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スズサキ*  作者: さより
意識
3/63

*3

     ✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎


 今まで、あんまり意識したことなかったけど、海原さんって可愛い、よな?

 手嶋君が言うのもわかる気がする。

 僕と自分のノートを見比べて、数学の答え合わせをしている手嶋君に、違うクラスの女子が来て話しかける。

「手嶋君、咲妃知らない?」

 すらっとしていて、頭の良さそうな感じだった。肩くらいまでの髪を一つにまとめている。

 あんまり近くで見たことなかったけど、よく海原さんと一緒にいる子だよな。

「海原なら、あっちで七尾と喋ってるよ?」

 手嶋君が窓の方を指差す。

「あ、ほんとだ。ありがと」

「どしたの?」

「歴史で使う資料集忘れたから借りようと思って」

 言いながら、僕をちらっと見てくる。

 何だ? もしかして、朝のこと海原さんから聴いて? 牽制、とか?

 さっきの女子が声をかけると、海原さんはロッカーに来て、しまってあった資料集を女子に手渡す。

 女子が教室から出て行くのを見送ったあと、また七尾さんのところに戻ろうとする海原さんを手嶋君が呼び止めた。

「さっき、坂上来てたね?」

「うん。資料集忘れたんだって。めずらしいよね?」

 こういう時、何気なく話しかけられるのって、すごいよな。

「海原、頼られてんね?」

「うん。普段は紅実ちゃんのほうがしっかりしてるんだけどね………」

 満更でもないふうに答える。海原さんと坂上さん? は、ずいぶん仲いいんだろうな。

 楽しかったことを話したがる子どもみたいだ。

 でも、手嶋君ってそれわかってて話してるよな? 他の話題だと、海原さんの方からも、っていうのはあんまりないから。

 意外と汚い………………………⁈

 今、僕、何て思った?

 自分の好きな子の気を引きたかったら、それくらい普通のことじゃないか?


 授業が終わって、坂上さんが資料集を返しにくる。

「ねえ、咲妃知らない?」

 僕? 海原さんは見当たらない。手嶋君も席を外していた。仕方なく、僕に声掛けたんだよな? 朝、手嶋君と話してたから、仲いいと思われて?

「………海原咲妃が戻って来たら資料集、ロッカー入れとくねって、伝えてもらっていい?」

 僕が海原さんに伝えるのか? いいよ、って言えば僕が海原さんに伝えないといけなくなるんだよな? 僕が。

「あ………」

「オレ、預かっとこうか?」

 後ろから戻って来た手嶋君が、坂上さんに言って資料集を受け取る。

「ありがと」

 坂上さんは資料集を渡して、さっさと教室を出て行った。

 そのすぐあと、海原さんが戻って来て、手嶋君に話しかける。

「さっき、紅実ちゃん来てたでしょ? 資料集、手嶋くんに渡しといたからって言われたんだけど」

「うん。預かってるよ。はい」

 手嶋君が海原さんに資料集を渡す。

 僕がさっさと返事しといたら………。

 つい最近、弟に言われたことが頭をよぎる。そもそもは自分で言ったことなのに。

 一一一普段できないことがいざという時にできるかよ。

「ありがと」

 海原さんが手嶋君に笑う。

「どういたしまして」

 手嶋君が返す。

 海原さんは受け取った資料集をロッカーにしまって、自分の席に着く。

 手嶋君って、ああいう時にすぐに声掛けたりとか、すごいよな。僕なんか、返事すらできなかった。

 もし、手嶋君みたいにできてたら、話しかけられてたのは僕だったかもしれないのに………。


 手嶋君の対応に少なからずイラっとして、やっと気付く。これ………嫉妬だよな?

 僕、海原さんのこと好きなんだ。


     ✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎


 教室に戻る途中で、紅実ちゃんと廊下で会った。

「さっき資料集返しに行ったけど、あんたいなかったから手嶋君に預けてるよ」

「うん。わかった、ありがとう」

「鳥飼君に頼んだげようと思ったけど、手嶋君に声掛けられてできなかったよ」

 紅実ちゃんがにやにやしながら言う。

「よ、よよよ、余計なことしなくていいってばっ」

「でも、なかなか進展しないでしょ?」

「でも、今日は挨拶できたし。たぶん、明日もできるし」

 うん。一回できたんだもん、明日もできるはず。

「あたし、思ったんだけどさ、鳥飼君って……………」

「なに?」

「あー………弱そうだよね?」

 今ごろ、そんなこと、言う?

 めずらしいな。なんかあったのかな?

「確かに、ケンカとかはしなさそうだけど」

「体薄くてペラッとした感じだもんね。顔も眉毛とか目とか垂れてて何か情けないし。実際、頼りない感じするし………」

「紅実ちゃん、ひどいっ!」

 確かに、やせてるけど、そこがいいんだもん。目も眉も垂れてるけど、やさしそうで、いいじゃん? それに、頼りなくなんかないもん。

「まー、でも、確かに、やさしそうではあるかなーーー?」

 言って、あたしを見て笑う。

「うん………」

 あたしも、思わず笑ってしまう。


 教室に戻って、手嶋くんのところに行く。

 でも、手嶋くんの席って鳥飼くんの前だもんね。近くに行くチャンスではあるよねっ。

 なるべく、視界に入って覚えてもらうのが一番だと思うしっ。

 手嶋くんにはお礼だけ言って自分の席に戻ったけど、ああいう時に、近くだからって話振れる話題があったらよかったんだけどな。なんかないかなー?


     ✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎


 もう、見るのはやめよう。

 また昨日みたいなことがあって、次は本当にキモいとか思われたら、堪えられない気がする。

 今思うと、そういうのも、海原さんのこと好きだったから、だよな。今更気付くとか………。

 上履きに履き替えて、靴をしまう。

 ………今日、遅くないか?

 いつもは、この時間に来るはずの海原さんがいない。

 もしかして、時間ずらされた、とか?

 昨日のことで、その場は取り繕ってくれたものの、やっぱりキモいとか思われたんじゃないのか?

 席に着いて、少しすると海原さんが手嶋君と一緒に教室に入ってくる。

「あー、それで遅かったんだ? 坂上も災難だね?」

「ほんとにね」

 手嶋君はそのまま席に着く。海原さんはロッカーにしまう荷物があったようで、後ろにいるのがわかる。

 やばいな。何か、いるのがわかるだけでこんなに気になるとか。

 ロッカーを閉める音がして、僕の横を通り過ぎて行く。思わず、視線で追いかけそうになるのを堪えて、俯いた。

「おはよ。どしたん? 体調悪いとか?」

 不自然だった態度に、手嶋君が心配してくれる。

「おはよう。大丈夫、何でもないから」

 さっき、海原さんと何話してた? とか、何で遅くなったって? とか、訊きたくて仕方なかった。

 ………でも、さっき坂上さんって、言ってたよな? 海原さんが、じゃなくて。時間、ずれたの、わざとじゃなかったってこと、だよな?


     ✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎


 朝、七尾さんからラインが来る。

《ごめん。今日、英語当たりそうなのにやるの忘れちゃって。早く行って待ってるからうつさせて》

 え? は、早く?

 そんなことしたら、朝、昇降口で鳥飼くんに会えなくなっちゃう。

《早く行く余裕あるなら、自分でがんばったほうがいいと思うよ? あたしも自信ないし》

 これなら、いいかな?

《一応、そのつもりなんだけど、海原さん英語得意だし。間に合わなかったところだけでいいから見せて? 手嶋君の前で先生に注意されたりしたくないから、お願いっ‼︎》

 うーーー。そんなこと言われたら、断れない。好きな人の前でかっこ悪いとことか見せたくない気持ちとかわかるもん。

《ほんとに自信ないよ?》

《うん。いい。ありがとう。待ってるね》

 あーーー、もうっ。昨日も紅実ちゃんが悠仁くんにお弁当のおかず食べられたからって、コンビニ寄るのに付き合ってて、遅くなったし。今日も早く行かないといけなくなっちゃったし。たぶん、会えないよね?

 せっかく1回あいさつできたのに、また言えなくなったりしたらどうしよう?

 教室でだと、なんかついでがないと言えない気がするしなーーー。早めに来てる人とかいるけど、意外と静かだし。そんなに気にされないとは思うけど、あたしが気になる。もしかしたら、鳥飼くんも気にするかもしれないし。

 大丈夫かなー?


     ✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎


 今日も会わなかったな。

 別に、よくあるよな? 今までだって、多分あったし、気にするほどのことじゃない、よな?

 教室に行くと、海原さんはすでに来ていて、七尾さんと話していた。

 七尾さんも一緒とか。やっぱり、嫌だったんだ。僕と会うと嫌だから一緒に早く行こうとか………きっと、そうだ。

 もう、見ないようにしようとか思ってたけど、遅かったんだ。僕みたいのが見てるとか気付いたら気持ち悪くて、避けたくなるに決まってる。

 中学の頃も、女子からは嫌がられてたし、男子でもそんなに話すような相手とかいなかった。そんなのわかってたから、高校では自分から避けるようにしてたのに。

 好きとか、気付く前なら大して気にならなかったかもしれないのにな。嫌なタイミングだ。

 同じクラスだから、顔合わせないとか無理なのに、その度に嫌な顔されるのか?

 1年の頃みたいに隣のクラスくらいがちょうどよかったんだ。それほど遠くもなくて近くもなくて………でも、それだったらきっと、あの時みたいな顔も見ることなかったんだよな………。


     ✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎


 どうしよう一一っ⁉︎ 寝ぐせなおんない。

 この前みたいなことがなかったら、編んで行けばわかんないのにっ。

 でもっ、今日も会えなかったら1週間の半分以上朝会えなかったことになっちゃう。

 どっちもいやだよー一一っ。

 こんなことなら起きた時に髪洗うとこからやり直せばよかった。

 しかも、どんどん時間なくなる。

 紅実ちゃんには先行っててもらおう。

「ごめんねっ、寝ぐせなおんなくてっ」

「結んでけばわかんないやつでしょ?」

 時間ももったいないから、ハンズフリーで話しながら他の準備を進める。

「でもっ、寝ぐせってばれちゃう」

「別にばれてもいいと思うけどね? なんかないの? 寝ぐせ直し用のスプレーとか」

「あっ! でも、待たせちゃうと思うから先行っててっ⁉︎」

「遅刻はしないよーにね?」

「うんっ」

 確か、おねえちゃんが帰ってきた時に使うやつがあったはず。洗面台の下を探ってみる。

 あ、あった一一一っ!


     ✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎


 決定的、だよな?

 3日も続けて朝会わないとかなかった気がする。

 正確には毎日教室で会ってるし、今日だってこのままだったら昇降口で会う、けど。

 電車10分も遅れてて、さっき入って行ったのが海原さんとか………わざわざ時間ずらしたのに会うとか、気持ち悪いの通り越して、怖くないか?

 このままだと、上履きに履き替えるいつものタイミングで鉢合わせるよな?

 このまま、海原さんが教室行くのを待ってるのも、見張ってるみたいで怖がられる気もするし…………………仕方ない、よな? 電車の所為だもんな。


 時間は遅めだけれど、いつものように海原さんが靴を脱いで上履きに履き替えている。

 何やってるんだろう。避けられるとか、嫌がられるとか、中学じゃ普通のことだったのに。

 無理、だよな。意識しないとか。

 昨日よりは離れた位置、斜め後ろから手を伸ばして、靴箱を開ける。

「あ、おはよ」

 え? 他に、人いないよな?

「…………おはよう」

 恐る恐る返すと、海原さんは笑って教室に行ってしまった。

 は? え? 何だ?

 嫌がられてた訳じゃなかったのか? それにまた、あんな顔とか………。

 大丈夫なのか? 僕。


     ✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎


 い、言えたーーーっ。

 遅くなったからぜったい無理だと思ってたのに。もしかして、今日ついてる?

 しかも、鳥飼くんも言ってくれたし。

 すごくない?

 うれしいっっ。


 昼休み、紅実ちゃんと一緒にごはんを食べながら、朝のことを話す。

「よかったじゃん? がんばって寝ぐせ直した甲斐があったんじゃない?」

「うん。だから、しばらくはおねえちゃんの借りようと思って」

 これで寝ぐせ問題は解決だしね。

 でも、あそこで、今日はおそいんだね? とか、きけたらもっとしゃべれてたなー、とは思うんだよね。

 鳥飼くんって、たまに遅かったりすることあるみたいだけど、なんでだろ? ねぼうとかはしなさそうだけどな。もっと、いろいろ知りたいなーーー。

 来週は、あいさつ+もうひとこと、がんばろうっと。

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