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スズサキ*  作者: さより
意識
13/63

*13

「お前、静に言ったろ?」

 帰って来た弟の部屋に行って問い詰めた。弟がジャージに着替えながら、こっちを向いて答える。

「言ってねーよ」

「嘘つけよ。今日学校の近くまで来られて、大変だったんだからな?」

「言ってねーって」

「本当か?」

 信用できない。だったら、何でバレてるんだよ?

「カツサンドもらってからは」

「なんだよ、それ?」

 それまでのことは言ったってことじゃないか。それであんな…………。

「学校の近くまで来たからって、その子の顔も名前も知んねーし、別によくね?」

 そうだよ。それなのに会ったし、そういう子だっていうのもバレた。

「あ、何? もしかしてばったりとか?」

 しかも、坂上さんにあんなこと言うとか…………。

 俺の顔色を見て、弟が察する。

「マジで? さすが西脇さんだな? 引き強ぇ一って言うか………」

 ははっと、笑う弟に無性にイラついて軽く蹴りを入れる。

「いっ…て! 蹴ることねーだろ?」

 他人事だと思って、お前も静もムカつくんだよ。

 勢いよくドアを閉めて、自分の部屋に戻る。

 だいたい坂上さんって静の好きそうなタイプだとは思ってたんだよ。ちょっと気が強くて美人な感じ。

 2人と会う前だったら、絶対に会わせなかったのに。これで、海原さんと余計に話し辛くなったらどうしてくれるんだよ?

 心配していると静から電話がかかってくる。出ると、いきなり大笑いされた。うるさすぎて、スマホを耳から遠ざける。

《すげーな? 海原サン? お前って、自分の理想を法に触れない範囲で具現化できんのな?》

 無言で切ったけど、またすぐにかかってくる。

《怒んなよ》

「お前に好きな子のタイプとか話したことないだろ?」

《そんなん見てたらわかるって。グラビアでも、お前に選ばせたらちっこくてロリっぽいのばっか選ぶじゃん?》

「違っ……興味ないのにお前が無理矢理………」

《わかってるよ。けど、嫌がられてはなさそうじゃん?》

「そうか?」

 そうは思えないけどな。もしそうだったとしても、これからは違うかもしれない。

《お前がめずらしく本気で文句言ってくるから、説明しに行ってやろうと思ったのに、必要なかったな?》

「静と仲良いとか思われた方が怖がられそうじゃないか?」

 思わず、ため息がもれる。

《ははっ。でも、坂上サンはそんなことなかったろ?》

「それは、まあ………でも、いきなりあんなこと言うなよな?」

《坂上サンって、派手な感じはしないけど、美人だよな?》

「それは、そうかもしれないけど………」

《今度、また会いたいんだけど。ライン聴き忘れたし》

「無理。そんなに仲良い訳じゃないし。迷惑がられてたろ?」

《そうか?》

「そうだよ」

《じゃ、とりあえず言ってみてくんない? 海原サン誘って坂上サン誘ってもらえばいいだろ?》

 海原さんを、誘う?

「何で海原さんまで誘う必要があるんだよ?」

《2人で、って言ったら警戒されるかも知んねーじゃん?》

「海原さんとか、誘えるわけないだろ?」

 そんなことができるなら、お返しの時だって、あんなに迷ったりしなかった。

《でも、海原サンって、お前のこと好きなんじゃないか?》

「そんな訳ないだろ?」

《けど、お前がくる前、坂上サンが海原サンとそんなこと話してたけどな。お前は海原サンのこと好きだと思うよ、みたいな》

 思わず、唾を飲み込む。

 手嶋君、言ってたよな? 坂上さんは、言ってほしくても言わないと思うって。

「何でそれでそう思うんだよ?」

 坂上さんの行動もおかしいけど、静の言うこともおかしい。それだと僕が海原さんを好きってことしかわからなくないか?

《そういえば、そうだな。でも、そう思ったんだよな》

 どういう状況でそんなこと?

「坂上さんが言ってるだけで、海原さんは気にしてないんじゃないのか?」

 だから、まだ普通に接してくれてるだけで。

《その可能性はあるよな? でも、海原サンはイケるんじゃね?》

「言うつもりはないよ」

 言って、通話を終了させる。

 なんだよ、それ? 海原さんはイケる?

 無理だろ?

 それに坂上さん、ね。坂上さんも、付き合ってる人はいないにしても、面倒なら好きな人がいるとか言ってくれた方が………あんな顔も、初めて見たよな。

 もしかして、好きな人くらいはいたりするんじゃないのか?


     *♡*♡*♡*


 紅実ちゃんは気づかなかったのかな? 西脇くんが言いかけてた誕生日プレゼントのこと。

 もちろん、友だちってことも考えられるけど、鳥飼くんがあんな慌てて、とか。すごい照れてたし。

 あれ、ぜったい彼女だ。少なくとも鳥飼くんの好きな人。そんな気がする。

 だって、ぜったい知られたくないみたいな感じだったし。あんな照れかたとか………。

 その子は鳥飼くんの誕生日知ってるんだよね? なにあげたんだろ? 鳥飼くんは何あげたらよろこんでくれるとか、知ってるんだよね? いいな。

 もしかして、同じ学校だったら、あたしの知ってる人だったり? 中学が同じ?

 最近の話、なのかな? もしそうだったら、誕生日って4月か5月の前半ってこと?

 いいな。あたしもお祝いさせてほしかったな。せっかく、同じクラスだったのに。

 なんか、つらいな。

 しかも今日、昇降口で会ったときも七尾さん来て挨拶くらいしかできなかったし。

 そんなときにまた、笹丘くんに話しかけられる。

「海原、今日俺塾でさ、また委員会の掲示板整理、頼むな?」

「うん」

 いいけどね。いつものことだしっ。

 ぷいっと、ふり返って自分の席に戻ろうとした時、自分の席に座っていた鳥飼くんと目があった。

 今、ものすごいいやな感じで返事したのきかれた? なんで鳥飼くんのとなり、笹丘くんなのっ? 早く席替えすればいいのにっ!

 やだな。いらいらしてる。

 あれから、もう1か月くらいたつんだ? 鳥飼くんが委員会の仕事手伝ってくれて………。

 あの時、鳥飼くんスマホ忘れてたんだっけ?

 自分の席について軽くため息をつく。

 スマホとか、そんなに忘れないよね。

 鳥飼くんとゆっくりしゃべれるとか、なかなかない。

 接点ないもんね。ラインとか、きいたら教えてくれるかな? すきなのばれちゃう? ばれたら、やっぱり避けられちゃったりするのかな? それは、やだな。

 何か、ないかな? 不自然じゃなくて、話せる方法とか。


     *♠︎*♠︎*♠︎*


 わざとらしく、ないよな?

 放課後、教室に入って行く海原さんを見て、中にはまだ入れずに迷っていた。

 こういうのが気持ち悪いとか、怖いとか言われるんだよな? 静とは別の意味で。

 昼休みの終わりに海原さんと笹丘君が話しているのを聴いて、先月のことを思い出した。

 他に2人で話せる場所とか時間とか思いつかないし、仕方ないよな?

 いや、でも、昨日あんなにはっきり言われてて、まだ誘おうとしてる奴の肩持つのもどうなんだ? 最悪じゃないか?

 あ、どうしてもダメな理由っていうのを訊いたらいいんだ。静も納得するような感じの。それだったら、よくないか?

 そんなに付き合いはないけど、坂上さんには感謝してるし、もしうまくいったとしても坂上さんが苦労しそうなのは目に見えてる。

 ………やっぱり、やめたほうがいいか? もし、わざとっていうのがバレたら、何て言い訳する?

 何回、この思考を繰り返したのかわからない。

 大丈夫だ。バレない。スマホも机の中に入れてあるし、また忘れたってことにできるはず。

 ………いつも忘れてるとか印象悪くないか? また今度にした方が………………スマホ忘れたまま帰る訳にいかないよな。

 意を決して、海原さんがいる教室に入る、手前で少しだけドアを鳴らす。

 また、この前みたいに驚かせたら悪いもんな。

 少しして、教室に入る。

「あ、あれ? 鳥飼くん? どうしたの?」

 掲示板の前で、海原さんが僕を振り向く。ちょっと後ろめたくて、視線をずらした。

「スマホ、忘れたみたいで」

「また?」

「………あ、うん」

 そう、思うよな?

 返事をしながら、自分の机の近くにしゃがみ、中を確認するふりをする。

「………海原さんは、また委員会の仕事?」

「うん。毎月ね、あるの」

「大丈夫?」

「今回は、新しいの貼るだけだったし。下の方に貼ったから」

「そっか………」

 タイミング、外した感じだよな? もう帰るみたいだし、引き止めてまで訊くのも迷惑だよな。

 スマホ回収して、早く帰ろう。

 ……………………あれ? 机の中に入れて帰ったよな?

「どうしたの?」

 海原さんが心配そうに近付いてくる。

「スマホ、ないの?」

 言いながら、僕の横にしゃがむ。

「あ、うん…………」

 何でだ? 落としたり、しないよな?

 机の中を海原さんが横から覗いてくる。

 近い。

 思わず、少し離れる。

「あ、あたし、鳴らしてみようか?」

「いいの?」

 海原さんがスカートのポケットから自分のスマホを取り出す。

「うん。もしかしたら拾った人いて、出てくれるかもしれないし」

「………うん」

 机の中に入れていた時に、何かの拍子に落ちたとかならあり得るかもしれない。

「………え、と…ば、番号、いい?」

「ごめん。080一××××一××××」

「080一××××一××××………これで、いい?」

 海原さんが、繰り返しながら番号を押して、僕に掛ける前の画面を確認してくる。

「うん」

 海原さんのスマホから聞こえる呼び出し音に遅れてバイブ音が聞こえる。

 あ……………。

「どっか、近くで鳴ってる?」

 海原さんが僕を見る。

「ごめん…………持ってた」

 学生服のポケットから、自分のスマホを取り出して電話を切る。

 海原さんがしばらくきょとんとして僕を見た後、吹き出す。

「ふっ……ご、ごめっ………ふふっ…」

 必死で我慢してるんだろうけど、肩が震えている。

 当然だよな。恥ずかしすぎる。

 机の中に入れた後、多分、無意識にまたポケットに入れたんだ。

 これなら、よく忘れ物をする奴だと思われた方がマシだったんじゃないか?

 でも、最近避けられてたし、元気ないような顔しか見てなかったから久しぶりだよな。こんな顔。いつも笑ってればいいのに。

 もう一度スマホを見て、気付いてしまった。

 この着信の番号、海原さんの………。このまま残してたら………。

 卑怯だよな。こういうの。海原さんの優しさに漬け込むみたいで。

「番号、ちゃんと消しとくから」

 未練が残らないようにさっさと履歴を削除する。

 海原さんがはっとして、僕を見る。

「あたしもっ、ば、番号、消しといたほうがいいっ?」

 そっか。かけてもらったんだから、海原さんの方にも僕の番号が残ってるんだ。

「別に、どっちでも?」

 深く考えずに答えた。

 海原さんは少し迷って、スマホを触った直後、僕に着信がくる。

「それ、あたしの番号っ。残しててっ? もしっ、なにかあってかけたとき、知らない番号だと思って出てもらえないとかなしいからっ」

 何で、こんなことするだろう? せっかく消したのに。

「…………うん」

 もう、2度は消せない。

 僕の番号を登録してくれている横顔を見ると、少し笑っているように見えた。

 気のせいかもしれないけど、嬉しそうに見えてしまった。

「………ラインも、登録しとく?」

「え?」

 驚いた顔で、僕を見る。

 我に返って、思い直す。

「ごめ………」

「そ、そうだねっ。そっちのほうがいいねっ? いいよっ」

 海原さんがまた、慌てたようにスマホを弄って、ラインの画面を開く。

「どうしよっか? 鳥飼くんが読み込む?」

「あ、うん。海原さんがコード出してくれる?」

 自分の方も慌てて準備をする。

「準備、できた?」

 僕のスマホ画面を海原さんが覗き込んでくる。

 近い。何かいい匂いとかするし。

 息できない。心臓が自分のじゃないみたいに異様な感じだ。手が湿ってきて、スマホの画面が濡れる。

 それに気付かれないように、海原さんのコードを読み込んで追加する。

 画面に海原さんの名前が出て来て、すぐにぽこんぽこんとスタンプが送られてくる。

 ありがとう、よろしくね?

 しかも、これって………。

「それね、エナガなんだって」

 言って、照れながらへへっと笑う。

「うん。可愛いね」

「あたしっ、そろそろ部活戻るね?」

 言って、教室から出て行く。

 誰もいなくなった教室で、やっと息ができた気がした。

 改めて、海原さんの送ってくれたスタンプを確認する。

 こういうの、どういうつもりで送ってくるんだろう? 全然、まったく、これっぽっちも期待なんかしてなかったはずなのに、もしかしたら、とか思ってしまう。


     *♡*♡*♡*


 へへっ、ほんとに送っちゃった。

 クリップ作る時に、いろいろさがしててかわいいなって、もしかしたらいつか送れることあるかな? もし送れなくても参考になるからって言いわけ考えながら購入してたやつ。

 ちょっとずるいかな、とは思ったけど、電話番号教えてくれて、そのまま登録しちゃおうと思ってた。だから、鳥飼くんにあんなこと言われて、見透かされちゃったって思った。それなのに、ラインまで教えてくれるなんて………やっぱり、あきらめらんないよ。

 少しはあたしのこと仲よくなりたいとか思ってくれてるのかなって、ものすごく期待してしまう。

 教室から出て、隣のクラスの美化委員の子とすれ違うとき、声をかけられた。

「あ、海原さんまた1人?」

 中田さん、だっけ?

「うん」

「笹丘ってまた塾?」

「うん。そう言ってた」

「私も部活とかあるのに、遅れてってんのよ? ずるくない?」

 あきらかに攻撃的な言いかた。

 でも、そんなことあたしに言われても仕方なくない?

「海原さんも言ってやんなよ? ずるいって」

 言えるならとっくに言ってる。

「あ、でも………中田さんも1人?」

「うちは交代でやろうってなってんの。今回はあたし」

 そのすぐあと、教室から鳥飼くんが出てきて、ちらっとあたしたちを見て、会釈していく。

 鳥飼くんって、朝以外は大抵こんな感じ。あたしも、頭を下げる。

 鳥飼くんの後ろ姿を確認して、中田さんがまた話しかけてくる。

「何? アイツに手伝わせてんの?」

「え? ち、ちがうよ? たまたま、忘れ物したって、取りに戻ってきたみたい」

 慌てて、言いわけをする。

「連絡事項の時とか、こういう時とか大抵海原さんだけじゃない? 報告とかの時は出てくるけどさ、それ、目立つとこだけ自分が出てってさぼってないふうを装ってるだけだからね? 海原さん、言えないなら私言おうか?」

「そ、それは大丈夫。みんなの前でしゃべるのとかは苦手だから、それ以外のとこやってるの。役割分担? みたいな感じ」

「ほんとに? 笹丘のが楽してない?」

「うん。してないよ」

「なら、いいけど………あたし今から部活だから。じゃね?」

「うん。気にしてくれてありがとう。またね」

 中田さんは納得はしてくれてなかったみたいだけど、もう言っても無駄だと思ったみたいだった。

 大丈夫だよね? 中田さんの言ってくれるのもわかるし、あたしもそう思ってるとこあるけど、役割分担だもんね。そう考えたら、普通だよね?

 ちょっと、あたしのが多い気もするけど………ううん。そんなことないっ。役割分担、そう考えたらムカついたりもないかも。うん。これからは、そういうことにしよう。

 今日は鳥飼くんともいっぱいしゃべれたし、ラインも教えてもらえたし、すっごいうれしい日だ。

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