*37
「鳥飼くんっ、きのうのっ………」
本当に説明してくれるんだ?
でも、こんなところで?
昨日も教室だったし、お互いに自分の席だったけど…………。
海原さんから言ってくれるとは思ってなくて、激しく動揺してしまう。
「ごめん。また今度でいい?」
いつも通りの感じで、断ったつもりなのに思った以上にしゅんとされる。
言い方、冷たかったかな?
大事にしたいと思うのに、自分の言動で落ち込ませてるようで胸が痛い。
だからって、どうしたらいいのかわからないし、うまく返せる気もしない。
自分から話しかける方が、と思って話しかけるけど、戸惑ってるみたいだし。
やっぱり恥ずかしいとか思われてるのかな。
でも、話しかけようとしてくれたりとかはするもんな。よく分からない。
実際はどう思ってるのかとか、訊いてみたい気もするけど、勇気はない。
まだ、ラインで誘うのも緊張する。
一一今度の土曜日、一緒に勉強する?
海原さんはそれほどドキドキする暇もなく、返信してくれる。
嬉しそうなエナガのスタンプと共に短いメッセージが送られてくる。
一一する!! どこで待ち合わせる!?
つい笑ってしまうほど海原さんの顔が想像できて嬉しくなる。
多分、このエナガのスタンプと同じような顔してるんだろうな。
待ち合わせ場所と時間を決めるとほっとする。そして、また学校で会えない日も会えると思うとたまらなくなる。
大丈夫だよな。今までも休みの日はフィールドワーク行った後に勉強してたくらいで、時間的には大して変わんないもんな。
これで成績まで落ちたら、本当に海原さんと一緒にいられなくなる気がする………。
休みの日になって、海原さんと学校近くの図書館に行くと席は埋まっいて、一緒に勉強できるような場所はなかった。
「テストの時期って、大抵一緒だもんね」
確かに。そんな事も想像できなくてどうするんだよ? せっかく出て来てくれてるのに。
「ファミレスとか行ってみる?」
海原さんが提案してくれる。
「そう、だね」
近くのファミレスに行ってみると、座れなくはなさそうだけど、注意書きがあった。
【勉強お断り致します】
海原さんも知らなかったようで、驚いている。
「うそ一一っ? 今まで、こんなのなかったのにっ」
どうしようか?
「ごめんねっ? この前まではこんなのなかったと思うのに…………」
落ち込んでて、何とかしたいとは思うものの、何も思いつかない。
そもそも他人と勉強とかしてこなかったしな。外に出ても店なんかあんまり入らないし………。
「公園とかでやるっ?」
それもいいかもとは思ったけど、天気がな。今も曇ってるし………。
「この後、雨降るようになってたと思うんだけど………」
「あ、そっか………」
また、しゅんとさせてしまう。
どんな顔してても可愛いとは思うけど、やっぱり笑っててほしいと思うのは当然のことで、少ない知識の中から思いつく場所を探す。
あまり、参考にはしたくないけど静とか………学校以外で勉強してるの見たことないな………燕は部屋来たりするけど…………。
「うち来る?」
「えっ⁈ う、うちっ、て?」
「うん。弟もたぶん遊びに行ってるから気にしなくていいし」
母さんは仕事だし、父さんは朝から釣りに行ってて夕方しか帰らないはず。
あいつもテスト前で、部活休みとか言ってたけど、いつものことだからな。
ちょっとは勉強しろよ、と言うものの本当にちょっとしか勉強する姿を見たことはない。今年受験ってわかってるのか? と、何度言ったか知れない。
多分、遊びに行ってるはず。
「で、でも、いきなりっ…………?」
あ………そっか。
「ごめん。遠いよね?」
「それは、いいんだけど…………」
海原さんはまだ迷ってる。
このまま家に帰って………って、なるのもな………せっかく出て来てくれてるのに。
「僕、電車代出すよ?」
「え?」
「ほら、この前お弁当作ってもらってるし、僕の方がいっぱい食べたし。僕は定期あるから」
「あ、え、と………それも、いいんだけど……………うん。じゃ………ちょっと、おじゃましてもい?」
「うん」
よかった。ちょっと強引だったかも知れないけど。
海原さんは戸惑いつつも僕について来てくれることになった。
✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎
どどどどどうしようっ?
ほんとにいいのっ⁈
もう、電車乗っちゃったけどっ!
純粋に興味はあるっ! 鳥飼くんの家とか部屋とかっ。で、でもよっ?
家、誰もいないってことよねっ? いいのっ?
鳥飼くんだしっ、いきなりそんなことはないと思うけどっ………て、手もつないだことないしっ…………で、でもっ、付き合ってるわけだしっ、ち、ちょっとくらいはっ?
やだっ。あたしっ、なに考えてんのっ?
だって、鳥飼くんだよっ? そんなことあるわけないじゃんっ?
そもそもあたし、鳥飼くんのお母さんもお父さんも知らないけど、なんかこう………ごあいさつてきなこととか……………大丈夫かな? 鳥飼くんはどう思ってるんだろ? いなければそんな心配しなくてもいいんだろうけど…………。
「大丈夫?」
「う、うんっ! 大丈夫っ!」
だって、付き合ってるって言っても、まだ1ヶ月くらいだしっ。
「本当に? 顔赤くない?」
うわーっ! だって、あたしっ、いろんなこと想像しちゃってるっ!
だって、何もしないよねっ? とか、きけなくないっ?
あたしだって、ちょっとくらいは期待しちゃってるわけだしっ。て、手とか……もしかしたらもうちょっとっ? ………とか…………。
ど、どうなんだろっ?
付き合って1ヶ月くらいなら手くらいつなぐよねっ? その、先は…………っ?
「う、うんっ。ちょっと暑いからかなっ?」
それに、まだおうちの人には言いたくないかもだし…………って、今日はテスト勉強なんだってばっ!
平気な顔をして見せてるつもりだけど、顔熱いっ!
心臓っ、おさまんないっ!
ほ、ほかのこと、かんがえようっ!
なんか、しゃべったほうがいいかもっ?
「鳥飼くんちって、桜台だっけ? あのへん、なにがあるのっ?」
「特に、何もないよ。隣の駅は大きいからいろいろあるけど、うちの近くはそんなに」
「あ、そっか春陽駅の先だっけ? そこまではけっこう行くよ? あのへん手芸屋さんもあるし、デパートもあるから服買いに行ったりとか」
「そうなんだ?」
「うんっ。近所にもあるけど、月いちくらいは行ってるかもっ。もしかしたら、会ってたりしてねっ?」
「それは、どうだろうね? 僕、フィールドワーク以外はあんまり出歩かないし」
「そ、そっか」
買い物とか行かないのかな?
服は親が買って来たり、ネットで買ったりって言ってたけど。
でも、鳥飼くんって持ち物シンプルだもんな。服とかも。
「お昼ごはんだったら、ファーストフード的なお店が駅の近くにあるから、その辺で食べる?」
「うんっ」
なんにもないよって言ってたけど、あたしのすきなドーナツ屋さんあった。
チェーン店だけど、家の近くにはないし、デパートとか行ったらちょっといいとこでお茶したりするからなかなか行かないんだよね。
飲茶とかもあったから鳥飼くんにも付き合ってもらえたし、満足っ。
駅を出ると、少しだけ雨が降り始めてた。
「傘持ってる?」
「うんっ」
あっ……………もしかして、傘忘れたことにしたら相合傘できちゃったり? とか、傘をさしながら、思う。
ここで、忘れちゃった、入れて♡ とかできちゃってたらな………でも、そういうこと自然にできなくて、結局不自然になっちゃったりしそうだもんねっ。無理してもいいことないよねっ。
…………でも、ここ鳥飼くんの通学路なんだよね? いつもここ歩いて来てるんだ?
「あ、あれ? ここ……………」
「どうしたの?」
駅から鳥飼くんの家に向かう途中の河川敷、ちょっと見覚えある。
どこで見たんだっけ?
「ここ、ちょっと見たことあるかもって、思って」
「そんなに有名な場所じゃないし、他にも似たような場所があるのかもね?」
「うん……………」
でも、あの辺の石とか木とかの雰囲気が、なんとなく見覚えあるんだけどなっ。
「夏になると水遊びしたり、花火してる人はいるけどね」
「花火っ? 楽しそうだねっ?」
「花火、好きなの?」
「うんっ。自分でやるのは、近くに場所がなくて何年もしてないけど、花火大会は毎年行ってるよ」
「そうなんだ?」
「うんっ! 鳥飼くんもいっしょに行かないっ?」
勢いで、こんなっ…………で、でもっ! 鳥飼くんと花火大会とかいっしょに行きたいっ!
彼氏と行きたいイベントベスト5くらいには入るよねっ?
「え? 僕?」
「うんっ……………」
「僕、あんまり人混みは………」
「そ、そっか。そうだよねっ? 人多いの大変だもんねっ?」
だめか一一っ。ちょっとそんな気はしてたけど…………いっしょに行きたかったな………。
ま、でもっ、花火は紅実ちゃんと行けばいいもんねっ。
テスト終わったらすぐ夏休みだし、鳥飼くんとは海とか山とかいろいろあるよねっ?
おうちの人へのおみやげって、ドーナツとかでよかったかな?
次、次行くときはちゃんとしたところのお菓子買って行こう。
✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎
「うわ一一っ! すっごい、きれいなおうちだねっ?」
「そんなことないよ。僕がまだ小さい頃だったし」
「鳥飼くんの部屋って、どんな感じっ?」
「別に、普通だよ。特に何もないし」
…………こういうとき、テスト勉強という口実があってよかったと思う。
勉強以外で家に呼んだとして、何したらいいかわかんないもんな。
「鳥飼くんって、持ち物もシンプルだもんねっ?」
「使いやすければよくない?」
「たしかにっ」
言って、ふふっと笑う。
最初、ちょっと嫌がってるみたいで、無理矢理だったかな? とか思ったけど、そんなことないよな?
にこにこしてるし。
自分の部屋でいいよな? 勉強するなら、部屋の方が集中できる気がするし、リビングだと燕が帰って来た時うるさそうだし、邪魔が入らない方がやりやすいもんな。
「燕くん、ほんとにいないの?」
「多分。あいつもテスト前だけど、勉強しないから遊びに行ってると思う」
それまでは他に人いないから、2人だけで……………………………………………………?
そこではっとする。
もしかして、まずかったんじゃないか? 2人とか。
こんなところまで来て気付くとか、どうかとは思うけど。
自分の家に彼女呼ぶとか、勢いとは言え、彼氏っぽくないか? とかちょっと浮かれてた自分が恥ずかしい。
「どうしたの?」
「あ、うん。別に……………」
海原さんがなかなか家の鍵を開けないことを不思議がる。
そもそも、行きたいとか言われたわけでもないし、誘い方も結構強引だったよな?
最初、海原さんが嫌がってるかも、と思ったけど、本当に嫌がってたんじゃないか?
もちろん、そういうこと考えてたわけじゃないし、するつもりもないけど、ここまで来ててやっぱりやめる? とも言えないし、何もしないから、とかわざわざ言うのもそんなふうに考えられてる感じがして嫌だよな?
……………………だめだ。意識すると、変な気分になる。
海原さんは、どう思ってるんだろう?
…………………いや、どう思ってるも何もないよな? そういうつもりで来たわけじゃないに決まってるし…………でも、最初嫌がってるように見えたのって……………一応、付き合ってるわけだし………………。
いや、そんな訳ないよな。ただ、男の部屋って、汚いとか臭いとか……………………………………………………片付けてはある、と思う。けど、臭いとか………自分じゃわからなかったりするって言うし…………換気は小まめにしてるつもりだけど………………大丈夫だよな?
大丈夫か?
リビングとかの方が……………?
とりあえず、家の前で迷ってても仕方ないと、鍵を開けて海原さんを中に入れる。
「お、おじゃましま一一すっ」
ちょっと緊張しているのが、可愛くてたまらない。
頭なでたりとかしたくなる。
そのくらいなら、いいよな? 他に人いないし、一応、彼氏な訳だし……………………。
「鳥飼くんの部屋って、2階っ?」
海原さんが振り向いて、心臓が飛び出しそうになる。
いや、だめだろ。せっかく可愛くしてきてるのに、触ったりなんかしたら。
触ろうとした手を下げて、ごまかす。
「う、うん。あ、でも、コーヒー飲む?」
「コーヒーは、ミルクとお砂糖がないと飲めないけど、ある?」
「あ………どうだろ? ちょっと待って」
うち、コーヒー飲むときはみんなブラックだからな。燕はほとんど飲まないし、飲むとしたら牛乳…………。
ミルクって……牛乳? それならある、けど………これ…………。
牛乳パックは1本だけあったものの、口が空いていて、もしかしたら燕が直飲みした後かもと思うと、絶対に進められないな、と思った。
「ないなら、大丈夫だよっ? お茶持ってきたのあるしっ」
この前、苦いのは苦手だって聴いて知ってたんだから、途中のコンビニとかででも買っとけばよかった。何やってるんだろう。
今度家に呼ぶときは必ず…………次もあるかわからないけど…………。
でも、この前ちかちゃんが来たときにカフェオレっぽいの出してたよな? 残ってなかったかな?
普段は開けないお菓子の入れてある引き出しを開けると、その隅にカフェラテのスティックがあった。
「カフェラテ………インスタントだけど………これでいい?」
「うんっ。すきっ」
一瞬、どきっとする。
カフェラテがね。カフェラテ。
「じゃ、お湯沸かすね? 座って、待ってて?」
「うんっ。鳥飼くんは、いつもどこすわってるのっ?」
「そこ。今海原さんのいる前」
奥のカウンター側。その横が燕で前は父さん。斜め前が母さんだった。
海原さんがテーブルを回って僕の椅子に触れる。
「ここ?」
「うん」
海原さんは僕の椅子にちょこんと座った。
……………たとえば、朝は僕がコーヒーを淹れて、ちょっと遅れて起きてきた海原さんがこんなふうに……………………。
ちょっと将来を想像してしまって、恥ずかしくなる。
そんなに一緒にいるかわからないだろ?
……………………いたいとは思うけど。
付き合い始めて、相手の家に行くのはいつ?
もちろん、成り行きの場合もあるでしょうし、相手が一人暮らしなのか実家暮らしなのかも関係してくると思います。さらに、紹介も兼ねて、となるとそれなりに緊張もするし、いろいろ考えてしまうと思いますが、どうですかね?




