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帰りに電車使って、正門で待ち伏せしたのに紅実さんを見つけることはできなかった。
やっぱ学校終わってすぐ来るんじゃ間に合わねーのかな?
帰りもまばらだもんな。帰宅部の奴とかはもう帰ってんだろーし…………。
に、してもすっげー見られるな。仕方ねーけど、やっぱ中坊ってわかんのかな?
男子の合服とかどこも似たよーなもんだし、あんま目立たねーかと思ったけど、やっぱズボンは色違ーもんな。
下校時刻を知らせるチャイムが鳴っても、紅実さんは出てこなかった。
なんで出てこねーんだよ?
見逃した、ってことはねーよな? 目には自信がある。たぶん、大丈夫。
昨日にーちゃんに探り入れたけど、紅実さんって、咲妃さんと同中で同じ部活とか言ってたし…………部活サボって帰ったとか? 休み?
…………………つーか、咲妃さんも出てきてなくねーか?
「にーちゃんって昨日一緒にいた坂上さん? とも仲いいん?」
にーちゃんが少し驚いた顔をする。
ちょっと怪しまれはしたのかもしれないけど、答えてはくれる。
まあ、このくれーじゃバレねーよな?
「仲良くはないよ」
なんだ? その意味ありげな言い方。
けど、仲悪くはねーってことだよな? 今んとこにーちゃんしか情報源思いつかねーし、ちょっとくらいは怪しまれてもしゃーねーか。
「坂上さんってさ、弟いるよな? サッカーやってるヤツ」
「確か………何で知ってるんだ?」
「前に、ちょっと世話んなってんのに礼とか言えてなかったから…………今日青葉まで行ったんだけど、会えなかったんだよな」
「は? いや、何だよそれ? 坂上さんのこと知ってて? 青葉まで? わざわざ? 礼言うだけのために? お前が?」
「しゃーねーじゃん? 他に思いつかなかったし、ワックの後もそんな話せなかったしさ」
苦しいか? さすがにバレっかな?
「………………俺が言っとくよ。いつの話だ?」
「いや、自分で言わなきゃ意味なくね?」
「……………………」
あきらかに怪しまれてんなー。どーすっかな?
にーちゃんは軽くため息をついて、きいてくる。
「お前が、青葉受けたいとか言い出したのと関係あるのか?」
やっぱ、そーくるよな? もう言う、か? いや、言っても相手にしてもらえねーよな? むしろ、やめとけとか、そういうことしか言われねーだろうし、そう思われたら協力どころか、妨害しかされねー気がする。
「あ……まぁ、けど、実際に受かってからより、今言いに行ったほうが早くね? とか?」
……………やっぱ、無理あるよな? さすがに。
「…………自分で言って、気が済んだら、もっと現実的な所考えられるのか? 青葉じゃなくて梅高とか………梅高も現実的とは言えないけど…………」
お? もしかして、いけるか?
進路はその後成績上がったから、とかいくらでも言えるかんな。
ここは、そういうことにしとくか。
「まあ、にーちゃんに言われた問題やってっけど、思ったよりできねーもんな。今は青葉無理だって、思う」
今は、な。今は。
にーちゃんは思いっきり深いため息をつく。
「どこで待ってたんだよ?」
「正門。多分5時くらいには着いてたのに、咲妃さんも見なかった」
「咲妃ちゃんは裏門から帰ってるからな。多分坂上さんも」
「裏っ⁈」
そっか。裏門くらいあるよな?
「部活も5時半くらいまでって言ってたから、裏門なら会えたんじゃないか?」
なるほど。5時半ね。
「そっか。サンキュー」
言って、にーちゃんの部屋を出ようとするとさらに忠告される。
「あんまり目立つとこで待つなよ?」
「なんでだよ?」
目立つとこで待ってねーと、見つけてもらえねーじゃん?
「それでなくてもお前は目立つんだから、嫌がられるんじゃないか? 咲妃ちゃんの友達だし、俺もいろいろ世話になってるし、迷惑かけるなよ?」
「迷惑かけるつもりはねーよ」
うるせっ。
けど、昨日はちょっとあしらわれた感じだったしな……………やっぱ、迷惑がられてんのかなーー?
たぶん、大会ん時も今度なんてないつもりで言ったんだろーけど………おれもあきらめた方がいいと思ったことだってあったし…………………。
「もしかして花火大会ん時、一緒だった?」
「ん、ああ。途中で逸れたけどな」
「ああっ?」
「何だよ?」
「なんでもねーよっ‼︎」
言って、思いっきり部屋のドアを閉めて出て行く。
ドアの向こうから「もうちょっと静かに閉めろ!」と、にーちゃんの怒鳴り声が聞こえた。
っんだよっ! オンナに興味ねーみてーな顔して! 咲妃さんと付き合ってっくせに‼︎ 毎晩咲妃さんで抜きまくってっくせに(知らねーけど)‼︎
紅実さんとまで遊んでんじゃねーよっ‼︎‼︎
しかもはぐれたとか! 咲妃さん1人にしてたよな? その間2人でいたってことか? それとも同時に両方ともはぐれたのか? おれだったらぜったい見失わねーのに‼︎‼︎
だいたい、にーちゃんが咲妃さん1人にしてなかったら迷わず紅実さん追いかけられてたんだからなっ‼︎⁉︎
くっそーーーーっ! ちょっと先に生まれたからって、いい気んなんなよっ‼︎‼︎
*♢*♢*♢*
朝、昇降口で鳥飼君が咲妃と一緒に私のところまで来る。めずらしい。
でも、その表情は後ろめたそうな困った顔で、なんとなく想像がつかなくもない。
弟に何か頼まれでもしたのかしら?
「おはよう、坂上さん」
「おはよ、どしたの? 弟に何か言われた?」
とりあえず、こっちから話を振ってみる。
この様子だと、なかなか言い出せずに次の日になってしまいそうだ。
ま、私にはどうでもいいことだけど。
「ごめん、もしかして、日曜日何かあった? その…………弟と」
何か、と言うほどのことではないけど。
「まあね。ちょっと追いかけられたくらい?」
「追いかけ……?」
信じられないと言った様子で、口に手を当てる。
弟に何か訊かれたんだろうな。って、ことは私が告白まがいのことされたの知ってるのかな?
脱いだ靴を下駄箱にしまいながら、続きを待つ。
鳥飼君が口に当てていた手をどけて、恐る恐る話し始めた。
確かに何度か鞄で殴ったことはあるけど、そんなに怖がらなくてもよくない?
「…………昨日、待ってたらしいんだよね。坂上さんのこと」
靴箱に靴をしまう手が止まる。
「はぁ? どこで?」
思わず口調がきつくなる。でも、鳥飼君は予想していたようで、びくびくしながらも答える。
「学校の正門」
そんな目立つ所で? 何考えてんの? さすがに予想外だわ。
「あんたの弟、無駄に行動力ありすぎない?」
「ごめん。僕もそう思ってる。多分、今日も来ると思う。咲妃ちゃんと裏門から帰ってるって話したから、多分、今日は裏門で。目立たないようにとは言っといたけど………」
「いや、無理でしょ?」
あの身長であの顔とか。オーラというか…………。
「あ、うん。でも、昔のお礼が言いたいとか、それくらいだからちょっとだけ話聴いてもらえれば……………」
鳥飼君にはそういうことにしたのね。
けど、どう思い返してもそれだけじゃない気がするのがな一一。だってそれだけなら最初に会った時で十分だし、ラインなんか訊く必要なくない?
「嫌だって言ったら?」
「い、一応、僕からラインはしとくけど………………」
後は続かなかった。
それで本当に来ないかはわかんないってことね。
思わず深いため息が出る。
「す、すごいねっ? 直接お礼言いたいとかっ。昔の話なんでしょっ? 紅実ちゃんなにしたのっ?」
咲妃が呑気にきいてくる。
「知らないわよ。覚えてないのよね。それが納得いかなかったのもあるんだろうけど」
思い出せるとも思えないし、逃げ続けるのも苦労しそうだな。やっぱり、1回ビシッと言っといた方がいいのかな?
咲妃と別れて、教室に入ると田中さんが嬉しそうな顔をしてやって来る。
「おはよー、きいた? 昨日、背高くって、めっちゃかっこかわいい子が正門で待ってたんだって」
田中さんってこういう時「えー? 知らなかった!」って、言ってもらいたくて仕方ないのよね。
私ならその反応がもらえると思って話しかけてきたんだとは思うけど…………多分、というかほぼ確実にアイツの話よね?
「へえ? そうなんだ?」
「そうなの! 多分、中学生だと思うんだけど、誰待ってたんだろうね? うらやましいよね?」
それ、どうやらあたしのこと待ってたっぽい、とか言ったら、顰蹙かうんだろうな。
まあ、背は高いし、顔もかっこかわいいと言われるのはわかる。行動力もあるし、モテるのもわかるのよね。悪い気はしな……………いや、ありえないから。
「そんなことないんじゃない? 何で待ってたのかもわかんないし。もしかしたら兄弟とか待ってたのかもしれないじゃない? ケンカとか…………」
「それがね! 飯坂さんが声かけたらしいんだけど、何て答えたと思う?」
ちょっと興奮気味に反応する。
飯坂さんね、あの、ちょっと男癖悪そうな子よね。手当たり次第っていうか。
「わかんないなー、何て?」
まさか、私の名前出したりはしてないわよね?
「まだ、おれの片想いなんでそっとしといてほしいです、ってー。きゃー! きゅんきゅんしちゃうよねー? その子幸せすぎない?」
いや、何言ってくれちゃってんの?
顔が熱くなる。
「あ、さすがの坂上さんも、年下男子の熱烈愛にはきゅんときちゃう感じ? どんな子だったんだろうね? わたしも見たかったなーー」
そりゃ、あんな顔でそんなこと言われたら、さすがにきゅんときちゃうんじゃない?
今日ももしかして待ってるかもとか思うとな一一………。
ここ何日か、よくしゃっくりが出ます。
何かあるのでしょうか?




