*24
いきおいとか、なりゆきとか、そういうので言っちゃっただけなのかもだけど、これ、両想いってことでいいんだよね?
ちらっと鳥飼くんが隣で靴をはいてるのを見て、自分もはきかえる。
付き合うってことで、いいのかな? もしかしたら、さっきの夢だったりしない?
「大丈夫?」
「う、うんっ」
今さら確認とかして、え? とかきき返されたらどうする?
僕そんなこと言った? とか。
だって、そうだよね? すきって言っても、付き合いましょう、がないとそういうことにはなんないとかよくきくし…………。
ちらちらと反応を気にして見てたのがばれて、鳥飼くんがふしぎそうな顔をする。
「どうかした?」
「ううんっ。大丈夫っ」
靴をはいて、昇降口を出る。
………鳥飼くんって、電車だから表から帰るよね? 今日、遅くなっちゃったから裏から帰っても途中で暗くなっちゃうかな?
ちらっと、鳥飼くんの様子をうかがう。
ほんとはいっしょに帰りたいけど、帰り道反対だもんね。仕方ないか。
また、部活ない日にいっしょに帰るとか、お休みの日に遊びに行くとかは大丈夫だよね?
「あたし、裏門からだからっ………ま、また…………」
で、でもでもっ、なごりおしいっ。
「あ、お、送る………よ?」
ちょっと、照れた感じで言ってくれる。
うれしいっ。でも、反対だもんっ。
「で、でもっ、鳥飼くん電車だよねっ?」
「うん。それは、そうだけど…もう、遅いし………」
「大丈夫っ。うち、駅と真逆だし、文化祭前とかはこのくらいになることもあるからっ」
何回かは暗い中一人で帰ったことあるしっ。走って帰れば一人でもこわくないもんっ。
「そういうことじゃなくて…………」
「それにっ、鳥飼くんも遅くなっちゃったし、おうちの人心配するからっ」
顔隠してるし、下向いてくれないからよくわかんないけど………照れてるっ?
「…………彼氏らしいこと、させて欲しいんだけど?」
…………………か、彼氏っ? 彼っ?
鳥飼くんがあたしのっ?
鳥飼くんっ、あたしの返事まってるっ?
「あ、じゃ、お願いっ、しても、いいっ?」
「うん。いいよ」
うわうわうわ一一一一一一一一一一っ‼︎
*♠︎*♠︎*♠︎*
あのくらい、言ってもよかったよな?
好きって言ってくれた訳だし…………。
思い出すたびに体が熱くなるし、心臓が落ち着かない。
本当によかったのか? あんなの……ちょっと無理矢理みたいな…………でも、一応彼氏、ってことでいいんだよな? 海原さんの……。付き合うってことで………。
そしてまた、隠せそうにないほどに顔が熱くなる。
だめだ。ちょっと落ち着いてから帰ろう。また、何か言われる気がする。
駅の近くのコンビニに寄って落ち着くまで店内をうろうろする。しばらくいるのに、何も買わないのも悪いかな、と思ってアイスと生ハムを買う。
…………まだ浮かれてる、よな? 大丈夫か? でも、もうあんまり遅くなってもな………。
やっぱりもう少し落ち着いてから……でも、もうこれ以上はしばらく無理な気がする。
結局家に着いたのは22時近かった。
家に帰って、リビングに行くといつものようにソファでは弟がテレビを観ながら何か食べていて、何故か母さんも帰ってきていた。
早くないか?
それでも、何もなかったようにリビングのテーブルにさっき買ったコンビニの袋を置く。
「なんだよ、これ?」
弟が訝しげに袋の中身を確認する。
「やる」
顔は合わせずに部屋に行こうとすると、母さんに呼び止められた。
「ずいぶん、遅かったわね?」
不機嫌そうな声。振り向かなくてもわかる。
怒ってる、よな?
「あ、うん。ちょっと……………父さんにはライン送ってたと思うけど………」
「知ってる」
母さんはまだ帰らないと思って送ってなかったからか? 母さんより前に帰ってればバレないと思ったのに………。
「遅すぎない?」
「………………………………………か、彼女、送ってきた、から」
「振られたんじゃなかったのかよ⁉︎」
弟の方が先に大きな声を出す。
「まあ、そこは、いろいろ……………」
「そういうことなら仕方ないけど、もうちょっと早めに家帰してあげなさいね?」
「そんなのわかってるよ」
それだけ言ってリビングを出ると、ちょうど風呂から出てきた父さんと、顔を合わせる。
「なんかいいことあったのか?」
やっぱり、嬉しいの隠せてないんだな。
「………まあ、うん………さっき、コンビニで生ハム買ってきてるから、食べていいよ」
「そっか。じゃ、母さんとワインでもあけようかな?」
言って、父さんは静かに笑いながらリビングに行った。
*♡*♡*♡*
鳥飼くんが、彼氏っ。
まだ、信じらんないっ。
一一おやすみ。大事にするから、これからもよろしく。
朝おきて、昨日のラインを確認する。
何回見ても鳥飼くんからラインきてるっ。大事にっ、て………よろしくっ、て、そういうことよねっ?
うれしすぎて顔がにやけちゃうっ。
いつもの待ち合わせ場所に行くと、紅実ちゃんがあきれた顔であいさつよりも先に言ってくる。
「今日は気持ち悪いくらい元気ね?」
「おはよ。ごめんねっ? 昨日、いっぱい心配させちゃって」
昨日のこと、ラインでかんたんには報告してたけど、直接報告はまだだった。
「いいよ。元気になったなら。それより詳しくきかせてよ?」
紅実ちゃんがにやにやして、いろいろきいてくる。
でも、これはうれしかったりするっ。
いっぱいいっぱいきいてほしいっ。
「で、でもねっ、ほかの人にはないしょにしておこう、ってなったから………」
「なんで?」
「大っぴらに言うことじゃないし、その……まだ自信ないし………って」
「何よ、それ? そんなんでいいの?」
紅実ちゃんがちょっと怒ってる。
「あたしも、まだ……ちょっと自信ないし、ないしょにしときたいからいいかな、って。七尾さんも鳥飼くんのことあんまりよく思ってないみたいだし………」
「そんなの、関係ないでしょ?」
「あるよっ。だって、いろいろ言われるのって鳥飼くんだよ? どうしてもおっきい人のが目立っちゃうもんっ」
それで、いやなことも言われるようになるかもしれないし、それでうんざりしてるのとか見たくないもんっ。
「まあ、あんたがそれでいいならいいけど………」
ため息まじりに紅実ちゃんが言う。
「………ほんとは、うれしくって言いたくって仕方ないんだけどね」
「私には言ってもよかったの?」
「うん。それはね、言ってる。鳥飼君もたぶん手嶋くんには話すと思うって言ってた」
「そっか? ま、じゃ、のろけたくなったらいつでも聴いたげる」
「うんっ。ありがとっ」
へへっ。
昇降口でうわばきにはきかえていると、鳥飼くんが来て、あいさつしてくれる。
「おはよう」
「う、うんっ。おはよ」
なんだかちょっと……だいぶてれるっ。
「今日、天気いいね?」
「うんっ。雨あがりの晴れの日ってよけいうれしいよねっ?」
「そうだね」
わわわっ。えがおっ。
こんなの、毎日いいのっ?
「あ……えと………」
まだしゃべりたいけど、なに話していいかわかんないっ。
昨日帰ってなにしてた? とか、いつもはなにするの? とか、よるごはんなんだった? とか、ききたいけど、時間たりないっ。それにっ、あんまり質問攻めもよくないよねっ?
「先に行くね」
にこっと笑って、行ってしまう。
ふあ一一一っ。すごいっ。彼氏の存在って。元気出るっ。やる気みなぎってるっ。
「海原さん、おはよー。昨日大丈夫だった?」
「おはよ。うん。ありがとね、心配してくれて」
七尾さんだった。
七尾さん来てるの見えたから先に行ったのかな? そのうち、七尾さんにも言えたらいいけど………。
鳥飼くんのことあんまりよく思ってないし、それに………。
「昨日、2組でケンカあったの知ってる? 内緒だけどね、保健室連れてかれた子いるんだって。海原さん知ってる? お昼休みから保健室行ってたんでしょ?」
「寝てたから気づかなかったよ。そんなことあったんだ?」
知ってるもなにも、それあたしだからっ。しかも、内緒だけどね、って………。
七尾さんにひみつのはなしはちょっとしづらいっ。
「すごかったらしいよ? 飯倉君と西岡君。西岡君とか柔道部でおっきいじゃない? どんな感じだったんだろ? 早めに教室戻ってきてたら見れたのかな一一?」
ちょっと話をあわせて笑ってみるけど………笑えないっ。
その場にいたら笑えないからねっ? すっごいこわいよっ? あたし泣いちゃったからねっ?
「咲妃?」
うわばきにはきかえた紅実ちゃんが顔を出す。
「あ、坂上さんおはよー。昨日2組でケンカあったんでしょ? 見た?」
七尾さんの勢いに、紅実ちゃんもあきれてる。
「それ、先生があちこちで言うなって言ってなかった?」
「そうなんだ? 知らなかったよ。気をつけるね」
紅実ちゃんが冷めた感じで言うと、七尾さんはちょっと気まずそうにとぼけたふりをして、先に教室に行った。
「七尾さんも悪い子じゃないんだけどね。噂話好きだよね?」
「うん。しばらく、鳥飼くんとのことは言えないかな」
「だね。ばれたくないなら、やめといたほうがいいかも」
*♠︎*♠︎*♠︎*
「鳥飼って、ケンカ慣れてんの?」
教室に着くと手嶋君に訊かれた。
「そんな訳ないでしょ?」
「だって、みんなが躊躇してんのに近付いてくし、あっという間に止めちゃったしさ」
「タイミングがよかっただけじゃない? 2人共僕が近付いてるのに気付いてなかったし」
「タイミングだけで止められるもんじゃないと思うけどな一一?」
納得いかない、と言った顔で見返される。
そこに木村君が来て、立ち止まる。
「おはよ。鳥飼ってケンカ強かったのな?」
「強くないよ。勝ったこととかないし」
手嶋君も木村君もかなり意外そうな顔をする。
どう見ても強そうには見えないと思うけどな。
「………ケンカはするんだ?」
「普通だよ」
「普通って…………」
「僕だって一応男だし? 手嶋君もしたことあるよね?」
「そりゃ、ある、けど………」
2人共、納得いかないような顔をする。
そのあと、昼休みに入るまでに話したこともないような人や、違うクラスの人にまで同じようなことを訊かれて、うんざりだった。
でも、よかった。海原さんのことが噂にならなくて。
あそこにいたって事だけでも、いろいろ訊かれそうなのに僕みたいなのに抱っ………な、成り行きだけど…………そういう噂がたったらどうしようかと思ってた。
弁当を食べに、いつもの場所に向かう途中で被服室の近くの木の側に坂上さんがいるのが目に入る。
………いろいろ、お世話にもなったし、お礼は言っとくべきだよな。
「ちょっと、いい?」
「………咲妃なら委員会でちょっと遅れるみたいよ?」
「あ……その…………坂上さんに、お詫びとお礼を、と」
「お詫びとお礼?」
「あ、うん。昨日、いろいろ言って………ごめん。それに、いろいろ言ってくれて、そのお陰というか………」
「付き合うことになったのは咲妃からきいてるけど?」
まあ、そうだよな。海原さんも報告したいって言ってたし。
「まあ、うん…………ありがとう」
「別に。私が介入することでもなかったとは思うけど。もう咲妃のこと泣かさないでね?」
「うん。それはもう………反省してるし………」
だよな。今思うと、海原さんにもかなり失礼だったよな?
そういうことする子じゃないって、すぐにわかりそうなもんなのに。
「それより、鳥飼君ってケンカ強いの?」
「………坂上さんまでそれ訊くの?」
「言っちゃなんだけど、鳥飼君ならあたしでも勝てそうとか思ってたのよね」
「…………強くないから」
坂上さんに勝てる気はしない。
「………それに、咲妃のこと結構簡単に抱えてっちゃったじゃない? 咲妃はショック受けてたけど」
「え? シ、ショックって?」
確かに嫌だったとは思うけど、ショック受けるほど? 好きとか言ってくれるくらいだから、勝手にそこまで気にしてないかな? とか思ってたけど………それとこれとは別だった?
「お姫様抱っこじゃなくて、子供抱えてくみたいな感じの、縦抱っこ? だったじゃない? 子供って思われてるのかな? って」
そんなこと、気にして………?
「………お姫様抱っこわかる? こう………」
坂上さんが弁当と箸を置いて両手で振りをしてくれようとする。
「大丈夫、わかるよ。そのくらい、僕でも」
「そ? じゃ何で?」
「それやると教室とか保健室のドア開けられなくなると思って」
「ふーん? それだけ?」
「それだけ? って」
「あんた、結構いろいろ考えてるみたいだからさ、それだけなのかな? って」
僕にとっては、坂上さんの方がいろいろ考えてて、気付いてくれてると思う。
でも、気付いてほしくないとこまで気付かれてると言うか………。
多分、こういうこと僕が言うと気持ち悪いんじゃないかと思うんだよね。
「………そんなこと、ないよ。それだけ…………」
「本当に?」
真っ直ぐに僕を見てきて、堪えられずに目を逸らす。
そして、ぼそぼそと聞こえなければいいけど、と思いつつ答える。
「……………スカートの中見えるんじゃないかと……………」
自分で言ってても、どうかと思うのに。また殴られたりしないよな?
「なるほどね。確かにね」
言って、弁当の続きを食べはじめる。
あまり深く突っ込まれずに済んで、ほっとしていると、坂上さんは笑いながら続けた。
「咲妃のスカートの中想像してた訳だ?」
「違うからっ!」
そう思われたら、と思って言わなかったのに。
その後すぐに海原さんが小走りでやってくるのが見えた。
「鳥飼くんっ? どうしたのっ?」
「坂上さんにお詫びとお礼を、と思って」
「そっか…………」
まだ何か言いたそうな顔をしながら、坂上さんの隣に座って鞄から弁当を取り出す。
「咲妃、鳥飼君お姫様抱っこしなかったのあんたのスカートの中………」
「違うからっ‼︎ 言わないでくれる?」
そんなの、海原さんに知られて、せっかく付き合えることになったのに気持ち悪いとか思われて、振られたらどうするんだ?
「え? あたしの、なにっ?」
「大丈夫だから、気にしないで? 僕行くね」
「そ、そっか…………」
海原さんのまだ何か言いたそうなのが気になったけど、あんまり一緒にいてもな…………。




