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「よかったね?」
「やったジャン?」
紅実ちゃんと徳永さんがにやにやしながら、背中をつついてくる。
「う、うんっ」
すっごいてれくさいけどっ、鳥飼くんもいっしょなのうれしいっ! 夏休みいちばんの思い出だっ。
欲を言えば、あたしも浴衣とか着たかったけど………お祭りっぽい感じするし………かわいいね、とか思ってもらえたかもしれないし…………あんまり興味ないかもだけど………。
「ひ、人多いの苦手って言ってたけど、大丈夫っ?」
「うん………まあ、ここは屋台の辺りは人多いけど、花火見るところは人少ないし」
「そうなのっ?」
「見る場所が広いからね。そこまで混まないよ」
「そうなんだっ? 楽しみだねっ?」
「咲妃、マルシェとかやってる」
前を歩いていた紅実ちゃんが少し戻って来て、教えてくれる。
「ほんとっ? 見たい見たいっ!」
うわうわうわーっ!
「いろいろあるねっ? これっ、これかわいくないっ?」
レジンのバレッタだと思うけど、中のパーツがそれだけでもかわいいのに、センスよく配置されててきれいだっ! そして、季節感もあって今っ! すぐ使えそうっ! 浴衣にも合いそうっ!
あ、あっちのもかわいいっ! ちょっと大人っぽくてかっこいい感じっ! もうちょっと細めに作ったら…………。
はっとして、周りを見ると紅実ちゃんたちはいなくなってた。
あ、あれっ? また、やっちゃったっ? どこ行っちゃったんだろっ? ラインしたら気付くかなっ?
「みんなは先に行って何か食べてるねって」
まうしろっ? ぜんぜん気付いてなかったっ。待っててくれたんだっ?
「ごめんねっ? あたし買い物とか行っててもよくはぐれちゃってっ」
「気になるのあったの?」
あんまり気にしてないっ?
ううんっ。気にしてないみたいだからって、こういうのはよくないよねっ? 気を付けないとっ。
「あの、黒っぽいやつ?」
「うんっ。かっこいいよねっ?」
「そうだね。でも、海原さんだったらあの水色っぽい方が似合いそうだけど」
ほんとだっ! かわいいっ! 中に星とかハートとか入ってるけど、子どもっぽくなりすぎてなくて大人でも使えそうっ!
……………じゃ、なくてっ!
あんまり長くお店の前にいても迷惑だし、鳥飼くんも退屈だろうと思って、少し離れる。
「いいの?」
何も買わないのを気にしてか、鳥飼くんがきいてくる。
「最近ねっ、レジンの作品も気になってて、あると見ちゃうのっ。ほしいっていうより、どうやって作ってるのかな? って」
「レジン?」
「うんっ。透明の液体なんだけど、紫外線でかたまるのっ。かたまる前にいろんなパーツ入れたり、色付けたりもできて、ああいうことができるのっ」
「普通の人でも作れるんだ?」
「うんっ。あたしはネットで買ってるけど、材料は100均でも買えるよっ」
「へえ?」
興味ないだろうに、ちゃんと聴いてくれててじわってなるっ。
「鳥飼くんは、興味ないよねっ?」
「でも、さっきの黒っぽいのはちょっとカラスっぽいな…………とか」
「からす?」
「あ、いや。日に当たってるとこが白っぽく光ったりとかして…………きれいだな、とは思う………」
たとえが鳥飼くんっぽいっ。ふふっ。
「笑わないでよ。こういうの売ってる店に行くことすらないんだから」
「そうなんだ? あたし……っていうか、紅実ちゃんが、なんだけど、メンズファッションの売り場とかにも行くよ? 市場調査なんだって。あたしもアクセサリーとか参考にしたりすることあるしっ」
「へえ? 楽しそうだね?」
「うんっ。それで夢中になっちゃってて、紅実ちゃいなくなったの気付かなかったり………紅実ちゃんも、そういう時は周り気にしてなかったりするから」
「でも、一緒に行くんだ?」
「うん。ちょっと人の意見がききたい時もあるし、その後ごはん食べながらいっぱい話すの」
「じゃ、何か買って花火見る所探す? 花火上がるまで、何か食べながら話せると思うし」
「うんっ。あたしねっ、クレープ食べたいっ。あと、タピオカっ」
タピオカの時もそうだったけど、鳥飼くんも、いっしょにならんでくれてるっ。鳥飼くん買わないのにっ。
でも、なんかっ、どきどきするっ。
なにしゃべっていいのかわかんないしっ、まわりうるさいしっ、鳥飼くんもしゃべらないけどっ、でもっ、なんか話したいっ!
「タピオカ、美味しい?」
話したそうなのに気付いてか、鳥飼くんが気をつかって話しかけててくれる。
「うんっ、おいしいよっ。の………………」
「何?」
だめだってばっ! 紅実ちゃんとちがうんだってっ!
「ううんっ、ごめっ。なんでもないっ」
飲んでみるっ? とかっ。鳥飼くんも困るってばっ! だいたい、鳥飼くんはあまいの苦手なんだしっ!
「あれ、チュンチュンじゃん?」
ん?
鳥飼くんのうしろに並んだ彼女を連れた男の人が、話しかけて来る。
同級生、かな? 甚平を着てて、髪もちょっとツンツンさせてて、ネックレスが…………こう言っちゃなんだけど、チャラい感じがする。
女の子のほうはちょっと派手な感じの浴衣で、髪を染めててかなり盛ってる感じ。
………………鳥飼くんの友だちって言われるとちょっと違和感………でも、西脇くんとかも意外な感じしたもんねっ。人を見た目で判断しちゃだめだよねっ。
でも、鳥飼くんはちょっと知らないふりしてる。
あんまりいいお友だちじゃないのかな?
「んだよ? ムシかよ?」
…………………あたしっ、しらんぷりしたほうがいいのかなっ?
でも、しらんぷりするには遅すぎたみたいで、後ろの女の子と目が合ってしまう。
「お兄ちゃんにクレープ買ってもらうんだ?」
女の子があたしに話しかけてくる。子どもに話しかけるみたいに。
お兄ちゃんじゃないのにっ! お兄ちゃんだけどっ! あたしのお兄ちゃんじゃないもんっ!
「悪いけど、構わないでくれる?」
鳥飼くんがかばってくれる。けどっ………。
「お前、妹いなかったよな? 弟は有名だったけどな」
「弟って、もしかしてツバメ君?」
燕君、サッカーそんなにすごいのかな? でも、鳥飼くんはちょっと嫌そうな顔をしてる。
「そ」
「本当に似てないんだ? カワイソ」
なんでっ?
「あんまり相手にされないからって近所のガキでも手なずけてんのかよ?」
ガキっ…………。
ちがうもんっ! 彼女だもんっ! て、言ってしまいたかったけど、予想してたし、今そんなこと言ったら鳥飼くんが今以上に困ることになるんじゃないかなっ? て。
あたしが紅実ちゃんみたいにしっかりしてたら、徳永さんみたいに美人だったら、こんなこと言われなかったのにっ! たぶん、それこそあなたの彼女なんかよりいいオンナなんだからねっ? て、見返してあげられたのにっ! くやしいっ!
「あっち行こ?」
鳥飼くんの腕をつんつん、とつついて、ちょっとあまえた感じで言ってみる。近所の子どもみたいに………。
「でも、クレープは?」
「も、いい。ほかのとこで買う」
あたしができるのなんて、せいぜいこれくらいだ。
「ガキに気遣われるとか、相変わらず情けねーの」
もーーやだっ! あたしのせいだっ!
「お兄ちゃんはかっこいいもんっ!」
鳥飼くんまでがびっくりして振り向く。
だって、仕方ないもんっ。これ以上あたしのせいで鳥飼くんが悪く言われるの嫌だもんっ。
でも、泣きそうになってその場から走って逃げる。
後ろから、鳥飼くんの呼ぶ声が聞こえたような気がしたけど、振り向かなかった。
*♠︎*♠︎*♠︎*
ムカついて足が出そうになった時に、海原さんの声ではっとする。
「お兄ちゃんはかっこいいもんっ!」
振り向くと一瞬間があって、背中を向けて走り出してしまった。
お兄ちゃん? お兄ちゃん⁈
「海原さん⁈」
呼んだけど、気付かなかったのか気付いたけど止まってくれなかったのか、すぐに人ごみの中に紛れてしまった。
泣いてた、よな?
子どもっぽいとか思われるの気にしてたのに。
だめだろ? こんなの。こうなる前に対処しないから。
すぐに後を追い掛けようとすると、坪根君がまた絡んでくる。
「早く追いかけないと迷子になちゃうんじゃねえの?」
言って、ケケッと笑う。
イラっとはするけど、構ってる余裕なんかない。
思いっきり睨みつけて、僕もその場を離れて海原さんを捜す。
すぐに電話をかけてみるけど、出ない。
気付いてないのか、気付いてるけど出てくれないのか…………気付いてて出ないんだったら……………。
やっぱり、みんなとばらばらにならないようにしなきゃいけなかったんだ。いや、そもそも僕が来なかったらよかったんだ。知り合いに会うかもしれないとは思ってたんだし。
海原さん、こっちの方走ってったよな?
…………………全然見つけられない。
もう会えなかったらどうしようかと思う。いや、会えないだけなら僕が悲しいだけで終わりかもしれないけど、海原さんに何かあったら………あ、もしかしたら坂上さん達と連絡とって合流してたり?
…………多分、手嶋君達と一緒にいるよな?
『そろそろ合流する? なんなら、帰る時でもいいけど』
「あ、うん……………そっちに、海原さんいる?」
一緒にいるから先に行ってていいよ、って、僕が言ったのに。
『いや? はぐれたの?』
「あ、うん。ごめん。いないならいい。もうちょっと探してみるから」
『了解。でも、こっち来たら電話する』
「ありがとう」
電話を切った後、またすぐに海原さんにかけてみるけど、やっぱりつながらない。
お互いに子どもじゃないし、スマホも持ってるし、どうにかなるとは思うものの、もう2度と会えなかったら、とか考えてしまって泣きそうになる。
海原さんの方がぜったい不安だと思うのに。
もしかしたら、よくない人に絡まれてたら、とか…………それよりももっと…………。
そこで手に持っていたスマホが鳴って、慌てて出る。
『と………』
「今どこ⁈」
海原さんの声を聴くより早く、訊いてしまう。そして、海原さんが戸惑ったように返事をする。
『ご、ごめんねっ』
思わず、口調が強くなって怒鳴られたと思ったのか、海原さんの声が怯えているような感じになる。
「ち、ちが………怒ってる訳じゃなくて……………」
『う、うんっ』
今度は、なるべく優しい口調で訊いたつもりだったけど、焦ってうまくいかない。
「今、どこ?」
『多分、さっきの屋台抜けたとこだと思う…………』
それを聴くなり、海原さんの走っていった方向に、屋台を抜けるまで急ぐ。
走って行きたいのに、人混みで出来なくて、焦ったかった。
「大丈夫? 変な人に声掛けられたりしなかった?」
『うん。大丈夫っ。あたしっ………ごめんねっ? 勝手に走ってっちゃって。電話も気付いてなくって………』
「うん。周りうるさいからね?」
電話を切って、急いだ方がよかったのかもしれないけど、もしまた見つからなくて電話を掛けても繋がらなかったらと思うと、不安で切れなかった。
『うん。でも、ちゃんと聞こえるよ?』
どうでもいい話で、海原さんの存在を確かめながら急いだ。
海原さん見つけても大きな声は出さない。
次はちゃんと怖がらせないように。
人ごみを抜けたところで、海原さんを見つけて………………。
何で居るんだよ?
「あ、にーちゃん来ましたよ?」
燕の横で海原さんが僕を見て、ほっとした顔をして、電話を切る。
多分、たまたまだよな? 海原さんのこと知ってて、1人だったから声掛けたとかそんな感じなだけで………1人だと危ないから……………。
1人よりはマシだったのかもと思うと、複雑だった。
「ごめんねっ? すっごい偶然なんだけどっ、燕くんとたまたま会って、いっしょに待っててくれたのっ」
海原さんがちょっと申し訳なさそうに言って、僕を見る。
「彼女1人にしたらダメじゃん?」
「ちがうのっ。鳥飼くんはっ…………」
海原さんは僕の為の言い訳をしてくれようとしたんだろうけど、そんなことをされたら余計に自分が情けなくなりそうで、遮った。
「わかってるよ。とりあえず礼は言っとく」
普段いい加減なくせに、こんな時だけ………しかも海原さんの前でとか………。
情けない。こいつ以上に自分にムカつく。
「うんっ。あたしもっ。燕くんっ、ありがとねっ?」
言うと、燕が耳元で何か言っていて、海原さんが顔をあかくする。
ムカつく。海原さんに何言ってんだよ?
海原さんも………………。
そして、燕はにやにやしながら、こっちを向く。
「んじゃね、咲妃さん。あと、にーちゃんも」
燕は手を振って、海原さんも手を振り返す。
くそっ。
花火は絶対に近くで見たい派です。
花火がくっきりはっきり大きく見えるし、なんと言っても音。
時差なく体に響く感じが好きです。




