*27
やったっ。あしたっ、デートっ♡
どうしようっ。うれしいっ。
ドライヤーで髪を乾かしながら、明日のことを考える。
11時っ。またホームまで来てくれるって………これっ、あいされてるって感じっ?
やだっ。あいされてるとか………。
ふふっ。もしかして、おいしいねっ、とか、これからも作って欲しい、とか言われちゃったらどうしようっ? プロポーズみたいじゃないっ?
やだやだやだやだっ。プロポーズとかっ………。まだ先のこととかわかんないのにっ。しかもつきあいだして今日でまだ2日目だよっ?
まだ早すぎるってばっ。
ただの自己満足なだけなのにっ。
でも、最初だし、期待しちゃったりするよね? あたしも、がんばろうって思っちゃったりもするけど、慣れてきて当たり前みたいになったらいいなっ。
すきなものもきけてよかった。紅実ちゃん言ってたみたいにからあげだったら………それはそれで喜んでくれたのかもしれないけど。最初だもんね。ふつうに、食べなれてるみたいなのがいいよね。
お父さんもお母さんも、あたしたちが小さい頃は遠くに行くっていうより、近場でピクニックとか多かったし。
何するって訳じゃないけど、走り回ったり、刺繍の道具持って行ってやってた時もあったな。
外でやると映画とかドラマみたいで気分があがるんだよねっ。
慣れてきたらお弁当たべた後は、刺繍とかしてて、鳥飼くんはちょっとまわりで鳥探してたりするのかな………って。やだっ。だから、先のこととかわかんないんだってばっ。
………でも、ちょっと想像するくらいは、いいよね?
髪を乾かし終わって、鳥飼くんのラインをもう一回確認する。
こうやって見かえしてると、その時のことを思い出してまたどきどきしたり、はずかしくなったりするけど、そのときのうれしかったことまで思い出す。ふふっ。
…………あ、そうだっ。鳥飼くんに確認のライン送っとこっ。一応、この前の公園の話したあとだから、間違えないと思うけど、はっきり確認しなかった気がするし。
一一桜並木のとこ、行くんだよね?
おぼえてくれてるっ。
一一うんっ。行きたいっ!
…………歩くとき、手つないだりとかするかなっ? デートだもんねっ。そのくらいするかもだよねっ?
ハンドケアとかも、念入りにしとこっ。
お弁当はあした朝ちょっと早起きして作って、髪もまた巻いて行こ。
服は、水色のスカート………あ、でもっ、スカートだとレジャーシートとかで座るとき、気になるかな?
風強かったりしても、気になるもんね。ハーフパンツみたいなの方がいいかな?
急に不安になって、クローゼットをあさる。
このハーフパンツだと、上がこれだとビミョーだよね? あーーんっ。どうしようっ?
*♠︎*♠︎*♠︎*
今日、海原さんの顔見れるかな?
髪乾かしてないって聞いて、いろいろ想像してしまった自分が申し訳なかった。
一一電車乗ったよ✌︎
一一何両目?
返信がなかなか来ない。
一一ごめん。わかんない( ; ; )
一一どこから乗った? 階段下りたところくらい?
一一エスカレーターだった。下りてすぐのとこから乗ったよ。
一一わかった。待ってるね。
ラインを送信して、3両目のあたりに向かう。エスカレーターだったら、多分ここだ。この前もここだったし。
電車をいくつか見送ると予想通り、海原さんが出て来る。
すぐに僕に気付いて嬉しそうな顔で手を振る。
そんな顔をされても、単純に喜べなくて戸惑う。嬉しいのに、どんな反応をしたらいいのかわからない。
こういうの、慣れるのかな?
しかも、人混みを焦ったそうに避けながら、僕のとこまで来ると安心したような顔をする。
「ごめんねっ、待ったっ?」
「待ってないよ。人、多くなかった? 大丈夫?」
「うんっ。大丈夫だったよっ」
言って、へへっと笑う。
可愛い。こういうの、当たり前になるのかな?
髪もまたふわふわしてる。
この前とは違って、まとめてるのに、髪が短いせいで後毛とか…………。
昨日いろいろ考えてしまったことを思い出して、ちゃんと見れなかった。
「荷物、持つよ?」
「大丈夫だよっ。今日、なんか鳥飼くんも荷物多いしっ」
確かに、今日はこの前より荷物多いけど、バックパックにしたから手も空いてるのに…………もうちょっとがっしりしとけばそんなこと言われなかった?
「そんなに、頼りない?」
海原さんははっとしたように僕を見て、目が合うとすぐに俯いた。
あ、今、言い方、嫌な感じじゃなかったか? 海原さんも気悪くしたり………。
「…………じゃ、お願いしてもいっ?」
言って、申し訳なさそうに弁当の入っていると思われるランチバックを渡してくれる。
ちょっと無理矢理だったよな。でも、もう少しくらいは頼りにされて、あまえられたりとかしてみたいと、思ってしまう。
「鳥飼くんっ、えと………」
「何?」
「ありがと」
恥ずかしそうに、でも、僕を見て言ってくれる。可愛い。
「あ、うん…………」
でも、うまく言えない。
ただの自己満足のつもりだったのに、そんな顔をされると、もっと頑張りたいとか思ってしまう。
「荷物もってくれるのね、助かるしっ、うれしいっ」
………さっきから、申し訳なさそうな、とか思ってたけど、遠慮してただけだったり?
そして、僕との距離を縮めてくれる。
近い。海原さんのいる方、左手空いてる………頭、撫でるくらいとかなら……………。
「最初、どこ行くっ?」
海原さんが見上げて来て、はっとする。
「あ………うん。先にお昼食べる?」
いや、何考えてるんだ?
いくら彼女だからって、いきなりそんな…………。せっかく可愛くしてるのに、僕が触って変になったらどうするんだよ?
そうは思うものの、こうやって普通に歩いてるだけで、海原さんの頭が目に入って来て、そのせいで昨日想像してしまったことを思い出してしまう。
だから、ないって。
せっかく一緒にいるのに、そんなことを考えてしまって海原さんとの話があまり頭に入ってこない。
とりあえず、芝生広場でお弁当を食べようということになったことだけはわかる。
広場に着くと、海原さんがレジャーシートを広げてその上に座る。ランチバックの中を覗いてごそごそしている。
「おにぎり、うめおかかとシャケの作って来たけど、どっちから食べる?」
「梅おかかがいいな」
「はいっ」
言って、満面の笑みでラップに包まれた僕の分というおにぎりを渡してくれる。
こういうの、いいな。嬉しくて仕方ない。
海原さんが僕のために、とか………。
差し出されたおにぎりを受け取って、一瞬反応できなかった。
「あ、ありがとう」
多分、僕が好きだからって作ってくれたんだろうけど……………おにぎりは鳥の形………これ多分、シマエナガ、だよな? つぶらな瞳をこっちに向けている。
おにぎりに海苔がくっついてるだけ。とは、思うもののじっと見返して来る感じがして、食べるのを躊躇する。
「これ…………」
海原さんはへへっと笑って、説明してくれる。
「シマエナガちゃんなんだって」
やっぱり。
説明してくれる海原さんも可愛いし、僕のためにって作ってくれたのも嬉しいけど、シマエナガと言われたおにぎり自体も可愛いくて、困惑してしまう。
「そうなんだ? 可愛いね……………」
とは言ったものの、どうやって食べたらいいんだろう?
とりあえず、ラップをはがしてみるけど、私を食べるの? とでも言ってるような気がする。
これ、食べていいんだよな?
…………………………どこから?
海原さんを見ると、食べないの? とでも言いたそうに待っている気がして、余計に戸惑う。
「うめおかか、きらいだった?」
食べない僕を心配して訊いてくる。
「そんなことないよ」
本当に、そんなことない。コンビニのだったら梅おかかなんか躊躇なく食べられるし。ただ…………。
これなら、見た目とか味がまずいものを無理に食べるとかの方が迷わない気がする。
……………この顔の部分さえ見なければ気にならない、はず。
後ろを向かせれば、ただのちょっと海苔を巻いたおにぎりのはずだし。
そう思って後ろを向かせると、後ろで手を組んでいるように見える羽や、ぴんとした尻尾まで海苔とおかかで表現されている。
後ろも、可愛い………………。
それでも前よりはマシだと、意を決して顔の部分を口に入れる。
「おいしい………」
「そっか。よかった」
海原さんはほっとしたように、自分の分を食べ始めたけど、それだけじゃ足りない気がした。
「本当に、おいしいと思って……」
「お外でたべるのおいしいよねっ?」
「それはそうなんだけど、それだけじゃなくて………こう……ちょっと……………」
海原さんはきょとっとした顔をしたあと、へへっと笑う。
「ありがとっ」
……………伝わった、のかな? 手嶋君とかならもっとうまいいい方もできるんだろうな。
押し付けるでも、嫌味でもなく、また…………みたいな。
「変かな? とも思ったんだけど、ラップサンドもあるよ。たべるっ?」
「あ、うん」
*♡*♡*♡*
ランチバックの中からラップサンドを取り出すふり。
鳥飼くん、てれてるっ? よろこんでくれてるっ? かわいいっ! こんな顔見れるとかっ。
やだやだやだっ。顔あついのおさまんないっ。顔合わせらんないよっ。
また次もって言ったら、もっとよろこんでくれたりしてっ?
………なんてねっ。さすがにそれはないかな?
さっきも、おにぎり食べるときびみょうだったもんね。
いつも晴れってわけでもないし、毎回公園っていうのもあきちゃうかもだしね。
でも、すきな人といっしょにごはんたべるのって、やっぱりうれしいっ。
少しおちついてきて、ラップサンドをバックのまま見せる。
「これっ、ピンクのシール貼ってあるのが鶏ハムで水色のがツナなのっ。どうぞっ」
へへっ。こっちもよろこんでくれるかなっ?
かわいいワックスペーパーもあって、思ったとおりにラッピングもできたし、ちょっと自信作っ。食べてくれるかなっ?
「そうなんだ? ありがとう」
…………反応、いがいとふつう? おにぎりのほうがよかったのかなっ?
この前はツナエッグ食べてたもんねっ、きらいじゃないよね? あ、それとも野菜がいっしょに入ってるのがいやだったとか………?
「……………もしかして、これも作ったの?」
「あ、うん。そう、だけど………こういうの、いやだった?」
「そうじゃなくて…………海原さんのうち、お店のみたいで………海原さん、上手だね?」
もしかして、あたしそんなに褒めてもらいたそうな顔してたっ?
「そ、そんなこと、ないよっ?」
「…………こういうの………普通………なの?」
「こういうのって?」
「こんな、可愛いの…………」
もしかして気合い入りすぎっ? 引かれてるっ?
「そんなことないよっ。でも、今日は、ちょっと特別っていうか………ちょっとだけ…………自分で食べるだけならしないけど、ほかの人に食べてもらう時はねっ………中身わかんなかったら困るからっ………シールとかは…………」
言い訳っぽい? 言い訳だけどっ!
でも、紅実ちゃんと食べる時もこのくらいはするしっ…………しないときもあるけど…………でもでもっ、付き合って初めてのデートだしっ、初めて食べてもらうわけだしっ…………。
「ごめん。こういうの、初めてで………その………家で作るお弁当でこんなのとか…………?」
「そ、そんなことないよっ? 巻いて包むだけだしっ」
「そうなんだ?」
引いてる。引いてるよねっ?
「家で食べるときはこんなふうには包まないし………」
「そ、そっか。でも、これ可愛いね。崩すのもったいない…………」
「気にしないでっ? おいしそうに見えたらいいなっとはっ…………思ったけどっ」
「う、うん…………」
どうしよう? 大丈夫かな? とにかく、ちょっと話題、話題変えようっ。
「今日、鳥飼くん荷物多いけど違う用事もあったの?」
「あ、そうじゃなくて…………」
鳥飼くんは少し迷った後で、あたしの顔を気にしながら訊いてくる。
「海原さんは、嫌いなものとかある?」
あれっ? 鳥飼くんがあたしのこときいてくれるのって、めずらしくないっ?
でもっ、うれしいっ! えっと、なんかあったっけ? ふだん食べるなかにはない…………あ。
「にがいのはにがてかも。コーヒーとか………あまくしたのはすきだけど。カフェオレとか………」
「そっか。食べ物とかは?」
「んーー。辛すぎるのもダメかも。ピリ辛くらいはいいけど、激辛は………食べれないかも。それいがいだったら食べれないくらいにがてなのはないと思う」
「……………………………スープとか、飲む?」
「うん。飲むよっ」
朝はおみそ汁が多いけど、夜はスープが多いもんね…………?
「何種類か持って来たんだけど、飲む?」
もってきた?
「インスタントだけど」
鳥飼くんがリュックの中から小さな袋をいくつかと、紙コップを出してくれる。
「え?」
「飲みたいのとか、ある?」
見ると、コーンスープとかお味噌汁も含めて4袋。全部種類がちがう。
「これ、もってきてくれたのっ?」
「う、うん。全部、海原さんにっていうのもどうかと思って…………天気いいから暑いけど………冷たい方がよかったら、冷製のも………」
言って、追加で2袋出してくれる。
「冷たいのもあるのっ⁉︎」
え、すごくないっ?
「うん。好きなの、あった?」
「うんっ。コーンスープもわかめスープもすきっ。でも、飲んだことないのも気になるっ。海老のとかっ」
すごいすごいっ。スープバーみたいっ!
「どれでもいいよ」
「すごいねっ⁉︎ 迷うねっ⁉︎」
うわうわうわ一っ。どれにしようっ?
迷った結果、飲んだことなくて気になった海老のビスクにする。
「これっ。わざわざ買ってきてくれたのっ?」
「うち、父さんがアウトドアとか好きで、そういう時のためにって、買い置きがあるんだよね」
「鳥飼くんも一緒に行ったりするのっ?」
「昔ほどは行かなくなったけど、たまに」
「そうなんだっ? ありがとう。すごいねっ!」
「僕作るから……まあ、作るってほどのものじゃないけど………」
「ううんっ。うれしいっ!」
つい、はしゃいでしまう。
………やだっ。あたしってば、子どもみたいにっ。こういう感じだから、子どもっぽいってずっと言われちゃうんだっ。
「そ、そっか」
あれ? 鳥飼くん、てれてるっ? あたしがうれしいのうれしいとか思ってくれてたりして。あはっ。
でも、そうだったらいいなっ。
紙コップにスープを作って渡してくれる。
「熱いから、気を付けてね?」
「うん。ありがとっ」
水筒でお湯ももってきてくれてて、それで荷物多かったんだ? それなのにお弁当までもってくれて、大変じゃなかったかな?
でもっ、鳥飼くんやせてるのにけっこう力もち? そういえば、保健室に連れて行ってくれる時も…………重いな、とか思われなかったかなっ?
あのときはあんまりおぼえてないんだよね。もったいなかったな……………………。
「暑い?」
「う、うんっ。ちょっとねっ。でも大丈夫っ」
うひゃーっ、こんなこと考えるとかっ。鳥飼くんは親切でやってくれただけなのにっ。
で、でもそのうちっ、手くらいはっ。
このあとっ、お散歩のときっ………とかっ。
「鶏ハムの方、貰うね?」
「うん。どうぞっ」
でも、鳥飼くんって、そんなにがつがつしてる感じしないのに、食べるのけっこう早いし、意外と食べるっ?
おっきいから、やっぱりおなかすくのかなっ?
「鳥飼くんって、けっこう食べるんだねっ?」
「そんなことないよ。多分、普通だと思う」
「そっか」
あたしもけっこう食べるけど、紅実ちゃんもっと食べるもんね。悠仁くんとかふつうにごはん食べたあとに、デザートとか言ってホットケーキ3枚くらい食べてたし……………ふつう?
でも、鳥飼くんやせてるのにっ。
なんか、こういうのギャップ萌え? とか………。
もっとすきになっちゃうんだけどっ。
おにぎりもサラダラップも作ってたのの半分は食べてしまってる。あたしはスープを飲みながらだったのもあって、おにぎりを食べ終えても、まだラップサンドが1つずつ残ってる。
「もう1こ食べるっ?」
「いいよ。海原さんの分が………」
「大丈夫だよっ。スープもあったからもうあんまり食べるとくるしくなっちゃうし」
「じゃ、ツナの方貰ってもいい?」
鳥飼くんはラップサンドを受け取ると、食べはじめる。
「もっといっぱい作ってくればよかったね?」
言うと、鳥飼くんは食べるのをやめてあたしのことを見て来る。
「あ、ごめん。大丈夫だよ。こういう風に簡単に食べられるのって、つい………おいしいし………」
てれてるっ? 顔そらされちゃったからわかんなかったけど。




