*54
紅実さん。紅実さん、紅実さん紅実さん紅実さん……………やべぇ。ホンモノだった……………。
カッツン達と合流するために店に向かう途中で、思わずしゃがみ込む。
ちゃんと、つかめた。
さっきまでつかんでいた紅実さんの手の感触をにぎりしめる。
もっとでかいイメージあったけど。
おれがでかくなったせいもあんのか?
まさか、咲妃さんの友だちとか…………思ったよりも近いとこいたんだな?
おれのこと覚えてなかったけど。
にーちゃんと同級ってことは2つ上か………思ったよりも年も近かったな。もっと年上かと……………。
学校も、にーちゃんと一緒ってことだし…………いろいろ、知らなかったこと知れて、また次こそライン教えてくれるとか…………やべぇ。
嬉しくてたまんねーや。
「なー? にーちゃんが受験した時の問題集とか残ってね?」
「俺が受験した時の? 過去問ならあるけど?」
「それ、貸してくんね?」
「いいけど。何に使うんだよ?」
クローゼットを開けて、衣装ケースの底から出して来る。
にーちゃんって、こう言う時にすぐ出てくんのがすげーとか思う。おれなら残ってるかどうかもわかんねー。
「勉強するために決まってんじゃん?」
出して来た過去問を受け取りながら、答える。
「誰が?」
「おれ」
「お前が⁈」
反応は予想通りだな。今までがそうだから仕方ねーけど。
「お前ならもっと簡単なとこから始めたほうがいいんじゃないのか? それ、うちの過去問だからお前には無理じゃないか?」
「まぁ、無理でも最終的には受かんねーとだし」
そしたら、同じ学校通えるしな。
「お前受けるの、梅高だろ?」
「まだ願書出してるわけでもねーし、変えてもよくね?」
「何言ってんだよ? 梅高でも今のお前ならかなり勉強しても受かるかどうか怪しいのに。夏休みも終わったこの時期からとか、無理だろ? 福田君と一緒にサッカーやりたいとか言ってなかったか? それで、私立のスポーツ推薦も断ったんだろうが?」
「カッツンは誘ってみるし、ランク落とすわけじゃねーからよくね?」
「誘ってみる、って。一緒に遊ぼうって言うのとは違うんだぞ? わかってんのか?」
「わーってるって。とりあえず、これ借りるかんな」
とは、言ってみたもののまったくわかんね一。解説も、何が言いたいのかわかんねーし。
教えてもらいににーちゃんの部屋に行くと、また小言がはじまる。
「だから言ったろ? やる気になるのはいいけど、まずは自分の学力に合ったところからだろ? ちょっと来い」
言って、リビングに連れて行かれる。
何なんだよ。他にどこから手つけていいかわかんねーから言ってんのに。
にーちゃんがプリンタの電源を入れて、スマホをいじると数枚のプリントが印刷される。
「ほら。お前ならこのくらいからだろ?」
「これ、中1の内容じゃん?」
「できるかどうかの確認と基礎固めだ。あと、そこのサイトのアドレス送ってるから終わったら答え合わせして、やれそうだったら続きしろ」
こういうとこ、にーちゃんなんだよな。真面目っつーか、面倒見がいいっつーか…………。
「サンキュー」
「………………青葉は無理だと思うけどな?」
言って、自分の部屋に戻る。
「そんなん、わかんねーじゃん?」
つまんねーーーっ! カッツンならいいじゃん、とか言って乗ってくれるかと思ったのに……………まあ、けど仕方ねーか……………。
やってみて思ったけど、1年の問題でも全然わかんねーとこあるし…………にーちゃんも随分やってたもんな。本当は照高とか行きたかったんじゃねーのかな? とか思うけど。結構ギリギリまで迷ってたみたいだし。C判定出てた時もあったらしいんだから、受けりゃよかったのに。落ちても私立の特進受かってたんだし…………っつっても、やっぱ金のこととか色々考えてたんだろーな。いくらとーちゃんが心配しなくていいって言ってても。
ま、おれは梅高もE判定だけどな。
「何、ヘソ曲げてんだよ?」
昼休みになって、1人でメシ食いながら、プリントアウトしたサイトの問題をやっているとカッツンが探しに来た。
「そんなんじゃねーよ」
昼休みに中1の問題をやっているおれを見て、カッツンが笑いもせずに言う。
「そりゃ、青葉受かったらいいかも知んないけど、部活やりたいなら近い方がよくね? 青葉だと通うのに1時間以上かかるだろ? 俺だったら実力あっても行かねーかな。照高なら近いから考えるけど、あそこは別格だからな」
そっか……………確かに、そうだよな。
こういうところが、自分はまだまだガキなんだな、と思わされる。
「あとさ、梅高ってそんなサッカー強くねーじゃん? 1年からでも試合出れるかも知んねーし、地区にしても全国にしても初出場初優勝とか、そういうのお前好きだろ?」
そりゃ、そうだけど…………………。
「あと、同じ学校でも学年違ったら、会うことなくない? 俺らだって、サッカー部の奴はわかるけど、それ以外ってそんなに、だろ?」
「そ、それはそーかもだけど…………だいたいわかんじゃん? 全校集会ん時でも顔は何となく目に入るし。名前まではわかんねーけど」
「いや、それ普通じゃないから」
「なんでだよ?」
「普通はそんな入んねーの。しかも目に入ったからって覚えられるわけでもないしな」
「1回会ったら覚えるだろ? しかも同じ学校なんだし、たまたま町中で見かけたとかじゃねーんだぞ?」
「会ったら、まあ覚えるかも知んねーけど………それでも『かも』だからな? 普通は目に入っただけじゃ覚えねーの。その紅実さん? も、覚えてなかったんだろ? カツサンドもらって話までしてんのにさ」
言葉に詰まる。
おれにとっては衝撃だったけど、紅実さんにとっては普通のことで、記憶にも残らないことだったんだ。
つまり、紅実さんにとっては昨日がおれとの初対面! ってことになんのか? そんでしばらくしたらまた忘れられんのか?
そんなの、絶対いやじゃね?
「どうしたんだよ?」
おれがいじりはじめたスマホを覗き込んで来て、カッツンがきいてくる。
「今度は忘れられないうちに会いに行くんだよ」
「で?」
「今青葉までの行き方調べてる」
*♢*♢*♢*
「なにがいいっ?」
「そうね、リーザホテルのケーキビュッフェとか?」
咲妃の顔が青ざめる。
そうだろうそうだろう。いくら鳥飼君のためだったとはいえ、クーポン使っても4500円は払えまい。
「え、えと…………も、もうちょっと………その…………」
「冗談よ。結局弟が来て収まったんだから、石村堂のいちごのショートケーキ食べに行こ。割り勘で」
………………アイツ、次会ったら、とか言ってたけど、どういうつもりなんだろ?
約束とかしなかったけど。
また偶然会った時に? 鳥飼君を通して?
「い、いいよっ! お礼なんだしっ。そのくらいならあたしおごるからっ!」
「じゃ、ケーキだけ奢ってもらおうかな?」
でも、自分の兄を通して、とか嫌よね?
「ケーキだけでいいのっ?」
「いいわよ。いつにする?」
そうでもないのかな? 鳥飼君は嫌そうだけど、弟の方はそうでもなさそうだったわよね?
「今週なら土日どっちでもいいよっ?」
「じゃ、土曜日。いい?」
サッカーやってるなら、悠仁に聴いたら知ってたりするのかしら?
「うんっ。ケーキだったら昼からのがいいよねっ? お昼ごはんはどうするっ? 食べたあとっ? お昼もいっしょに食べるっ?」
そういえばカツサンド………悠仁の試合見に行く時は大抵作ってたからな…………どの試合だろ? たまに、悠仁の友達にもあげたことあったけど、学校違うしな一一。
悠仁を通して、とかじゃないのよね? 私が次に会った時に、って言ったみたいだし。
「そうね」
「じゃ、どこで食べるっ? ケーキも食べに行くならお昼はおうちの方がいいかなっ? 高くついちゃうし……………」
それもなー、面倒臭い時とかよくそう言ってたもんな。まさか、間に受けて聴きに来る奴がいるとは思わないじゃない? 次に会う約束だってしてなかったんだろうし。
今回だって、次会う約束はしなかったのよね。どういうつもりなんだろ? からかわれた?
「ねーってばっ! お昼どこで食べるっ?」
「え、あ、ごめん。お昼ね、うちで食べて行く?」
「あ、じゃ、あたしさつまいもご飯持って行くね?」
「さつまいも?」
「うん。お母さんが職場でもらって来たおいもあるから。お母さんの職場の人の子どもがね、おいもほり行ったんだって。それでねっ…………」
咲妃に聴くのはな一一………………って、何を咲妃に聴くのよ? 関係ないでしょうが?
「紅実ちゃん大丈夫っ? さっきからぼーっとしてないっ?」
「大丈夫よっ!」
「あ、や、やっぱり、この前のこと怒ってるっ? やっぱり、ケーキビュッフェがよかったっ? お年玉もらったあとなら大丈夫だと思うけど、そのくらい先になってもいいっ?」
思わず語調が強くなってしまって、咲妃がびくびくしている。
あんたに怒ったんじゃないから!
「だ、大丈夫っ。怒ってないから。ちょっと考え事してただけ。芋掘り行ったのよね? 鳥飼君と」
「いもほりは鳥飼くんじゃなくてお母さんの職場の人の子どもだよ?」
「あ、そう。そうだったわね」
あーーーーーー、もうっ!
ムカつく! 私何でアイツのことばっかり考えてんのよ?
スマホで漫画を読めるようになると、無料でお試し読みができてしまいます。
そして、先が読みたくなるものが増え、追いきれなくなってしまっております。そうこうしているとアニメ化やドラマ化など………。ああ、さらに追いかけたいものが増えていく…………。




