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スズサキ*  作者: さより
意識
30/63

*30

「鳥飼くんはなんに出るのっ?」

 こういうのっ、友だちでもしゃべるよね? ふつうに仲いい感じっ?

「………100mと、狩り人競争」

 鳥飼君は、ちょっと戸惑ってるみたいだけど、なれれば大丈夫だよねっ?

 あたしも、まだちょっと緊張しちゃうしっ。

「狩り人競争?」

 好きな子とか引いちゃって困ってたりするやつだ。

 もし、鳥飼くんがそんなの引いたら、あたしっ? 手つないでいっしょに走ったりっ? だって、つきあってるわけだし…………手つないで、とか。しかも、みんなの前ですきな子、とか? …………やだっ。はずかしいかもっ。

 いろいろ想像しちゃって、顔が熱くなる。

 だめだめだめっ。学校ではふつうにっ。友だちとして、仲よくなるんだもんっ。

 よくあるのって、あとはメガネの子とか髪結んでる子とか?

 当日はメガネ持って、髪結んでこようっ。そしたら、協力できるし…………手つなげるかもっ。

 帰りのホームルームが終わって、帰るときもあいさつくらいはっ。

「ばいばいっ。またねっ?」

「…………………うん」

 言って、鳥飼くんはさっさと教室の後ろ出口から出て行ってしまうっ。

 ……………なんか、そっけない? やっぱり、いやだったのかなっ?

 あたしも男子の友だちとしての距離感ってよくわかんないけど、徳永さんとか、いっしょにごはん食べたりしてるし、それにくらべたら全然だよねっ?


 今日は紅実ちゃん待ってないな。

 あたしが待ってようと思って、2組の教室に向かおうとすると、廊下で徳永さんと話してた。

 なに話してるんだろ?

 声かけてもいいかな?

 迷っていると、紅実ちゃんが気付いてくれる。

「あ、咲妃来たよ。きいてみよっか?」

 2人がこっちを向く。

 あたしのこと話してた?

「いいっ!」

 徳永さんはちょっと怒ったふうに、ぷいっと行ってしまった。

「なに話してたの?」

「お昼誰と食べてるか訊かれたの」

「なんで?」

「一緒に食べたそうだったから、咲妃がいいならいいよって、話してたのね」

 あ、それでさっき…………。

「やっぱり、あたしがいるのはいやなんだ?」

「どうだろ? あの子も素直じゃないからね」

 それ、紅実ちゃんが言うんだ?

「あたし、違うとこで食べてもいいよ?」

「は? 何言ってんの? そしたらあんた一緒に食べる人いるの?」

「七尾さんのグループに入れてもらうか、ひとりで………?」

 もし、いいよって言ってくれたら、鳥飼くんとか………さすがにだめって言われそうだけど、1日くらいなら………。

「そんなことしたらあたしが悪者みたいじゃない?」

 ちょっと怒って言う。

「だって、相談事とかあるのかもでしょ? 1日くらい、いいよ?」

「あ、そういうこと?」

 てれてるし。ほんとは紅実ちゃんもあたしと食べるのちょっとは楽しいって思ってくれてるの知ってるから大丈夫なのに。

「まぁ、でも、あの子今一緒にご飯食べる人いないと思うのよね」

「そうなの?」

「西岡君とか飯倉君と食べてたんだと思うんだけど、あんなことになっちゃったでしょ?」

「うん。女子は?」

「あの子に女友達とかいると思う?」

 溜め息混じりに、きいてくる。

「いないの?」

「あれだけ、彼氏取ったとか取られたとか、他人の好きな人に色目使ったとか言われてたらね?」

 ……………たしかにいやかも。

「でも、それほんとなの?」

「どうだろ? 幸穂にはその気なくても、相手はどうだかわかんないしね」

 もしそうなら、さびしいよね?

 ほんとは女の子の友達も欲しかったりするのかな?

 徳永さんがそんな子じゃないなら全然ありだけど、うわさどおりの人だったとしたら、鳥飼くんとかっ…………?

 やだやだやだやだっ。せっかく、両想いになれたのにそんなになったらっ。

 いっしょにごはん食べるって言うのだっていやだったのにっ。

 でも、いっしょに食べる人いないからって、また鳥飼くんのこと誘ったりしてたらどうしようっ?

「あたしが一緒にいるといやなんだよね?」

「…………あんたはいいの?」

「いっしょに食べてみないとわかんないけど…………徳永さんがいいなら別に………」

「ま、そういうことなら、声掛けてみるけど?」

「うん…………」


     *♠︎*♠︎*♠︎*


 …………衣替えで、今日から海原さんも夏服になってる訳だけど…………前、向けない。

 ブラウスの下に着ているキャミソールが透けてて、その肩紐からずれてるのって…………。

 想像して、顔が熱くなる。

 今まで、意識したことなかったけど、けっこう透けてるよな?

 学校の制服がこんなんでいいのか?

 そう思いつつも目がいってしまう。

 そんな時に、いきなり海原さんが振り向いて、目が合う。

 今、見てたのばれた?

「これ、プリント」

「あ、うん」

 そっか。

 顔はあんまり見られないけど、前後だとこういうことって、多いよな。

 少し、落ち着いてきて、普通に授業を受けていると、また海原さんが後ろを向いてくる。

「ノート、見ていい?」

「え、うん。どうしたの?」

「向こうのはしっこ、見えなくって」

 言って、僕のノートを見て、自分のノートに書き写しているようだった。

 何度かそれを繰り返す。

 黒板を全面使われると、角度がなさすぎて端まで見えないのか。

「ありがとね」

 海原さんは恥ずかしそうににこっと笑って、前に向き直る。

 可愛い。こんな子が自分の彼女とか、まだ信じられない。

 授業の終わる頃、笹丘君に後ろから声を掛けられた。

「鳥飼、プリント」

 配られたプリントが後ろから回収されてくる。

「あ、うん」

 プリントを受け取り、自分のプリントと合わせてはっとする。

 これ、僕から海原さんに渡すんだよな?

 教室の中で話しかけるのは緊張する。

「海原さん」

 海原さんが振り向いてくれる。

「これ、プリント」

「ありがと」

 受け取ろうとした時、海原さんの手が僕の手に触れて、顔をあかくする。

「ごめっ」

 言って、ぱっとプリントを受け取り、近くに来た竹中先生に渡す。 

 これ、やばくないか? 隣だったらいいなとか思ってたけど、それよりももっと特別な気がする。

 現代文の後、数学の授業の前に、海原さんから話しかけられた。

「鳥飼くん、宿題の答えどうなった?」

 プリント回したりとか、黒板見えないとかは仕方ないとして………昨日もそうだったけど、休み時間に答え合わせとか、話したりとか、仲良さそうじゃないか?

 周りに人もいるのに。何考えてるんだろう?

 けど、そういう事は言えず、ノートを見せる。

「よかった。あってた。ありがとっ」

 言って、へへっと笑う。可愛い。

 いや、けど、何か、大丈夫かな?

 心配になって、ラインを送る。

一一放課後、部活に行く前ちょっと時間ある?

一一少しくらいなら大丈夫だよ? 何?

 どこがいいかな?

一一ちょっと話したいことあるんだけど。東側の階段上がったところに来てもらってもいい?

 OKのエナガのスタンプが送られて来て、ちょっとほっとする。


 放課後、待ち合わせ場所で先に待っていると、海原さんが来る。

 屋上には上がれなくなっているため、ちょっと戸惑っていた。

 少しだけ顔を見せて、踊り場まで上がってくるように、手招きする。

 海原さんは周りを気にしながらも、屋上立入禁止の紐を潜って下からは死角になる踊り場の端まで来てくれた。

「こういうとこ、よく来るのっ?」

 嬉しそうに、僕を見上げてくる。

「まあ、雨降って外行けない時は」

「怒られない?」

「ばれたら怒られるかもだけど、ばれないし、屋上には入ってないから」

 かなり意外そうな顔をされる。多分、そんなことしなさそうに見えるんだろうな。

 でも、今は早く部活とか行かなきゃなんないだろうし、手短に。

 昨日からのことを話すと、海原さんは目に見えてしゅんとなって答える。

「ふつうに話すくらいはいいかな、って思って」

 そのあと、僕を見て確認する。

「いやだった?」

 う…………物凄く悲しそうな顔をされる。嫌なわけないじゃないか。

「い、いやじゃないけど………」

 むしろ嬉しい。僕からだって話したいとは思う。

「けど?」

「仲いいとか思われたら、どうするの?」

「だめなのっ?」

 また、そういう顔をする。一瞬、意志が揺らいで、仕方ないかと思いそうになる。

「だめって言うか………前に言ったけど、海原さんがいろいろ言われるようになるのが嫌なんだよね」

「あたしは別に…………。せっかく同じクラスだし、席も近くなったのにしゃべれないのやだな、って思って」

「それは、僕もだけだど」

「紅実ちゃんは同じクラスの男子ともけっこうしゃべってるって言ってたよ? 手嶋くんとはクラス違うのにふつうにしゃべってるし………」

 手嶋君はもともと女子にも声かけられるみたいだし、坂上さんも気にせず男子と喋ってそうだもんな。

 僕が答えないでいると、海原さんはさらに悲しそうな顔で言った。

「昨日の朝、紅実ちゃんとはしゃべってたでしょ? 徳永さんとはお昼もいっしょに食べてるのに」

 ………確かに、そうだけど。徳永さんのは断り切れなかっただけだ。それに僕というより、手嶋君に繋げたかっただけだろうし、坂上さんは孤立気味の奴なんかを放っておけないとか、そういう気遣いだと思うし………仕方なくないか?

 そもそも、海原さんじゃなかったら結果的に避けられるようになってもそれほど何とも思わないし。

「ご、ごめん。でも、ラインとか通話とかは平気だから」

 納得できないようで、泣きそうなくらいしゅんとしている。

 僕もそう思ってるけど、我慢してるんだから、わかってほしい。

「もうちょっと、僕に自信つくまで待って?」

「…………うん」

 仕方なさそうに、頷く。

 自分が情けない、とは思うけど、僕のことでいろいろ言われて、嫌われるのはもっと嫌だ。

「あいさつくらいは、いいよね?」

「うん。まあ、それくらいなら、多分」

 やっぱり、泣きそうな顔………僕の所為、なんだろうな。

 次からこういうこと言う時はラインか通話にしよう。心が痛すぎる。

 次の日、海原さんと昇降口で会う。昨日の申し訳なさもあったから、僕から挨拶をしてみると、びっくりして、でも物凄く嬉しそうな顔で返してくれる。

「うんっ。おはよっ」

 可愛すぎるんだけど…………。

「あっ、今日鳥飼くん合服っ…………あ、えと………ごめっ…また、あとでね?」

 多分、僕が合服着て来た事で何か言おうとしてくれてたのかもしれないけど、昨日僕が注意したことを思い出したのか、見るからにしゅんとなってしまった。この落差に心が痛む。

 そしてそのまま坂上さんと合流して、そのしゅんとした様子を心配している。

 坂上さんとちょっと目が合うと「何やってんの?」と責められているような気がした。

 ……………僕、そんなに酷いこと言ってる? 学校では今まで通りにしようって言ってるだけで、いじめてる訳でもないのにそんな気分になってくる。

 こうやって、教室で後ろから見ててもしゅんとしてる気がする。

 そして、授業が終わったあと、わざわざ七尾さんにノートを見せてもらいに行く。

 また端っこの方見えなかったんだ? そのくらいなら、いいのに。

 七尾さんと話している海原さんは、やっぱりしゅんとしてて心配されている。

 ……………………これ、僕が物凄く酷い奴みたいじゃないか? 実際、そうなのか?

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