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スズサキ*  作者: さより
意識
22/63

*22

 やっぱり、何度確認してもラインは来てないし、朝も会わない。

 あ…………。

 スマホの画面に涙が落ちて、泣いてることに気づく。

 やだな。どうしよ。

 また涙がこぼれそうになる。

「大丈夫じゃない? タイミングとか、努力で何とかなるとこもあるし」

「そ、そっかな?」

 テンションだだ下がりの状態で、紅実ちゃんと登校。しかも、今日雨って………。

「まだがんばってもいいのかな?」

「はっきり迷惑だって言われたわけじゃないんでしょ?」

「それはそうだけど………」

「あ、あれ、鳥飼君じゃない?」

 見ると、鳥飼くんが昇降口に入っていくところだった。

「あ、ほんとだっ」

「急ぐ?」

「うんっ」

 ちょっと元気になって、昇降口に急ぐ。

「鳥飼くんっ、おはよっ」

「おはよう」

 ちらっとこっちを向いてあいさつを返してくれる。でも、今日もそっけない感じ。

「調子わるいっ?」

 ラインのこととか気づいてないふりをして、いつもみたいに話しかける。けど…………。

「別に」

 言って、さっさと教室のほうに歩いて行ってしまう。

 教室に行くと、手嶋くんとはふつうに話してた。

 やっぱり、あたしさけられてるんだ。

 教室で横目に鳥飼君の存在を確認して、席に着く。

 あたしとはもう、しゃべってくれないのかな?

 涙があふれそうになるのを必死でこらえる。

「海原さん、どうしたの?」

 登校してきた七尾さんに心配される。

「な、なんでもないっ」

 七尾さんには言えないっ。

「ち、ちょっとトイレ行ってくる」

 今、いろいろきかれたらたぶん泣いちゃうっ。がまんできなくなっちゃうと思って、トイレにかけ込む。

 予鈴がなるまでトイレにいて、少し気持ちを落ち着けてから戻る。

 でも、なにかの拍子に涙があふれそうになって、そのたびにごまかしたりトイレに行ったりしてた。

 こういうとき同じクラスって………しかも鳥飼くん背おっきいから目立つし、つらいっ。


「あー、あー、ほら。ティッシュ。鼻水出てる」

「ご、ごめっ………」

 紅実ちゃんから差し出されたティッシュを受け取って鼻水をふく。はずかしっ。

 紅実ちゃんとお弁当を食べようと思って、2組の教室に来たけど、食べれないっ。

 紅実ちゃんはあたしのことを気にして、教室の奥の席を選んでくれてる。

「どうする? 被服室行ってみる? 開いてるかわかんないけど」

「大丈夫っ」

 なるべく他の人に見られないように俯いたままの状態。紅実ちゃん、心配してくれてるけど、涙止まんないっ。鼻水もっ。

「今日は、部活休んで咲妃んち行こっか? 気が済むまで喋って、すっきりしたらいいよ」

「う、うんっ。い、いいっ?」

「いいに決まってるでしょ? ほら。少しくらい食べなさい」

 言って、まだ開いてもいないあたしのお弁当をすすめられる。

「し、食欲、ないっ」

「じゃ、甘い物食べとく? 私今日チョコ持ってるし」

 言って、鞄の中からチョコを出してくれるけど、手がのばせない。

「坂上さん、ちょっといい?」

 廊下のほうから紅実ちゃんが呼ばれてるっ。

「いいよっ」

「…………ごめん、ちょっと行ってくるね?」

 心配そうな声で言って、紅実ちゃんが廊下のほうに歩いて行くのがわかる。

 戻ってくるまでに泣き止んどこ。それで、戻ってきたらいっしょにお弁当たべる。

 それで、今度鳥飼くんに直接きくっ。あたしのなにがいやとか……このままじゃ、あきらめきれないもん。

 こんなに仲よくなってなかったら、もうちょっとつらくなかったのかな?

 スマホを確認するけど、鳥飼くんからのラインはやっぱり来てなくて、昨日のラインなんか既読にもなってない。

 ………もう話もしたくないのかな?

 そう思うと、止まり出した涙がまたあふれてきた。


     *♠︎*♠︎*♠︎*


 朝は元気だったよな?

 気にしないようにしようと思ってるのに、視界に入ってくる。

「また見てる」

 にやにやしながら、手嶋君が話しかけてくる。

「見てないよ」

 手嶋君には好きなのバレてたからな。もうそういうつもりもないからって、言っといた方がいいのかな。

「でも今日、海原って休み時間にあんまり教室にいないよな? いつも七尾と喋ってんのに」

 そう。休み時間は七尾さんと喋ってることが多いのに、今日は席にいないことの方が多い。

「手嶋君、訊いてみたらいいんじゃない?」

「何でオレが?」

「だって、気になるんでしょ?」

 僕が訊いても迷惑なだけだろうし。それに、今は話したくない。

「鳥飼きいてきたら? 心配されるの嬉しいんじゃない?」

「そんな訳ないでしょ?」

「そうかな一?」

 気になる相手とか、好きな相手だったらそうなのかもしれないけど、僕からってどうなんだろう?

「木村だって、七尾のこと心配して、それから急に仲よくなったって、言ってたし」

「それは、荷物持ってあげたりとか、そういう頼りになるとこで、ただ心配するのとかは違うんじゃない?」

 口で言うのは簡単だけど、実際にできるかは本人次第だもんな。僕だったら、自分からは言い出せない。

 手嶋君はいい人だけど、誰からも好かれやすいからわかんないと思うんだよね。落ちたもの拾ってあげようとしただけで「さわんないで」とか言われる奴の気持ちとか。それが当たり前って思う気持ちとか。

「何話してんの?」

 木村君が来て、話に入ってくる。

「海原具合悪そうだなって」

 手嶋君が答える。

「あー、それね。ユズも心配してた。具合悪いとかじゃないみたいだけど、ちょっとワケありっぽい、って」

「ワケあり?」

「そ。自分には言ってもらえないって気にしてた」

 七尾さんにも言えないことなんだ? 仲良さそうなのに。

 それなら、僕が訊いたとしても答えてくれる訳ないよな。七尾さんにすら言えないんだから。

 それでも気になってしまって仕方なかった。


 昼休みにスマホの画面を開いて、海原さんとのトーク画面を開く。

 エナガのスタンプが動いている。

 …………可愛い。

 その後、メニュー画面を開いてブロックされているのを確認する。

 ラインで訊いてみるくらい…………今まで返信してないし、今更だよな?

 結局迷って、何もできなかった。

 これだと何のためにブロックしたのかわからない。

 …………具合悪そうだからって、そこに漬け込んでも何もないのに。

「あ、こんなとこで食べてんの?」

 手嶋君の声に驚いて声が出ない。

「ごめーん。抜ける一一‼︎」

 言って、いつの間にか近くに転がっていた野球ボールをグラウンドの方に投げる。それから、当たり前のように隣に座って来るから、慌ててスマホの画面をロックする。

「鳥飼ってさ、海原と何かあった?」

「…………別に」

 今、言っとくか? 海原さんって、僕に興味があるわけじゃないから、って。

「今日、オレに海原の具合訊きに行かせようとしたでしょ?」

 …………手嶋君って、鋭いよな。

「そんなに気になるなら自分できけばいいのに」

「訊けないよ」

「でも、今ならオレより鳥飼のが話しやすいんじゃない?」

「…………え? 何で?」

「え?」

 手嶋君が僕の反応に驚く。

 何でだ?

「あ、あれ? 鳥飼って、海原と仲いいじゃん? 順調にやってんだなって、思ってたけど?」

 そう見えたんだ? まあ、でも、そうだよな? 多分、ラインの感じからすると、アイツと直接連絡する手段って、まだなさそうだし………。

「それは、違うよ」

「そう?」

「うん。だから、もう諦めようと思って」

「………鳥飼って、もう海原に言ったの?」

「最初に言ったと思うけど、言うつもりはないよ」

 この前まで、言おうと思ってたけど。

 わざわざ言って、はっきり断られるのを想像して怖くなった。

 断られても仕方ないとか思いつつ、期待してた自分が信じられなかった。本当に勘違いもここまで行くと怖いとかキモいとか言われても仕方ないよな。

 もしかしたら、とも思えなくなった状況で言えるほどの勇気なんか、僕にはなかった。

 わざわざこれ以上辛い思いはしたくない。

「無理してない?」

「な、何で?」

 昨日、母さんに言われたことを思い出す。

「無理して諦めようとしてる感じ?」

「まさか。別に、そこまで好きな訳じゃなかったし」

 そんな言い訳をする自分の事も心底嫌になる。

「そうは見えなかったけどなーー?」

 自分でもそのくらい気付いてる。だから多分、すぐに忘れることなんてできないし、弟に対してのイラつきも消化できない。

 いたたまれなくて、立ち上がる。

「ごめん。僕、早めに戻るね?」

「あ、オレも戻る」

 一人になりたかったけど、断る理由も思いつかなくて仕方なく一緒に戻ると、2組の教室の前に人だかりができていた。

「騒がしいね?」

 手嶋君が気にして、見に行こうとする。

「見に行くの?」

「だって、気になんじゃん? ケンカかもよ?」

 手嶋君はにっと笑って、楽しそうに見に行く。

 ケンカって………。

 呆れつつも、何となく手嶋君について行く。

 教室の中を覗く人だかりの中に坂上さんがいた。

 ……………一人?

「あ、坂上じゃん? どう………」

 最後まで言い終わらないうちに、坂上さんが手嶋君の腕をつかむ。

「止めてくんないっ⁉︎」

「え?」

「ケンカ、西岡君と大久保君がっ‼︎」

「ちょ、それはオレじゃ無理………」


     *♡*♡*♡*


 紅実ちゃんが離れて行って、少ししたらいきなり机が倒れる音がして、みんなのきゃーって言う声とか、やめろって言う声が聞こえたけど、動けなかった。

 な、なにっ? け、けんかっ?

 気がついたら、まわりに他の人はいなくなってて、みんな廊下側に避難してるみたいだった。

 紅実ちゃんがおいでって言ってるのが聞こえるし、手招きしてくれてるのもわかるけど、動けない。

 だって、こんなけんかしてる人たちのそば通ってとか、むりっ。

 机と机の間にしゃがみ込むので精一杯だった。

 怖くて、見れない。それに、机とか椅子の倒れる音が近くでする。

 やだやだやだやだっ。こわいこわいこわいっ。

 がたんと、あたしの隠れていた机に他の机が当たる。

 今の、机なかったら当たってたっ。こわいっ。先生まだっ?

 早く終わってっ‼︎

 目をつぶって、耳をふさいでがまんするけど、音は簡単に入ってきて、その度に体がこわばる。

 こわいってばっ‼︎

 その直後に大きな音がして、静かになる。少しだけ、しゃべってる声が聞こえたあと鳥飼くんの声が聞こえる。

 電話のときみたいな、やさしいけど心配そうな声。

「大丈夫?」

 顔をあげると、ほんとに鳥飼くんで、また涙が止まんなくなるっ。

 こわかったのと、鳥飼くんが近くにいて心配してくれてるのにほっとしたのとで、止まらなかった。

「大丈夫っ⁉︎」

 紅実ちゃんが鳥飼君を押しのけて、あたしの肩をつかむ。

「あたっ……とろかっ………めいわっ………」

「………とりあえず、保健室行こっか? ね?」

 紅実ちゃんが腕を引っ張ってくれて、立たせてくれようとするけど、体が動かなかった。

「うっ、ふっうっ、えっ………」

 予鈴の鳴る音が聞こえて、鳥飼くんと紅実ちゃんが何か話しているのも聞こえる。

 ちょっと、言い争ってるようにも聞こえたけど、そのすぐ後で周りが真っ暗になる。

「ふぇっ? と…………」

「ごめん、ちょっとだけ我慢して?」

 真っ暗な中で鳥飼くんの声が聞こえて、ふわっと体が浮いた感じがした。


     *♠︎*♠︎*♠︎*


 思わず、自分の制服で隠して連れて行けば、とか思ったけど………よく考えたら………よく考えなくても、どうなんだ?

 ほとんど一日中着てる訳だし、クリーニングだってそんなに出さないのに、臭かったり………。それに、直接触ってる訳じゃないけど、こんな……………いっそ、もう覚えてなければいいけど…………。

 保健室のドアを開けて、中にいた保健の先生に簡単に事情を話して、長椅子に座らせる。

「ごめん。大丈夫?」

 嫌だったろうけど、他に思いつかなかったし、仕方ないよな?

 制服を剥いでも、海原さんは俯いて泣いていて顔を上げたりはしない。

 ずっと泣いてるけど、大丈夫かな? 怖かったよな? あんな近くで喧嘩とか。避けてても巻き込まれるかもしれないとか思っただろうし、女の子なんだから尚更だよな?

 ……………仕方ないか。

 本当はもう関わりたくもないし、坂上さんもいた訳だから、ほっといても少しすればすっかり忘れて元気になったかもしれないのに。

 溜め息を吐きながら、立ち上がろうとすると、海原さんが僕の袖を引っ張って、顔をあげる。

 ぐしゃぐしゃに泣いた海原さんの顔…………。

「…っ…と………あ、りがっ………」

 お礼? かな。

「別にいいから」

「………もっ…しゃべっ……くれなっ………?」

 何を言いたいのか、よくわからない。

 泣いていて、たまにしゃくりあげたりもするし、所々声が小さすぎて聞こえなかったりもする。

 あんまり泣いていて心配になるけど、何もできない。

「多分、後で坂上さん来ると思うから」

「………っ……ちがっ………」

 何が違うんだろう? でも、僕じゃ何もできないし、わからない。

 先生に任せるしかないよな。

 関わったことに少し後悔する。

「もう戻るから」

 言うと、海原さんの表情が一瞬強張って、そのあと僕の袖をつかんでいた手を離す。

 そしてまた泣きながら俯いてしまう。

 こういう時、どうしたら泣き止んでくれるのかとか、僕にはわからない。

 さっきまで海原さんを隠していた上着を着直す時に、カッターシャツの肩の辺りが少し濡れているのに気付いた。

 そのまま、上着を着て授業に戻ると、当たり前だけど授業ははじまっていて、先生に睨まれる。

 保健室に行っていたことを伝えて、席に座った。

 先生が黒板の方を向いている間に手嶋君がこっそりと教えてくれる。

「海原は気分悪くて保健室行ったって言ってくれてるから」

「あ、うん」

 ……………よかった。

 手嶋君も坂上さんも、ほんとにいい人だよな。


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