*28
「最初、お店で買って来たのかと思った」
「ほめすぎたよっ」
言って、海原さんが照れる。
別に社交辞令とかお世辞とか、そういうつもりで言ったんじゃないんだけどな。
女子ってこんな感じなのか?
それとも、海原さんが?
おにぎりの方は作って来たって言ってたし、普通の家でも使うようなラップで包んでたから、そうなのかと思ったけど…………。でも、ラップサンド? は本当に来る時にでも、買ってきたのかと思ったもんな。
でも、よく考えたら昨日、作って行くのに嫌いな物ないか訊かれたもんな。
家で作るお弁当なのに、こんな可愛い紙に包んでたり、シールで中身わかるようにしてあったり………中身もちょっとカラフルで可愛い感じとか……………。
家庭料理ってもっと、こう………いろいろ焦げてたりとか、ぐちゃっとなってたりすることも多いものじゃないのか?
「海原さんって、こういうのよく作るの?」
「お出かけの時は、おにぎりとかサンドイッチとかよく作るよ? 紅実ちゃんと一日中遊ぶ時とか持って行くし。この前は紅実ちゃんがサンドイッチ作るって言ってたから、あたしがスープとか持って行ったんだけどね…………」
海原さんが坂上さんと遊んだ時のことなんかを教えてくれるけど、ちょっと頭が追いつかない。
父さんって、そこまで料理うまいわけじゃなかったんだな。
こういうのはお店で買わないと食べられないと思ってた。
ちらっと海原さんの方を見ると、へへっと笑う。可愛い。
海原さんが食べ終わったランチバックを片付けているのを見て、自分の食べ終えたラップサンドの包みをまとめる。
ちゃんと味わって、食べたつもりなのに少し寂しくなった。
もっと大事に食べればよかった。
もう食べられないかもしれないのに。
「鳥飼くんは?」
「え? あ、ごめん。何が?」
「おやすみの日、どんなことしてるのっ?」
「家にいる事も多いけど、山とかが多いかな?」
「鳥、見に行くの?」
「うん」
こういうの、暗いとか面白くない奴とか思われないか?
少し心配しつつも、今くらいの時期に見られる種類だとか、今まで見た野鳥の話なんかをした。
「海原さん?」
「なにっ?」
「眠い?」
「ううんっ。そんなことないよっ?」
今、ちょっとうとうとしてたよな? 弁当とか作るのに早く起きたのかもしれないし。今日も可愛い格好してるもんな。普通でいいのに………まあ、普通って言っても、そんなに簡単じゃないんだろうけど。
僕に目が覚めるような面白い話ができるわけでもないしな。
「ちょっと寝る?」
「え? い、いいよっ! それに、こんなとこだしっ」
「大丈夫だよ。ほら」
言って、周りでごろごろしてる人たちをちらっと見る。
子どもが元気に走り回っている近くで、大人の方がうつらうつらしていたり、カップルと思われる2人が昼寝をしていたりする。
「で、でもっ」
まあ、1人じゃ寝れないよな。
そう思って僕が先に横になって、隣に来るように促すとためらいながらも横に並んでくれる。
「こういうとこ、気持ちいいよね?」
「う、うんっ」
………これ、けっこう…………あんまり、考えてなかったけど…………………顔、近くないか?
普通に立ってたらこんなことないもんな。座った時にも思ったけどもっと距離があったし………これだと尚更……………。
「この前、写真撮ったのもあるけど、見る?」
「うんっ」
ちょっと気を紛らわそうとして、うつ伏せになって、スマホの写真を見せる。
そして、画面を覗くために海原さんがまた少し近付いてきて、余計にどきっとしてしまう。
やましい気持ちがあって言った訳じゃないけど、これ……………ちらっと、隣を見ると海原さんが僕のスマホの画面に見入っている。
ほっぺた……………触ったら柔らかいんだろうな……………。
あ、寝るかな?
少しうとうとした後で、かくんと横向きになって、すーすーと寝息が聞こえ始める。
可愛い。
その後で、はっとする。
僕が提案した訳だけど、なんかこう、無防備というか…………可愛くて仕方ないんだけど、自分がどうすればいいのかわからない。
起きたら、海原さんの行きたいって言ってた桜並木の方に行って…………………起きなかったら? どうやって起こしたらいいのかなんてわからない。声かけるだけで起きるのかとか…………。
いや、そんな長くは寝ないよな。その間、僕が荷物とか見てたらいいだけだし。
起き上がって、荷物を確認する。海原さんのバックが弁当のも合わせて2つと僕のが1つだけ。そんなに多くはないし。
周りを見回して、またどきっとする。
足………ハーフパンツだけど、丈が短めで海原さんの太もも辺りまでが目に入る。
さっきまで、こんなに見えてなかったよな? この前のスカートの時より、なんか……………。
罪悪感を感じて、目を逸らす。
そんなに人いないけど……………近く通る人がいたら見られるよな?
ブランケットでも持ってくればよかった。いや、テントの方がいいか。紫外線とかもあるし………とりあえず今、かけるもの…………。
何もない、よな?
自分の着ているシャツなら………とは、思ったものの、戸惑う。
大丈夫かな? 半日も着てないし、ちゃんと洗濯してたやつだし、大丈夫だよな?
ただ、こういうことがあるとは思ってなくて、下は半袖だった。
でも、海原さんの足見られる方が嫌だもんな。
羽織っていたシャツを脱いで海原さんの足が見えなくなるようにかける。
…………………こんなちっさい?
海原さんにかけたシャツがやけに大きく感じる。
それをまた可愛いとか思ってしまう。
とりあえず、あと、顔の方………あんまり変わんないだろうけど、僕がこっちにいたら陰になるよな?
自分の体で陰を作るように、座っている場所を移動する。
寝てるのが可愛すぎる。いや、いつも可愛いんだけど、特別な感じがする。
可愛くて、ずっと見てられ………………ない。無理だ。無理無理。ずっと見てたら、変な気分になってくる。
ほっぺた触りたいとか、頭撫でてみたいとか、髪とか……………。
目を逸らして、聞こえてくる野鳥の鳴き声から姿を探したり、SNSのチェックをしたりするけど、集中できない。
ちらっと、また海原さんに視線を戻す。
…………………少しくらいなら、いいかな?
まとめきれてない髪が、ほっぺたにかかってるから、それを戻すだけ…………。
少しだけ、指が頬に触れて、髪を戻す。
少し触れただけなのに、髪の柔らかさとか、ほっぺたのきめ細かいなめらかな感触が指から伝わる。
…………………まだ起きないし、もうちょっとくらい、いいよな?
もう一度触ろうとしたところで、海原さんが目を開けたのが分かって、恥ずかしいくらい慌ててしまう。
海原さんも慌てて起きて、僕に言う。
「ごめんねっ。あたしっ、寝ちゃったっ?」
「うん。でも、大丈夫だよ」
気付かれないように、海原さんにかけてあったシャツを回収して、何でもなかったように羽織る。
「ごめんねっ」
「謝らなくていいよ。今日、早く起きたんじゃない? お弁当とか」
「そういうんじゃないのっ!」
「別に、気にしてないよ?」
「う、うんっ。ごめんねっ?」
*♡*♡*♡*
「あははははははっ、ふっ、くっ……ふふっ、あはははっ」
「そ、そんなに笑わなくてもよくないっ?」
月曜日の朝に、紅実ちゃんにデートのことを話すと思いっきり笑われる。
「だ、だって……ふふっ…はっ……デートで爆睡とか…………ふふっ、ふ………」
予想はしてたけど、爆笑って………。
「だって、着て行こうと思ってた服だと大変かなって、気になって………あと、手つなぐかもとか思ってハンドケアとかネイルケアとかしてたら寝るの遅くなっちゃって…………」
「まあ、いいんじゃない、お昼寝デートでも……ぷふっ……お昼寝…………っ…」
涙出てるしっ。あたしだって、自分でありえないって思ってるのにっ。
「で? その後は? 手つなげたの?」
「………つなげなかったっ」
「情けなっ。手繋ぎたいって言えばよかったのに」
「だって、寝ちゃったあとだったし、はずかしかったし、冷たい飲み物とかも持って来てくれてて、感動しちゃって、気が付いたら駅だったんだもん」
「じゃ、お弁当は? お弁当は喜んでくれたんじゃない?」
「うんっ。それはねっ、おいしいって言ってくれたよっ。でねっ、また作って来てもい? って、きいたら、いいよって」
「よかったじゃん? おにぎりとラップサンドでも気にしてなかったんでしょ?」
「あ、でもね?」
「何?」
「次はふつうのがいいって」
「普通の?」
「なんかね、シマエナガちゃんのおにぎりはかわいいから食べづらいんだって」
「あははははははっ。よかったじゃない。次頑張れば? 爆睡しないように」
「わかってるもんっ‼︎ 紅実ちゃんひどいっ‼︎」
「ははははっ。あ、あれ、鳥飼君じゃない?」
「あ、ほんとだっ…………」
でも、一緒にいるの、徳永さん?
なに話してるんだろ?
っていうか、いっしょに登校とかずるいっ。
「話し掛けないの?」
紅実ちゃんが2人を指さして言う。
「だって、学校ではあんまり仲いいって思われたくないみたいだし…………」
「付き合ってるのバレたくないだけでしょ? 普通に話すくらいはいいんじゃない? あたしだって手嶋君とか普通に喋るし、同じクラスの男子なんかもっと喋るよ?」
「たしかにっ!」
そっか。しゃべっちゃダメとは言われてないもんね?
ふつうにしゃべるくらいなら大丈夫だよねっ?
でもっ、あたし男子とふだんしゃべんないもんな…………。
「紅実ちゃんは、どんな話するっ?」
「ん一一、授業の話とか部活の話とかかな? テレビの話とかもするけど」
「そっか。がんばるっ」
そうだよっ。付き合ってるとは言えなくても、女子の中ではいちばん仲いいかも、くらいならいいよねっ?
昇降口の近くで、紅実ちゃんと別れたあと、鳥飼くんが靴を履き替える横で徳永さんが何かしゃべってる。
今は、やめたほうがいいかな?
ちょっと戸惑っているうちに、鳥飼くんはあたしの後ろを通り過ぎて行く。
あ、行っちゃ…………。
「おはよう」
慌てて顔を上げると、ちょっとだけ目があって、すぐにそらされた。
「お、おはよっ」
きこえたかなっ? 声出てなかったかもっ。
やっぱりっ、学校でもしゃべりたいよ一っ。
*♠︎*♠︎*♠︎*
「おはよ」
校門の前で、後ろから徳永さんに話しかけられる。
「おはよう」
何で朝から会うんだろう?
当たり前のように横に並んでくるけど、特に会話はない。
僕の背が高いからって事とは別の意味で目立つし、離れて歩きたい。
こういうの急ぐから、って言って先に行ってもいいかな?
「いつもこの時間?」
「まあ、だいたいは」
無理して話題振ってくれなくてもいいから、離れて欲しい。
それとなく離れようとすると、また話し掛けてくる。
「ねえ、この時間だったらもう、ヒロキ来てる?」
「来てるんじゃない?」
手嶋君って朝練がある時は早いもんな。ない時は結構ギリギリのことが多いけど。
「そっか」
その後はしばらくまた何も話さない。
………こういう時って、僕が手嶋君に用事? とか訊き返すべきなんだろうけど、できることなら関わりたくないんだよな。
「ヒロキと仲いいの?」
「席が近いから他の人よりは話すけど、そのくらいだよ」
「ふーーん?」
僕の回答に全く興味のない反応。
特に用があるわけでもなさそうなのに、隣を歩いて来る。
そして結局、一緒に昇降口まで来てしまった。
ここでそれぞれの靴箱に分かれるかと思ったのに、まだついてくる。
「自分の方、行かないの?」
「行くけど、何であんたに指図されなきゃいけないの?」
「そういうつもりじゃ…………」
訊いただけで、行け、とは言ってない。僕のこと気に入らないなら関わらないでくれればいいのに。
これ、あれだよな? 手嶋君と話したいけど話せないからまず近くから、みたいな。
手嶋君のこと好きなら何で断ったんだろう?
後ろを人が通る気配があって、横を向くと海原さんだった。
昨日、寝てる時に触ってしまったことを思い出して、罪悪感に襲われる。
大丈夫だよな? 昨日ラインした時もバレてないみたいだったし。
…………………挨拶くらいなら、普通だよな?
海原さんの後ろを通る時、さり気なく挨拶して行く。
その後ろで、海原さんの小さい声が聴こえた。
「おはよ」
………………これくらいのことで嬉しいとか………今日も、がんばろう。
「鳥飼クンって、ああいう子タイプなんだ?」
「…………え?」
挨拶だけで、何で?
「鳥飼クンくらいデカくても、ああいうちっちゃくてかわい子ぶってんの好きなんだ? あざといだけなのに」
「は?」
「あたし、ああいう子って大っキライっ!」
言って、徳永さんは4組の下駄箱の方に行ってしまう。
な、何だ? 嫌い? 海原さんのこと? あざとい………?
「幸穂と一緒だったんだ?」
坂上さんが、話しかけてくる。
「あ、うん。校門の前で会って………知り合い?」
「小学校一緒なの」
「今は?」
「たまに顔合わせたら話すくらい?」
「そうなんだ?」
「何話してたの?」
言えなくないか? 海原さんのこと大っ嫌いとか。
でも、坂上さんなら言わないかな?
「何?」
「……………あざといって、本来の意味で合ってる?」
「そうね。でも、幸穂が咲妃のこと言ってたんなら、オトコの気引くためにかわい子ぶってて気に入らないってとこじゃない?」
坂上さんって勘もいいし、ストレートに言うからわかりやすくていいんだけど、ストレートすぎると言うか………すぐ近くに海原さんいるのに、聞こえたらどうするんだろう?
「でも、海原さんってそんなことしないよね?」
「誰にでもってことはないけど、普通にするんじゃない?」
「海原さんが?」
「ま、あの子のは天然だと思うけどね」
言って、坂上さんは海原さんの方に行ってしまった。
海原さんが、男の気を引くためにかわい子ぶってるってこと? 天然って事は、そういうつもりでやってるんじゃないって事、だよな? もし、そういう事してるの見て、僕普通でいられるのかな?
そしてその人がいい人で、海原さんの事好きになったりしたら………海原さんもその人のこと好きになったりしたら、どうしたらいいんだろう?
だいたい、何で僕みたいなのと付き合ってくれてるのかもわかんないし。




