王子様のキス
突然、心の中の世界に、淡いミルキーブルーの扉のようなものがぼうっと現れた。
『何かしら… 近づいても大丈夫?』
「どうして私に聞くんですか?」
『だって、ここは星水晶さんの心の中だから。
ここで起こる現象の全てはあなたが原因だと思うの』
(文子様たちがここにいるのも、私が原因なのかしら…?全ては神様がなさったことだと思うのですが)
二人でボソボソ話していると、好奇心旺盛な一智佳様が既に扉へ向かってしまった。
『ちょっとこっち来てみて、向こうが透けて見えるわ…』
白みがかっているので少しぼやけているけど、向こう側が少し見えた。そこには…
「お姉さま…!?」
ベッドに横たわっていたのは、お姉さまによく似た美しい女性だった。
黒髪が扇のように広がっていて、胸元で手を組んでいるが、ぴくりとも動かない。
『燿子さんによう似てるけど…髪の毛が顔にかかってて、うちにははっきりと見えへんかった』
『ドアノブもないし、押しても引いても開かないわ…』
星水晶は、そのドアに顔をぴったりつけてはらはらと涙を溢していた。
「お姉さま、こんなところに一人きりでいたの…?
会いたかった…」
ドアが開かないので、ドア越しに頬ずりし、口づけると星水晶の体は眩しく光った。
『セイラちゃんを目覚めさせる方法…ですか?』
「そうです。このままセイラが目覚めないと困るので、わかるようなら教えていただきたい。」
その頃、カインと美凪様は部屋のソファに向かい合ってお茶を飲んでいた。
実際、神殿にそこまで兵力はいらないので、護衛騎士も多いわけではない。夜間の警護も負担にはなっていた。
若い女性と語り明かす夜について、負担と思わない騎士がほとんどだったわけだが…
美凪様は美形の青年騎士を前にドキドキしていた。
こんなに近くで話すのは初めてだったので、目を合わせるなんてとてもできないが、横目ではしっかりばっちり見つめていた。
(うわぁ、近くで見ても、本当に素敵なお顔立ち…
こんな方とお付き合いできたらなぁ…一生ときめく自身があるわ!)
『…お姫さまを目覚めさせる方法はどの世界でも決まっていますわ。』
「その方法とは…?」
美凪様は、顔を赤らめて答えた。
『王子様のキス…』
カインはそれを聞いて、この世にこんな魅惑的な女性がいるのは、存在自体が秩序を乱すのではないか、と思った。
キスを誘っている。誘われている。
何なんだこれは。神による試練なのか…?
いつの間にか二人はソファに並んで座っていた。どちらから、というわけではないが自然と顔が近づく。
美凪様は心の中できゃぁぁっと叫んでいたけれど、それが筒抜けになっていることは完全に頭から抜け落ちていた。
カインが肩に手を回そうとしたその瞬間、全力でソファの端まで距離を取られた。
その時のセイラの顔は、ものすごい嫌悪に満ちていた…