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スズサキ*  作者: さより
意識
47/63

*47

 今日は、ひさびさに紅実ちゃんとお買い物だっ!

 chitoseさんのお店も行ってみたいって言ってたし、刺繍用の糸とかも買いたいんだよねっ。

 ネットでも買えるけど、やっぱり色とかイメージと違ったりするから実物見て選びたいし。あと、文化祭に向けて、ちょっとした小物とかも作りたいもんねっ。

「chitoseさんのお店から行ってもいい?」

「いいよっ。手芸屋さんは荷物増えそうだもんねっ?」

「服も買うつもりだけどね」

「chitoseさんいたらでしょ?」

「ま、ね。どうせ買うならchitoseさんに見てもらいたいじゃない? …………何よ?」

「だって、紅実ちゃんすっごい嬉しそう」

 紅実ちゃんってばかわいっ。

「仕方ないでしょ? なかなか来れないんだし」

 ちょっとそわそわしてるし。

「今日いるかな? 平日の方が人少ないし、話しやすいかと思ったけど、シフト入ってなかったらどうしよう?」

「たぶんいるよっ! 大丈夫だよっ!」

 って言ってたけど、いなかった。もしかしたらお昼休みとか、午後からだったりするかもと思って、何度か覗いてみたけどやっぱりいない。

 紅実ちゃんの落ち込み方がはんぱない。

「ま、また来たらいいんじゃないっ? あたしも付き合うしっ!」

「うん………まあ、そうよね? 落ち込んでても仕方ないか」

 気を取り直して、移動する。この辺は、大きなお店もあるけど、小さなお店もたくさんあって、いろいろ入ってみたくなっちゃうっ。

 それでも、買うお店は決まってくるけど。

「紅実ちゃんも文化祭用の材料とかいっぱい買うんでしょっ?」

「そう! 撮影用の衣装はガーリーな感じでって思ってるのよね」

「うんうん。この前デザイン描いてたもんね? あれでしょ?」

「そう!」

 紅実ちゃん燃えてるっ! うちの手芸部って、文化祭の時くらいしか活躍する場所ないもんね。

 …………活躍できてるのかはわかんないけど、アクセサリーとかの小物は売れ行きそこそこいいもんね。

 材料に使えそうな生地とか小物を扱っているお店を何軒かはしごして、最後におっきなお店に行く。

「あたし、ヘッドドレスとかも作っちゃおっか、な……………?」

 え?

「どうしたの?」

 思わず黙って立ち止まってしまったあたしの顔を紅実ちゃんがのぞき込んでくる。

「鳥飼くん」

「本当だ。声掛けないの?」

 あたしの視線の先を探しながら、紅実ちゃんがきく。

 けどっ、いっしょにいる人っ、だれっ?

 ふわっとした感じのやさしそうな女の人と話してる…………。

「だ、だれだと思うっ? いっしょにいる人っ」

「…………お姉さんとかじゃない?」

 紅実ちゃんがあきれた顔で言う。

「だって、鳥飼くんお姉さんいないもんっ! ふんいきがっ! なんかっ、いい感じじゃないっ?」

「そう? よく見えないけど。お母さんとかは?」

 ………………え?

「お母さんっ?」

 あらためて見てみると、けっこう年上っぽい? お母さんってほどの年じゃなさそうだけど…………でも、お母さんって言われたらそうかもって思うくらい。

 鳥飼くん、高級ブランドのおっきい紙袋持ってるし…………あの人の荷物だよね? バイトのできない高校生には到底手の出ないとこのだ。

「とりあえず行ってみたら? お母さんだったら、ついでに挨拶できるでしょ?」

「そ、そだねっ」

 おそるおそる近づいて行くと、ちょっと話し声が聞こえる。

「大丈夫だよ。僕見てるし。ちかちゃんも買いたい物あるんでしょ?」

 ち、ちちちちかちゃんっ? 鳥飼くんが名前呼びっ⁈

 お母さんのことはちかちゃんとか言わないよねっ? あ、でも、5才の子がお母さんのこと名前で呼んでたりするアニメあったよねっ?

「そう? じゃ、お願いしてもいい?」

「いいよ」

 鳥飼くんが返事をすると、ちかちゃんって人がはなれて行こうとする。

「こんにちは」

 紅実ちゃってばっ、なんでこのタイミングで声掛けれるの一一一っ⁈

 鳥飼くんもすっごいびっくりしてるしっ!

 でも、とりあえず、あいさつっ! もしかしてもしかしたらお母さんってこともあるかもしれないしっ! それ以前に、あいさつくらいちゃんとできないとっ!

 あわててあいさつをすると、ちかちゃんはふわっとした感じの笑顔であいさつを返してくれる。

「こんにちは。すず君のお友だち?」

 す、すずくんっ? ちかちゃんも名前呼びだっ!

 しかも、すっごいやわらかい雰囲気のきれいな人だっ! ぜったいお母さんじゃないよねっ? だって、お母さんだったらもっとこう…………それよりは距離があるというか…………?

「友達と言うか………同じクラスの子と、隣のクラスの子」

「坂上です。いつもお世話になってます」

「か、海原です。あたしも、いつもお世話になってます」

 ぺこっとおじぎをすると、それに合わせてほほえんでくれる。

 …………彼女とは言ってくれないんだ?

 だ、だれかれかまわず言うことじゃないもんねっ? うんっ。大丈夫、わかってるっ! そのくらいでぐちぐち言ったりしないもんっ!

「もしかして、咲妃ちゃん?」

「え? あ、は、はい?」

 あたしのこと、知ってるっ⁈

「え? 何でちかちゃんが知ってるの?」

 ん?

 あたしもびっくりしたけど、それより先に鳥飼くんがきき返す。

 鳥飼くんが話してたんじゃなかったのっ?

 ちかちゃんはふふっと笑って、いたずらっぽく返してくる。

「つー君がね、教えてくれたの。すず君とお付き合いしてるんでしょ?」

 つーくんって燕くん? 燕くんのことも知ってる?

 …………い、いいよね? 知ってるみたいだしっ。

「あ、は、はい」

 うわっ、はずかしっ! あたし、鳥飼くんとお付き合いしてるって………はい、とか言ってるしっ。顔熱くなっちゃうっ!

「あらあら、可愛い。うらやましいわね?」

 言って、鳥飼くんに向けてふふっと笑う。

「い、いいから。まだ買う物あるんでしょ?」

 鳥飼くんもはずかしいのか、てれながらちかちゃんをこの場から遠ざけようとする。

「そうね。でも、いいの?」

「大丈夫だから! 行っていいって」

「そう? じゃ、お言葉にあまえて」

「うん。じゃ、また後で」

 その後、ちかちゃんはあたし達の方を見て、またふわっと笑う。

「すず君のことよろしくね?」

「あ、は、はいっ」

「だから、もういいって」

 ちかちゃんはまたふふっと笑いながら別の場所に移動する。

「誰?」

 紅実ちゃんがちかちゃんに聞こえないくらい離れたところで、すかさずきいてくれる。

「叔母さん」

 少し恥ずかしそうに鳥飼くんが答える。

「叔母さん…………」

 ほっとしたものの、ちょっと複雑だった。

 鳥飼くんといっしょにいたら恋人同士に見られてもおかしくないよねっ? っていうか、むしろお似合いかもとか思っちゃったしっ。

「きれいな人だったねっ?」

 あ、なんか嫌味っぽかったかな?

「まあ、うん、そう、かな?」

 うわーっ! やっぱり、ああいう人がいいんだっ? ああいうやわらかい雰囲気の大人かわいい感じっ!

 あたしもっ、あたしもがんばるからねっ?

 …………っていうか、もしかして初恋の人だったりっ?

 よく男の子の初恋って、お隣のお姉ちゃんとか保育園の先生とかきくもんねっ?

 ……………………ま、まあ、初恋の人がだれであれ、今の彼女はあたしだもんねっ。うんっ、気にしないっ!

「2人で買い物なの? 叔母さんと」

 紅実ちゃんがきく。

「いや、母さんが一緒に…………」

「お母さんっ⁈ どこっ? あたしっ、あいさつしてないしっ………」

「いいからっ! 母さんには話してるし、今どこで何買ってるかわかんないし」

「この辺の近くじゃないの?」

「今日はちか……叔母さんが、今度結婚式呼ばれてるから、その時の服見てあげるって事らしくて、ついでに他の買い物もって…………」

「荷物持ち?」

「それもあるけど…………」

「すずにいちゃんっ! いいのなかったっ!」

 声のした方を向くと、小さな女の子がちょっと怒った顔で鳥飼くんをにらんでる。

 けど、かわいいっ! ちっちゃい子が生意気なのって、かわいいよねっ?

 ちょっと癖のある髪をポニーテールにしてピンク色のシュシュをつけている。

 そして、リボンのついたフリル袖のTシャツにキュロットスカート。おしゃれにも気を使ってますって感じなのが、またかわいい。

「叔母さんの子供で、りんご。子供と一緒だとなかなかゆっくり買い物できないらしくて」

「りんごちゃんっ?」

 名前までかわいいっ!

「すずにいちゃんのお友だち?」

「そう。りんごちゃんは何歳?」

 紅実ちゃんがしゃがみ込んで、りんごちゃんの目線で話し始める。

 鳥飼くんが戸惑っている。

 気にしなくてもいいんだよっ? 紅実ちゃん子どもすきだし。と、いうか、年下の子にはお姉ちゃん発揮するんだよねっ。

 たぶん、もうchitoseさんに会えなかったの、ふっきれてる。よかったっ。

「5才」

「へえ? 何探してたの?」

「今度ね、結婚式の時に髪につけるの」

「ヘアアクセサリーね? どんなの探してるの?」

「お花か、きらきらした感じのかわいいやつ」

「上のお店も見てみた? 3階にもそういうお店あるよ?」

 りんごちゃんが首を横にふる。

「………………お姉ちゃん、名前なんて言うの?」

「紅実」

「くみちゃん?」

「そ。あっちのお姉ちゃんはね、咲妃ちゃん」

「さきちゃん?」

「そう。お姉ちゃん達と一緒に行ってみる?」

「さ、坂上さん? 買い物の途中とかじゃ………?」

 鳥飼くんが、申し訳なさそうに声をかけると、紅実ちゃんは立ち上がって鳥飼君に冷たく言う。

「じゃ、あんたお店分かるの?」

「それは………分からないけど………」

「付き合ったげるわよ。りんごちゃんにね。鳥飼君じゃなくて。あ、咲妃は鳥飼君の相手してあげる?」

 それもしたいけどっ!

「リンクルでしょ? あたしも行くっ」

 かわいいの多いし、参考になるんだよねっ。それに、パーツも売ってたりするし。


「すっごい。何でも似合うね?」

「ほんとっ。でも、ドレスはピンク系なんでしょ? 色合わせたほうがよくないっ?」

「わかってるわよ! でも、ちょっとくらいいいでしょ?」

 紅実ちゃん、何でも似合うからって、遊んじゃってるし。りんごちゃんもご機嫌だけど、鳥飼君はお店の外で待ってるのに。

 でも、りんごちゃんちょっとくせっ毛だし、巻かなくてもふわふわした感じなのとか、うらやましいっ。結婚式だし、華やかな感じのヘッドドレスもありだよね? 逆にシンプルでちょっときらきらした感じの大人っぽいのとか…………。

「さきちゃんのもかわいいね? どこで買ったの?」

 わわっ。うれしっ。

 あたしの髪につけてるバレッタに気づいて、褒めてくれる。

 chitoseさんのお店行くって言ってたし、ちょっと大人っぽいのつけて来たんだよねっ。

「ありがとっ。これね、作ったのっ」

「作れるの?」

 りんごちゃんがキラキラした目になる。たぶん、あたし今すごいとか思われてるっ!

「って、言っても、お花買ってくっつけただけなんだけどねっ」

「そうなの? あたしでも作れる?」

 あ、そうだっ!

「カチューシャにすきなものいっぱいつけるのもありだよね? お花とか、きらきらとか」

「なるほど。それだったら、好きに作れるしね」

 紅実ちゃんも納得して、奥のパーツ売り場に移動する。ここって、パーツのほうが種類多くてうれしいんだよねっ。

「あ、これっ、よくないっ? りんごのお花だって。これにピンクパールとかあわせたらどうかな?」

「いいんじゃない?」

 りんごちゃんの意見もききつつ、材料を集めて行く。


     *♠︎*♠︎*♠︎*


 大丈夫かな? りんご、結構我儘だし………。

 荷物大きいし、外で待ってていいよ、とは言われたけど………。

 店の中を覗いてみると、3人で楽しそうにしているのが見えてほっとする。

 海原さんって、子ども好きなのかな?

 例えば、海原さんがお母さんになったとしても、きっと親子というよりは友達みたいに話したり、笑ったりしてるんだろうな……………とか、考えてしまった自分が申し訳なさすぎて罪悪感しかない。

 いや、でも、全然有り得るよな? ただ、その時の相手が僕じゃない可能性が大いに有り得るだけで。別に変じゃないよな?

 思ったよりも大きな荷物を持って、海原さん達が店から出てくる。

「いいの、あった?」

「今度、つくるの!」

 りんごがどや顔で言う。

「作る?」

 訊き返すと、代わりに海原さんが申し訳なさそうに答えてくれる。

「いいかな? 来週とかで都合のいい日とかあれば………もしなさそうなら一緒には無理だけど作って鳥飼くんに渡すか、送るか………とか…………」

 多分、3人で盛り上がってしまったのかもしれない。海原さんがひどく申し訳なさそうな顔をしている。

「一緒に作るのっ! 土曜日と日曜日は幼稚園もお休みだもんっ!」

 りんごがいつもの調子で我儘を言う。

「でも、1人じゃ………」

「大丈夫だもん! らぶはちゃんちも、ももかちゃんちも1人で遊びに行ってるもん!」

「じゃ、ちかちゃんに訊いてみてからね?」

「うん!」


 結局、僕がりんごを坂上さんの家に連れて行くと言う事で…………って、いいのか? 海原さんはまあ、彼女な訳だし挨拶の事もあったから行ったけど………坂上さんの家とか………僕はただの付き添いなだけだけど…………。

 海原さんが駅まで迎えに来てくれて、3人で坂上さんの家に向かう。

 今度は2人って訳じゃないし、大丈夫だよな? 親もいるとは聴いてるけど………。

「くみちゃんちおっきぃねー?」

「古いだけだけどね。そこそこ広い部屋はあるからみんなでやろうね?」

「うん!」

 坂上さんが玄関で迎えてくれて、りんごが上機嫌だった。

 奥から坂上さんのお母さんが顔を出す。

「いらっしゃい。ゆっくりしてってね?」

「こ、こんにちは。鳥飼です。坂上さんにはお世話になってます」

「いいのよ。お節介なだけなんだから」

「あ、いえ………」

「田端りんごです。お世話になります」

「かわいいわね? いらっしゃい」

 坂上さんって、お母さんとあんまり似てない気がするけど、お父さん似なのかな?

「あと、これ………叔母さん………りんごの母と、こっちは僕から………」

 一応、僕もお世話になる訳だし。りんごが選んだから、本当にこういう物でいいのか不安だけど。

「すずにいちゃん、センスないからりんちゃんが選んだの」

「あら、そう? ありがとうね」

 坂上さんのお母さんが袋の中を覗き込んで笑ってくれる。

「ありがとう。おいしそうだね? みんなで食べようね?」

 坂上さんも横から覗き込んで、りんごに言う。

「うん」

 りんごが元気よく返事をする。一緒に……って、坂上さんの家にお世話になるから買って来たのに………。

 自分のおやつはちかちゃんが持たせてくれてるはずだよな?

 りんごは今日の事を随分楽しみにしていたみたいで、誰彼構わずに自慢していたとちかちゃんが苦笑していた。

 家に上がって、客間に案内される。

「ごめん。迷惑………」

「迷惑だったら、言わないわよ」

 僕に対してはいつも通りだけど………来る途中で海原さんが言ってた。確かに、坂上さんって面倒見のいい姉、と言う感じだ。

「鳥飼くんはどうする? 何か作る?」

「ぼ、僕はいいよ! センスないし。できる気がしない………」

 美術は取ってるけど、人前で歌ったりする音楽よりはマシだと思っただけだし。得意だからって訳じゃない。

「センスとかなくてもできるよっ? 簡単にできるのもあるしっ」

「そうそう。売り物にする訳じゃないしね。それに、暇じゃない?」

「一応、参考書は持って来たから」

「…………それでいいなら、いいけど」

「うん。あ、でも、ありがとう」

 参考書を読みながら、たまに顔を上げて3人の様子を伺う。

 楽しそうだな。

 僕も、ああいうことを一緒にできるようだとりんごにもつまらない、とか言われなくなるんだろうな?

 図鑑とか本ばっかりじゃ、物足りないんだろうな。

「すごいっ! かわいいねっ⁈」

「初めてとか思えないね?」

「りんちゃんお姫様みたい?」

「うんっ! お姫様みたいっ!」

「すずにいちゃん見て一一‼︎」

 りんごが作った物を実際につけて見せにくる。

 確かにすごいし、お姫様な感じもする。

「可愛いね?」

 りんごはどや顔で「そうでしょ?」と生意気に答える。

 いや、でも、そんなに時間かからずにできるんだな? 本当にすごいな。もっと何日もかけて作ったりしてるのかと思ったけど。

「あと、余ったお花でこういうのも作ってみたよっ。これだったら、普通のときでも使いやすいんじゃないかなっ?」

 海原さんが、同じ種類の花と球? で飾り付きのゴムを作っていた。

「さきちゃん、天才っ!」

「すごいでしょ〜?」

「うん。すごいすごいっ! これももらっていいの?」

「いいよ。材料はほとんどりんちゃんのだもん。当たり前だよ」

「うわーっ! すごいねっ? これもかわいいねっ? すずにいちゃん見て一一!」

「よかったね」

「うん!」

 りんごが坂上さんの準備してくれていた鏡の前でくるくる回ったり、振り向いたりしている。

 普段は面倒だと思いながら相手をしていたけど、こんなに喜ぶならもうちょっと考えてやればよかったな。

「ほい。コーヒー」

 ひと段落といったところで、坂上さんがコーヒーを持って来てくれる。

「ありがとう」

 横から、海原さんが話しかけてくる。

「ドレスの写真まで送ってくれて、ありがとねっ? あんな感じでよかったっ?」

「大丈夫じゃないかな? すごく喜んでるし」

「あとね? これ、どうっ?」

 見せてくれたのは細めのシンプルなヘアクリップだった。

「これがこの前言ってたレジン?」

「そうっ!」

 海原さんのイメージとは違う、でも黒に近い紺と青のきれいなグラデーションで、中には控えめにシルバーのキラキラした粒が入っている。

「きれいだね? オオルリみたいな………」

 いや、わかりにくいよな? もうちょっと、違う例えとか………。

「よかったっ。そういうイメージで作ったの」

「そ、そうなの?」

「うんっ。もっとね、暗い感じの色……それこそカラスみたいなのもかっこいいかな? とは思ったんだけど、鳥飼くんだったらこっちの方が似合うかな? って」

 確かに、オオルリみたいな青はきれいだと思う。ただ、あんまり鮮やかな色は似合わない気がして、持ち物なんかは暗めの紺か青が多くなってしまっている。

 ヘアクリップは鮮やかな色の部分は少なめで、紺色の部分が多くなっている。自分の好きな色と海原さんにこんな色が似合うと思われているのが、ちょっと嬉しかった。

「きれいだね? 僕もこの色好きだよ」

「そっか。よかったっ」

 海原さんがほっとしたように、でも物凄く嬉しそうな顔をしてくれる。

 可愛い。

 海原さんも、こういう色が好きだったりするのかな? てっきり、水色とかピンクみたいな可愛い色が好きだと思ったけど。

「せっかくだから、付けてみたら?」

 言って、坂上さんが僕の前に卓上の鏡を置いてくれる……………?

「は?」

 坂上さんが、コーヒーを飲みながら僕を見る。

「………………ぼ、僕がつけるの?」

「咲妃が、今年は男子向けアイテムも置いてみよう! って言ってんの。試しに付けてみてよ?」

「だ、男子向け?」

「うんっ! 男子もねっ、髪長い人いるし、クリップ止めてる人とかいるでしょ? どうかな? って」

「ど、どうかな……って、言われても………僕はいいよ」

 付けたことないし、付けることもないと思ってた。

 こういうのはもっと、おしゃれで、見栄のいい人とか………………。

「そ、そっか。ご、ごめんねっ? 確かに、こんなちゃらちゃらしたのつけないよね?」

 言って、物凄く残念そうな顔をして、鞄にしまおうとする。

 ちょっと、胸が痛んだ。

 りんごがすすっと寄って来て、小さな声で言う。

「すずにいちゃん。恋人だったらかっこよくつけてあげないとっ!」

 ちかちゃん……………話したんだ? 僕達が付き合ってること…………確かに、口止めはしなかったけど…………。

 りんごの言うこともわかる。でも、僕が付けて似合わなかったら余計に………………。

 3人が僕に注目していて、期待の目で見られている。

「咲妃、せっかく作ったのにね? 男子向けアイテム1号」

 ………………それは、光栄だけれども。

 坂上さんまでもがプレッシャーを与えてくる。面白がられてる気もするけど………期待も、されてるんだよな? これ以上ないくらいに………多分…………これで似合わなかったら………いや、僕なんかが似合うわけないけど! 海原さんをがっかりさせたくない。

 どうしたら、やんわりと、それとなく断れるかを考えていた。

 りんごに小声で急かされる。

「すずにいちゃん早く」

 お前も! 似合うわけないって思ってるだろうにっ!

「さきちゃんかわいそうだよ?」

 りんごの言葉が胸に刺さる。

「に、兄ちゃん、付け方が分からないから…………」

「だったら、りんちゃんがつけたげる!」

 言って、僕の手からクリップを奪い取り、前髪をつかんでくる。

「ちょ、やめ…………」

 抵抗虚しく、斜めに分けた前髪をクリップで留められる。

「……………なんか、びみょう」

 りんごが、残念そうな顔をする。

「そ、そうでもっ……な、ないよっ? わっ、悪くないん…っ……じゃっ、ない?」

 坂上さんは口を抑えて、必死に笑いを堪えているのが分かる。

「うんっ。もうちょっと長めのヘアピンとかと合わせてつけてもよさそうだよねっ?」

 海原さんの反応はそこそこだったけど、りんごは険しい顔をしているし、坂上さんは相変わらず肩が震えている。

「ごめん…………」

「何であやまるのっ?」

「なんとなく………………」

 多分りんごと坂上さんの反応が正しくて、海原さんは気を遣ってくれてるだけなんだろうな。

「それ、試作品なんだけど、よかったら使って?」

「……………僕が?」

「うんっ。あ、でもっ、外で使うの抵抗があるんだったら、家でとか?」

「家で?」

「うんっ!」

 そんなことをしていたら、母さんと燕にどれだけ笑われるか…………。

 それでも、これ以上海原さんをがっかりさせたくなくて答える。

「あ、ありがとう……………」

 昔、男子がパッチンピンをつけていて、先生に何か言われそうだったところを、校則違反じゃないですよね? と確認していました。

 当時は男子が付けることは想定していなかったと思うのですが、先生はそれは大きい。〇cm以下って決まっているとのことでダメ、というふうに注意していたのを覚えています。

 以前は色が黒紺茶でも、小さいものしかダメだったんですよね。途中から緩和されましたが。


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