表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スズサキ*  作者: さより
意識
4/63

*4

「おはよ」

 へへっと笑って、僕に言ってくる。

「おはよう」

 大分、平常心を保てるようにはなった、とは思う。

 僕が女子に挨拶されるようになるとか………しかも、海原さんに。

 未だに不思議でたまらないし、信じられない。嬉しくて仕方ないけど、ちょっとでも気を抜くと、顔に出てしまいそうで気が気じゃない。

 今日、ピン黒だったな。髪もいつもツヤっとしてるのに触ると柔らかそうな………何考えてるんだ? 海原さんからしてみれば、実際に触られないとしても、思われてるだけでも気持ち悪いに決まってるのに。

 そもそも、好きとか自覚したところでどうにもならないのにな。

 手嶋君はまず間違いないし、多分、海原さんも……だよな?

 教室に入ってくる時も前からの方が自分の席に近いだろうに、大抵後ろから入って、手嶋君の横を通って行く。

 海原さんは用がないと自分から男子に話しかけたりはしないみたいだけど、手嶋君が声を掛けると、一言じゃ終わらない。天気の話だとか、部活の話だとか………大して必要のないことまで話していく。

 ………手嶋君ほどじゃなくても、無視されないのなら話しかけてもいいのか?

 でも、これ以上知ってしまうと、余計辛くなりそうで、踏み込んでいく勇気はない。

 僕にとってはそれ以前の問題でもあるけど。

 それでも、手嶋君との会話から、海原さんが坂上さんと同じ手芸部で休みの日も遊んだりしてることとか、家庭科と美術は好きだけど数学は苦手だとか………知ってしまって、考えてしまう。

 仕方ないよな? 聴こえるんだから。

 そして、そのあと七尾さんが混ざってきたりする。

 海原さんって、七尾さんに遠慮してる感じがするよな。

「ごめんね? うるさかった?」

 僕が立ち上がったタイミングで、海原さんが言ってくる。

「別に、そんなことないよ」

 まだ、何か言いたそうに僕を見て、目が合うと俯いたりする。

 もしかして、怖いとかも思われてたりするんだろうか?


「今日のLHRは校外学習の班決めをする。どうやって決めるかも話し合って決めていいから。6人ずつな? 学級委員頼むぞー」

 担任の竹本先生が言うと、教室がざわついた。学級委員が出てきて落ち着かせたあと、話し合いが始まる。

 出席番号順でよくないか? クジとかならまだしも、好きな奴と、とかなったら絶対揉めるに決まってるのに。


     ✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎


 毎年、校外学習は山登り。

 LHRの時間になって、班は好きな人と、ってことにはなったけど、同じ班に男子と女子がそれぞれ2人以上は入ることと、揉めるようなら出席番号順にするっていう条件になった。

「海原さん、一緒に手嶋君誘おう?」

 手嶋くんのほうを見てみると、鳥飼くんと木村くんもいっしょに話してる。すでに3人決まっちゃってる? そしたら、手嶋くん誘えたら、鳥飼くんともいっしょってことよね? 直接は誘えないけど、七尾さんといっしょになら手嶋くんには言える気がする。

 同じ班とかなったら、いっぱいしゃべるチャンスあるよね? よしっ!

「うん。いいよっ」

「じゃ、海原さんが手嶋君に言って?」

「え? あたし? なんで?」

「だって、海原さんの方が手嶋君とよく喋ってるし、それに、できることあったら言って、って言ったでしょ?」

 そ、それは言ったけど………。いっしょに、じゃないの?

 心の準備もできないまま、七尾さんに背中を押されながら手島くんの席に行くことになった。

 鳥飼くんも見てる。き、緊張する。

「て、手嶋くんたちって、今何人?」

「3人。入る?」

 やったっ。やっぱり鳥飼くんもいっしょなんだ。

「う………」

「手嶋君たち女子まだ決まってないでしょ? 私達もいいかな?」

 え? 赤井さんと木山さん? え? 2人? そしたら人数が………。

 1人、抜けなきゃだよね?

 教室を見回すと、ほとんどの班ができあがってた。

 あと、1人たりないとこって………笹丘くんのいるとこだっ。絶対やだっ。そもそも、鳥飼くんといっしょの班なりたいのに、抜けたら七尾さんともはなれちゃううえに、笹丘くんのいるとことか………。落差が激しすぎる。

 赤井さんと木山さんのが後からだったし、どっちかぬけてくれないかな? 言えないけど。

 2人仲いいし、自分の言いたいことはっきりいうタイプだし………むずかしいよね? やっぱり、あたしが………。

「僕が抜けたらちょうどいいよね?」

 え? やだっ。だめっ! それに、鳥飼くんも、手嶋くんと木村くんとせっかくいっしょなのにはなれちゃうよ?

 なんで? なんでなんでなんで?

 そう思ってはいたけど、言い出せなくて、鳥飼くんは笹丘くんたちの班に入っちゃった。

 あたしがぬけたほうがよかったよね?

 鳥飼くん、なんかさびしそうな感じするし。でもでも、笹丘くんとかっ。

 ………たぶん、そういうの感じて引いてくれたんだよね?


    ✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎


「鳥飼ってさ、誘われてる奴とかいる?」

 手嶋君と話していた木村君が話しかけてくる。

「いない、けど?」

「じゃ、一緒に組まない?」

「あ、うん。ありがとう」

 こんな早い段階で誘われるとは思わなかった。

 思えば、木村君って1年の時から余ってる時はよく声かけてくれたよな?

「あと、女子どうする?」

 手嶋君が気にしていると、海原さんが声をかけに来る。

「手嶋くんたちって、今、何人?」

「3人。入る?」

 手嶋君が誘うと海原さんがほっとしたような、ちょっと嬉しそうな顔をする。

 同じ班になれるのは嬉しいけど、手嶋君と一緒になりたくて来たのかと思うと複雑だった。

 海原さんも好きなら、喜んであげるべきなんだろうけど……嫌な奴だよな。自分に呆れる。

「手嶋君達、女子まだ決まってないでしょ? 私達もいいかな?」

 赤井さんと木山さんが海原さんの返事を遮るように声を掛けてくる。ちょっと、強引な感じだ。

 誘いやすい、っていうのはあるよな? 手嶋君は男女関係なく話してるし、ひどいことは言わないし。多分、赤井さん達も手嶋君のこと好きだったりするんだろうし。

 木村君の様子を伺って、教室を見回す。

 他の班もだいたいは決まっているみたいで、残っているのは………近くにいる笹丘君のいる班だった。

 海原さん達の方が先だったけど、このままだったら、海原さん達………海原さんが引きそうだよな?

 手嶋君のこと好きっていうのもあるだろうけど、七尾さんとは一緒がいいよな? それに木村君も…………。

「僕が抜けたらちょうどいいよね?」

 赤井さんと木山さんが嬉しそうな顔をする。まあ、普通はそうだよな。

 でも、海原さん達が少し申し訳なさそうな顔をしてくれるのはちょっと嬉しかった。

 笹丘君達の班には、快く、ということはないけど、嫌がられることもなく、入れてもらえることになった。

 僕が余ったことで、ほぼ決まってしまってた班、全て解体とかになる訳にいかないもんな。

 まあ、うまい決め方だよな。


     ✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎


「せっかく、いっしょの班になれると思ったのにーーーっ‼︎」

 部活の時間に、紅実ちゃんに悔しさをぶつける。

「まぁまぁ。だから、言ったじゃん? 鳥飼君って弱そうだよね、って」

「弱いんじゃないもんっ! やさしいのっ!」

「あーー、はいはい。そうだね。やさしいもんね」

 紅実ちゃんはわざとらしく、あたしの頭をぽんぽんする。

 子ども扱いだ。どうせ、あたしはわがままな子どもだ。自分じゃどうにもできないし、どうすればいいかも思いつかなかった。それがまた、悔しくて仕方ない。

「でもね、いっしょの班になれなかったことより、鳥飼くんをはずれさせちゃったことのほうが、つらいな、って。それに、そういうのになれてる感じとか………」

「そんな感じはするよね。自分が引いて済むならそれでいいって感じ」

「でも、やっぱり、ほんとは手嶋くんとか木村くんといっしょの班がよかったんじゃないかなー、とか。あたしは鳥飼くんたちが3人って気付いてたんだから、もう1人女の子誘うとかしてから話しかければよかったかなー、とか思っちゃうんだよね」

「まあ、みんなが100%満足な結果にはなんないからさ。気にしても仕方ないって。それに5班と6班ってことで、近いからよかったんじゃない? 班と班の境目とか、歩いてる時は結構曖昧だからね」

「そうかもだけど………」

「それより、朝の挨拶+αはどうなってんの?」

「…………まだ」

 朝はいつも話しかけようって思ってるのに、おはようとか、ちょっと笑って返してくれるから、はわわわっ、ってなっちゃって、よくわかんなくなっちゃうんだよね。もう、それだけで満足というか………ううん、でも、やっぱりもっといろいろ知りたいし、仲よくなりたいっ。

「でも、この前、休み時間にちょっと話しかけたよ」

「何て?」

「立って、どっか行こうとしたから、うるさかった? って、きく感じで」

「で?」

「で? って? それだけ、だけど………」

 どうやって続けたらいいのかわかんなかったんだもん。

 紅実ちゃんはあきれて、わざとらしいくらいの大きなため息をつく。

「もう告っちゃえば? 多分、断んないよ?」

「そ、そそそ、そんなの、できるわけないでしょっ⁈」


     ✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎


「おはよ」

 ………笑ってるけど、何だか、ちょっと元気がない?

「おはよう」

 いつも、ここ、へへって感じで笑ってくれるのに。

 どうしたんだろう? 訊いてみてもいいものなのか? でも、触れられたくないこととかだったら、嫌だよな? 深入りしなかったら、大丈夫か? 挨拶も普通になってきてるし、いいよな? ちょっとくらいなら。

「何か、元気ない?」

 海原さんが、驚いて顔を上げる。

 や、やっぱり、訊かないほうがよかった、のか?

「あ、ごめっ………」

「昨日は、ごめんねっ?」

「昨日?」

「遠足の時の班、ゆずらせちゃって」

 班決めのこと? 何で、海原さんが、謝るんだ? 元気ないのもその所為?

「そんなこと気にしてたの?」

 いや、海原さんが悪い訳じゃないし、あの場合、どう見ても僕が外れるのが普通じゃないか?

「でも、鳥飼くん、手嶋くんとも木村くんとも仲いいみたいだから、残念だったんじゃないのかなって」

 そんなふうに見てくれてたんだな。

 確かに、残念ではあったけど、誘ってくれたってことだけで、十分だとも思ってる。そもそも、同じ班って言っても関係あるのは、点呼の時くらいだし。

「残念じゃない訳じゃないけど、そんなには気にならないかな」

「ほんとに?」

「うん。多分、そういうところは女子より男子の方があっさりしてるんじゃないかな」

 まだ、あまり納得はしてないみたいだけど、少しほっとした顔でもあった。

「ありがとね?」

「気にしないで、大丈夫だから」

「鳥飼くんって、やさしいね?」

 思わず、顔を逸らす。

「…………さ、坂上さん待ってるんじゃない? 行かなくていいの?」

 海原さんは昇降口の出入口を確認して、答える。

「う、うんっ。また教室でね?」

「うん」

 ………だから、不意にそういうこと言われたり、そんな顔されたりとか、困る………。


     ✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎


 あたし、そんな顔に出てたかな?

 まさか、鳥飼君のほうから+αくれるとか、思ってなかった。やっぱりやさしいっ。っていうか、元気ない? って。いつもと違うなって、思ってくれたってこと? いつもと? 実は、意外と見てくれてたりするのかな? 班ゆずってくれた時も、いろいろ考えてくれてた感じするし、みんなのことよく見てるんだ。

 やっぱり、見えてる世界とか違うのかなー?

「海原さんおはよ」

「おはよー」

 七尾さんも元気ない? 昇降口で会わなかったし。

「何かあった?」

「赤井さんに釘さされちゃった」

「なんて?」

「海原さんが手嶋君と近付かないように見張っててくれない? って」

「あたし?」

「うん。やっぱり、赤井さん達も気になってるんだよ。手嶋君って海原さんに対してなんか違うもん」

「そっかなー?」

 あたしの中では、けっこう普通になってきたと思ってるんだけどな。春休みあったし………。っていうか、赤井さんも手嶋くんねらい? 手嶋くん背低いの気にしてたけど、こんなに想われてたらよくない? 気付いてないのかな? そんなことないと思うんだけどな。まだ、そんな気分じゃないのかな?

「それに、海原さんも最近ちょっと、手嶋君に話しかけられた時、うれしそうじゃない?」

 ぎくっ。

「そんなことないよっ」

 誤解されてるっ。ほんとに、そんなことないから。確かにうれしいし、滞在時間長めだと思うけど、それは手嶋くんの席が鳥飼くんの前だからで、話しかけるタイミングをはかってるっていうか………結局、話しかけられないで終わっちゃうけど。

 ………もしかして、鳥飼くんにもそんなふうに思われてたりしたらどうしよう?

 もう1回、手嶋くんに言っといたほうがいいのかな? 気にしないで、って? あたし、もう態度に出てたりしないよね? 普通にできてるよね? 心配されそうなとこないよね?

 でも、あらためてそういうこと言うのも気にしてる感じするかなー? それに、鳥飼くんの近くに行くチャンスが減っちゃうしなー。どうしよう?


「そんなの、本人に訊いたらいいんじゃない?」

 食べ終わったお弁当箱をハンカチで包みながら、紅実ちゃんがあっさりと言う。

「本人って? なにを?」

「鳥飼君に。私って手嶋君のこと好きそうに見える? って」

「き、ききき、き、訊ける訳ないでしょー⁈」

「っていうか、この前も言ったけど、もう告っちゃえば?」

「それこそできないよっ‼︎」

 な、ななななに言ってんの? 紅実ちゃんってばっ。

 特に最近、あんまりまじめに取り合ってくれてる感じがしない。いっつもからかい半分だ。

「じゃ、いつ言うの? 言われるの待ってるの? ずっと言わないの?」

 ぽんぽんと続け様にきかれて、答えにつまる。

「そんなの、言われたほうがうれしいに決まってるけど………」

「じゃ、自分からは言わないの? ずっと待ってるの? 鳥飼君みたいな人が告ってくるとか、なかなかないんじゃない? あんたが相当頑張んないとさ」

「わかってるもん。でも、もうちょっとくらいは仲よくなんないとくだけちゃうだけな気がするし………まだ、よく知らないし………か、彼女とか、いるかもしれないでしょ?」

「いや、いないでしょ?」

 紅実ちゃんがあきれた顔で答える。

「なんでわかるのっ⁉︎」

「モテなさそうだもん」

 確かに、学校には仲よさそうな女子とかはいないみたいだけど、わかんなくない? 他校の人だったり、高校生じゃない可能性だってあるよね? 鳥飼くん大人っぽいし、社会人の人だとしても全然ありえる。

「それに、すきな人くらいはいるかも……だし………」

「好きな人いたら、諦めるの?」

「それは………」

 どうだろう? 付き合ってないなら、まだがんばってもいいのかな? でも、すきな人のこと思うなら応援してあげるべきなんだよね? そんなこと、できるかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ