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楽園アポトーシス  作者: 耳 a.k.a 曇りmegane
第一章『魔眼覚醒』
9/9

幕間『埋葬-Clock Fang』

幕間です。よろしくお願いします。

 

 ――――目を覚ますと、そこは夢の中だった。




 泥沼に浸かっているかのような倦怠感の中で目を覚ます。随分と永く眠っていたせいだろう。

 思考には靄がかかっていて、一瞬自分が置かれている状況が理解出来なかった。



 ――――ガチン。



「……何だ、夢か」



 数分、或いは数時間経ってから現状を認識する。

 第一声には郷愁と諦観が込められていた。

 それは、帰ってきた事を懐かしむ愛おしさと帰ってきてしまった愚かしさを蔑む、両極端な感情の猛りだ。

 まあそれは良い。

 この感情に善し悪しは付けられないだろうし、何よりオレはそんな自慰行為に興味はない。


 ――――ガチン、ガシャン。



 夢の中で目を覚ますというのはやや奇怪ではあるが、差程気にする必要もあるまい。夢だろうが現実だろうが、ほら。



 ――――ガチンガチンガシャンガシャン。

 何処にも行けない事には、変わりないのだから。



「手錠と鎖、か。野郎、いつの間にSMプレイなんかに目覚めやがった」



 舌打ち混じりに呟いて辺りを見渡す。

 そこは六畳程の石の部屋だった。部屋と表現したものの、そう呼べる程の機能を持ち合わせているかは怪しいところだ。

 明かりは壁掛けの蝋燭一本だけで、照明と呼ぶにはあまりにも頼りない。やけに目覚めた感覚が希薄なのはそのせいだろう。他には壁際に置かれた小さな丸テーブル。丸テーブルの上には林檎らしき果実と白っぽい砂が入れられた砂時計と、なんだアレ。

 薬品らしき液体に梅干しみたいな物体がプカプカと浮いている。何かは分からないが、随分と悪趣味な置物だ。

 そして、最も目を引く物がもう一つ。オレが繋がれている壁の反対側に、黒く仰々しい扉が聳え立っていた。



「窓も無く檻でもない、念押しと言わんばかりに通気口すら無し。文句の付けようがないぐらいの完全な密室か。ったく、酷いなこりゃ。これじゃあまるで……」



 まるで、埋葬前の死人だ。

 棺桶にぶち込まれて土葬される時の死人の気分ってのはきっとこんな感じなのだろう。

 自分の夢なのだからフィルムを繋いでるのは間違いなく自分自身だ。自分の事ながら、夢だってのに楽しさも希望も欠片もないってのは職務怠慢が過ぎると思う。



「せめて音楽ぐらいかけてくれりゃあ気分も紛れるってもんだが。こう、テンションアガるやつ。あー聖句とか聖歌とか、オキョー? とか、眠くなりそうなのは勘弁な。本当に逝っちまいそうになる」



 ケラケラと表情筋を震わせてみる。

 その時だった。無音だと思っていたこの部屋に、ある一つの音が響いている事に気が付いたのは。

 カチ。カチ。カチ。カチ。カチ。

 規則正しく、僅かな乱れもない音が鼓膜に噛み付いてくる。

 時計の音だろうか。この部屋には時計なんて見当たらないから、ここでは無い何処かから響いてくる音なのだろう。



「……うるさいな」



 静寂は良い。

 規則正しい音も悪くは無い。

 だが、それら二つが重なるのは精神衛生上非常によろしくない。

 ただでさえ面白くない音なのに、静寂によって克明に脳髄に刻み付けられるのだ。あまりにも不快過ぎる。治りかけのカサブタを、治る度に何度も何度も剥がされているかのような不快感に、オレは身を(よじ)った。

  当然、音がその顎を緩める事はない。



「まだ目覚めるにはちょいと早かったか。あまりの興奮度合いに勘違いしちまった」



 はァ、と熱い息をつく。

 永遠にも似た眠りの後で再び眠るのは怠惰もいい所だが、こんなにも不快な環境で起き続ける程オレは辛抱強くない。

 寧ろ自己の欲求には素直なタチなのだ。



「ま、これから忙しくなるんだ。今の内に休んどくのも、それはそれで悪くない」



 呆れたように、舌舐りをするようにそう独りごちで、目を瞑る。

 遠くからは時計の音。

 耳障りなそれを無理やり意識から削ぎ落として、オレはゆっくりと眠りについていった。




最近お気に入りのTシャツがよれてきて悲しい。

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