*32
最初の1ヶ月分だけでも頼んでみる?
お試し価格で75%オフとかだし………それでも3000円くらいするけど。
身長を伸ばすためのサプリの申し込みボタンを押そうか迷っていると七尾さんがいきなり話しかけてきて、びっくりする。
「おはよ、何頼むの?」
「な、ななないしょっ!」
慌ててスマホをスカートのポケットにしまう。
やっぱり、学校でって落ちつかないから帰ってからにしよ。
「サプリ? 胸おっきくなるヤツ?」
「ち、ちがうもんっ!」
そこも、けっこう気にしてるけど…………。
「からあげとか食べた方がいいよ? あと、豆乳」
「豆乳っ?」
背伸ばすのに牛乳飲んで、豆乳まで飲んでたらからあげなんか食べらんなくなっちゃうよっ⁈ 納豆も食べなきゃなのにっ!
「あたしんちお兄が牛乳ダメだからずっと豆乳だったし、からあげはみんな好きだからよくするよ?」
「そ、そうなのっ?」
確かに七尾さんおっきいもんね…………。
「でも、あんまりおっきいと太って見えるし、肩こるから適度にしといた方がいいと思うけど」
それでもうらやましいって思っちゃうの、わかるっ?
悪気はないんだろうけど………………身長よりそっちがんばったほうがいいのかな?
徳永さんも七尾さんほどではないけど、適度にあってスタイルいいもんね? 紅実ちゃんもまあまあおっきいし。あたし…………せめて、服の上からでもちゃんとあるってわかるくらいにはなりたいようっ!
身長と胸とどっちある方が大人かわいい感じに見られるんだろ?
あーーーんっ、もうわかんないっ!
そのすぐ後に、木村くんと話してた鳥飼くんがあたしの後ろに座った。
き、きかれてないよねっ?
どきどきしながら後ろにいる鳥飼くんを音で確認していると、七尾さんが小さな声で話しかけてくる。
「そう言えば、今日も鳥飼君と徳永さん一緒にいるの見ちゃった。しかも、腕組んでた」
「うそっ⁈」
思わず、おっきな声を出してしまって、あわてて口を抑える。
やだやだやだっ! あたしまだ手もつないでないのにっ!
「ほんと。付き合い出しちゃったりなんかしたらびっくりだよね?」
「う、うんっ。でもっ、そんなことはないんじゃないかなっ?」
今度は慎重に小さな声で答える。
「そっかなぁ? 意外すぎるだけにアリかもとか思うんだけど」
うそうそうそっ。なんでっ? 徳永さんってば、鳥飼くんのことすきなのっ?
昨日そんな感じじゃないって言ってたのにっ?
なんでっ? まちがいだよねっ?
すぐ後ろにいるのに、ききたくてもきけないっ。
でもっ、まちがってなくても鳥飼くんなら、そんなすぐに徳永さんのほうがいいから、とかってなんないよねっ?
あ、でもっ、今までは徳永さんの存在知らなかったからってこともあるよねっ? あんなきれいな人いるってわかったら………しかも、腕くんだりとかされたら、どきどきしちゃうよねっ?
あーーーんっ、こんなの、本人にきくのもこわいよ一一っ!
「あははははははっ」
「笑いごとじゃないもんっ!」
「ごめんって。いや、でも………どっちでも、いいんじゃない?」
笑いこらえるの必死だってばればれだからね?
身長なのか胸なのか、まじめに相談してるのにっ!
紅実ちゃんに相談したのが間違いだった。
後から来た徳永さんが話に入ってくる。
「何の話?」
そこで、紅実ちゃんが笑いながらあたしのこと話しちゃう。
「もうっ! 言わないでよっ⁈」
「だって、そんなのどっちでもよくない? そもそも、でかい咲妃とかイメージわかないし、胸ちっさいからとか言って断るヤツなんか人間としての器がちっさいんだから」
「そ、そうかもだけどっ!」
「でも、そういうのって、自分の自信になるもんネ」
徳永さんがお弁当を食べながら、ボソッと言う。
「そ、そうっ! そういうとこがねっ、にじみでちゃうんだと思うのっ!」
すごいっ。徳永さんって、冷たい人だと思ってたけど、手嶋くんのことで誤解されてただけだったんだ?
もしかして紅実ちゃんとは違う意味で頼りになる……………。
「でも、ロリっ子枠とか貧乳枠みたいのもあるじゃナイ?」
ロリっ子………貧乳……………?
「あたし、そんなに…………?」
「あ、ゴメンっ」
自分では小胸、くらいかと思ってたけど、そんなにっ? 確かに走っても揺れないし、谷間ってなに? って感じだけど………………。
やっぱり、あたしきらわれてるっ?
「ほらでも、相手もさ、自分にはないもの求めるっていうし、背高い人ほどちっさい子が好きだったりするかもヨ?」
「そ、そっかな?」
そうならいいけど……………鳥飼くんって、あたしのどこすきになってくれたのかわかんないもんな。それに、いつから…………?
不安なんだもんっ、仕方ないよねっ?
「で、でも、徳永さんって背高いけど、背高い人すきでしょ?」
恐る恐るではあるけど、思い切ってきいてみる。
「まーー、自分より高いといいな、くらいは?」
「鳥飼くんみたいな?」
「は?」
「だ、だって、鳥飼くんといっしょに登校してて、う、腕組んでたんでしょっ?」
「ナニソレ?」
「七尾さんが見たって…………」
「はぁ〜〜?」
徳永さんはけげんな顔をしてあきれていたけど、そのあと思い出したかのように言った。
「あ、もしかしてあれカナ?」
「な、なにっ?」
「確かに、朝見かけて声掛けたのネ。ちょっと………」
あたしのことをちらっと見て、ごまかすように言う。
「確かに、腕はつかんだかも………あ、でもネ、ちょっとこけそうになって…………ソレだけだから……………」
徳永さんが顔を赤くしている。
そ、そうなんだ? それを七尾さんが勘違いして?
「ほ、ほんとアレだね? 七尾さんって、そういうとこ勘違いしやすい?」
ほんとかなっ? 徳永さんの態度あやしくないっ? なんかごまかしてるみたいな…………。
「そ、それより、海原サンってやけに鳥飼クンのこと気にしてんのネ? スキなの?」
「え? あ、かっこいいな、とは思うけど………すきとかじゃ…………」
あるけどっ! 言えないんだってばっ‼︎
ここで、もし彼女なんですって言えたら、もしかしたらちょっぴりくらいは牽制になったかもしれないのにっ‼︎
「え? マジで?」
あ、すきなのばれたよねっ? うわうわうわー一一っ、どうしようっ⁉︎
助けてほしくて紅実ちゃんのほうを見るけど知らんぷり。
え一一っ⁉︎ 助けてようっ‼︎
「いいじゃん? 私協力してあげよっか?」
「え? 協力?」
「誕生日とか、好きなタイプとかきいてきてあげようか?」
「え? い、いいっ!」
だって、誕生日知ってるし、付き合ってくれてるわけだし、今さらすきなタイプとかは…………あ、もしかしてほんとはあたしとはちがうタイプがすきだったりするのかなっ? たぶん、どっかはすきって思ってくれてるんだろうけど………。
「遠慮しなくていいって。明日、朝見かけたらきいといてあげるヨ」
徳永さんはうれしそうにお弁当の続きを食べはじめる。
「幸穂さ、それもしかして今まで仲よくなった子にもそんな感じ?」
「え? だって、トモダチだったらそのくらいするでショ?」
「女友達いないの、それが原因なんじゃない?」
紅実ちゃんが冷めた感じで言う。
「何でヨ?」
「相手の子があんたみたいなのに好きなタイプとか訊かれたら、勘違いしちゃうんじゃない?」
た、確かにっ‼︎ しちゃうっ‼︎ だって、自分のことすきだから、きいてくれてるのかな? とか思っちゃいそうっ‼︎ ぜったいどきどきしちゃうっ‼︎
「何でそうなんノ?」
口を尖らせて、紅実ちゃんにききかえす。
しかも、わかってないっ! だから、毎回おんなじことしちゃうんだっ⁉︎
うわさの原因ってこれっ?
「ま、とりあえずやめときな。それやってると一生女の子の友だち作れないから」
「何でヨ? 紅実はトモダチの恋とか応援したくなんないノ?」
「したいよ。けど、結局最後は自分で決めることだしね。本人がいいって言ってんだからいいんじゃない? 必要なときは頼ってくれるわよ」
徳永さんはちょっとしゅんとした感じになったけど、納得してくれたみたいだった。
こういうとこ、さすが紅実ちゃん、なんだよね。あたしも、こういうふうに助けてあげられる人でありたいっ!
*♠︎*♠︎*♠︎*
一一今度のお休みは、お母さんの実家に行くから会えないと思う。
ものすごく残念そうなエナガのスタンプと共に返信が来る。
そっか。そういうこともあるよな。
家に帰っても海原さんの元気ない顔が浮かぶ。
相変わらず、学校ではしゅんとした感じで、たまに目が合っても気まずそうに逸らされる。
登下校も一緒にできないし、昇降口で会っても以前ほど話してくれない…………多分、僕の言った事気にしてる所為なんだろうけど。
だからって、海原さんが言うみたいに普通に仲良くしてたとして……だいたい僕って他の女子とも喋んないし、不自然だよな?
そういう場合、海原さんが僕に気を遣って喋ってくれてるって事になるんだろうけど、他の人から何か言われたりしないか? いや、するよな? 絶対する。
あんな奴と仲良くする事ないよ、とか、何であんな奴と喋ってんの? みたいな………。
勢い余って告白してしまったものの、何でOKしてくれたのかわからないし…………好きとは言ってくれたけど……………………………思い出すの恥ずいな。
たまたま何か勘違いとかしてて、付き合ってくれてるだけかもしれないし、そういうこと言われてたら嫌になるんじゃないかと思うんだよな。
他人の評価なんか関係ないとかいう奴もいるけど、そういうのっていい評価しかされたことないからそう思うんだ……………自分に自信があるとか……………。
階下が騒がしくなって、どたどたというけたたましい音と大きな話し声がする。
この声、弟ともう一人…………聞き覚えがあるし、嫌な感じしかしない。
慌てて部屋のドアの前に立って、いきなり開けられるのを防ぐ。
燕がドアノブを回すと同時に圧力が加わる。
僕が開けないようにしているのを察して、今度はドアノブをガチャガチャとしながら、どんどんと勢いよくドアを叩いてくる。
「にーちゃん、西脇さん‼︎」
やっぱり………………この部屋、何で鍵付いてないんだろう?
「なんで開けねーんだよ? 西脇さん話あるって」
「今、勉強してんだよ。邪魔すんな」
その後、ドアへの圧力と激しいノックが収まって、ひそひそと話し声が聞こえた。
何話してんだ? 諦めて帰るか、燕の部屋の方に行くか…………?
「勉強って、下半身のっ………⁈」
「そんなワケないだろっ‼︎⁉︎」
いきなり燕が思いもかけない発言をしてきて、思わずドアを開けて怒鳴る。
「よっ。おひさっ」
静が涼しい顔で手を上げる。
忌々しくて、仕方がない。
「変な事吹き込んでんじゃねえよ」
「快く出迎えないお前が悪い」
言って、ずかずかと断りもなく部屋に入って来て、ベッドに座る。
燕は「オレ着替えてくんね?」と、自分の部屋に行った。
静は燕の事など気にする様子もなく、嬉々としてベッド周りのチェックをはじめた後、残念そうに溜め息を吐く。
「相変わらず、色気ねぇのな?」
「何だよ、それ? 必要ないだろ?」
「カノジョできたんならそういうのも準備しとかないとだろ?」
「そういうのって?」
「決まってんだろ? コン…………」
「やっぱりいい‼︎ 言うな‼︎」
何となく予想できてしまって、慌てて遮る。
「カノジョって海原サンだろ?」
「…………まあ……うん」
この前、電話掛かってきた時につい、喋っちゃったもんな。海原さんの名前までは出さなかったけど、わかるよな? 他に身近な女子とかいないし。好きなのばれてたしな。
からかわれるだけだろうと思って言わないでいたけど…………あれからラインも着信も無視してたからな。
「よかったじゃん?」
「…………………うん」
何か、照れるな。海原さんが彼女っていうのを実感してくるというか…………。
「海原サンもお前の事めっちゃ意識してたもんな?」
……………………………え?
「か、海原さんが?」
僕が、じゃなくて?
「お前気付いてなかったワケ?」
「だって………そんな、好かれるような心当たりなんてないし………」
「告られたんじゃねえの?」
「なっ……そっ……そんな訳ないだろ?」
「けど、あの時お前来る前も、坂上サンとそういう話してたっぽいけど?」
あの時って、コンビニで会った時だよな?
いや、でも、そうなると余計わからない。そんなに気にしてもらえるような事、何かあったか?
「よくそんなんで告れたな? お前が」
「それは勢いというか………流れで……というか…………まさかOK貰えるとは思ってなかったけど」
自分でも、よく言ったな、とは思う。
「もしかして仕方なくとか、何か勘違いしてとか、思ってたり?」
揶揄うように言ってくる。
「だって、そうだろ? 俺にそんな魅力があるとは思えないし、そうとしか…………」
いきなり静は不機嫌な顔になって、訊き返してくる。
「ふーーん? 海原サンって、あんな顔してそういうコト、適当に返事したりすんだな?」
「そ、そういうんじゃ…………」
「そういうコトだろ? お前が言ってんの」
あ………………。
「自分のこと過信しすぎないのは、お前のイイとこでもあるかもだけどよ? 好きな相手の評価くらい素直に受け止めてもいいんじゃね? オレとかな?」
「……………お前の評価はどうでもいいよ」
少しして、燕が着替え終わって部屋に入ってくる。
「西脇さん、アイスありますよ? 食います?」
「お、食う食う」
言って、燕が持って来ていたアイスバーを渡す。
「さっき一緒に話してた女子って、西脇さんの彼女っすか?」
「そ。近くのクレジョよ。すごくね?」
「は?」
「俺も彼女できたから。めっちゃ美人」
クレジョって、紅梅女学園の事だよな? 女子校、というか、そもそも他校生とどうやって知り合うんだ? それに、そんな短い感覚で彼女が変わっていくのが不思議でたまらない。
坂上さんのこと誘って欲しいって言ってたの、つい最近じゃなかったか?
ため息がもれる。
燕も周りに女子の多いタイプだよな…………。ちらっと、2人の剥き出しになっている腕に目をやる。
見るからに頼り甲斐のありそうな太い腕だとか、愛想とか、そういう事なんだよな? 多分……………。




