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目覚め

 星水晶は長い間眠っていたので、三人はこれ幸いと自由行動に出て、言葉や文化を調べたり、食事や徘徊をしていた。


 一智佳様はとても楽しそうに本を読んだり、護衛騎士と会話をしてどんどん言葉や文化を学んでいく。

生前、京都の一条大学で文化人類学の教授をしており、論文や海外での講義のため、複数の言葉を学んだ経験が生かされていた。


『監視がついたのはじゃまくさいけど、本やらなんやら、持ってきてくれはるんは、便利やわぁ』


『一智佳さんに遅れを取るわけにはまいりませんわっ』

 

文子様は一智佳様に負けじと言葉を覚えようとする。特に魔法について興味があるらしく、熱心にアルバスに質問をしていた。


『きちんと習えば文子…いえ、誰でも魔法が使えるんですの?』


『うーん、どうだろう。難しいかもしれないね。』


 魔法を扱える者は貴重で、才能と本人の器量次第だそうだ。

魔法が使える者は生まれたときから魔力が備わっていて、教えられなくても小さいうちから使える。

使えない者は全く魔力が反応しない。


 そして、美凪様は童話や恋愛小説を取り寄せて読み始め、そこから常識やマナーなどの文化を知っていった。 

3人が覚えた知識は共有されており、3倍の速度で言葉や文化を覚えていった。 


 行動と言動が別人のようだったので、カインとアルバスは、ご先祖様が複数いることに気づいた。

 他の護衛騎士には、祖先の霊が夜な夜な星水晶に乗り移っていることは伏せていたが、そのうちさすがに不審に思われるのではないだろうか…。

 勉強熱心でよく話しかけるのに、時々、そんな自分を恥じらったように黙って騎士を見つめている日もある、日ごと色んな表情を見せる美しい女性。

 今のところは、不審に思うより、むしろそういったミステリアスな部分に惹かれている者が多いようだった。

 ただ、このままでは神殿の騎士にあるまじき行動に出てしまう者がいるのではないかとカインは思っていた。

 ああやって護衛騎士にやたらと魅力を振りまくのは…けしからんのではないだろうか。

 

 彼女の部屋の夜間警護をなくすには、本人に目覚めてもらうのが一番いい。

 実際、セイラがどんな性格なのかはわからないので、状況が変わらない可能性もあるが…

人目がある昼なら、少なくとも怪しい雰囲気にはならないだろう。あるいは、目覚めた後は神殿を出ていくことになるかもしれない。

 

 セイラについての情報をカインは取りまとめてリュカ大神官に報告することにした。


「…というわけで、セイラのご先祖様は複数いて、交代で出てくるようです。」


「まさか本当に霊だったとは…驚きましたね。」


「アルバスを通じて魔法協会へも問い合わせましたが、降霊魔法とも違うようです。アルバスも、魔力は感じないと言っていました。」


「お話を聞く限りでは、悪霊のようには感じません。勉強熱心な先祖霊ですね。」


 悪霊ではないが、男を惑わしてきます…。

自分にも疾しい気持ちがあることは否定できなかったので、それをリュカ大神官の耳に入れるのはやめておいた。


「…ご先祖様じゃない方のセイラが目覚めないのが気になります。

明日は私が護衛につきますから、少しご先祖様と話をしてみてもよろしいですか?」


「ええ、お願いします。」

 

「煩悩が多いですね…」

 カインが部屋を出た後、ため息をついたリュカ大神官。

悶々としていることはバレていた。



 カインが護衛に行くと、その日の中の人は恋する乙女、美凪様だった。


「こんばんは、カイン様」

 

頬を染めて淑やかに挨拶をする。

 最初は、女物の服がシスターの修道服しか用意できなかったためそれを着ていたが、あたかも奉仕活動をするシスターのような振りをして今まで好き勝手出歩いていたことがバレたので、今はフリルのついた可愛いブルーのワンピースを着せてもらっている。

 そして、美凪様は可愛い服を着てカインに会えたことで舞い上がっていた。


「ご先祖様にお聞きしたいことがあるのですが…少しよろしいですか?」


 何だか素敵な夜になりそうでワクワクしたが、表向きは、控えめに微笑んだのだった。



『おはようさん、星水晶。狸寝入りなんかしてんと…はよう起き』

一智佳いちか様…)


 ちょうどその時、星水晶は、心の世界で目覚めようとしていた。

 眠っている間に起こったことや、ご先祖様の存在や名前などは知っていた。

 心の中の世界にいる間、知識を共有できること。それは神様が与えてくれた力の一つだった。


(私…知らない世界で生きていくのが怖いんです…。一智佳様も、文子様もすごいですわ。どんどん、言葉や文化を覚えて…)


『言葉を覚えるのは、好きでさしてもろてるようなもんやし…』


『文子たちは一度死んだことがあるから。

人生って儚いのよ。もっと生きてるうちに色々やればよかったって後悔ばっかり…

 星水晶さんも生死を彷徨ったから、少しはわかるのではなくて?』


(この世界で生きても…両親やお姉さまにもう会えないわ…)


『この神殿の人は…見ず知らずの人間の命を必死で救ってくれて、長いこと目覚めへん星水晶のこともほんまに心配してるわ。

 新しい世界を知ることを怖がらんといて。 

…それと、もしかしたら燿子ようこはこの世界に来てるかもしれへん。』


『一智佳さん、どういうことですの?』


…お姉さまが!?


『治してもろてすぐ、神官さんが話してるのを聞いたやろ?』


『文子は覚えていないわ。知識の共有には条件があるのかしら…』


『うちは、星水晶に伝えるか迷ってたんよ。そういう場合はブレーキがかかるんかなぁ…

秘密にしたいこと全部バレてしもたら、都合が悪いもんな。

 神官の話によると、異世界から人が送られるから、神殿に国一番の治癒師を向かわせるよう神託があったらしいわ。

その神託を受けた巫女がヨウコという名前らしいの。』


 お姉さまが海外で行方不明になって、星水晶はお姉さまを探すため、終業式の後すぐ空港に向かった。そこで飛行機事故に遭ってしまった。

 

(私は…私はどうしても、お姉さまに会いたいの!この世界で救われたのは、きっとお姉さまに会うためだわ!)


 星水晶が生きる気力を取り戻した時、心の中の部屋にある変化が現れた。

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