*14
信じられなくて何度も画面を確認する。
その度にエナガのスタンプが動いていて、ありがとう、よろしくね、と言ってくる。
このエナガ、ちょっと海原さんに似てるよな。
ぱたぱたと羽を動かして、瞬きをしている。
可愛い。
返事とかした方がいいのか? 勢いで訊いてしまったものの、ラインしなくちゃならないような用なんかある訳もなかった。
普段は家族間での連絡事項……母さんからの買い物の頼まれ事くらいにしか使ってないもんな。手嶋君と木村君も毎日会うからそんなにしないし。
あとは、静くらいか? 静のはうるさいばっかりだ。自分勝手で、どうでもいいことばっかりだし。
毎日会ってるのに、わざわざラインする意味って何だ? 静みたいに用なんかなくてもするもんなのか?
自分から訊いといて、何も送らないっていうのも失礼な感じするよな?
坂上さんのこと訊いてみようか?
…………そういうのって、直接訊いた方がいいよな? ちょっと長くなりそうだし。
結局送れないまま次の日になった。
海原さんからも来ないし、大丈夫だよな? 何とも思われてないよな?
昇降口で様子を確認しようと思ったのに、電車が遅れて会えなかった。
ラインを訊いてしまって、もしかして僕の気持ちがバレてしまったんじゃないかとも思うと気が気じゃなかった。
坂上さんから訊いているとしても、確証はないはずだし、大丈夫だよな?
そう思ってたのに、それを裏付けるような行動と思われたりしないか不安だった。
教室で自分の席に座って、少しするとスマホが短く震える。
海原さん?
家からかと思っていたために、心の準備ができていなくて、どきっとする。
どうしたんだろ? こんな時間に。
もう、学校に着いてるのに。
確認すると、おはよう、のスタンプと短いメッセージが入っていた。
一一今日、昇降口で会えなかったね。
…………教室でこんなのとか。またエナガのスタンプだし。可愛すぎる。
一一そうだね。おはよう。
こんなんでいいのか?
心の準備ができていなさすぎて、何て送っていいのかわからない。
自分から教えてもらっておいて、情けないとは思うけど。
でも、仕方なく教えてくれただけかとも思っていたのに、こんなのくれるとか………女子って、そういうもんなのか?
*♡*♡*♡*
今日昇降口で会えなくて、教室で鞄の中身を机に入れ終わった後、少しすると鳥飼くんが来た。
いつもならあいさつできなかったな、って思うとこだけど、ライン教えてもらったもんね。いいよね?
おはよう、のスタンプを送って、メッセージを送信。
一一今日、昇降口で会えなかったね。
反応が見えないのは気になるけど、気づいたかな?
既読になって、安心していると、スマホが震えた。
一一そうだね。おはよう。
う、うわー、うわー、鳥飼くんから返信きたー。
うれしい。直接あいさつできなかったのは残念だけど、それに匹敵するものがある。
これから、休みの日もこういうことしていいのかな?
鳥飼くんって、休みの日も朝早かったりしそう。あ、でも、ちょっと寝てた、的なラインもほしいかも。
すごい、楽しみなんだけど。
鳥飼くんって、友だちとはどのくらいの間隔でしてるんだろ? 毎日はしすぎかな? あんまり、頻繁には送らないように気をつけよう。
でも、すっごい嬉しいっ。
そんなうれしい気分のところに、笹丘くんから声をかけられる。
「お前、隣のクラスの奴に言ったろ? 俺がサボってるって」
「言ってないよ。笹丘くん塾だし、あたしが苦手なところやってもらってるからって、言っただけだよ?」
「本当かよ?」
「ほんとだもんっ」
「背高い奴に手伝ってもらってるみたいなことも言ってたけど?」
中田さん、言ったんだ? あたし、ちがうって言ったのに。
その前は、ほんとに手伝ってもらったけど。
「ちがうよ。鳥飼くんは忘れもの取りに来ただけで………」
「背高い奴って、鳥飼だったんだ?」
え? あ、名前出したの、よくなかったかな? どうしよう?
「何で、忘れもの取りに来たってわかんの? 何忘れてた?」
あ、なんかしゃべったこととか言わないほうがよさそう? 鳥飼くん、忘れ物とかしそうにないもんね。結局、忘れてなかったわけだし。
「つ、机の中見て、その後帰ったから、そうかなって………」
なんで、こんな怒られないといけないんだろ? そう思うならやってくれればいいのにっ。
「………できないならできないって、俺に言えよな?」
言って、ふいっと自分の席に戻って行く。
…………………ど、どういうこと? な、なに言ってんの? そんなの、言えるわけなくない? 言ったらぜったいそんなこともできないのか? って言われる気がするんだけどっ!
っていうか、そもそも笹丘くんも同じ委員会なんだからねっ! 言われなくてもするのが当たり前じゃないっ⁉︎
*♠︎*♠︎*♠︎*
あれからほとんど毎日、海原さんからラインが来る。
一一まだ、起きてた?
そのあとに、エナガのスタンプでおやすみ、とか。しかもエナガの吹き出しがハートの形をしてる…………。
わかってる。可愛いから、使ってみたかったとか、そういうことなんだよな?
海原さん、こういうの好きそうだし。
ただ、意味ないってわかってても、ついどきっとしてしまう。
一一起きてた。おやすみ。
返信するけど、素っ気ないのか? もうちょっと、広がりのある話題とか、面白味のある返信とか………。
普段もそんな感じじゃないのに、無理に頑張っても気持ち悪いだけだよな?
ただ、ラインでも挨拶程度のやりとりしかないのが、焦ったくもあった。
もう少し、仲良くなるというか、そういうのって、どうしたらいいんだろう?
本当はラインなんかじゃなくて、直接話したいけど…………図々しいか。
そもそも学校で喋ったりとか、いつしたらいいかわかんないもんな。時間が合うのなんか朝くらいだし…………。
みんながいる前で話しかけられるのは、いやだよな? そもそも、そんな勇気はないけど。
そう何度も、忘れ物なんか理由にできないし。
考えていてもなかなか、いい考えなんか浮かばなかった。
*♡*♡*♡*
一一起きてた。おやすみ。
へへっ。うれしっ。
でも、最初はこれだけでもじゅうぶんうれしかったのに、最近はものたりない。
もっと、なんかないかな?
あ、でも、今日はもうおやすみってしちゃったもんね。
明日にしよ。
次の日、夜にいつもの時間くらい。
一一鳥飼くんって、帰ったらいつも何してるの?
一一宿題と予習復習。
ま、まじめだっ。
でも、共通の話題って学校のことくらいだし、そんな感じだよね?
あ、でもっ。
一一すごいねっ。あたし、数学苦手だから教えて欲しいっ^^;
一一坂上さんとか頭よさそうだけど、教えてもらわないの?
うっ。するどいっ。っていうか、紅実ちゃん頭いいのがにじみ出てるもんな。
あわよくば一緒に勉強したりとかって、思ってたのにっ。
鳥飼くんって、やっぱりあたしが思ってるほどあたしと仲よくなりたいとは思ってない感じだよね?
やっぱり、気になる人いるのかなぁ?
西脇くんが言いかけてた誕生日プレゼントもらった人とか。そうじゃなくても、すきな人とか。
あ、また落ち込んできちゃった。
一一教えてもらったときはわかってるけど、後でわかんなくなっちゃうの。
あたし、ばかっぽくない?
送った後で後悔する。
しかも、もう既読になっちゃったしっ。
ぜったいばかと思われたよね? あんまり、鳥飼くんってばかな子とかすきじゃなさそうなのに。
紅実ちゃんみたいだったら、もっと自信もてたのにな。
一一教えてもらった後、復習してる? 自分でやってみないと理解できてるか確認できないと思う。
復習とか、してない………。
だって、教えてもらったらわかったって、思って安心してた。
落ち込んでいると、追加でメッセージが届く。
一一ごめん。偉そうなこと言って。
あ、気にしてる。こういうとこ、やさしいよね。落ち込んでるんじゃないかって、心配してくれてる。
落ち込んでないってとこをアピールするために、エナガの大丈夫っていうスタンプを送ってみる。
一一ありがとう。やってみるね。
がんばろっ。そしたら、鳥飼くんのアドバイスのおかげで、いい点とれたって言えるもんね。
不純な動機だけど。
一一昼休みなら、大抵体育倉庫裏にいるから、坂上さんに訊けないとかあったら。僕でよかったらだけど。
えっ? うそっ? 行っていいの? え? 行っていいってことだよね? ほんとに行っていいのっ?
あ、でも、紅実ちゃんにきけないとき、だもんね。いつもいっしょにいるし、わざわざほんとに来られるとかは思ってないかもしれないよね?
いざっていう時だけにしないとね。うん。
それで、そのときに、ついでみたいにだったら、きいてもいいよね?
誕生日プレゼントのこととか、すきな人とか。それくらいならいいよね?
*♠︎*♠︎*♠︎*
実際は来ないよな。いつも坂上さんと一緒にいるし。
昨日のラインを少し後悔していた。
社交辞令くらいにしか思ってないよな? でも、教えて欲しいってあったし、変じゃないよな?
しかも、体育倉庫の裏とか………。中庭とか、運動場横のベンチとかだったら、来やすいのかもしれないけど………いや、そもそも坂上さんがダメでも、七尾さんとか手嶋君とかいるよな? あと、笹丘君の方が頭いいし。同じ委員会だもんな。
最初のうちは、それでも、もしかしたらと思って落ち着かなかったものの、何日かするうちにそんなことはないとほっとして、少し残念でもあった。
僕としては、結構勇気のいる返信だったんだけどな。
ラインの方はそれでもほとんど毎日くれて、たまにこの前のように少しだけ長いやり取りをするようになっていた。
それから更に何日か過ぎた頃、本当に海原さんが来た。
「き、今日っ、5時間目当たりそうで、いいっ?」
数学の問題集とノートを持っている。
「いいよ」
お昼を食べ終えたあと、弄っていたスマホをしまう。
落ち着いたふりをして答えてみるものの、内心はかなり慌てていた。
そんなのには微塵も気付かない様子で僕の隣に座る。スカートの端が触れそうになって、少し離れた。
「坂上さんは?」
「い、委員会で」
なかなか、目は合わない。でも、5時間目の、宿題だったとこだよな?
「どの問題?」
「23ページの問2なんだけど………」
「ここは…………」
僕の説明でわかるのかな? 不安に思いながらも、なるべく丁寧に説明する。
「あ、あれっ? なんか、簡単?」
「うん。多分、そんなに難しく考えなくていいと思う」
わかってもらえたみたいで、ほっとする。
「教えるの、じょうず?」
「そんなことはない、と、思う」
褒められたようで、照れくさくて顔を逸らす。
「あ、でも、帰ったら、またやってみるね」
言って、へへっと笑う。
この前、ラインしたこと覚えてくれてるんだ。
それが嬉しかった。
「他は、大丈夫?」
「うん。ありがとう」
可愛い。
こんなことくらいで笑ってくれるのとか、どきどきしてしまう。
もう、戻るだろうと思っていたのに、なかなか立ち上がらない。
かと言って、何か話し始める様子もない。
「どうかした?」
言いづらそうに、話し始める。
「あ、あたし、ほとんど毎日ラインしちゃってて、迷惑とかじゃないかな? って思ってて………」
「そんなことないよ」
むしろ、嬉しくてたまらない。
「ほ、ほんと?」
心配そうに、確認してくる。
あ、もしかして、返信が遅いとか、素っ気ないとかで?
「うん、本当に。あんまりラインすることないから、慣れてなくて………返信が遅いのとかは………」
ここで、僕の感情まで伝えてしまうのは、どのくらい好きかとか、ばれてしまいそうで怖かった。
「ううん。そうじゃなくて………………誤解、されて困る人とか、いなかったかな? って………」
「誤解されて困る人?」
「か、彼女とか、すきな人とか………」
は? 何でそんなこと訊く? 見たらわかるだろうに。
今までそんなことを訊かれることなんかなくて、思いつきもしなかった。
慌てて、否定する。
「いない、よ?」
「そ、そっか。よかった」
嬉しそうに、見える。何で、そんな顔するんだろう?
そんな顔されたら、また、もしかしたらとか、思ってしまう。




