*12
静さんって人のことは気になるけど、仕方ないもんね。今さら幼なじみとか、なれるわけじゃないし。
でも、いいな。小さい頃から知ってて………鳥飼くんって、昔からおっきかったのかな? 最初から、あんな感じで話してたのかな? 不機嫌なこととか隠さずに出しても構わないくらい、気心の知れた仲ってことよね?
それに、今も仲がいいってことは、小さい頃からずっと仲がいいんだよね? あたしの知らないこと、いっぱい知ってたりするんだろうな。
「こーら、また暗い顔してる。もう、学校着くよ?」
紅実ちゃんが軽く頭を叩いてくる。
「幼なじみって言っても、本当にそれだけなのかもしれないんだし、悩むくらいなら本人に訊くか、諦めるかしなさいよ」
「うん………」
「前から言ってたじゃない? 彼女とか、好きな人くらいいるかもって。こういうことも想像してたんじゃないの?」
「それは、そうだけど、実際にそういう存在が現れると、嫌だなって。一緒に帰ったりとか、寄り道したりとか、彼女いたらしないよね? って、思ってたとこあるし」
「もし本当に彼女だったらどうするの?」
「あきらめる……すぐには、むりだと思うけど」
両想いなら、仕方ないもんね。
「付き合ってないけど好きな人、だったら?」
すきなだけだったら、いいのかな? まだすきでいても。お互いすき同士なら、あきらめるべきかもしれないけど。
もし、どっちかだったら………。
鳥飼くんがすきなら、応援してあげるべき? 静さんって人がすきなだけなら………。
「せっかく、時間合わせてるんだから、暗い顔見せない方がいいんじゃない?」
「う、うん」
そうだよね? まだ、はっきりしないうちはあきらめなくていいよね?
だって、わかんないもん。
昇降口について、靴をしまっていると鳥飼くんがくる。
「おはよう」
今日はあたしから、と思ってたのに、先に言われた。
「お、おはよっ」
アイス食べに行って、友だちだって思ってくれたから? それにしても、朝からこんなふうに笑ってくれるの、たまんないっ。でも、今はちょっとつらいと思って、鳥飼くんから視線をはずして、前を向く。
靴箱の扉を閉めて紅実ちゃんのところに行こうとした時、鳥飼くんも靴をしまって、こっちを向く。
「今日は、元気?」
横を向いて、死ぬほどびっくりする。
な、ななな何でっ⁉︎
ち、ちちち近くないっ⁉︎
前にも、こんなふうにきかれたことはあったけど、こんなに顔近くなかったっ。
靴をしまった後の途中の態勢なものだから、あたしと目線が同じくらい。
今まで、結構近いと思ってても身長差もあるから顔は遠かったんだ。
慌てて、また靴箱の方に向き直って、鞄をさわったりとかして、顔を合わせられないのを不自然に思われないような演技をする。
………無理があるとは思うけど。
前に1回、七尾さんに呼ばれた時に鳥飼くんもこっち見てて………あの時みたいだ。そこまでは近くないかもしれないけど。
「げ、元気だよ?」
横向けないっ。
しかも、元気? とかっ。
昨日、あたしが悩んでたのばれてるんだ? 今も、現在進行形だからっ?
こんなふうにされたら、あきらめてもまたすきになっちゃうっ。
しかも、もう、どきどきにたえらんないっ。
「あ、あたしっ、紅実ちゃん待ってるから」
顔を合わせられないまま、紅実ちゃんのところに行く。
「何かあった? 顔赤いけど」
「う、うん」
*♠︎*♠︎*♠︎*
何も変わらないじゃないか。
むしろ、余計に怖がられてなかったか? 顔強張ってたし。すぐ顔逸らされて、その後はまったくこっち見てくれなかったし。さり気なく、っていうのができてなかった?
少女マンガって言ってもフィクションなんだろうし、真似したところで現実にうまくいく奴なんかいないんじゃないか?
そうだよな………。それなのに、僕みたいなのが真似したところで、逆効果に決まってる。
それでも、昇降口での挨拶くらいはしてくれるし、話せば返事くらいはしてくれる。
小学校とかでも話す相手の目を見なさいとか、教えられるもんな。いいよな?
今日も顔強張ってる。
やっぱり怖い? 嫌がられてる? やめた方がいいのかな? とは思いつつも、すぐに逃げられはしないものだから毎日やってしまう。
今はもう、この時くらいだもんな。顔見れるのとか。横顔だけだけど。
最初は怖がられないためにはじめただけだけど、海原さんはこっちを向かないし、僕が目線合わせてるのも気付いてないのかもな。
テスト終わってからだから、1週間以上? どうやったら、怖がられないんだろう? 本能的な部分だったら、難しいよな?
そもそもあの時、静が電話なんかしてくるから悪いんだ。
あれがなかったら、もう少しくらいは仲良くなれてて、もしかしたらまた一緒に帰ったりするくらいはできてたかもしれないのに。
……………それは、図々しいか。
期待してしまっている自分に驚く。
その日の帰り、家までもう少しというところで、静から着信が入る。
まだ電車の中だったこともあって、通話を拒否して代わりにラインを返す。
この前も、こうしてればよかったんだよな。直接話さなかったら、怖がられなかったかもしれないし。
余計にイラッとして、八つ当たりみたいな文面を送ってしまって後悔した。
*♡*♡*♡*
「コンビニ寄っていい?」
部活が終わって、帰る途中。コンビニの前で紅実ちゃんが言った。
「うん。いいよ。なに買うの?」
「シャーペンの芯」
「あたしも消しゴム買っとこ」
コンビニの駐車場に、おっきなバイクが停まってて、雑誌コーナーにちょっとこわそうな金髪の人がいる。肌の色も濃くて、体もおっきい。いかにもケンカ強そうって感じ。
外のバイク、この人のなんだろうな。
あとは、飲み物とかおやつを買いに来たのか、中学生の女の子が2人いる。
あたしの行ってた中学の制服。後輩だ。なつかしいな。中学はセーラーだったんだよね。青色のタイがすきだった。
夏はジャンバースカートで、夏もセーラーがよかったのに、って思ってた。
雑誌コーナーの反対側にある文房具売場で、目的の物を手に取る。
小声で紅実ちゃんが話しかけてくる。
「それより、あれからどうなのよ? 訊けた?」
「む、むりっ」
「何でよ?」
「だってね、最近めちゃくちゃ距離近いんだよ? ど、どきどきするっていうか………。でね、元気? とかきかれるの。もしかして、気つかってくれてるのかな? とか」
「話しかけられるの?」
「う、うんっ」
紅実ちゃんが意外そうな顔をする。
「自分から女子に話しかけたりしなさそうなのにね?」
「そうだよねっ? だからね、期待しちゃうっていうか………」
ちょっと考えて、さらに後を続ける。
「あ、あのねっ、もしかしてねっ、好きな人とかいても、付き合ってないとかなら、あたしにもチャンスあるかなあ?」
紅実ちゃんがさらに意外そうな顔をしたあと、やさしく笑ってくれる。
「あるよ」
「し、しつこくないっ?」
「ないよ」
「いやじゃないかな?」
「私、鳥飼君は咲妃のこと好きだと思うよ?」
紅実ちゃんがおっきい声……って言ってもさっきよりは、ってだけで、普通の声なんだけど、気にさわったようで、雑誌コーナーの前で立ち読みしていた人に睨まれる。
慌てて黙って、頭を下げる。
こ、こわっ。
「紅実ちゃん、声おっきい」
「ごめんごめん」
言いながら、金髪の人の目に入らない場所に移動する。
でも、紅実ちゃんが応援してくれて、ちょっと気持ちが上向きになる。
今までかっこいいな、とか思う人はいたけど、すきな人いるとかきいてもそんなにショックじゃなかったし、それでもがんばってみようとか思ったことなかった。
何にもなくても、ただ見てるだけで満足してた。
やっぱり、お返しとかされたからかな? いっしょに帰ったりとか。それで、期待しちゃってて、その分つらいのかも。その分あきらめきれないのかも。
中学生の子たちが先に会計をすませて、紅実ちゃんとあたしがコンビニから出る。そのすぐ近くで、中学生の子たちがさっきの金髪の人に謝っている。
ぶつかったとか?
大丈夫かな?
いくらこわそうだからって、こわい人とは限らないけど、あんなおっきくて強そうな人とか、前に立たれるだけでもこわいよね? なんか、睨んでる感じするし。
「静っ⁉︎」
え? この声、鳥飼くんっ?
声のしたほうを見るとやっぱり鳥飼くんで、ずいぶん急いで走ってくる。
中学生2人も鳥飼くんのほうを見る。
今、静って言ったよね? もしかして、この中学生の子のどっちかがっ?
待ち合わせしてたとかで、こわそうな人に絡まれてると思って?
中学生2人はまた金髪の人に向き直って、「すみませんでした」と頭を下げて帰って行く…………? え? 鳥飼くんと待ち合わせとかじゃないのっ? もしかして、鳥飼くん無視されてるっ?
息を切らせて走ってきた鳥飼くんが、あたしたちを見て気まずそうな顔をする。
「何で、海原さん………?」
息が荒い。あんまり、走ったりするタイプには見えないのに、そんな急いでとか………。
「あ、もしかしてこのちっこい子? お前が怖がられてんのって」
………………………ん?
金髪の人が、あたしのことを見ながら言う。
も、ももももしかして、静ってこの人っ⁉︎ 女の子じゃないのっ⁉︎
「……………いや、まぁ、うん」
鳥飼くんが歯切れの悪い返事をする。
「ねえ? もしかして、知り合い?」
ぼうぜんとしていた紅実ちゃんが、鳥飼くんに確認する。
「幼なじみ?」
鳥飼くんが説明してくれて、そのあとで金髪の人があたしたちを見下ろす。
こわいっ。
「コイツのダチでタメの西脇です。見た目こんなんだけど、怖くないんで」
ちょっと、ふざけた口調で答えてくれる。
タメって、鳥飼くんと同い年ってこと? あたしたちとも? 見えないっ。鳥飼くんが制服着てなかったら、そのくらいには見えるのかな?
「友達じゃないから。ただの幼なじみ? だし」
鳥飼くんがあらためる。
でも、そんなのは関係なくて、あたしと紅実ちゃんはなかなか言葉が出なかった。
だって、意外すぎない? たぶん、紅実ちゃんも同じこと思ってる。そんな顔してるし。
「そっちは?」
「え? あ、私ね? 坂上です。鳥飼くんの隣のクラスの………」
なんとか、紅実ちゃんが答えて、あたしもそれに続く。
「海原って言います。鳥飼くんとは同じクラスです」
頭を下げると、上から声が降ってくる。
「海原サンって、コイツのこと怖いの?」
……………え? な、なんでっ?
「こわく、ないですけど?」
ぜんぜん、ですけど? むしろ、あなたがこわいです、とは言えない。
「あ、あれ? そ、そうなの?」
鳥飼くんがおどろく。なんとなく、顔があかい?
「お前の勘違いなんじゃん?」
「で、でもっ………む、無理してない?」
慌てて、あたしの様子を伺う。
「なんで?」
「何で、って………」
「急にそっけなくなったとか言ってて、口悪いのバレて怖がられてるんじゃないかって気にしてんの」
西脇くん? でいいのかな? 説明してくれる。
あたしが、最近避け気味なの気付いてて、そんなふうに思ってたんだ? そんなんじゃないのにっ。
「そんなこと、ぜんぜんっ、ないよっ? 確かに、聞いちゃったとき学校でしゃべってるのと違うって思ったけど、仲いいんだって、思ったくらいで………」
「仲良くとか、ないから!」
鳥飼くんが慌てて、否定する。
「そんな思いっきり否定しなくてもよくね?」
「…………怖がられたくないんだよ」
拗ねたような鳥飼くんがちょっとかわいい。紅実ちゃんが吹き出す。
「ふはっ……怖いとかっ……どう見ても、気弱なパシリにしか見えないんだけど……ぷふっ」
「そ、それ、酷くない? 僕だって………あ、海原さんまで」
あたしも、こらえきれずに笑ってしまう。
「ご、ごめんねっ」
おろおろしてる鳥飼くんがおもしろいのと、静さんがほんとにただの友達だったことに安心する。
ひとしきり落ち着いたあと、鳥飼くんがコンビニでお水を買ってくるって言うので、中に入ったあと紅実ちゃんと西脇くんが話している。
「こけたのって、バイクだったんだ?」
「そー。自分でこけたんだから仕方ねーんだけど、ちょっとイラついてて………」
すっごいこわそうなのに、紅実ちゃんは普通にしゃべってる。
紅実ちゃんって、こわくないのかな? こわくないんで、とは言われたけど。
「大丈夫なの?」
紅実ちゃんがきき返す。
「平気平気。坂上さんてやさしーのな? 彼氏とかいんの?」
え? そ、それって………?
「何言ってんだよ?」
コンビニの中にいたはずの鳥飼くんが、ペットボトルを持って、西脇くんを睨む。
ぜんぜんこわくないけど。
「坂上さんに迷惑………」
「いないよ。今、あたし誰とも付き合う気ないし」
紅実ちゃんがさらっと答えて、にこっと笑う。
あ、100%の愛想笑いだ。
鳥飼くんも西脇くんも紅実ちゃんのきっぱりした返事に少しおどろく。
「へー? んじゃ、友達は? いらない?」
西脇くんが、紅実ちゃんに迫る。
「今は、咲妃がいるからね」
紅実ちゃんがくすっと笑う。
自分に好意のある人に対しての対応って、冷たいんだよね、紅実ちゃん。
やっぱり、前の人のこと忘れらんないのかな? ちゃんとはきいてないけど、ふられちゃったのかな、って思ったのおぼえてる。
「ははっ。海原サンって、モテるのな?」
「え? あ………」
なんて答えたらいいんだろ? 紅実ちゃんとは友だちだし、そういうのとは違うんだけど………。
「チュンに誕プレのおれ………」
鳥飼くんが慌てて、西脇くんの口を塞ぐ。
「何言ってんだよ? もう帰れよ? 迷惑だろ?」
「チュン?」
紅実ちゃんが反応する。
「コイツのこと。名前スズメだからチュンチュンって。そっから」
鳥飼くんの手をどけて、からかうように説明する。鳥飼くんはものすごくはずかしそうにしながらも、西脇くんのことを睨んでいる。ぜんぜんこわくない。
「やけに可愛いのね?」
言って、紅実ちゃんが笑う。
あたしも、つられて笑うふりをする。
「いい加減、その呼び方やめてほしいとは言ってるんだけど………」
「お前もオレのこと名前で呼ぶじゃん? そんな女くさい名前で呼ぶなって言ってんのに」
「お前のはあだ名じゃなくて本名だろ?」
紅実ちゃんはあいかわらず笑ってたけど、あたしは笑ってるふりしかできなかった。
だって、誕プレって、誕生日プレゼントのことだよね?
誰かからもらってるんだ? あたし、鳥飼くんの誕生日も知らないのに。
静さんは西脇くんのことで彼女じゃなくてほっとしたのに、一瞬だったな。他にいるんだ?
すごい照れてたし、そっちの人が本命だったり?
「お前も帰るんだろ?」
言って、西脇くんが鳥飼くんにヘルメットを渡す。
「うちの高校バイク禁止だからな」
言って、ヘルメットを返す。
「運転しなきゃいいだろ? ケツに乗って帰った方が早いじゃん?」
「使用が禁止だからな? 運転じゃなくて」
「相変わらず真面目だね〜?」
言いながら、自分だけヘルメットを被って帰って行った。
姿が見えなくなってから、鳥飼くんがあたしたちの方を見る。
「ご、ごめん。迷惑………」
「別に構わないわよ。チュンチュン」
紅実ちゃんがふざけて鳥飼くんに言う。
それに、鳥飼くんがまっかになる。
「ほんとに、やめて。それ」
「いいじゃん? 可愛くて」
紅実ちゃんが、堪えきれずに大笑いする。
「だいたい何で来たの?」
「……何か用あって、ついでじゃないかな? 僕も急にラインきて……よくは、知らないけど」
「ふーーん?」
「坂上さんたちこそ、何で?」
「私達は部活の帰りで………」
紅実ちゃんが、せっかくあたしのこと気にしながら話してくれてるのに、なんとなくあいづちを打つくらいしかできなかった。




