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スズサキ*  作者: さより
意識
40/63

*40

 挨拶とか…………いいのに。まだ、先のことなんてわからない訳だし。

 そんな事されたら、一緒にいられなくなった時にいろいろ残ってしまって、誤魔化せなくなる。

 海原さんを送って、家に戻ると父さんが帰ってきていた。

「彼女、来てたんだって?」

 余っていたコーヒーを飲みながら待っていたようで、父さんの前にカップが置いてある。

 父さんが訊いてくる。

「あ、うん」

 何だろう?

 いつもと変わらないように見えるけど、何となく気不味い感じがする。

「燕は?」

 いつもはリビングでだらだらと何か食べながらゲームをしていたりするのに、何故かいない。

「部屋に行ってもらった」

 父さんが?

「ま、座れ」

 こういう事は初めてで、居心地が悪かった。それでも誤魔化したり、逃げたりできる雰囲気じゃないのはわかる。

 …………海原さんの事、訊かれるのかな?

 別にやましい事はしてないし、言えないことはしてない、よな?

「お前、彼女の御両親には挨拶くらいしたのか?」

「……………してない、けど?」

 だって、まだ早いよな? 海原さんだって、僕の事知られたくないと思ってるかも知れないし。

「それで家連れてきたらダメだろ? しかも誰もいない時になんて」

 言いたい事はわかるけど、父さんにも信用されてないと思うと、ショックだった。

「別に、勉強してただけだし…………」

「それでも、相手の御両親はいい気しないよな? 父さんはお前の事だからそれは本当なんだろうと思うけど、向こうの御両親はお前の事全く知らないんだから」

 あ…………………そう、だよな。

 自分ではちゃんとしてるつもりだったけど、その考えが甘く、自分の行動が軽率だったと後悔した。

 彼氏がどんなにいい人だったとしても、知らない男に対する評価なんてそんなに高くないよな? そんなことにも気付かないとか、考えが足りなさすぎる。

「彼女の方から、来たいって言われたのか?」

「違うよ。僕が……………ちょっと、困ってるみたいだったのに…………無理矢理だった、と思う」

「じゃ、わかるだろ?」

「何を?」

「女の子っていうのはさ、好きだから断れないってこともあるんだから、お前がしっかりしないとだろ?」

「…………………え?」

「お互い好きで付き合ってるんだろ?」

 ………僕は、好きだけど………海原さんからも言われた気はするけど…………そういうふうに言われると……………。

 父さんにそんな事を訊かれるとは思ってなくて激しく動揺してしまった事で、顔が熱くなる。

「お前、本当に好きなんだな?」

「いや、だって………そうじゃないと、そういうふうになったりしなくない?」

 照れてしまって、恥ずかしくなる。父親の前でとか。尚更だ。

「それはそうだな」

 言って、ははっと笑う。そして、興味津々に訊いてくる。

「どんな子なんだ? 向こうの御両親への挨拶が先だとは思うけど、そのうち父さんのいる時にも連れて来いよ? お前の彼女っていうのも興味あるしな?」

 こういう所まで親が訊いて来る事なのか?

「父さん帰って来るまで待ってて挨拶させて欲しいって言ってくれたんだけど、遅くなるから…………」

「そうか一一。惜しかったな」

「あ、でも、これ…………僕は、気にしなくていいって言ったんだけど…………」

 海原さんに渡されたドーナツの箱を渡す。

「駅で買ったんだろ? お前にいきなり誘われて、慌ててたんじゃないのか?」

「あ、うん。多分」

 箱の中にはドーナツとは別に何か入っていたようで、父さんはそれを見てふっと笑った。

「まあ、でも、いい子じゃないか」

 言いながら、中に入っていた紙を見せてくれた。

〈勝手にお邪魔してすみませんでした。海原咲妃〉


     ✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎


「バカじゃない? 信じらんない」

 週末は大抵家に帰って来るお姉ちゃんに話すと、嫌いな虫でも見るような顔で言われる。

「だいたい母親からしたら息子の彼女なんてタチの悪いメス猫くらいにしか思われてないからね? まあ、せっかくできた彼氏に、ママがダメって言うから、とか言われて振られても、いい経験だとは思うけど」

 辛辣だ。当たり前だし、仕方ないけど。

「鳥飼くんは、ママとか言わない………」

「そんなのわかんないでしょ? みんなの前で本性隠してるだけかも知れないんだし。そもそもそういう問題じゃないけどね?」

「それは、わかってるけど………」

 お姉ちゃんは、紅実ちゃんより容赦ない。そして、怒鳴り散らす感じでは言わないけど、温度のないテンションが氷の矢みたいに刺さってくる。

 普段なら、あたしの勝手でしょっ⁈ って、言い返すところだけど、今日は耳が痛い。

「お土産だって、事前にお母さんとかお父さんの好みきいて、前もって準備しておくのがベターでしょ?」

 いちおう、鳥飼くんにあまいの好きみたいっていうのはきいて買ったけど…………反省してもしきれない。

「しかも、誘われたからってホイホイついてっちゃって、その程度の女だって思われてるよ、きっと」

「そ、そんなことっ…………」

「そうじゃなかったら、警戒心のカケラもないガキってことじゃない?」

「っ………うぅ〜〜〜っ!」

 なんにも言い返せないっ! でもっ、ちょっとは考えたもんっ! も、もしかしたら、ちょっとくらいそういうこともあるかもとか。あたしの、妄想だけどっ。

 たぶん、鳥飼くんはあたしのことそんなふうにはまだ見てくれてなくって………これからだもんっ! ぎゅってしたりとか、されたりとかっ、き、キスとかっ、そ、それ以上とかっ…………鳥飼くんとっ⁉︎

 って、だめだってばっ。こんなえっちなこと考えてるようじゃ、きらわれちゃうよっ。

「何赤くなってんのよ? もしかして襲われても良かったのに、とか思ってる?」

「お、おおお思ってないもんっ! だってっ、鳥飼くんはそんな人じゃないしっ!」

「でも、ロリコンなんでしょ?」

「鳥飼くんは同い年だもんっ!」

 お姉ちゃんってば、ひどいっ! 

「……………とりあえず、お母さんだけでも言っといた方がいいと思うけどね?」

「うん。そうする」

 台所にいるお母さんに彼氏ができたことと、今日のことを話したら困った顔をして、お姉ちゃんと似たようなことを言われた。

 落ち込んで紅実ちゃんにライン通話をしたら、また同じようなことを言われて更に落ち込む。

《でも、改めて挨拶させて欲しいってこと言ってもらったら?》

「うん。大丈夫かな?」

《それはわかんないけど、咲妃の頑張りとか、御両親の人柄とか、鳥飼君の対応力なんじゃない?》

「鳥飼君の?」

《ここで上手く立ち回れないような奴だと、将来苦労するのは咲妃だからね? これを機に別れることをオススメするよ》

「やだっ! そんなこと言わないでよっ?」

《誘ったのは鳥飼君だし、そんなに気にする事はないと思うけど、気にする人は気にするからね? 気を付けなね?》

「うん。気を付ける」

《ただ、鳥飼君があんな卑屈なのって、お母さんが厳しいとか、そういうのだとしたら、結構大変だとは思うけど》

 卑屈とまでは思わないけど、もっと自信持ってもいいのに、とは思う。

 確かに鳥飼君ってちゃんとしてるし、きっとお父さんもお母さんもちゃんとしてる人なんだよね…………。

「こ、怖いこと言わないでよ〜〜っ!」

《だって、そうじゃない?》

「で、でもっ、前に周りの人から弟と比べられるのが嫌って言われたことあるっ!」

 そういうのも、自信なくなるって言うよねっ?

《弟?》

「うんっ。自分とは似てなくてかっこいいからって」

《そうなの?》

「……………確かに、似てない……とは思うけど…………」

 そんなことないよねっ? ぜったい鳥飼くんのがかっこいいし………中身どけても……………燕くんもかっこ悪いとは思わないけど…………男子と女子の感覚の違いなのかな?

《そうでもないの?》

 でも、そうでもないよって言っちゃうのは、燕くんに悪い気がする……………。

「そうだっ………サッカーとかしてるみたいだから、そういうのがかっこいいんじゃないかなっ?」

《ふーん?》

 そうだよね? 運動できる人ってかっこよく見えるしっ。

「あ、でもっ! 弟のことあんまり言わないでほしいみたいだから、言わないでねっ?」

《わかってるわよ》


     ✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎


 テストが終わって落ち着いた頃、仕事から帰ってきた母さんに言うと、あっさり断られた。

「いやよ。だって、休みの日まで他人に気使いたくないもの」

「いや、でも…………」

 そんな言い方なくないか? せっかく海原さんが来てくれるって言うのに。

「燕なんかそんなのしょっちゅうで将来結婚するとか言ってたけど、毎回違う女の子だったし、疲れるだけじゃない? むしろ、母さんが家いる時に連れて来ないでね」

 確かに、そんな時もあったよな。僕も知らない女子が家にいて、嫌だった記憶がある。

「でも、もう子どもじゃないし………」

 ちゃんとしておきたい。

「父さんが会うんだったら、それでいいでしょ? あぁでも、避妊はしっかりしときなさいね?」

「そんな関係じゃないし!」

 言われるんじゃないかとは思ったけど。

「ふーん? そういう面倒臭いことは嫌だからって、近いうちに別れるの? それなら尚更どうでもよくない?」

「そ、そういう訳じゃ…………」

「子どもじゃないなら、母さんの言ってる事もわかるでしょ?」

 言って、ふんっと鼻で笑う。

 母さんって、何でこういう言い方しかしないんだろう?

「もういい…………」

 でも僕は、母さんが海原さんに会いたくないと言ってくれて、ほっとしていた。

 海原さんは、やけに母さんの事気にしてたけど、僕としてはなるべくなら会って欲しくない。自分の母親がこういう人だと思われたくないし、有る事無い事いろいろ言われて、海原さんに今より悪い印象を与えたくないしな。

 そういうことがなかったとしても、怯える海原さんの姿しか想像できなかった。

 海原さんには予定が合わないからとか言って、分かってもらえばいいよな。

 もしかしたら、何かのタイミングで会うかも知れないけど、それまでは。

 部屋に戻って、ベッドに横になる。

 母さんの事は母親としてある程度の感謝はしてるけど、できる事なら関わりたくない。

 母さんが言いたい事もわからなくはないんだよな。今すぐにって、話じゃないだけで。

 好きだから、かどうかはわからないけど、断れないだけのこともあるかもしれない訳だし、海原さんの気持ちも考えろってことだもんな。

 ………………家連れて来られて、怖いとか思われてた?

 付き合ってるからって、何でも許してもらえる訳じゃないのは分かってたはずなのに…………。

 長く付き合っていけばそういう事もあるかも知れないからって………………………………。

 いや、ない。ないない。海原さんととか…………………だめだ。考えてたら、変な気分になる。

 少しだけ、海原さんとそういう関係になることを想像してしまって、罪悪感に苛まれる。

 こんな事考える奴が誰もいない時に家に呼ぶとか…………だめだろ。

 こんな気持ちのまま海原さんの御両親と会うのか?

 ……………何言えばいいんだ? 先日はすみません? もしかしたら、海原さんは知られたくないかもしれないのに? お付き合いさせていただいてます、とかだけでいいのか? 今後もよろしくお願いします、とか? 今後も、とか図々しくないか? でも、それなかったら、いい加減な気持ちで付き合ってるとか思われたりしそうだし…………海原さんには迷惑かも知れないけど、ずっと………とは、思ってる訳だし。

 それに、手ぶらで行く訳にいかないもんな。訊いたら、アレルギーもないし、甘いのがいいと思うって言ってたけど………甘いものって、どんなのがいいんだろう?

 海原さんはこの前ドーナツ持ってきてくれてて、父さんも燕も………めずらしく母さんも食べてたけど、海原さんは気にしてたし……………もっと改まった感じのがいいってことだよな。

 慌てて買ったのも気にしてたよな? 本当はもっとちゃんとした物………ちゃんとした物って? 事前に準備して…………前過ぎても賞味期限とかあるか…………。

 みんなこういうこと、どうしてるんだ?

一一したことねーよ。会った時にお邪魔してまーす、とかでいいんじゃね?

 …………だろうな。やっぱり頼りにならないとは思ってたけど。

 静からのラインを見てがっかりする。

「え? 挨拶行くの? 海原んちに?」

 もう、後は手嶋君くらいだ。

 昼休みに訊いてみると驚いた顔をされる。

「う、うん。何がいいと思う?」

「え一ー? オレ、持って行ったことないかも。挨拶はあるけど………そもそも、改めて付き合ってます、とか言ってないと思う。友達のノリだった気がするし」

「そうなの?」

「海原も親に鳥飼との事話してんの?」

「話してるんじゃないかな? 僕も、挨拶しておきたいって、言ったし………これからも、家に呼ぶこととかあるかもだし………」

「けど、友達でも遊びに行ったり、来たりするでしょ?」

「え?」

「え? もしかして、友達の家行った事ないの? 来た事も?」

「いや、あるよ。あるけど…………友達と言うか…………小学校の時からだし………女子の家は…………ないよ」

「あ、そうなんだ? けど、何でもいいんじゃない? 要は気持ちなんだから」

「だから………その程度だとか思われても嫌だし、逆にあんまり重たすぎても引かれそうじゃない?」

「ちょっとした物でいいと思うけどな一一? 海原に訊いたら? 具体的にどこの何がいいとか」

「そこまで訊いちゃうと、自分で何にも考えてないみたいに思われない?」

「…………鳥飼って、結構面倒臭いよね?」

「ごめん…………」

 笑顔だけど、呆れられてる………よな?

 やっぱり、手嶋君とじゃ普段からの人付き合いが違いすぎて参考にならない。

 ネットでランキングとか見てみるけど、安易に1位の物、って決めてもな………。

 ネットで済ませたみたいな感じも……………ダメだ。何持って行ってもダメな気がする………。

 リビングでスマホを使って検索していると、めずらしく母さんから話しかけられる。

「あんた、彼女いつ連れて来るの?」

「一応、夏休み入ってから2回目の土曜日に………て」

「………昼から?」

「多分」

「で? 夕飯食べて帰るの?」

「家遠いし、そこまで引き止めるつもりないけど?」

「そ?」

 言って、手に持っていた缶ビールを開けて飲み始める。

 ………………何なんだよ?

 私事ですが、寒いのが苦手です。できることなら常夏の島などに移住したいと本気で考えていました。

 そして今、最強寒波到来。

 もう、何もせずに布団にくるまっていたい毎日ですが、そうも言っていられないのが辛いところ。

 そのストレスなのか、寒さをしのぐための脂肪を蓄えようとしているのか、ただ食べたいだけなのか、食欲が止まりません。特にあまいもの。マシュマロをレンジで30秒温めたものにめちゃくちゃはまってます。

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