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スズサキ*  作者: さより
意識
10/63

*10

 帰って自分の部屋に入ると、鞄を床に放ってへたり込む。

 ほんとに、よかったのか?

 一緒にいる時間が増えれば、その分早く自分がつまらない人間だってことがばれてしまいそうだし、距離が近くなればその分、気持ち悪がられるに決まってる。

 

一一海原のことだから、無視はされないんじゃない?


 確かにそう思って、それに会話を広げようとしてくれたりもするから…………そもそも挨拶とか、海原さんからの方が多い……よな? と、いうか、ほとんど僕からって、ないし。名前の時も………。

 わざわざ海原さんの方から話しかけてくれて、もしかして関わろうとしてくれてたりするのかな………? とか、都合のいいことを思ってしまって、期待してしまった。それがなかったら、多分、あそこまで言えてない。

 挨拶は、別だろ? 誰にだって普通にするだろうし、テストの返却の時も僕が手伝ったから、声を掛けてくれただけだろうに、勘違いも(はなは)だしい。こういうのがキモいとか、ウザいとか思われるんじゃないのか?

 でも、あんな顔…………。

 いや、普通だ普通。多分、海原さんにとっては同じクラスの人間だったら、そのくらい普通なんだ。期待したって、どうにもならない。

 制服の内ポケットから生徒手帳を取り出す。

 上の部分にオオルリが留まっている。

 こういうの、多分慣れてても時間かかるよな?

 その間、海原さんの手の中にあったのかと思うとあまりに近い場所に置いておくのが躊躇(ためら)われて、外した。

 

     *♡*♡*♡*


 家に帰って部屋に入ると、たえられなくなって制服のままベッドに倒れ込む。

 たぶん、あたしぜったいうれしくてたまんない顔してた。

 ばれて、ないよね?

 鳥飼くんは、もらいっぱなしにできなかったから言ってくれただけなのに。

 いっしょに帰ろって、言われたわけじゃないのに、かんちがいもここまでくると迷惑だよね?

 でも、楽しみでたまんないっ。

 アイスのこと言ってなかったら、あんなこと言ってもらえなかったかも。あのとき、アイスのこと話しといてよかった。

 オオルリのクリップも、うれしかった、って言ってくれたし、まだ持っててくれてるのかな?

 それって、なんか………近くにいさせてもらえてるような………って、こういうこと考えるから、手作りって重いとか言われるんだって。ふつうに、ふつうに。捨てられててもかまわないくらいの気持ちでいないとっ。

 テストどころじゃないけど、テストもがんばんないとっ。最終日だもんね。

 テストできなかった、って話しかできなくなっちゃうのいやだし。

 ベットから起き上がり、部屋着に着替える。

 ………鳥飼くんって、どんなこと話したら楽しいのかな?


「今日のテスト、できた?」

「うん、たぶんっ。自信はないけど、いつもよりはがんばってる」

 テスト2日目。わかんないとこは紅実ちゃんに助けてもらいながら、勉強した。

「あたしが言ってもそこまで勉強しないのにね?」

「そんなことないもんっ。紅実ちゃんといっしょに通いたくて、ここ受けるとき大変だったんだからね?」

 紅実ちゃんがくすっと笑う。

「知ってる。ま、あんたはやればできる子だもんね?」

「そうだよっ! ここも、ちゃんと受かったでしょ?」

 たぶん、紅実ちゃんいなかったらがんばれてなかった。

「………明日、何か用事できたってことにして、2人きりにしてあげようか? 手嶋君も幸穂とかいればそっち来ると思うし」

 紅実ちゃんってばやさしいっ。でも。

「だめっ。紅実ちゃんとの約束のほうが先だし、買い物も楽しみにしてるんだからっ」

 そう。だから、両方叶えてくれる紅実ちゃんには、ほんとに感謝してる。

 また、紅実ちゃんがくすっと笑う。

「そっか。じゃ、遠慮なくいっしょに行かせもらおっかな」

「それにね、まだ2人だと緊張してうまく話せない気がするから」

「情けなっ」

 紅実ちゃんはちょっとあきれた顔で笑ってくれる。

「でも、まあ、鳥飼君なら大丈夫じゃない? 彼女とかいなさそうだしさ」

 あたしも、たぶんいないとは思ってるし、そう願ってるっ。

 学校で仲よくしてる感じの女の子もいないし、彼女いたら、お礼、って言ってもいっしょに帰らないといけないようなこと、しないよね?

 2人きりってことはないけど、木村くんみたいに渡してくれるだけでもよかったんだし。

 ………期待、しちゃってもいいのかな?

 すかれてるのかな? とまではなくても、ほかの女の子よりは仲よくなれてるのかな、とか。

 でも、やっぱり、期待しちゃうっ。いっしょに帰れるの、楽しみでしかたない。


     *♠︎*♠︎*♠︎*


 大丈夫、だよな? 

 ………でも、僕みたいなのと一緒に歩くだけでも嫌じゃないか?

 いや、もしそうだったら、違うのがいいとか言うよな? 手嶋君も来るから、僕だけって訳でもないし………。

「ははっ、顔こわばってる」

 昇降口を出たあたりで待っていると、手嶋君が最初に来て、言った。

「当たり前でしょ。女子と一緒に帰るってことだけでも記憶にないのに」

「いやいや、小学校の時の記憶くらいあるでしょ?」

「あるけど、いっしょに帰った記憶とか遊んだ記憶はないよ」

「………………あ、でも、姉ちゃんとか妹とか」

「いないよ」

「い、従姉妹くらい、いる、よね?」

「いるけど今5歳で、その子からもつまんないって言われるのに?」

「それは…………お気の毒だね」

 手嶋君が心底申し訳なさそうに苦笑する。

 今まで人付き合いを(おろそ)かにしてきた罰なんじゃないかとすら思う。

「ごめん、待った?」

 坂上さんが来て、横に海原さんもいる。

「そんなに待ってないよ」

 手嶋君が先に答える。

「よかった」

 海原さんがへへっと笑う。

 テストの間は、時間も短いしあんまり顔合わせなかったもんな。こういう顔も、久しぶりだ。

「んじゃ、行こっか?」

 手嶋君が声を掛けて、坂上さんと話しながら前を歩いてくれる。

 …………気使ってくれてるんだよな? 申し訳ない。

「テスト、どうだった?」

 海原さんが話し掛けてくれる。

「ま、まあまあかな」

「あたしも、まあまあ」

 …………海原さんって、何話せば楽しいんだ?

「鳥飼くんは、なにが得意?」

「数学かな。生物も好きだけど………」

「そっか、鳥すきだもんね?」

「うん」

 海原さんも、気使ってくれてる感じだよな? 

 情けない…………。僕から誘ったのに………。

「海原さんがくれたクリップ、あれ、オオルリだよね?」

「う、うん。校外学習のとき、鳥飼くんが教えてくれて、きれいだったから」

 合ってた。やっぱり、そうだったんだ。

 思わず、嬉しいとか思ってしまう。

「自分で作ったの?」

「えっ? あっ! あ………うん。ごめんね、その………」

 何だ? この慌て方?

「どうしたの?」

「な、なんか………ざ、雑、だったかもとか、思って………」

「そんなことないよ。手嶋君が教えてくれなかったら気付かなかったし、むしろ、僕なんかがもらってよかったのかな、って」

「い、いいよっ。作るのすきで、部活でも、家でも作ってて、いっぱいたまっちゃうから、いる人にはあげてるの」

「そうなんだ?」

 いる人には………か。本当にそれだけなんだ………当然だよな。僕が、そんな意味のあるものとか貰えるわけないよな。

「だから、ほんとにお礼とかいいから」

「でも、それだったら今日、意味ない………?」

 僕に、何かしてもらいたくないとか、そういうことだったりするのかな?

「じゃ、次の時はあたしが………」

「次?」

「あ、あ………えと、違くて、今日………あ、そう、今日っ、鳥飼くんのはあたしがおごるね?」

 慌てて、言い直す。

 だよな。次とか、思ってもないだろうに。

 ああいうクリップとか買うことないから知らないけど、お返しって過剰、なのか? あんまり気を遣わせるのも良くないよな?

「それでいいの?」

「うん」


     *♡*♡*♡*


 当たり前みたいに次も、って思ったけど、そんなにうまくはいかないか。迷惑だよね?

 手嶋くんがクリップ作ったの、ばらしちゃったのもどうしようかと思ったのに。

 あんまり重いとか思われたくないもんね。あれは、ちょっと下心もあるから特に………このくらいのほうがいいよね?

 どうやったら、次につなげられるんだろ? 今日、楽しかったら、大丈夫かな?

 ………もっと、知りたいな。鳥飼くんのこと。

 何からきいたらいいんだろ?

 ラインとか? でも、彼女とかいたら、きくの悪くない? でも、いきなり彼女いるの? とか、きけないよね? そんなこときいたら、すきなのばれちゃうっ。

 最初は友だちからだよねっ。とりあえず、しゃべるのくらいふつうにできるようになんないとっ。


 お店について、アイスを選ぶ。ここのアイス、種類は少ないんだよね。定番はチョコとバニラ。それに、毎月期間限定の味が1種類追加されるだけ。

 大きめのマカロンの間にアイスが挟まってて、どっちも楽しめるのがうれしい。

「鳥飼くんは、どれにする?」

「僕は、コーヒーだけで」

「アイス、食べないの?」

「あー、うん………」

「もしかして、アレルギーとかあった?」

「そんなことはないけど………」

 どうしたんだろ?

「アイス、きらいだった?」

「嫌いってことはないけど………甘いのが………ちょっと………」

「チョコとかも食べない?」

 手嶋くんが話に入ってくる。

「食べない」

「チョコ食えないとか、損してるね?」

「そんなことないでしょ?」

 去年のバレンタインデー、チョコ買ってたのに、結局渡せなくて………でも、よかった。あまいの苦手だったら、困らせちゃってたもんね。今年は、あまくないのさがそっ。

 …………まだまだ先なのに何考えてんだろ? そもそも、あげられるのかもわかんないのに。あげたいな、とは思うけど。それで、困らせちゃったら意味ないもんね。

 どのくらいあまいの苦手なんだろ?

「あ、でもね、ここのナッツバーはあまくないよ?」

 ショーケースの端にあるナッツバーを指差して教える。ここのは、ダークチョコだもんね。このくらいだったら、食べられるかな?

 鳥飼くんがちょっと困った顔をする。

「でも、チョコとかキャラメルなんだよね?」

「キャラメルはね、あたしが食べてもおいしいって思うからあまいと思うけど、チョコはおいしくない………」

 な、なに言ってんの? 自分でもおいしくないと思ってるの勧めるとか。ばかじゃないのっ?

「そんなに、甘くないの?」

 くすくすと笑いながら、ききかえされる。はずかしっ。

「………えっとね、にがいくらい。そのまま食べれなくて………アイスにまぜて食べたらおいしかったけど」

「じゃ、試してみようかな? いい?」

「う、うんっ。食べれなかったら、あとでアイスも買ってあげるねっ?」

「ありがとう」

 うわーーっ。あたし、ぜったい、今顔あかい。鳥飼くん、今日いっぱい笑ってくれる。少しは、一緒にいて楽しいとか、思ってくれてるのかな?


    *♠︎*♠︎*♠︎*


 苦そうな顔? こんな顔もするだな。可愛い。

 思わず、笑ってしまって不安になる。

「あと、サンドイッチも買ってかない?」

 坂上さんが、海原さんに言う。

「うん。いいよ。カツサンド残ってるしね。あとで食べよ?」

 カツサンド?

 よく見るとショーケースの一番下の段にはサンドイッチも数種類並んでいた。

 スイーツがメインだけど軽食も置いてあるって感じなのかな?

「鳥飼君も買って帰る? 結構、オススメ」

 気にして見ていた僕に、坂上さんが提案してくれる。

「そうなんだ?」

「うん。紅実ちゃんなんかね、まねして作ってたりするの」

「そう。でも、何か違うのよね」

「紅実ちゃんのもおいしいよ」

 海原さんと坂上さんって、仲良いよな。やっぱり、学校外でもよく遊んでるんだな。その坂上さんに、僕が海原さんのこと好きっていうのがバレてるかもしれないとか…………。

 坂上さんは、僕のことどう思ってるんだろう? 海原さんに近寄って欲しくないくらいなら、今日だって断られるよな? ペンケースの時だって………。悪くは、思われてないよな?

「どうする?」

「あ、じゃ、僕も買って帰ろうかな」

 約束もあるしな。不本意だけど。 

「こっち、空いてるよ」

 手嶋君に促されて、屋外のテーブル席に座る。

 手嶋君の前に坂上さんがいて、その横が海原さんで…………前、座っていいんだよな?

「早く座ったら? 鳥飼君みたいの立ってたら邪魔じゃない?」

 確かに………。海原さんの前とか、顔、赤くなったりしてないよな?

 あんまり、目合わさないようにしよう。

 …………でも、アイス食べてるのとか………可愛くないか? スプーン咥えてるとことか…………。

 ここ、テーブルとか小さいよな? こんな距離で女子と座ったことなんかないし、むしろ隣とかの方が………。

 いや、そっちの方が距離近いか。顔は見なくて済むけど。

 手嶋君を見るとアイスを食べながら、2人と普通に話している。

 こ、この程度で、狼狽(うろた)えてどうするんだ?

 落ち着くためにも、コーヒーを飲んで、ナッツバーの包みを開ける。

 ナッツの上にかかってるの、チョコなんだよな?

 海原さんはああ言ったけど、やっぱり甘いんじゃないかと、恐る恐る口にする。

「にがくない?」

 海原さんが心配そうに訊いてくる。

「あ、大丈夫」

「ほんとにっ?」

 意外そうな顔をする。

「うん。もっと甘いかと思ってたけど、おいしい」

「そっか。おとなだね?」

「え? いや、そういうんじゃ………」

「でも、よかった。おいしいなら、いいね?」

 海原さんが、やさしく笑ってくれる。

「あ、うん」

 こんな顔、正面から見られるとか………。

「誰か、スマホ鳴ってない?」

 手嶋君に言われて、自分のスマホが震えているのに気付く。

「あ、僕のだ」

 画面を確認すると、面倒そうな相手で、すぐに拒否する。

「よかったの?」

 手嶋君が、出てもよかったのに、という顔で訊いてくる。

「あ、うん。多分、大した要件じゃないと思うし」

 ポケットにしまうと、またすぐに着信が来る。

「ごめん」

 また、拒否をする。

 多分、僕が出るまでかけ続けてくるつもりだよな?

 電源を落としてしまおうとすると、坂上さんが言った。

「出てあげたら?」

「大丈夫だから」

「あたしたちは、別にいいよ?」

 海原さんも言ってくれる。

「咲妃、垂れてる」

「あっ」

 手に持っていたスプーンから、アイスが溶けて、手に伝う。それを海原さんがぺろっと舐める…………。

「ご、ごめん。やっぱり電話出てくる」

 言って、慌ててその場を離れる。

 やっぱり、ちょっと、まだ無理だ。普段、全然そんな感じしないのに、あんな………色っぽいというか…………いや、そういう目で見てる僕がおかしいんだろうけど…………。

 その時、またスマホに着信があった。

 


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