって、ずっと後悔してる。

 付き合わなかったら、気不味くなることとかなくって、いい関係のまま卒業して、たまに顔合わせることあっても、普通に笑えてたはずなのに。

 あんなこと言われずに済んだのに‼︎

「待ってくださいよ。何かあったんすか?」

 追いかけられて、やっぱり腕をつかまれる。

 やだ。何か、泣きそうなんだけど。

「こっち、あんま人来なさそうなんで」

 言って、腕を引っ張って公園の端の方に連れて行かれる。

「何よ⁉︎ 泣いてないわよ⁉︎」

「まーー、でも、泣きそーっつーか、もう泣いてるみたいな顔っすよ?」

 慌てて、顔を隠す。

 もう嫌だ。どっか行ってほしい。

「つ、付き合ってたの! さっきの……大神君と…………それで………試合とか、練習とか………会えなくて………友達だった時は何とも思ってなかったけど…………だんだん誘えなくなっちゃって…………咲妃みたいに可愛く甘えたり、わがままも言えないし………最後は素っ気ないとか、可愛くないとか………」

「それ、もうちょっと甘えたりとか、わがまま言いたかった、ってことですか? それで、ほっとけないなとか、可愛いなとか思ってもらいたかったってことですか?」

「わかってるなら…………」

「それ、おれとやり直したらよくないです?」

「は?」

「だって、きいてたら大神さんに未練あるわけじゃなくって、紅実さんがしたかったのにできなかったことを後悔してるだけでしょ?」

「え? あ………そう…なの? かな?」

 た、確かに、大神君と別れたことより、そっちのが気になって………? あ、あれ? 私、もうちょっと我儘言いたかっただけ? 可愛いとか、ほっとけないな、とか思われたかったってこと?

「紅実さん、可愛いですよ? 甘えたかったら、それも嬉しいですし」

「それは………無理。私、そういうタイプじゃないし…………年下にとか………」

 それができないから、別れたんじゃない。

「んじゃ、練習からっすね?」

「は?」

「とりあえず、お願いとかないですか?」

「な、ないわよ」

「んじゃ、大神さんに言いたかったこととか、したかったこととか」

 ………手とか繋ぎたかったのよね。本当は。咲妃にはあんなふうに言ってたけど、実は自分も………とか………。

 もともと友達だったから、今さらな感じもあったし…………。

 こいつとは繋いでたわけだけど…………。

 何も言えないでいると、こいつが先に口を開く。

「………じゃ、おれから提案」

「何?」

「ちゅーしたい、とか」

「な、ななな何よ⁉︎ できるわけないでしょ⁉︎ ばかじゃない⁉︎」

「んじゃ、ハグは?」

「…………無理」

 こいつはわざとらしく思いっきり深いため息を吐く。

 全然、わかってないじゃない! そんなことできるんだったら練習なんか必要ないでしょうが⁉︎

「だから、無理って………」

「んじゃ、仕方ないんでちょー簡単なことから」

「何よ?」

「名前で呼んでもいい? とか」

「は? 名前?」

「そ。紅実さんって、おれのこといっつもあんたしか呼んでくれないでしょ? まー、昔話の夫婦みたいなのではありですけど………あんた、おまえ、とかって呼び合うの」

「何で夫婦なのよ⁉︎ それに、そんなの、あんたが呼ばれたいとか、そんなんでしょ⁉︎」

「そーですけど………じゃ、やっぱりちゅーとかのがいいですか?」

「嫌よ!」

 それに比べれば、名前のが簡単よ‼︎ それに私じゃなくてこいつが呼ばれたがってるだけだし…………。

 鳥飼君呼ぶのと一緒よ。何でもないんだから!

「と………」

「あ、言っときますけど、鳥飼君はナシですよ?」

「何でよ?」

「それじゃ、にーちゃん呼んでんのか、おれ呼んでんのかわかんないでしょ? 仕方ないんで鳥飼君はにーちゃんに譲るとして、おれは名前で。たとえば『燕って呼びたいな♡』とか。可愛い感じで」

「い、嫌よ」

 そんな語尾にハートマークついたような言い方できる訳ないでしょうが‼︎

「おれ年下だし? さん付けとかより、呼び捨てのが呼びやすくないですか?」

 ここで年下とか言ってくんの⁉︎ 関係ないとか言ってたくせに!

「紅実さん弟いるんですよね? そのくらいの気持ちでいいんで。それともやっぱりちゅーとか………」

「だから、嫌だって言ってんでしょ? いいわよ、名前で‼︎」

 何よ何よ! 何なのよ⁉︎ そのくらい全然何でもないんだから! そうよ。悠仁呼ぶのと変わんないわよ。それをあえてお願いする練習なだけで…………。

「つ……つば…………」

 な、何? この恥ずかしい感じ。何で名前呼ぶだけでこんな…………。

 ちらっと、ヤツの顔を伺うとにやにやしていて…………ムカつく‼︎

「つ、燕……って、呼ぶからね⁉︎」

 やっぱり、可愛くお願いは無理だ。これが精一杯だ。

「いーよ♪」

 こいつが提案してきたのとは違うのに、ものすごく満足げな顔がものすごく悔しい‼︎‼︎

「あ、あんたね………」

「ストップ。燕って呼ぶんでしょ?」

「は?」

「あんたじゃなくて、名前で♪」

 ムカつく! ムカつく‼︎

 このままじゃ、負けっぱなしみたいでムカつくし、ちょっとはやり返したい‼︎

「燕が、そうやって答えるってことは合格ってことでいいのよね? なんかないわけ?」

 参りましたとか、それっぽいの。

 燕はちょっとびっくりしたような顔をして、へらっと笑う。

「なんだ、できんじゃん?」

「な、何がよ?」

 頭下げるのとか何とも思わないのかな?

「よくがんばりました♪」

 言って、私の頭を撫でてくる。

「ば……な、何すんのよ?」

 慌てて、頭を撫でてきた手を振り払う。

「あれ? ご褒美欲しいってことじゃないの?」

「違うわよ‼︎」

 やっぱりコイツといると血管切れそう! こんなんで付き合ってけるか心配なんだ、けど……………………………?

 あたし、OKしてないわよね? 何か、こういうやりとりって既に付き合ってるみたいじゃない?

 え? 付き合うの? コイツと?

「でも、これから練習してけばすぐですよ。すぐ。とりあえず、両想い記念ってことで」

 ほら、やっぱりそんな感じになってるじゃない? 何か、否定しないと…………。

 そうは思っても、何も思いつかなくって、その間に強引に抱き寄せられる。

「な……何する……………」

「両想い記念のハグ。ちゅーのがいいならそれも………」

「しない! しないから‼︎」

 慌てて顔を逸らすために埋めてしまったのは燕の腕の中だった。

 …………………………ま、いっか。何かここから断るのもめんどくさそうだし…………しばらく咲妃とも遊ぶ時間は減りそうだし………暇つぶしくらいの感じで。

 諦めて、力が抜けたのがわかったのか、余計に強い力で抱きしめられる。

「紅ーー実♪ 好き♡」

 でも、ちょっとは楽しかったし………ほんのちょっとくらいはうれしいとも思うけど………やっぱり、ムカつく‼︎

 多分、ずっと燕のペースだったからよ! 楽だったけど、ちょっとは主導権にぎりたかったりもするじゃない? 今後もずっとこうだと思われても嫌だし……………。

「え?」

 燕が驚いて私から腕を離す。

「い、今……………?」

「うん。ほっぺただけど」

 私がキスしたほっぺたを抑えて、燕が赤くなる。

 あ、耳まで赤い………。

 そして赤くなったのが恥ずかしいのか、私から顔を隠して斜め下を向く。

 それを追いかけて覗き込む。

「ち、ちょっと! 見ないでもらえます⁉︎ 恥ずいんで…………」

 勢いで、とは言え…………ちょっと自分でもびっくりした。

 けど、大満足だ。

「ふっ……ふふっ………あははははははは………」

「そ、そんな笑います?」

「だって、おもしろいな、と思って」


     ♣︎*♣︎*♣︎


 めっちゃ、恥ずい…………。

 不意打ちもいいとこじゃん? 紅実って結構Sなのか?

 いや、それならそれでいいけどな。

 笑ってんの見れたし。

「…………あ、あのさ。燕は、お兄ちゃんとはどうなのよ? どうするの?」

「にーちゃん? どーするの? って?」

「な、何か……付き合うみたいな感じ………でしょ? い、言うの?」

「言っちゃダメなん?」

「いや………だって………自分の弟たぶらかされたみたいな…………」

「そんなこと思うわけねーじゃん?」

 思わず、笑ってしまう。本人マジなんだろーけど。

 むしろ、おれが説教されるわ。咲妃さんの友達に何してんだ? 的な。

 けど、真剣なお付き合いだからな。仕方なくね?

「そうじゃなくても、何か恥ずかしいと言うか………気不味いと言うか…………」

「気になります?」

「そりゃそうでしょ? 鳥飼君のことも知ってるし。咲妃にはちょっとだけ言っとこうとは思ってるけど………」

「まー、じゃ、最初は内緒にしててもいいですけど、結局最後はバレるんすよ?」

「何でよ?」

「だって、にーちゃんだし………あ、でも、咲妃さんがねーちゃんになるのは嬉しいでしょ?」

「何の話よ?」

「いや、だから結婚とかしたらそーなるでしょ?」

「ば、ばかじゃない⁉︎ そんなのわかんないじゃない⁈」

「でも、にーちゃん咲妃さんのことめっちゃ好きですよ? それに、咲妃さんもにーちゃんのこと好きでしょ?」

「いや、私とあ………燕の…………」

「嫌?」

「ま、まだわかんないでしょ⁉︎ って話! もういいわよ‼︎」

 すぐムキになるし。

 こっから先、楽しみしかなくね?


 家に帰るとにーちゃんがリビングでテレビを観ながらスマホをいじっている。

 多分咲妃さんからだろーな。

 他に相手いねーだろーし、にやにやしてっし。

「にーちゃん早ぇーね?」

 声を掛けると一気に不機嫌そうな顔になって答える。

 はいはい。邪魔してすみませんね。咲妃さんとの楽しいラインタイムを。

「お前と違って、電車だしな」

 紅実はあんなん言ってたから、誘っても家には来ねーだろーけど…………おれから言わなくても、それなりにバレてんだとは思うんだよな。

「帰ったんならちゃんと鍵は下駄箱の扉の裏に掛けとけよ? 最近使ってないからって言っても、父さんのなんだからな?」

「わーってるよ」

 答えて、自転車の鍵を戻しに行く。

 しばらく使ってなかったとーちゃんのチャリを自転車屋に持って行ってメンテナンスしてくれてたのはにーちゃんだ。

 とーちゃんが昔はよく乗ってたけど、おれら………特ににーちゃんが自転車で行けるところは自分で行き出して、にーちゃんもとーちゃんいるなら車でしか行けないところに、ってなってからあんま乗らなくなったんだよな。

 とーちゃんが選んでっから、ちゃんとしたクロスバイクだし。街乗りにはこっちのがやっぱ走りやすかった。

 これからも紅実んとこ行くのにちょいちょい借りようとされると困るから……と、思われたんじゃねーかと思うんだよな。

 それよかはマシ、と思ってメンテに出してくれたんじゃねーの? とか。

「ちゃんと戻してきたからな?」

「もう、俺の勝手に乗るなよ?」

「乗らねーよ。そもそも最近は乗ってねーし」

「嘘言うなよ? この前も乗ってたろ?」

「乗ってねーって」

 乗ろうとはしたけど。普段がそーだから、そう思われても仕方ねーけど。

「鍵弄ってたろ?」

「な………⁉︎」

 どこで見てんだよ? 千里眼か? それとも鑑識の道具と技術とか持ってんのか?

「い、いじってねーよ」

 これは嘘だけど。

「じゃ、番号は知らないんだな?」

 あ、そーいうことね。これ、番号変えたくねーんだ?

 おれにバレてたら変えなきゃなんねーから………ってことは、あの番号…………。

「何だよ? 知んねーよ。咲妃さんの誕生日にでもしてんのかよ?」

「お前に関係ないだろ⁉︎」

 おーおー。わかりやすっ。

 チャリの鍵の番号がカノジョの誕生日ね。おれもマネしよーっと♪

 紅実とのことがバレてたわけじゃねーんだな?

「今日、坂上さんと会ってたんだろ? 失礼なこととかしてないだろうな?」

「してねーよ」

 ………………やっぱバレてんのか?

 今回でツバクミ編も終わります。

 またスズサキもお願いします。

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