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スズサキ*  作者: さより
意識
29/63

*29

「海原さんおはよー。ねえねえ、知ってる? 金曜日ね、鳥飼君が徳永さんとごはん食べてたんだって。どういう関係なんだろうね?」

 教科書を机の中に移したりしていると、七尾さんが声をかけてきた。

「そうなんだ?」

 知ってるけどっ。あんまりききたくないっ。

「違和感ありあり〜」

「え? そう?」

 だって、2人とも背高いし、モデルさんみたいじゃない?

 お似合いだなって、思っちゃったけど。

「そうだよーー。どう見ても合わなくない? 徳永さん美人なのに、鳥飼君ってかっこよくもないし、暗いし何考えてるかわかんないとこあるし。どう考えても合わないよね?」

「鳥飼くん、暗くないよっ?」

「そう?」

 あ…………どうしよう? ばれちゃうかな? でもっ、悪く思われたままにしときたくない気がする。

「あ、朝とか、おはよって言ったら、ちゃんと返してくれるし、やさしいんじゃないかな?」

 これくらいなら、ありだよね? ふつうだよね?

「海原さん、鳥飼君に挨拶するの?」

「え? しない?」

 あ、しないかも………。相手から言われたら返すけど、自分からって男子は鳥飼くんくらいかもっ。もしかして、ばれたっ?

「でも、そういえば鳥飼君って、お土産あげたときお礼言われたことあったかも。別に鳥飼君にあげたわけじゃないのに。木村君とも結構話してるみたいだよね?」

「そうだよ」

 よかったっ。ばれてないっぽいっ。

「木村君、鳥飼君のことサッカー部誘ったって言ってたし。断ったらしいけど」

「サッカー部、ことわったんだ?」

「まぁ、運動できるようには見えないもんね。それなのに、ケンカ止めに入ったり、よくわかんないよね? 去年の体育祭とか覚えてる?」

「覚えてないっ」

 去年の今ごろはまだそんな感じじゃなかったし。

 ほんとだっ。どんなだろっ?

 走るのとか早いのかな? 足長いもんねっ? 何出るのかな?

 もうすぐ、種目決めあるよね? かっこいいよねっ? ぜったいっ。

 あーーーんっ、去年の体育祭とか見とけばよかった!

「まーー、興味ないか一一。木村君は去年、騎馬戦上だったらしいんだよね。今年も上だったりしないかな?」

「何で?」

 七尾さんが小声で、こっそりと教えてくれる。

「だって、上になる人って脱がないといけないでしょ? 絶対腹筋とか割れててかっこいいと思うんだよね」

 言って、ふふっと笑う。

 ぬぐっ? そう言えば上、着てなかった、かも…………?

 た、たぶん、ないよねっ? うん。たぶん、上って軽い人とか運動部とかの目立つ人とかっ………。

「海原さん顔赤くない? 手嶋君のこと想像してた?」

「ち、ちがうもんっ! ちがうもんっ‼︎ だいたいあたし手嶋くんとかちがうもんっ」

 ………も、もしかして、鳥飼くん上だったりしたら、とか………。やだっ、あたしってばっ。鳥飼くんが上とか、ないってばっ。

 そう思いつつ、ちょっと想像したりなんかして………うわーーっ、あたしヘンタイだよっ。

「あ、あと、そろそろ席替えするかもよ?」

「席替え?」

「うん。さっき、赤井さんが先生に言ってて、もう1ヶ月以上たつもんなー、ってなってたから」

 席替えっ? 1番前で先生にノートのぞかれるのとか、当てられやすかったり、雑用頼まれやすかったのも嫌だったけど、もしかして鳥飼くんの隣になれちゃったりしてっ。

「もし、そうなったらね、海原さんの席が木村君と近かったら替えてくれない?」

「いいよっ」

「私も手嶋君と近かったら替えてあげるし」

「だから、あたし、手嶋くんちがうってば」

 ほんとは鳥飼くんと近かったら替えてほしいって言いたいっ。でも、そんなこと言ったらバレちゃうっ。


     *♠︎*♠︎*♠︎*


「めんどくさいなー一」

 手嶋君が昼休みの後教室に戻ってきて、プリントを見ながらため息混じりに言う。

「どうしたの?」

「体育祭の種目決めだって」

「体育祭………」

 いやな行事だよな。体育祭とかなくていいのに。

「手嶋君、体育委員だっけ?」

「そう。もういっそみんなが全種目出ればいいのに」

 決めるのが面倒なだけで、体育祭自体が面倒な訳じゃないんだ?

「………手嶋君は、走るの早いからいいけど体育苦手な人の身にもなってよ」

「鳥飼って、去年何出てた?」

「100m走」

「何で? 短距離のイメージないけど?」

「一番時間が短いし、出る人多くて大して誰も見てないから」

「そんな理由?」

 言って、笑う。

 手嶋君はわかってない。

 全員参加競技以外を1種目で済むように目立たないでいるのに、どれだけ気を使ってるか。

 去年は全員参加競技以外で2種目出る人も半分以上いたもんな。

「今年は1500とか出たら? あれ、全学年みんな一斉に走るからわかんないんじゃない?」

 そんな訳ない。校内でも僕より高い人なんてそんなに見ないし、長距離ってあんまり背の高い人はいない気がする。

「その間に騎馬戦とかやってくれるなら、出てもいいけどね」

 それなら、多分みんなそっち見るだろうし、1種目出なくて済むから、時間が長くても堪えられる気がする。

「騎馬戦燃えるじゃん? オレ去年騎手役だったんだけど、結構取ったよ」

 自慢気に話してくれる。

「手嶋君って、反応もいいもんね」

 こういう人がいるからなくならないんだろうな。

「でも、鳥飼だって不意打ち得意じゃん?」

「1回成功したくらいで、得意とは言わないよ」

「今年騎手やったらいいのに」

「冗談…………」

「結構本気だよ? リーチ長いからそういうとこでも有利じゃない? 馬の上で立ったら誰も届かなそうだし」

「能力同じなら、そうかもしれないけど………それに騎手は軽い人の方が機動力とか………」

「でも、鳥飼って痩せてるし、いけるんじゃない?」

 それ、けっこう気にしてるんだよな。

 この前、燕が夕飯抜きだったのに、僕は食べろって言われたのも、そのせいだと思うし。

 小3の家庭訪問の時に担任から、ちゃんと家で食べてるのか訊かれたの未だに気にしてるんだろうな。

 大体あれも燕が家で食べてないとか言ったから………運動量も違うし、お前に比べたら食べないの当たり前だろ? と思う。

 思わず、ため息がこぼれる。

「身長の割には軽い方だと思うけど、そこまでじゃないよ」

「そう? 何キロ?」

「いや、まあ、それは…………」

「何話してんの?」

 木村君まで戻って来て、手嶋君が今までの話を簡単に説明する。

「それ、いいんじゃない? 何キロ?」

 言いたくない。

「あ、じゃ、俺当ててやろっか?」

「え?」

 言って、木村君が僕に立つよう促す。

 嫌な予感はするけど、木村君が嬉々として待っているのを見ると、断るのも気が引けて、恐る恐る立ち上がる。

「よっ」 

「はっ? ちょっ……‼︎」

 思わず、木村君を突き放す。

「そんなイヤがんなくてもいいじゃん?」

「ご、ごめん。でも………」

 いきなり抱えられるとは思わなくないか?

 あまりのことに机の横にしゃがみ込む。

「はははっ。で、何キロ?」

 手嶋君が面白がって、木村君に訊く。

「48」

「そんなに軽くないよっ‼︎」

 勢いよく立ち上がり、否定する。

「ははは。嘘だって。でも、かなり細いよな? ちゃんと食ってる?」

「食べてるよ」

 そんなに食べてなさそうに見えるのかな?

「で? 本当のとこは?」

 嫌だ。言いたくない。

「こっそりでいいからさ。誰にも言わないし」

 手嶋君が面白そうに耳に手を当てて訊いてくる。

 これ、言わないとしつこく訊かれる感じなのかな?

 仕方なく、こっそりと答える。

「マジで⁉︎ オレと一緒じゃん⁉︎」

「は? 嘘でしょ?」

「いや、マジで」

 手嶋君も驚いている。

 ………一緒? え? 身長僕のが高いのに? 手嶋君だってそこまでがっしりはしてないように見えるのに? ………そんなに?

 確かに、自分でも細い方だとは思ってるけど……ショックすぎる…………。

「てっしぃって4月の身体測定の時、5………」

「うわあぁぁぁっ‼︎ いい。言わないで‼︎」

「俺の感覚もいいとこいってたってことじゃん?」

「そんなわけないでしょ⁉︎」

「はははは。騎手、大丈夫なんじゃない?」

「絶対嫌だよ。大体上半身裸っていうのも訳わかんないし、もしそんななったら、予行練習と当日絶対休むからね⁉︎」 

「仕方ないなーーー。でも、鳥飼と高さ合う馬とかいるかなー?」

「そこは、ちゃんと合わせるし、できればすぐ取られるか、潰れる方向が理想だけど………」

「全然やる気ないじゃん?」

「だから、体育祭とかなくていいんだって」


     *♡*♡*♡*


「席替えするぞーー」

 今日の学活は体育祭の種目決めだけど、その前に席替え。

 七尾さんの予想通りっ。

 鳥飼くんか七尾さんの近くになりますようにっ。

 24ばんっ⁉︎

 …………………鳥飼くんが今の席のままなら隣だ。

「決まったら、黒板に名前書けよ一一」

 みんながくじを引き終わって、先生が言う。黒板には席と同じマス目の表が書かれて右上から数字が振られる。

「海原さん、何番?」

「24番。七尾さんは?」

「31番」

「窓際だけど、いちばん前だね?」

「そうっ、黒板も見えにくいし、先生に当てられやすいし、最悪だよね?」

「木村くん、何番だった?」

 こっそりと確認する。

「わかんないっ。盗み見しようと思ったけど、見えなくて」

「そっか」

 もうすでに机を動かしはじめてる人もいて、なかなかあわただしい。

 とりあえず次の人が机を移動できないから、24番の方に動かす。

 鳥飼くん、何番だったんだろ?

 鳥飼くんの方を見ると、窓際のほうに机を動かしはじめてる。

 もしかして、七尾さんに替えてもらったら、席近くなるっ?

 あ、でもでもっ、笹丘くんも窓際っ?

 2人とも前のほうにいるし、どうなんだろっ?

 もしそうなら、いくら鳥飼くんの席が近くても、後ろが笹丘くんとかたえらんないっ。

「もしかして、ゆずそこ? いい席引いたな?」

 木村くんが話しかけてくる。

 あたしの横にいた七尾さんがそうだと思ったみたいだった。

「え? あ、木村君は?」

「俺、ここ」

 言って、隣の2こ前に席を移動させて座る。

 あ、これ。替ってって言われるやつ。

「海原さん、替って?」

「あ、でも、あたしいちばん前は………」

「木村君と近かったら替えてくれるって言ったよね?」

「言ったけど………」

 だって、笹丘くんいるしっ。やだっ。ぜったいやだ………とは、言えないんだよね。

 斜め前の前って、微妙じゃない?

 本来の席でも斜め後ろの2こ後ろだから距離的にはあんまり変わんないよねっ?

 でも、前だったら後ろ向かないと見れない………そういうの、わかるっ。あたしだって鳥飼くんのこと見てたいって思うもんっ。

 仕方ないか一一っ。

「キャラメルオレだからねっ?」

「もちろん」

 あーぁ。せっかく後ろの席だったのにな。

 しぶしぶ31番の位置に机を移動させる。

 ………………………あれっ? 鳥飼くん、後ろっ? な、なんでっ? え?

 これっ、もしかして、日ごろ七尾さんに協力してあげてる、あたしへのごほうびっ?

 うれしいんだけどっ! これからはちゃんと姿勢よくして、後ろ髪も気をつけようっ!

「よ、よろしくね?」

 なんか、ちょっと緊張するっ。

「あ、うん」

 鳥飼くんもちよっと緊張してるっ?

 でも、席近かったら話してても変じゃないよねっ?


     *♠︎*♠︎*♠︎*


 席替えって………僕も普通にくじ引くんだよな?

 目が悪かったりで、代わってもらったりというのは当人同士に任せるという方針だから、お互いがよければどこの席に変わることも可能、なんだけど…………後ろの席って競争率高いもんな。変わってくれる人なんかいないだろうし………。

 僕が前の席になろうもんなら、邪魔でしかない。

 とりあえず、後ろ、後ろの席だ。

 そう思いながらくじを引くものの、やっぱりそんなにうまくはいかなくて、33番。前から3番目…………。

 でも、まあ、一番端っていうのが救いだな。

 木村君は斜め後ろか。手嶋君は教卓の前………たまに寝てたりするけど、大丈夫かな?

 海原さんは?

 真ん中のあたり、後ろの方にいて、七尾さんと喋っている。席近かったのかな?

「鳥飼、33?」

 後ろから笹丘君に話しかけられる。

「あ、うん」

「変わって欲しいんだけど?」

「後ろ? いいよ」

 僕邪魔だもんな。少しでも後ろの方が…………。

「いや、前。32。オレ後ろがいんだよね。鳥飼の後ろなら、内職しててもバレにくそうだし」

 笹丘君は頭がいい。成績も1番とか2番とかきくし。多分、授業中に他の勉強をしていたりもする。

 ただちょっと、きついところが苦手だ。

 だいたい席は決まってきてて、僕の隣には赤井さん、その前は室見君だった。

 笹丘君と変われば、僕の隣は室見君というわけだ。隣も女子より男子の方が話しやすいもんな。小テスト交換して採点する時とか。

「いいよ」

 前の席の人が来ない。

 誰だろ? あんまりうるさい感じの人じゃないといいけど。できれば男子…………。

「あ、よろしくね?」

 え?

 近い距離で、海原さんと目が合う。

 あれ? 後ろの方にいなかったか?

 海原さんは僕の前に席を並べて、座る。

「あ、うん」

 前?

 近くないか?

 今まで、前の席に女子がいたこととかあっても、気にならなかったけど、こんなに距離近かったか?

 席が決まると先生が海原さんに空白の席表を渡す。順番に自分の名前を書いて後ろに回していくということだ。

「鳥飼くんの名前も書いといたよ」

「え、あ、うん…………」

 海原さんに回された席表には海原さんの字で僕の名前が書かれている。

 ただそれだけなのに、ドキッとしてしまう。

 どういうつもりなんだろう?

 僕の字じゃないって気付かれるよな? でも、消して書き換えるのも…………このまま笹丘君に渡して

大丈夫なのか?

 席替えはくじだった訳だけど、後ろの方にいたよな? それに、今話しかけて来たし…………。みんなにはバレないようにしようって、お互いに了承したはずなのに。

「でもこれ…………」

 僕が気にしているのが分かったのか、席表に何かを書き足す。

「鳥飼くんの後ろは笹丘くんだよねっ? その後ろはっ?」

 少し確認して海原さんに教える。

「横山君」

「………次はっ?」

 結局、同じ列の席順の名前を海原さんに全部書かせる羽目になり、申し訳なかった。

 海原さんはそんなことはお構いなしに、満足そうににこにこしながら隣の席の女子に席表を渡した。


 席替えが終わった後は、残りの時間で男女に別れて体育祭の種目決めをすることになった。

 体育委員の手嶋君が頑張ってる。手嶋君って、こういう時の仕切りも上手なんだよな。盛り上げるのとかうまいし。感心する。

 とりあえず、100m。

「鳥飼、1500出ないの?」

「出るわけないでしょ? 木村君の方が向いてると思うけど?」

「何で?」

「サッカー部って、ずっと走りっぱなしだから1500くらい軽いんじゃない?」

「んじゃ、俺1500も」

 本当に出るんだ? こういうとこ、木村君もかっこいいよな。

「じゃ、あと狩り人競争は鳥飼ね?」

「は?」

「100mのヤツがみんな2種目出たらちょうどいいんだよね」

 手嶋君が急に話を振ってくる。

 そんなの、最初に言ってなかったよな?

 でも、メンバー表を見ると手嶋君の言う通り、100mの人は僕以外みんな2種目出ることになっていた。

「それともオレのリレーと代わる? ちなみに、リレーの方が配点高いけど」

 ちょっとにやにやしてるし、早く決めてしまいたいんだろうけど………。

 どっちも嫌だ。とは、言えない。

「僕、走るの遅いし…………」

「じゃ、狩り人競争ね?」

 嫌だ。僕にとってはどっちも最悪だ。確かにリレーよりは注目度は低いかもしれないけど、いっしょに走ってくれる人が見つからなくてゴールできない様が目に浮かぶ、そして遅くなれば遅くなるほど注目を浴びてしまう………。

 だいたい何で100mの人が2種目? いっそ手嶋君が5種目くらい出てくれればいいのに………とも、言えないよな。

 多分、昼休みに話してたから、手嶋君に目つけられちゃったんだ。こんな事なら1500の方がまだましだった気がする。

「どうせ2種目出なきゃならなくなるくらいなら先に軽めの立候補しといた方がラクじゃん?」

 誰かが言っているのが聞こえた。まったくその通りだなと思って、さらに落ち込む。

 今年は理系クラスで男子多くなってるのに、何で2種目出ないといけないんだろう? 1年の頃は今より男子少なくて、1種目で済んだのに。

「いい?」

 手嶋君が僕に確認してくる。みんなも、早く終わらせたいと思っていて、僕に注目が集まっている。

 こんな中で断れる勇気と理屈が欲しい。とは思うものの、そんなものはすぐには見つからない。

「………うん」

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