第96夜 由美子さん 性格悪くなってませんか
3月20日
由美子さんの処に行く栄子ちゃん
家元の由美子さん 幹部やOGの検分となるが 揺れずに茶を点てて勧めていく
幹部は言葉も発せず 退席していく
「余分な力も抜けて 心も落ち着いた よく頑張った と褒めたいが
あの子を見た後だとな 頑張れだ」
「鏡智は無理です」
「大円くんじゃない 此の子だ」
5枚ほどの額に入った四つの写真とアルバムに入った多数のLLサイズ
屋外の大仏様? と言うことは鎌倉
はい? このパンチで座り込んでるの河合くん!!隣は由美子さん!!
ご主人とのスリーショットもある
「プロのカメラマンさんが デカイカメラで記念撮影をしてくれた
1時間並んで撮影して貰って 夏の奈良の大仏様の資金 と書かれた
貯金箱に諭吉を入れてきた オーラスは夏の奈良でやるらしい
まぁ潔いわ 俺は座り込んで人気者になるだけ だ 流石パンチだ」
栄子ちゃん的には LLサイズの写真の方が衝撃
河合くんと写るためだけに 百人以上が整然と並んでいる
「河合くん 族やってたはずなのに 話には聞いてたけど ここまでの人気者に」
「栄子 大変だな 大円くんに向かうどころか 同級生が立ちはだかってるぞ」
「由美子さん 楽しんでいませんか?」
「そんなの 面白いに決まっている パンチなんて鯉以外では碌でもない髪型
そのパンチの二人で 片や仏の茶 片や仏の前で堂々と座り込む人気者
そして 二人共 栄子の関係者 精進しろと仏の教えだ」爆笑の由美子さん
「この二人には 勝てない 越せない壁があります
パンチは置いておいても 大仏様の前で毎年正月3日に座り込む肚」
「その写真は違うぞ 正月3日の夕方に 今年で最後と挨拶に廻ったそうだ
寺も観光協会も立春の2月4日を最後にと 彼に頼み込んだが仕事の都合で
3月12日(日)に いきなり来て座り込み 何もない日でPRもできていない
それでも多くの人が来ていた 理解る人には理解る
私はバスで話を聞き 大円くんの茶を頂き どうしても鎌倉に行きたくなった
行ったら座り込んでいた ここでの最後の座り込み 夏の奈良で修了 の看板
まぁ 人気者だ 呼んでくれたみたいだ」
「そんな 呼ぶ方も呼ぶ方ですが 呼ばれていく方も」
「大円くんだって モグラさんたちを たくさん集めて人気者だったしな」
「鏡智だけじゃなく 河合くんまで また道に迷いそうです」
鏡智もええだけニホンカワウソだけど 河合くんまでニホンカワウソ 目眩がする
「迷えばいい まだ二十歳 あまりに真直ぐでは 迷う人の気持ちも理解らない
迷って困って挫折する 立ち直る 時間はある よかったな良い同級生が居て」
栄子ちゃんが帰り 幹部やOGが集まる
「まぁ所作・作法は完璧 茶の具合も至極 家元が視界に入ってますね」幹部
「どうだ 茶会で私の代理はできそうか」由美子さん
「それは」
「まだ無理だ 壁に当たって挫折して迷って困ってがない 孤児で苦労はしてるが
茶だけを見ると ほぼ苦労を苦労と思わず 五年間でココまで来た
このままでは と私も悩んだが ちゃんと神様も仏様も見ておられる
旦那は『人気者になれば 皆 助けてくれる』と 簡単に言い切る
同級生は『座り込んで人気者になるだけ』と これまた簡単に言い切る
どちらも簡単な訳がない キッチリと壁が用意されていた」
「その壁って 高すぎませんか」OG
「茶会で私の代理を 頼むんだ この二つの壁には撤退の判断が要る
口では『勝てない 越せない』と言っているが 本心はどうだかな
撤退をして 廻り道をして 悩んで 伸びて貰わないとな」
「また キッツい道を歩ませる」幹部
「だって楽しみだろ 伸びてくるのは理解ってる 今までだって壁は山ほどあった
本人は壁を壁とも思わす軽々と越して来た したら巨大な壁が二枚も
私だって 兄という壁 死して尚立ちはだかる兄の壁」笑う由美子さん
「さて 栄子が壁にぶち当たって悩み苦しむ 特別の日だ
私の壁 兄の遺作の封印の椀 これで皆に振る舞う 頂いていってくれ」
幹部5人とOG3人に 茶を振る舞う みな 作法通り椀の正面を外して頂く
帰っていく幹部たち 見送る由美子さん
「流派としては やはり言えない そして誰も気が付かないか また封印だ」
「こんにちは」と停まる フルオープンのNA
「上がっていって いい和菓子が入った」由美子さん
「華ある? ちょっと 教え鍛えをウケたんだ 由美子さんに確認を」大円
「この 生えてるの貰うね 立候補は 理解った」
会話をしてとスッと手刀で切ってくる 枝も茎も 手折るではなく切る
黙って 茶室に案内して 華入れと剣山を渡す
「こっちか どうだ そうか」と思いっきり会話をしながら華を活ける
「これだな 華の意見だとこうなる 花入れは我慢な」
どうみても なにかがおかしい その違和感の正体が理解らない
「湯も粉もシャカシャカもある 見て貰ったお礼に 一服どうぞ」
手前差に座り 出してくる不思議な布に包まれた
パンチ阿閦如来 パンチ不空成就如来 パンチ宝生如来 との椀
どの椀も螺旋状に下段のパンチから書かれており 始点と終点はズレている
「俺が捏ねて 本人が書いている どの椀が良い」
強烈に軽く聞いてくるが 物凄く貴重な椀なのは理解る
「宝生如来様の椀で」なんとか絞り出す由美子さん
流派の作法としては完全にアウトな手前だが 椀が置かれると華が生きてくる
これで調和する華 しかも正面が不明な椀で適当な位置で置かれ勧められる茶
このまま 勧められた椀の位置を頂く位置として そのまま頂く
「やっぱ由美子さんだ あるものをそのまま受け入れる心
勧めた俺を優先してくれる お菓子有難う 帰るね」
「大円くん 素晴らしい茶だ そこに嘘偽りはない
ただ 現し世の茶ではない かけ離れすぎてる 封印して貰えないか
兄の椀と同じ 解らない者が多すぎ混乱の元になる
特に栄子には 見せないでやってほしい」
「由美子さんが そう言うなら 此の椀はどうぞ」
パンチ阿閦如来 パンチ不空成就如来 の椀を仕舞
パンチ宝生如来との椀を置いて帰ってしまう大円
椀を拝見する由美子さん
「この椀は現し世の椀ではないな 趣があり過ぎるし大円くんの持ち込みだ
宝生如来様だが パンチが余分というか 仏様に失礼だ
パンチがなければ 宝 の位置で正面だが その宝は一段下に書かれ否定している
意味が理解らない」
たっぷり30分は 椀を手に持って拝見をし続ける 由美子さん
前屈みになり肘が畳に付いている
ふと体を起こすと栄子に見せた河合くんの写真が目に入る
「河合くんも大円くんもパンチ そこか 如来様の螺髪もパンチか
『本人が書いている』とは 宝生如来様の直筆の書の椀か
パンチ宝生如来 などとは 確かにご本人以外は書けない
大円くんなら 持ってくる事が可能だろう
そして正面が不明は正面がない! どこで頂いてもいい 兄の椀と同じか
作法だ所作だと 能書きを垂れる事への 強烈なアンチテーゼ もっと自由に
最低限の作法・所作だけで 万物の理と会話しての あの流れるお点前
そうは言っても 人では万物の理と会話など出来ない
現し世の人の世界では ある程度は縛らないと 間違える 事故が発生する
だから私か 栄子ではなく私の所へ持ってきた意味
あの兄の椀を持つ 私なら呑み込むと 期待されたものだな」
古帛紗も敷かず 畳に直に置いた椀を前にして 姿勢を正して小一時間 見つめる
我に返って 拝見の作法通りに椀の下に 古帛紗を敷くと総てが破綻していく
「まぁ ええだけのトラップだな
涼子は兄の椀を見ている 一度使わせてみよう トラップだ 教え鍛えだ」
翌日
信濃流の由美子さん宅で 手前座に座らされる涼子さん
大円の持ち込んだ椀を渡されるが 椀の正面がわからない
パンチがなければ宝生如来の宝の位置でいいが パンチがついてて螺旋の文字列
しかもスタートのパが下側で来の位置と被っている
挙句 宝の字が 一段下にズレている
「由美子さん この嫌がらせな書はだれが」涼子さん
「大円くんが置いていった椀だ 宝生如来様ご本人が書かれたらしい
ご本人以外 如来様に パンチ とは書けないだろ」由美子さん
「はい??」
「パンチパーマで鎌倉で座り込み 阿弥陀様ご本人に担がれた大円くんだ
宝生如来様 自らが書かれた椀を頂いてきても不思議ではない」由美子さん
「はぁ 由美子さんのお兄様の椀と同じですか というか更に悪質
正面を消しに来ている 真意を汲み取れとか 大円くんのお局様並みに難しい
しかも 宝生如来様の直筆とか 有り難すぎて涙がでます」涼子さん
「そうでもないぞ 素直に椀の言う通りにすればいい」
「椀の言う通りとは?」涼子さん 言葉が短くなる
「兄の椀の謎を解けない 流派の幹部には試せないからな
大円くんの種明かしで涼子は知っている 試すのに丁度いい
その椀も 大円くんの言った通り どこでもいい 美味しく頂け だ」
「由美子さん 性格悪くなってませんか」
「此の椀を持ってきた時にな 大円くんが庭の華を手折って活けたのが此の華
どうにも違和感が仕事をしまくったが 此の椀が置かれると調和して落ち着いた
しかも作法通りに 古帛紗を敷くと破綻するトラップ付きだ
『もっと自由に 万物の声を聞けば 助けてくれる』だろうな
栄子には見せれない境地ではあるが 大円くんには 楽しませて貰っている
縁を結んでくれた 涼子にも楽しんで貰おうと 呼び出した」
「化け物」
今宵も深けたようで




