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怒ってる、よね? なんか、いつもとちがう感じするしっ………いくらいやだったからって…………心配させちゃっただろうし………。
「ご、ごめんねっ? あたしっ………」
「海原さんって、燕と話すの嬉しそうだよね?」
「え? あ、そ、そんなことっ、ないよっ?」
うんっ、うれしいわけじゃなくって…………だって、からかわれてるっていうのはわかるしっ! でもっ、燕くんから将来お義姉ちゃんになるかもしれない人だし、とか言われてみてっ? そんなこと言われたらはずかしいしっ、照れちゃうのは仕方なくないっ?
あたしも燕くんは義弟になるかもっ? とか思っちゃったりなんかしてっ?
妄想加速しちゃうんだもんっ! 仕方なくないっ?
ぜったいっ! もう、本当にぜったいっ! 鳥飼くんには言えないけどっ!
「なんで、そんな顔するの?」
だから、言えないんだってばっ!
「べ、別に、そんな……………どうしたのっ? なんかっ、鳥飼くんへんっ!」
顔を見られないように、うつむきながら、でも、ちょっとだけ鳥飼くんの様子をうかがいながら、答えをごまかす。
「しかも、名前呼ばせたりとか」
「そ、それは、燕くんが勝手に………」
あたしが呼ばせてるわけじゃないしっ!
やっぱり鳥飼くんなんか変っ! こんな責めるみたいな言い方っ、鳥飼くんっぽくないっ!
「顔上げてよ?」
やだやだやだっ! だって、顔熱いもんっ! 屋台の電気も届かない場所じゃないしっ!
「咲妃ちゃん‼︎」
ふぇ?
思わず、顔を上げる。
「勝手に呼んだらだめだった?」
で、また思わず顔をそらしてしまう。
え? ち、ちょっと待ってっ? え? 今っ! 鳥飼くんっ⁈
「燕はいいのに?」
「ち、ちが………」
さっき、呼んだの鳥飼くんっ?
だんだんと実感してきて、また顔が熱くなる。しかも、さっきの比じゃないっ!
しかもっ、心臓きついっ! たぶん、さっき止まってたっ!
「そんなに、僕の顔見れない?」
見れるわけないじゃん一一一一一っっっ!
鳥飼くんって、なにっ? これも天然っ? 無自覚っ? 無自覚こわいっ! 心臓止められちゃうっ!
「だ、だって…………ふぇ………」
なんかっ、はずかしすぎて涙出そうっ!
「ご、ごめん…………な、泣かすつもりとかじゃ…………怖がらせるつもりでもなくて…………」
自分でも、ちょっと違ったな、って思ったのか、いつもの鳥飼くんだ。
「ち、ちがっ………わないけどっ! ちがうのっ!」
鳥飼くんのこと、怖くて泣いたわけじゃないけどっ、今涙出そうなの鳥飼くんのせいだからねっ!
鳥飼くんがのぞきこんできて、驚いた顔をする。
あ、やばっ! あたしっ!
必死に抵抗するけど、もうむりっ!
「え? 大丈夫? 顔、あかい………?」
わざわざしゃがんでしっかり見てくる。
心配されてるんだとは思うけどっ!
無理だからっ! 見ないでよぉ一一っ!
「と、鳥飼くんがっ、い、いきなりっ………な、名前呼んだりするからっ!」
「僕? え? で、でも、燕が呼んでも何ともないのに…………?」
なにそれなにそれっ? おんなじわけないじゃんっ⁈
「だってっ! 燕くんは鳥飼くんじゃないもんっ!」
「僕が呼んだら、そんな顔するの?」
「そうだよっ‼︎」
もうっ! ちょっと、わけわかんないくらい頭ぱにくっちゃって、怒ったみたいになる。
「……………咲妃ちゃん?」
「も一一一っ! やめてってばっ!」
顔熱いのにっ! 体も熱いのにっ!
「ごめん……………咲妃ちゃん」
「わ、わざとでしょっ⁈ わざと言ってるでしょっ!?」
手で顔隠してるし、声がまんしてるけど、笑ってるのわかるんだからねっ? 肩ふるえてるしっ!
鳥飼くんって、いがいといじわるだっ!
*♠︎*♠︎*♠︎*
いくらムカついてたからって………八つ当たりだよな、こんなの。海原さんが悪い訳じゃないのに……………。
「ご、ごめん…………な、泣かすつもりとかじゃ…………怖がらせるつもりでもなくて…………」
「ち、ちがっ………わないけどっ! ちがうのっ!」
違わないんだよな? やっぱり、僕の事怖いとか…………。
泣いてる…………よな?
俯いた海原さんの顔が見えるように、腰を落として覗き込む。
あれ? 顔を隠そうとするけど、近くの屋台の電気が届いて、隠しきれていない顔が……………。
「え? 大丈夫? 顔、あかい………」
熱中症とか…………?
昼よりは涼しくなったし、大丈夫とか思ってたけど………水分? 涼しい場所とか? 慌てて周りを探す。
「と、鳥飼くんがっ、い、いきなりっ………な、名前呼んだりするからっ!」
………………え? 何で僕が名前呼んだら……………?
「僕? え? で、でも、燕が呼んでも何ともないのに…………?」
「だってっ! 燕くんは鳥飼くんじゃないもんっ!」
ちょっと、よく意味がわからない。
「僕が呼んだら、そんな顔するの?」
「そうだよっ‼︎」
本当に?
「……………咲妃ちゃん?」
「も一一一っ! やめてってばっ!」
確かに、ぐったりしてるとか、そんな感じじゃなくて……………。
照れてる? こんな、顔まっかにして?
怒ってるけど、可愛いとか…………僕が、呼んだら?
「ごめん…………咲妃ちゃん?」
確かめるように呼ぶと、またさらに顔があかくなる。
「わ、わざとでしょっ⁈ わざと言ってるでしょっ!?」
怒ってる、けど、本気じゃないのは分かるし……………………ものすごく可愛いとか、ちょっと優越感だったりとか…………?
だめだ。嬉しすぎる。
「ごめん。さっき、うまく言ってあげられなくて………クレープも買えなかったし…………」
「いいのっ! それくらい、いつものことだしっ! ただ、あたしのせいで鳥飼くんがいやなこと言われるのがいやだな、って。多分、そういう時もあるかな…………とは思ってたけど……………」
「僕は別にいいんだけど……………」
落ち込んでる…………。
何て言ったらいいんだろう?
母さんよく言ってるけど、若く見られる方がいいんじゃないのか? でも、よくないから海原さんは落ち込んでるんだよな? 言わせたい奴には言わせとけば? 僕が原因なのに?
何も思いつかなくて、何も言えないまま海原さんと会場の方へ向かう途中、また屋台の通りを戻るところで威勢のいいおじさんの声がする。
「お? お嬢ちゃんよかったね? パパと会えたんだね? ちゃんと手繋いどくんだよ?」
かき氷を作っている屋台のおじさんだった。それだけ言って何事もなかったようにまた並んでるお客さんに目を戻す、けど……………こっち見て言ってた?
「あーーーんっ! あたし、そんなに子どもっぽい? あたしそんなにっ⁈」
折角落ち着いてきてるかと思ったのに! 海原さんが、また泣きそうな顔になる。
「ち、ちが…………僕が老けてるだけだから! 今日、制服着てないし」
燕にはよくジジイとか…………母さんにも高校生らしくないとか………よく言われるけど………そんなに?
燕達がわざと言ってるだけかと思ってたけど………せめて20代なら……………いくら海原さんが子どもっぽく見られてるとしても、30代には思われてるって事、だよな? もしかして40代……………?
ぼ、僕はいい。老けて見られてても…………さすがに40代はちょっとショックだけども。
「でもっ……………」
海原さんは子どもっぽく見られるの気にしてるのに………あのおじさんは悪気があった訳じゃないとは思うけど…………海原さんがさらに落ち込んでる…………。
どうしたらいいんだろう? なんか、気の利いた感じの………………だめだ。やっぱり何にも思いつかない。
本当に情けない。坪根君が酷い事言うのも止められなくて、掛けてあげられる言葉も思いつかないとか………………。
海原さんが腕を小さく突いてくる。
「何?」
言いづらそうに、僕に言う。
「さ、さっきのおじさん、手繋いどくんだよ? って……………」
「え? でも……………」
それは僕をお父さんだと勘違いしたからで…………。
海原さんがまた、顔をあかくして僕を見る。
パパ代わり、って訳じゃないよな? この前、家来た時も……………。
でも………いいのか? 手とか………………。
海原さんを見ると、待ってる感じもする。けど………………。
ち、ちょっとくらいならいいよな? ちょっとくらいなら、多分、大丈夫………それで海原さんの気も済めば…………。
海原さんの居る左側の手をそれとなくシャツで拭いて、海原さんの手をおそるおそる握る。
………………な、なんか…………小っさ………しかも、やわらかいし……………あったかい。
海原さんを見るとへへっと笑う。しかも、顔、あかくないか?
……………………可愛すぎる。
*♡*♡*♡*
鳥飼くんの手、おっきくって、ごつごつしてて、ちょっとひんやりしてるのに……………………………………ぬめってしてる。
汗かいてるっ? 暑いっ? 確かに人混みで暑いけどっ!
紅実ちゃんには子ども体温とか言われるし……………。
でもっ、鳥飼くんの手ってそんなに熱くないし、大丈夫だよねっ?
そう思った直後に、それとなく手を離そうとしてくる。
でもっ、まだ1分もたってなくないっ? もう終わりっ? なんなら、みんなと合流するくらいまではいいかなって…………。
つい、そういう顔で見てしまうと鳥飼くんが困った顔をする。
やっぱり、暑いから離したいけど、あたしに気使ってくれてるのかな?
「あ、暑いっ?」
「別に…………あ、いや、やっぱり、ちょっと暑いというか…………」
「ごめんねっ? あたし、体温高めっぽいのかなっ?」
でもっ、暑いのにむりは言いたくないし…………。
「そういうことじゃなくて………………手汗が気になるというか……………」
「暑がりっ?」
「そういう訳じゃないと思うけど…………………気持ち悪くない?」
「そんなことないよっ? ちょっとふしぎな感じがするだけで」
「不思議な感じ?」
「うん……………ちょっと……………」
ぬめってしてるねっ? とか、言っちゃだめだよねっ? ぬるぬる? も、だめな気がするっ! なんか、鳥飼くんが気にしないような………かわいい言い方……………やだっ! 全然思い付かないっ!
「ちょっと…………何? やっぱり気持ち悪いんでしょ? 無理しなくていいよ」
言って、手を離そうとする。
あたしは慌ててそれを引き止める。
「ちがっ! ちょっとぬめってしてるなっ、て思っただけで気持ち悪いわけじゃ………」
「うわぁぁっ! ごめんっ‼︎ や、やっぱり気持ち悪いよねっ⁈」
慌てて………というよりは反射的に手を離して、シャツで手のひらを拭く。
あーーんっ! だからだめだって思ったのにっ!
「ほんとにちがうのっ! あ、えと………あ、し、しっとりしてるなっ、て…………」
「いや、絶対気持ち悪いでしょ?」
「そんなことないってばっ!」
「大丈夫だよ。自分でもちょっとどうかとは思ってるし…………」
あ、なんかちょっとしゅんってしてるっ?
どうしよう? あたしのせいだよねっ?
「ほんとにっ、大丈夫だよっ? だからねっ、また手…………」
「いや、もう、僕が無理……………」
あたしのせいだっ!
あたしがぬめってしてるとか言ったから……………。
「ごめっ………でもっ、ほんとにっ…………また……って…………」
思わず涙が出てしまう。
「い、いや………別に海原さんが悪い訳じゃ……………」
何でこんな事くらいで? って、思われてるよねっ? でもっ、これからずっと手つないでもらえないかもとか思ったら、悲しくって仕方ないっ!
でもでもっ! 鳥飼くん、困ってるしっ!
「ううんっ、ごめんねっ……………」
あーーんっ! どうしようっ! 泣いちゃうとかっ……。
こういう時、つなぎたくない気持ちも尊重するのが彼女だよねっ? それなのにぃ〜っ!
「あれ? 鳥飼………?」
声のした方を見ると、木村くんで、横には七尾さんもいた。デートだっ! 七尾さん浴衣着てるしっ! かわいいっ! 似合ってるっ!
じゃなくて、七尾さんたちは、あたしと鳥飼くんが一緒にいるところを見て、とまどってるっ! あたしもだけどっ! しかも、あたし泣いちゃってるしっ!
なな、なんでこんなとこで会うのっ⁈
あわてて泣き止もうとするけど、とっくにばれちゃってて、七尾さんに心配される。
「大丈夫? どうしたの?」
不信げに鳥飼くんにも視線を送る。
ちがうってばっ!
七尾さんが小声できいてくる。
「鳥飼君に何かされた?」
「ちがっ……あ、あたしっ………」
やだっ、どうしようっ? な、なんかっ、うまいいいわけっ………。
「2人で来たの?」
「ち、ちがっ……みんなで来てて……ち、ちょっとはぐれちゃったから………」
「あーー、海原さんって買い物とか行ってもすぐ逸れちゃうもんね? でも、だからって、泣くことないからね? 鳥飼君さがしにきてくれたんでしょ?」
かんちがい……でもっ、いいっ、そういうことにしとこっ!
「う、うんっ。そうっ」
「やさしいね?」
「え?」
「鳥飼君」
「あ、う、うん?」
七尾さん……鳥飼君のこといやじゃなかったのかな?
ちらっと、鳥飼くんの方を見て木村君と話しているのを確認すると、にやにやしながら言う。
「あたしね、鳥飼君って海原さんのこと好きだと思うんだ」
……………………………………え?
「え? な、なななななんでっ⁉︎」
「だって、海原さんに優しくない?」
そ、そそそそうだけどっ!
「で、でででもっ、と、鳥飼くんって、誰にでもやさしくないっ? あたしだけってわけじゃなくないっ?」
「そうかな? 海原さん以外には声掛けたりしなくない?」
「そ、そうかなっ? あ、せ、席近いからじゃないっ?」
「それにねー、鳥飼君みたいなタイプって、こういうとこ普通来ないと思うよ?」
「そ、そうだねっ。人多いの苦手って言ってたし………」
「海原さん来るってわかったからとかじゃない? あたし、ぜったい鳥飼君って海原さんのこと好きだと思うよ? 木村君も鳥飼君っていい奴って言ってたし、他に好きな人いないなら付き合っちゃえば?」
お、おすすめされてるっ?
しかもっ、あたしが、じゃなくて、鳥飼くんがっ、て…………。
木村くんの影響もあるのかもだけどっ、ど、どどどどうしたらいいんだろっ? もう、言っちゃう? 言っちゃってもいいかな? 七尾さんも前ほど鳥飼くんのことよくないとか思ってないみたいだし…………。
実は付き合ってるんだよねっ、とか?
ちらっと、鳥飼くんのほうを見ると、鳥飼くんもこっちを見る。
ふと気がつくと、まだまだ寒い中で夏の話とか…………季節感まる無視ですみません。




