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スズサキ*  作者: さより
意識
1/63

*1

     ✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎


 こっち、理系クラスだよな?

 そういうイメージじゃなかったけどな。

 去年、隣のクラスにいた小さい子で、何故かよく目に入る子だった。

 肩に届かない髪と幼さの残る顔。こんな場所と制服だから同い年と分かるものの、別の場所で会ってたらそうは思わなかっただろう。

 クラス分けの表を見ようと、前にいる人の隙間から覗こうとしたり、精一杯背伸びしたりしている姿に、思わず口が緩みそうになる。

 海原(かいはら)咲妃(さき)、だったよな?

 人混みの上から表を覗くと、名前があった。

 僕のも、ある。

 ここで「名前あるよ。一緒のクラスだね」とか言ったら………。

 気持ち悪がられるよな、多分。

 身長だけは伸びて目立ってしまうものの、それを活かせるようなことはできないし、情けない印象しか持ってもらえない顔と貧相な体は気持ち悪いとしか思われないもんな。

 クラスの確認が済んで、教室に入ろうとした所で声を掛けられる。

「見えた?」

 後から来て、僕の横に立ったのは手嶋君だった。

 あんまり喋ったことないんだけどな。去年、体育の授業では一緒だったけどほとんど関わりなかったし。

 でも、僕に訊いてきてるんだよな?

「見えたんじゃないの?」

 なかなか返事をしない僕に、焦ったそうに訊いてくる。

「名前、あるよ。17番」

「鳥飼も?」

「うん。僕は18番だから、席は前後ろだね」

「そっか。じゃ、1年間よろしく」

「よろしく」

 言って、手嶋君はにっと笑う。こういう、人懐っこいタイプは特だな、と思う。

「海原咲妃って、ある?」

「ある、よ。7番目」

 何で訊くんだろう? とは思った。

「そ」

 言って、手嶋君がまだ背伸びをしながらクラス表を見ようと頑張っていた海原さんに声を掛ける。

「海原も名前あるってさ。出席番号7番。オレ17番」

「なんで?」

 海原さんが不思議そうな顔で振り向いて、手嶋君を見上げる。

「見た」

「うそ?」

「オレじゃないけどね」

 2人でいると、中学生みたいだよな。手嶋君も童顔な方だし………身長も………目線近いと、顔とかよく見えるんだろうな。

「代わりに見てもらった」

 言って、僕の方を見る。それにつられて、海原さんも少し驚いた顔で僕を見る。

「ありがとう」

 せめて、どういたしまして、くらい………。

 言えるわけないか。

 僕は頭だけ下げて、教室に入った。


 ………また、言えなかったな。



     ✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎



 理系クラスは1組と2組。紅実(くみ)ちゃんは2組だったけどあたしのはまだない。

 だから、たぶん、ぜったいあるはず。

 あと、鳥飼くんの名前も。席とか近かったりしないかな? か、と、と、だもんな。遠いかな。

 自分の見たなら早くどいてほしいのに。

 背が低いと前にいる人の上からとか、隙間からとか、なかなか見えない。

「海原も名前あるってさ。出席番号7番。オレ17番」

 後ろから手嶋くんが教えてくれる。

「なんで?」

 手嶋くんは親切のつもりなんだろうけど、お楽しみを先にとられたような気がして、ちょっと口調がきつくなる。

 それに、もういっこ確認したいことあるのに、ここいる必要ないみたいになっちゃった。

「見た」

「うそ?」

「オレじゃないけどね」

 言って、後ろにいる鳥飼くんを見る。

「代わりに見てもらった」

 え? 鳥飼くん? え? 手嶋くんと仲いいの?

 あ、め、めめめめめ、目、合っちゃった。どどどどどうしよ? あ、お、お礼。お礼言わなきゃ。

「ありがとうっ」

 鳥飼くんは頭だけ下げて、教室に入って行った。

 ………また、笑えなかった。

 今度はもっとにこって笑って言おうと思ったのに。


 教室に入ると鳥飼くんは3列目の一番後ろに座っていて、あたしの席は2列目の一番前だった。

 遠いな。しかも、あたし前だったら後ろ向かなきゃ見えないし。そんなの、むり。

 せっかく同じクラスになれたのに。少しくらい仲よくなりたいのに。

 鳥飼くんって、どんなこと話したら楽しいって思ってくれるんだろ? どんな子が好きなんだろ? 付き合ってる子とかいるのかな? あたしみたいなちびで子どもっぽいのとか、どう思われてるんだろ? 同じクラスの女子、くらいには思ってくれたのかな?

「今年も同じクラスだね? よろしく」

 ちょっと落ち込んでいたあたしに、明るく声をかけてくれたのは去年も同じクラスだった七尾さんだった。

「うん。よろしく」

「何か、元気ないね? また坂上さんと同じクラスになれなかったから?」

 七尾さんはあたしが鳥飼くんをすきなのは知らない。

「うん。七尾さんはうれしそうだねっ?」

 距離を縮めて小声で答える。

「だって、手嶋君と同じなんだもん」

 七尾さんは手嶋くんのことがすきらしい。確かに、あたしみたいなのにも気をつかってくれるし、友だちも多いみたいだし、いい人なんだと思う。応援したいと思う。でも、今まで恋愛経験ゼロのあたしには何したらいいのかわかんない。

「よかったねっ? 何かできることあったら言ってね?」

「うん。ありがとー。海原さんもね? 好きな人できたら教えてね。応援するから」

 教えるのも、勇気いるよね? だって、あたしと鳥飼くんとじゃ身長差ありすぎてつりあわない。きっと、大人と子どもみたいにしか思われない。それに………。

「でもね、手嶋君の後ろ、あの背高い人なんだよね。暗いし、キモいし、何考えてるかわかんなくて、こわい感じ。近くで騒いだりしたらにらまれそうじゃない?」

「確かに、うるさいのは好きじゃなさそうだけど。こわい、のかな?」

 ぜったいキモくないし、こわくないよ。だって、顔とかすっごい、やさしそうだもん。そりゃ、手嶋くんみたいによく笑って、しゃべってるとかはないけど。

 みんな、そんなイメージなんだよね。なんでだろ?

「あれ? 何か手嶋君と話してる。仲いいのかな?」

 思わず、後ろを振り向く。

 ほんとだ。なに話してるんだろ?

 席近かったら、話してるのとかきこえるのに。



     ✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎♠︎✳︎



「部活とかやんないの? バスケとか、バレーとか。誘われなかった?」

「身長だけあってもね」

 背が高いからって、運動神経がいいわけじゃない。

 この身長のせいで昔からバスケだのバレーだのに誘われるものの、がっかりされるのがオチだった。

「鳥飼だったら、サッカーじゃないの?」

 僕の後ろから、去年同じクラスだった木村君が話に入ってくる。

「なんで、サッカー?」

 手嶋君と木村君って仲いいのかな?

「だって、鳥飼ってサッカー経験者だろ?」

「違うよ」

「えー? でもボールの扱いとか慣れてなかった? 去年、クラスマッチでサッカーやってたことあったじゃん?」

 そういえばあったな。そういうこと。

 木村君って、サッカー部だったんだ。気を付けないとな………。

「ちょっと、知ってる奴がサッカーやってて、練習に付き合わされることがあるから………その所為かな?」

「へー? そいつうまいの? なんていう奴? オレ知ってたりする?」

 やばいな。どうしようか。

「子どもだよ。遊んでるだけだし」

 言うと、2人はそれ以上、訊いてくることはなくて、ほっとしていた。


 家で宿題やら予習やらをしていると、弟が帰ってくる。

「ただいまーっ‼︎」

 2階の自分の部屋にいても、余裕で聞こえるでかい声は、運動部なら仕方ないんだろうか?

 そして、ドタドタと自分の部屋に入って行ったかと思うと、しばらくして僕の部屋にノックなしで入ってくる。

「ノートくれ、新しいやつ」

「ノックくらいしろよな? いつも言ってるだろ?」

「いいじゃん。シコってたわけじゃないだろ?」

 もう、ため息しか出ない。

 こんな奴が中学サッカーでは注目されていて、プロでもないのにファンや追っかけがいるのは納得がいかない。

 まあ、でも、中学生にしては高すぎるくらいの身長と整っているのに人懐っこい顔、というのも関係はしているんだろうが。

 自分とはまったく似ていない。中学にもなるとそれは露骨に現れてきた。

 こいつの兄というだけでわざわざ見に来ておいて「似てないね」だけでなく、「大したことないね」「イメージ台無し」などと言われることは日常茶飯事だった。

「新学年になったらいるのはわかってるんだから自分で準備しとけよな?」

「今度買って返すからさ。予備あんだろ?」

 こう言われて、返ってきたことはない。

 自分が今年受験だということはわかってるんだろうか?

 仕方なく机の引き出しからノートを出して渡す。

「何冊?」

「とりあえず5冊」

「全部かよ?」

「あ、あとペン貸して。名前書くから」

 何でも人頼みなんだな。少しくらい申し訳ない顔しろよ。

 ペンを渡すと自分の部屋に持って行こうとする。

「ここで書いてけよ」

「は? なんで?」

「お前に持って行かれると返ってこないからな」

 弟は仕方なく床でノートに教科と名前を書きはじめる。

「にーちゃんってさ、カノジョとかできた?」

 知ってるだろうに、わざわざ訊いてくる時は、何かある。

「………母さんに訊いてこいとか言われたのか?」

「まぁね」

「別にいなくてもめずらしくはないだろ? 心配いらないって言っとけよ」

 弟には何も言わないのに、僕に対しては干渉してくるよな。母親ってそういうもんなのか?

 交友関係の狭さとか気にされてるんだろうけど、弟が異常なだけで、それなりにやってる。

 高2にもなって心配されるとか、情けないな。

「心配してるわけじゃねーと思うよ?」

「じゃ、何だよ?」

「今日、やけに機嫌よかったけど、彼女でもできたのかしら? とか言ってたから」

「は?」

 いつも通り、普通に帰って来ただけだ。何で機嫌よさそうとか?

「にーちゃんって、結構わかりやすいんだよな」

「何がだよ?」

 立ち上がった弟が机の上に広げていた、ノートを覗く。

「ノート、きれいに書いてんね? 見せてとか言われんじゃね?」

「………うるさいよ。名前書いたならペン置いて出て行けよな?」

「はいはい。んじゃ、がんばってな?」

 何が、がんばってな? だ。

 ノート見せる相手とか、いるか馬鹿。



     ✳︎♡✳︎♡✳︎♡✳︎



「よかったじゃん? 席は遠くても同じクラスだったんだから」

 中学から一緒で、同じ手芸部の紅実ちゃんはあたしが鳥飼くんをすきなことは知っていて、相談に乗ってくれる。

「それはそうだけど。どうしたら仲よくなれると思う?」

「やっぱりあいさつからじゃない?」

「何こいつ? とか思われないかな?」

「あいさつだけでそんな思われるんなら、何喋っても思われるんじゃない?」

「そ、そっか」

 靴箱も近くなったし、時間同じくらいだったらチャンスあるよね? 靴履き替えながら「あ、おはよう」みたいな……。で、できるかな? でも、せっかくだもんね。そのくらいなら………。

「まー、そうじゃなくても同じクラスなんだし、何かあるでしょ? 黒板見えないとこあったからノート見せてとか」

「でも、あたし一番前なんだよ? それでノート取ってないとかそれこそ何こいつ? とかじゃない? しかも、そういうのは女子の友だちに見せてもらえば? とか思われたりしない?」

「するよ」

「だ、だったら………」

「そこを、あ・え・て、言うんじゃない。飯坂さんとかそんな感じみたいよ?」

「飯坂さんとあたしじゃ違うもん」

 飯坂さんはそういうことをやっても許されるくらいの美人だし、大人の色気というか、そういうのもあるし。ちょっととっかえひっかえみたいなイメージはあるけど………。

「だいたい、鳥飼君って、自分からはあんまり喋ったりしなさそうじゃない? だったら、あんたが頑張るしかないんだからね?」

 確かに。自分から話しかけてるのとか見たことないかも。そもそも、あんまり喋るタイプじゃなさそうだし。

「う、うん。そうだね。ま、まずはあいさつからね?」

「そうそう」

 明日、会えたら言う。

 決意を新たにがんばるぞっ! と言い聞かせた。

初めまして。さよりと申します。

今まで書きためていた物を少しずつですが、読んでいただけたらと思います。

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