*51
やさしいノックの音で目が覚める。
「何?」
今何時だ? そんなに寝た気はしないけど、父さん帰って来たのか?
外はまだ明るいけど………。
「ごめんねっ? 寝てなかったっ?」
慌てて起き上がる。
「海原さん?」
「お、起きなくっても大丈夫だよっ? でも、おかゆ作ったんだけど、食べられそうっ?」
「え? あ、帰ったんじゃ………?」
「う、うん。帰ろうと思って燕くんに言ったら、自分が持って行っても食べないと思うから、代わりにご飯持って行ってあげて、って言われたんだけど…………」
アイツ、何させてんだよ?
「ごめん。わざわざ作らせたり………」
「ちがうのっ。あたしが勝手に………持って行こうと思ったらカツサンドだったから………」
いつものパターンだな。他人の体調悪いとか関係なく自分の食べたい物を買って来る。
「昨日からご飯食べれてないってきいたからおかゆとかのがいいかと思ったんだけど………食べられそう? それともカツサンドのほうがよかったっ?」
「いや、咲妃ちゃんの……が、食べたい」
「ほ、ほんとにっ?」
「うん」
「じゃ、持ってくるねっ?」
言って、ドアを開けたまま、海原さんが階段を降りて行く。
海原さんが家にいる、とか…………なんか、よくないか? それで、僕の心配してくれてるとか………心配させるのはよくないと思うけど…………幸せだな、とか思ってしまう。不謹慎だけども。
少しして、降りていくよりはゆっくりした足音が聞こえて、海原さんがまた顔を出す。
「まだ熱いと思うから気をつけてねっ?」
ご飯のにおい…………昨日から大して食べてないから、腹は減ってる。でも、食べる気しないと思ってたけど………すごくおいいしそうな感じがする。
海原さんの作ったのだし、絶対おいしんだろうけど………そういうのじゃなくて…………。
「海原さんは、何か食べた?」
「燕くんからカツサンドもらっちゃったから………ごめんねっ? 先に食べちゃったっ」
「それなら、よかったけど」
まあ、一応は気は使えたんだな。
「……………なにっ?」
海原さんが照れて、そんなに見てしまっていたことに気づく。
慌てて目を逸らして、ベッドの上にもらったトレーのスプーンを持って丼に手をつける。
あ、と思い直して、スプーンと丼から手を離した。
「?」
「…………い、いただきます」
「どうぞっ」
海原さんがへへっと笑ってくれる。
うれしい…………。
改めてスプーンを手に取り、食べはじめる。
………………あれ? 何だろう? この体に染み渡るみたいな………おかゆってこんなおいしいかったっけ?
「おいしいね? 何か特別な………?」
「そんなのないよっ?」
「え? でも…………」
「たぶん、体弱ってるからだよっ。体弱ってるときって、こういうのほうがおいしく感じたりするよねっ?」
「そ、そうなんだ…………」
「鳥飼くんちは、風邪のときのメニューとかないのっ? 燕くんに聞いたら普通にご飯食べるって言ってたけど………」
「あ、うん。燕は風邪の時でも普通に食べるから」
「鳥飼くんはっ?」
「うどんとか………?」
「うどんっ! そっか、うどんにしたらよかったね? 思いつかなかったっ!」
「あ、いや………うちに、そういうメニューしかなかっただけだし……」
「そっか。また、次こういうことあったらそのときはうどんにするねっ?」
「また……?」
確かに、これからも一緒にいたらそういうこともあるのかもしれないけど………。
「あ、ちがっ………また熱出せばいいのにとか思ってるわけじゃなくって……えと…………」
当たり前のように次がある事を思わせてくれて、切なくなる。
「うん。でも、こっちのほうが好きかも………また同じの作ってほしい………」
「あ………う、うんっ」
*♡*♡*♡*
な、なんかっ、たぶん、ふつうに笑ってくれただけのつもりなんだろうけどっ! 熱のせいか、やけに色っぽいというか…………。
さっきもっ、頭ひっつけてきたり、腕つかんだりとか…………。
どきどきしすぎてあたしまで熱出ちゃいそうっ!
食べ終わった食器を片付けて戻ると、鳥飼くんが仰向けで英語の教科書見てる…………?
「べ、勉強っ?」
「昨日休んでるし、起き上がるのはまだつらいけど、教科書読むくらいなら」
……………………勉強できる人って、こういう感じなんだ?
「む、無理はしないようにねっ?」
「うん」
ほ、ほんとにっ? さっきよりは元気な感じするけど………お腹にあったかいの入ったからかなっ?
……………なんか、また見られてるっ?
教科書から目線がずれてて、それがこっちを見てる気がするっ。
なんだろっ? 早く帰ってくれないかな? とかっ? 見られてるの、どきどきするっ!
いても、できることとかないし、落ち着かないし………鳥飼くんも気使うのかもしれないし………ひとりになりたいって、こともあるよねっ?
「か、帰ったほうがいいかなっ…………?」
鳥飼くんが、教科書で顔をかくす。
な、なにっ? どうしたんだろっ?
「いてもいいなら………いてくれたらな………とか………」
てれてるっ⁈
もしかして、あまえられてるっ? え? なんか、ちょっと…かわっ……っていうか、だいぶきゅんきゅんしちゃうんだけどっ!
「う、うんっ」
鳥飼くんが教科書を顔から離して、こっちを見る。
顔があかいような気がするけど……熱、また上がってきたとかじゃないよねっ?
「いつまでいられる?」
「暗くなる前には帰ろうと思ってるけどっ」
す、すっごい見られてるっ!
あたし………顔赤くなってるかもっ。
「し、してほしいこととかあったら言ってねっ? できることならやるから」
「…………………………」
そ、そんなにないよねっ? 一人暮らしとかでもないわけだしっ。
「な、ないならいいけどっ」
ひざ立ちのままでも、落ち着かないから座ってみると、鳥飼くんはそれも気になるようで心配される。
「足痛いと思うし……椅子に………」
「大丈夫だよっ」
そしたら、顔見えづらくなっちゃいそうだし………少しくらい近くにいたいし………。
「じゃ、こっち、来る?」
言って、教科書を枕元に置いて壁のほうに体を寄せる。そして、空いた部分をぽんぽんとする。
…………………え? ち、ちょっとまってっ! それはっ、ちょっと………近くにいたいとは思ったけど、いきなりそんな近くは心臓もたないってばっ!
「あ、ごめん……ちょっと熱で頭が回らないというか………嫌だよね?」
「い、いやっていうか………」
しゅんってしてるっ! あたしが横行くの断ったからっ? 鳥飼くんの横がいやっていう意味じゃないからねっ?
でもっ………………罪悪感がっ!
よ、よく考えたら公園デートの時もならんで寝っ転がったことあるしっ………いっしょだよねっ?
「………や、やっぱりおじゃまするねっ?」
「うん。どうぞ」
*♠︎*♠︎*♠︎*
‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎⁉︎
思わず、更に壁側に身を寄せる。
「ごめんねっ。やっぱりせまくないっ?」
「だ、大丈夫っ。海原さんが大丈夫なら………」
いや、全然大丈夫じゃない。多分、今ので熱更に上がったぞ。
僕はただ、ベッドの端にでも座ったらと思っただけで…………………………まさか、同じベッドで、一緒に横になるとか………。
「公園でお昼寝しちゃったときみたいだねっ?」
言って、海原さんは僕を見てへへっと笑う。
「うん………」
いや、全然違う。絶対違うよな?
確かに、そんなこともあったけど…………海原さんにとってはあの時と一緒の感覚なのか? こんなに近いし、僕のベッドで、とか………。
燕が下にいるにはいるけど…………。
少しでも動けば身体が触れ合ってしまいそうなくらいの距離。
信用されてるだけ、だよな? それでもどうかとは思うけど。
もし僕が熱のせいにして、いろいろ………いや、考えるな。考えたら変な気分に…………無理だ。無理無理。変な気分にならない訳なくないか?
首元に海原さんの息がかかる。
「英語ね、ここまでやったよっ」
言いながら、海原さんは仰向けになって、僕が枕元に置いた教科書を拡げて教えてくれる。
とりあえず、首元に息がかかることはなくなってほっとする。
ただ、もともと熱でそんなには理解できないのに、こんな体勢で説明されても全く入ってこない。
海原さんの方にだけ、神経が集中してるみたいに、たまに触れる感覚を異常なくらい感じてしまっている。
普通はどのくらい付き合った後にそういう事するんだろう? どういうふうに関係を進めていくんだろう? 夏休みに手は繋いだけど………とにかく、今触りたくて仕方ないけど、触るだけで終われるのか………とか。
海原さんは教科書を読んでくれたり、訳を説明をしてくれたりしてるのに、こんな事ばっかり考えてる自分に罪悪感が半端ない。
「ここでね………先生が…………」
突然、海原さんがぱたっと教科書を落とす。
「どうしたの?」
「う、ううんっ。大丈夫っ」
その後も海原さんは何度かそれを繰り返す。
…………………………もしかして、眠い?
たまに、会話も途切れがちになる。
「大丈夫? 眠いんじゃない? ね………」
寝てもいいよ、と言おうとして、踏み止まる。ここで安心して寝られてもどうしたらいいかわからない。
「ご、ごめんねっ? 大丈夫っ!」
「あ、僕、自分で教科書持つから」
「うん。あ、それでねっ、先生が授業脱線しちゃって………」
その時の先生の雑談まで話してくれるけど、その途中で会話が途切れて、寝息が聞こえ始める。
やっぱり眠かったんだ?
静かな寝息が聞こえる。
………………でも、どうしたらいいんだろう? ちょっとほっとしたところもあるけど…………海原さんの寝顔を見る。
少しくらいなら………手は、繋いだことあるんだし………。
そっと、海原さんの手を軽く握る。
小っさい………………。
頭とか…………父さんも撫でてたくらいだし、付き合ってなくてもそのくらいするよな?
左手は海原さんの手を握ったまま、右手で頭に触れる。
やわらかい髪。小さな頭。自分とは全く違ういろいろな感触に胸が騒ぐ。
そのまま、頭を撫でた手で頬に触れる。
ほっぺたもつるっとして見えるのに、ふわふわしてるし………鼻とか…………口も…………。
何でこんなにぷるってしてそうに見えるんだろう? 触って…………いや、流石にそこはだめだろ? と、いうか、頭撫でるだけのつもりだったのに、顔触ったりとか………。
反省して、手を海原さんの頭に戻す。
可愛い。
「ふふふふふっ………………」
海原さんの笑い声に驚いて、慌てて海原さんから手を離す。
「……………かえるさんみたい」
か、蛙? 起きた?
海原さんの顔を確認すると寝ているし、すーすーと寝息を立てている。
……………まだ、寝てる? 楽しい夢でも見てるのかな? 可愛い。
思わず、頬が緩む。
もう一度頭に触れようとすると、海原さんが寝返りをうって、僕の方に寄ってくる。
ちょ…………む、無理だ! こんなの堪えられる訳なくないか⁉︎ ど、どうする? 起こすか?
背中には壁があって後ろには下がれない。
そ、そっと……もう一回反対に寝返りしてもらえば………………って、どこ触ったらいいんだ?
こんな………抱きついてくるみたいな…………。
海原さんがあまりにも近くて、顔が見えない。風邪で鼻も効かなくなってると思っていたのに、いい匂いがするし。甘そうなのに、嫌じゃない。むしろ………………。
思わず、僕は海原さんを抱き寄せてしまって、離せなかった。
………………………海原さんって、多分………舐めると甘いんだろうな。
*♡*♡*♡*
「ん…………おもっ……………⁈」
一一一一一一一一えっ? ちょ、な、なななななっ⁈ ど、どういう状況っ⁈
あたしの体半分に鳥飼くんがのってるっ⁈
「うん……………」
だんだん寝る前のことを思い出して、とんでもない状況を理解していく。
あたし寝ちゃって、鳥飼くんも寝ちゃったんだっ? 顔見えないけど、すーすー言ってる………。
この体勢、ぎゅってされてるみたいでドキドキするっ!
だって、夏休みにやっとっ、ちょっと手つないだくらいだよっ? いきなりこんな…………。
重いし、すっごい汗かいてるしっ、そんなロマンチックな感じじゃないけどっ! でもっ! こういうのっ、どきどきしすぎちゃってむりっ!
とにかくっ! ベッドから出ようっ!
鳥飼くんにどいてもらおうと二の腕のあたりをつかむと、かなり細い感じがしてたのに、やっぱり自分よりはかなりおっきくて、ごつごつした感じ。こういうところもやっぱり男の子なんだと実感して、どきどきする。
「〜〜〜〜〜〜っ」
…………………重くて出らんないっ!
ど、どどどうしようっ? この体勢で鳥飼くん目覚ましたら、びっくりするよねっ?
そもそも人んちのベッドで寝ちゃうとかありえなくないっ?
横になっちゃったのがいけなかったよねっ? 家でもベッドで勉強してるとすぐ寝ちゃうしっ…………ここ鳥飼くんの家なのに…………もーーーっ! あたしのばかばかばかばかばかばかぁ一一一一っ‼︎‼︎
……………も、もう一回、がんばろっ!
なるべく起こさないようにっ。体調悪いんだし、寝れるならそのまま寝ててほしい。
…………それに、鳥飼くんの寝顔見たいっ。鳥飼くんの寝顔っ!
「〜〜〜〜〜っ!」
「………………う……ん?」
も、もしかして起きちゃったっ?
鳥飼くんがあわてて起きあがる。
「ご、ごめん! 苦しかったよね⁈」
あたしも急いで起き上がって、髪を手ぐしでなおす。
「大丈夫っ! ちょっとだけだったし………あたしも寝ちゃってたみたいだし…………」
って、いうか、先に寝たのたぶんあたしだしっ! しかもっ、鳥飼くんちでっ! 鳥飼くんのベッドでっ!
おたがいに、少し気まずい感じで………だって、ハグとかしたことなかったし………こんな距離で、とか…………。
鳥飼くんも顔まっかだし、たぶん同じこと……………あ。
「ね、熱っ!」
「あ、な、何?」
「大丈夫っ? 熱あがってないっ⁈」
「あ………」
鳥飼くんが自分の額に手を当ててみる。
「……………だ、大丈夫………下がってる。多分…………」
昨日、家族が映画を見に行った際、かなり混んでいたようでギリギリ席が取れたようでした。
並びでは取れなかったようです。
余裕を持って出たはずなのに、というところにGWだからですかね? と言われて、あー、と。
そうですね。前半は連休じゃないのでまったくそんなことは忘れてました。




