*57
昨日、弟に鳥飼燕を知っているかときいたら、当たり前のように「知ってるに決まってんじゃん? すっげえ、かっこいいし、気さくだし、ぜってー同じ高校行って一緒にプレイする!」とか言い出した。どうやら、弟にとっても憧れの人らしい。
バカだけどね。
「やっぱり、モテるの?」
「当たり前じゃん? 応援とかほとんど女子の声しか聞こえないし」
「ふーーーん?」
やっぱそうなのね? ま、あれだけのルックス持ってたら仕方なかったりもするのかもね。ムカつく。
「姉ちゃんも興味あんの?」
「別に。ちょっとクラスの子が話してたから、知ってるかな? って思っただけ」
「あ、でも結構姉ちゃんのタイプかもよ? 顔とか…………」
「興味ないって言ってるでしょ? ばーか」
まだ話題が続くと待ち伏せされてたこととか言ってしまいそうで、自分の部屋に戻る。
やっぱりモテるんだ。そんな奴が何で私?
あんな子、会ってたら忘れないと思うんだけどな。
……………まあ、でも、明日は来ないでしょ。鳥飼君が私のライン知らないって知ったら望みなしって思って、諦めるだろうし。周りにはもっと可愛い子もたくさんいるでしょうしね。
…………………って、思ってたのに、何でいるの?
「紅実さんも咲妃さんもこんにちは」
勢いよく漕いできた自転車から下りて、私を見る。
相変わらず、へらへらした顔で笑ってるけど、すごい汗でカッターシャツが体に張り付いている。
思わず立ち止まってしまったものの、相手にしたら調子に乗るかもしれないと思って、無視してまた歩き始めると、当たり前の様にこいつも勝手に横を歩きはじめた。
「にーちゃん、紅実さんのライン知らなかったんで、やっぱり直接教えてもらおうと思って」
言って、へらっと笑う。
知ってるわよ。むしろ、教えた覚えもないのに、鳥飼君が私のライン知ってたらびっくりよ。
でも、普通はそれで気付かない? からかわれたのかな? 迷惑がられてるのかな? とか。
ひとこと何か言ってやろうと思ったけど、相手にするとつけ上がりそうで、必死にこらえる。
相手にしない相手にしない…………。
「今日、自転車なんだねっ?」
私が相手にしないもんだから、咲妃が気を使って話しかける。
「そうなんすよ。今月はもう電車代ないんで」
まあ、そうよね。中学生だし、お小遣いなんてそこまでたくさんはもらえないわよね。
それでも、会えるかどうかわかんないのに一昨日と昨日と2日も待ってて……………。
そう思うとちょっと可哀想な気もしてきて、少しくらいなら相手してもいいかな? とか………………。
「けっこう遠いよねっ?」
「2時間くらいですかね」
相変わらずへらっと笑いながら答えてるけど、私は思わず足を止めて振り返ってしまう。
「は?」
咲妃もちょっと驚いた顔をしていて、立ち止まっていた。当然だ。
合わせて立ち止まったバカがきいてくる。
「どうしました?」
何でそんな嬉しそうな顔してんのよ?
「どうしました? じゃないわよ! そんな距離、何で自転車で来てんのよ?」
「走るより早いし、楽だから?」
「そういうことをききたいんじゃないわよっ! 何が目的でわざわざ来てんのかってことっ!」
「そんなの、紅実さんにライン教えてもらうために決まってるじゃないですか?」
まるで当たり前のように、私の方がおかしいの? とでも思ってしまいそうなくらいの口振りだ。
「バカなの? っていうか、バカでしょ?」
普通、そんなことのために2時間もかけてわざわざ来る?
こんな奴見たことない!
「まーー、頭はあんまよくないですけど、体力には自信あるんで」
「いやいやいや、あんた受験生でしょ? 勉強とかしてんの?」
「最近は結構してますよ? 春から一緒に登下校したり、昼飯食ったりしましょーね?」
「は?」
「おれ、青葉受けるんで」
「えーーっ⁈」
咲妃が私よりも先に大きな声を出す。
「それっ、鳥飼くんも知ってるっ? 鳥飼くん、なにも言ってなかったっ?」
確かに。鳥飼君は弟と一緒の学校なんて絶対に嫌がりそうだ。
「ムリだろ? って」
ちょっと鳥飼君の真似をして見せてるようだけど、笑えない。
「どのくらいムリってっ?」
咲妃の慌てぶりと、こいつの言動からうちに受かりそうなほどの知能は感じない。自慢じゃないけど、それなりの学力は必要だ。
私だってそれなりに勉強してきたから受かったんだと思っている。
「どのくらい?」
「……………偏差値とか、判定とかあるでしょ?」
「偏差値とか気にしたことないし、希望に青葉入れたこともないんですよね。でも、ぜったいムリ! ってことはないでしょ?」
「いや、あるでしょ?」
「ないですよ」
言って、ちょっとやさしい顔で笑う。その顔が大人びた感じすらしていて、不覚にもどきっとしてしまう。
な、なんだろ? こんな顔して言われたら、本当に無理なことなんかない、って気がしてくる。
「そ、それに、サッカーしてるんでしょ? サッカー強いとことか行かないの?」
「あ、おれのこと知ってくれてんですね?」
そこでまた嬉しそうな顔をする。
「たまたまよ、たまたま! 別にわざわざ覚えてるとかじゃなくて………」
「わざわざじゃなくても覚えてくれてんですね? うれしいです!」
何よ、それ? 私があんたの事意識してないのに覚えちゃうくらい興味あるとか、好きとか、ないからね⁈
「だ、だから、そういうのじゃなくて………」
「そーいうの、興味ないんすよね。楽しくやれないと意味ないし、自分が入って強くなったとか言われた方が嬉しくないですか?」
そういう考えも、確かに………厳しすぎて、嫌になっちゃったら仕方ない…………。
「と、とにかく! 私のせいで、落ちたとか言われても困るからもう来ないで勉強してくんない?」
「あ、じゃ、紅実さんが来てくれます?」
「嫌に決まってんでしょ?」
「じゃ、ライン教えてくださいよ。わかんないとことか教えてほしいなー」
「お兄ちゃんに聴きなさいよ。私より頭いいんだから」
「おれ、紅実さんから教えてもらったほうが頭に入る気するんですけど」
なんなの? この押しの強さというか、ちょっとは引くとか考えないの?
「あ、あたし、ここだから、紅実ちゃんばいばいっ。燕くんも帰りとか気をつけてねっ」
咲妃の発言で、ここまで帰って来てしまったことを後悔する。
このままだったら、うち、着いちゃうじゃない? 家知られたら、絶対来る。もう、そんな気しかしない。あきらめるでしょ? とか安易な考えが通用しないっていうのもわかったし。
咲妃と別れて、少しして仕方なく切り出す。
「私、あんたのこと迷惑としか思えないんだけど。1年前のこととかも全然覚えてないし、悪いけど」
こいつは、驚いた顔をして、俯く。
ちょっと、きつく言いすぎたかな?
「覚えてないのはいいですよ。でも、迷惑とか…………」
ち、ちょっと可哀想だったかな? せっかく私のこと好き…………とは、言われてないけど……………。
「ご、ごめん」
いたたまれなくなって、走り出そうとするとまた手をつかまれる。
「まだ! ライン教えてもらってないです‼︎」
「は?」
「今度会ったら教えてくれるって言ったでしょ? 本当は昨日だったけど」
あ、私、迷惑って、言ったわよね?
戸惑っていると、自分のスマホを出しながら、きいてくる。
「スマホ持ってます?」
「あ、うん」
「じゃ、紅実さんがコード出してください。おれ、読み込むんで」
言って、へらっと笑う。
思わず、鞄から出してしまったスマホを見てはっとする。
「私、教えるって言ってないけど?」
「言いましたよ。今度ね? って」
「だからそれ、覚えてないから」
「……………紅実さんって、そういうのが好きなんですか?」
「何よ? そういうの、って?」
真面目な顔で聴いてきた質問の意図が分からず、聞き返す。
「焦らしプレイ、みたいな」
ばっ………。
「そんなわけないでしょ⁉︎ バカじゃないのっ?」
真面目な顔してるから、何考えてるのかと思ったら………こいつ、真剣に悩むとか、考えるとか、したことあんの?
「まーー、紅実さんならそれでもいいですけど。また、明日来るし」
「何言ってんのよ! もうおこづかいないんでしょ? また自転車で来るつもり?」
「そりゃ、まー……さすがに走ってだと紅実さん帰っちゃうでしょ?」
「そうじゃなくて! また2時間もかけてくるのか? ってこと!」
コイツと話してると血管切れそう!
「明日はもうちょっと早く来れると思いますよ。今日は初めてだったからちょっと道まちがったし…………」
「明日来ても、教えないわよ⁈」
「じゃ、その次も来ます」
「それでも教えないから!」
「……………やっぱ、好きなんですね? 焦らしプレイ」
「そんなわけないでしょ? ばっ………!」
「冗談ですよ」
また、へらっと笑って私のスマホを持った手を握る。
そして、今までみたいなへらっとした顔じゃなく、真剣な顔を真っ直ぐに向けて、言う。
「おれ、自分で納得できるまでは来るんで」
ちょっとだけ間を置いて、またへらっと笑う。
「んじゃ。多分、おれ帰るまで紅実さんも帰んないと思うから先帰りますけど、気を付けてくださいね? 絶対ですよ?」
言って、自転車に跨がる。
軽快に漕ぎ始めようとしたその背中を見て、思わず出しっぱなしになっていたカッターシャツの裾を掴む。
「っ………な……何すか?」
多分、思ってもなかった反応で、驚いたのか今までみたいなへらっとした笑顔はない。
「ほ、ほら…………」
「え?」
びっくりしてるわよね?
私だって、何でこんなことしたのかわかんない。
「あ、あんたが読み込むって言ったんでしょ?」
自分のラインのQRコードの画面を出して見せる。恥ずかしくて、目は合わせられない。
どんな顔してるんだろ?
「あ……は、はい!」
慌てて、自分のスマホをポケットから取り出して読み込ませようとする。
「ま、毎日来られたら迷惑だから、仕方なくよ? だから、明日は来ないでよ? あと、あんまりしつこかったり、面倒臭くなったらすぐブロックするからね?」
「気を付けます! けど、紅実さんのペースわかんないんで、それまでは大目に見てもらえると嬉しいです!」
「そんなの知らないわよ! 登録終わったんならさっさと帰りなさいよね? 心配するでしょ?」
「はい! ありがとうございます‼︎」
言って、スマホをズボンのポケットにしまうと、手を振って帰って行く。
何度か振り返りながら。
仕方ない、わよね。毎日来られるのが迷惑なのは本当だし。これで来なくなるなら簡単なことじゃない。ラインだって、面倒になったらブロックしちゃえばいいんだし。むしろ、なんで最初からこうしなかったんだろ?
そうよ。だって、わざわざ自転車で来るとか思う訳ないじゃない? それに、本当に明日も来そうだったし…………受験生にそんな時間使わせるわけにいかないし、落ちて私のせいにされても困るし…………。
それだけなんだからね!
Switch2が発売されたそうですが、Switch2のソフトがずらっと並ぶ中、本体が手に入らないという………。
私はあまりゲームをしないのですが、ソフトが売り切れないよう先に買っておく人向けなんですかね。




