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ここがお前の墓場だ

『あっ!熱っつ!星水晶ちゃん興奮しないで!』


 心の中に響く火山が噴火したような音は、星水晶の心象風景だ。

耀子様の一糸纏わぬ裸体がベッドに横たわり、黒子も傷もない美しい肌を晒している。

胸はすこしも脇に流れず、18才という性徴より控えめな膨らみの双丘はみずみずしく張っていた。

反面、太腿や腰のラインは女性らしい丸みを帯びており、さながら美の女神の絵画のようだった。


(お姉さま…!耀子お姉さま…)


 星水晶は耀子様に駆け寄ろうとして、ある変化に気づいた。


(…?お姉さまのお腹、少し膨らんでる気がするわ)


『前からこんなものじゃない?』


(だって私が腰にこう腕を回すと…隙間はもっと余っていましたから)


『うわっ』


 星水晶が実際にやってみせると、全裸で眠る少女に巨乳のシスターが覆い被さるという何とも背徳的な体勢になり、美凪様が目を覆う。


星水晶がそのままお腹に耳をつけてみると、かすかに何かが動いた。


(中に…誰かいますよ。)


『星水晶ちゃん、セックスしないと子供はできないのよ?』


(セッ…それくらい、わかっています!)


『わかってないわ。セックスって男女のセックスのことよ。ここに男はいないのにどうして耀子ちゃんが妊娠するのよ。』


『いくら女しかいないからってセックス連呼するのはやめなさい!みっともない。

大体それはヨーコではないのよ。』


(真狒姫の言う通りです。処女懐妊とかそういう話ではなく。このお姉さまは私の希望の象徴としてここにいらっしゃるのです。)


『象徴が妊娠…想像妊娠…?』


『当たらずとも遠からず』


(希望から何かが生まれる…)


『何かって?』


(わかりません…)


 そう言って、目線を落とした星水晶は、足元に紙片が落ちていることに気がついた。

手に取ると大きさは手のひらに乗るくらいで、お菓子などの包み紙のようにも見えた。

蛇腹に折りたたまれた紙を開くと一言こう書かれていた。



星水晶と美凪様は声に出して読んでみた。


『これ文子さまの手紙じゃないかな?』


『何故そう思うの?』


『縦書きだから。一智佳さまの可能性もなくはないけど…こんな風に走り書きするなら』


(一智佳様の時代なら左横書きでしょうね。)


 それより金の砂とは何のことだろうかと3人で話し合った。


(金の砂…砂金を取ればお金にはなりそうですが今の時期川に入るのは自殺行為ですよ…)


『文子さまが砂金もらってどうするのよ。

見つかってももう文子さまはいないのに。』


『もしかしたらフーコはその砂を探しに行ったのかもね。それを追えば再会できるのかもしれないわよ。』 


(文子様…一智佳様…今一体どこにいるの?)



 時は荒野の廃墟で突然文子様が消えた日に遡る。

一智佳様には俄かに信じられなかった。


(文子さんは、あの守り石からは離れられへんはずや。どないなってんの?)


『フィーネとかいう女、絶対に許さん。うちは必ず文子さんを取り戻す。』


そう言って一智佳様はフィーネ様を追った。

故郷で眠ると言っていたのでこの近くにいるはずだ。

気配を追うと、やがて岩場で金髪の少女の霊が跪き祈っているのが見つかった。


『あれまあ巫女はん。故郷にお参りしはったご気分はどうどす?

ところで。うちの大事な文子さんをどこへやったん?』


 敵対心をこめて嫌味をかましたが、フィーネ様は動じていない。


『どこにも隠してやしないわ。ブローチにかかっている呪いを封印しただけよ。

だって、あのままじゃ文ちゃんは永遠にあのブローチがある場所に縛られる…。

あなたもそれが間違っていることぐらいわかるでしょ?』


『うちと星水晶と美凪と楽しゅう過ごしてましたけど。まちごうとるんどすか?

…でもどうやって。呪主の聖人はんも解呪できなかったくらい強い呪いやったやんか』


『解けないから封印した。呪いは未だあるの。文ちゃんの魂は、いずれ…星水晶が役割に目覚めた時に、封印が消えて解放される。』


 フィーネ様は片方の口元を歪め、預言のように答えた。


『まーあけすけに物言わはるな。そもそも、なんであんたがそれを決められるとおもたん?』


『私じゃない。文ちゃんも聖人もそう望んでいたから…

これまで文ちゃんの魂をずっと守ってきた。聖人みたいな幽怪にさせないために!』


 荒野に轟音とともに風が吹きぬけ、急に空に雲が湧き出て辺りは薄暗くなった。

そして、一智佳様の顔に重なるように、恐ろしい般若の姿が現れた。


 一智佳様には、先祖の霊である聖人の記憶がある。

聖人は、長く現世に留まったため幽怪と化していた。

彼の怨みと嫉妬が出てくると、一智佳様の額から短い角が出て、口の中には上下2本ずつの牙が生えるのだった。


『お船、僕だよ。聖人だ。文子さんにずいぶん勝手なことをしてくれたようだね。』


『妻に再会して言う台詞がそれなの?』


『僕はお前など愛していなかったよ。本当に欲しかったのは、愛していたのは文子さんだけ。』


『ええ、知ってたわ。』


『知っていて結婚したと。喧嘩を売っているのかい?』


 聖人の怒りの熱量に対して、フィーネ様は冷やかに対話している。


『私は文ちゃんの聖槍を取り除いて、悪魔や妖怪から守りたかった。そのために九堂の封印術が必要だった。たとえあなたに愛されなくても…。

本当は文ちゃんはこの世界で生まれ、死ぬはずだったのに、魂が聖人の世界に行ったのは私のせいだから』


『お前なんかのせいじゃあるものか。

返せ!文子さんの魂は永遠に僕のものだ!!

!』


 聖人の怒りが爆発した後、真っ黒な風が吹き荒れた。そして、憐れむような顔をしてフィーネ様は消えた。

岩かと思っていたものをよく見ると、それは大きな石碑だった。コールデンの炭坑災害被害者の慰霊碑だ。

フィーネ様はそこで眠りにつくつもりなのだろう。


『どないしはったん?フィーネ逃げたやんか。うち、もうちょっと封印の方法について聞き出したかったわぁ。』


『…いいさ。封印が、九堂の式神の術ってことさえわかれば検討はつく。』


『えらいな。ご先祖さま。古文書は全部、戦争で焼けてしもたから。ああもったいない。

せやさかいうちの知ってる術はほとんど口伝や。』


『そのわりに、猿神を上手に制御していたじゃないか。全く…子孫で有能なのはお前だけだよ。

正当な血筋も、今じゃたった1人しかいなくなって。末代に相性のいい一智佳が生まれてくれて良かった。』


 文子様の死後、聖人は石に呪いを書けた。

それは彼女が再び生まれてくる時の目印にするためだったが、現世の物質である石に文子様の魂は引き寄せられ留まってしまった。

その呪いを解くことができなかった聖人は、最終的に自らの魂に呪いをかけ、死後も文子様の魂とともにいることを選んだ。

 

『日本は急激に少子高齢化してるからなぁ、しゃあない。しかも耀子は星水晶と暮らすって言うし。

九堂はうちの代で終いや。ま、それもええかなと思っててん。星水晶の中で文子さんと過ごせることになったやんか。』


 聖人は長年現世に留まったことにより、幽怪と化している。そのままで人間としては転生できない。そこで、相性の良い子孫に取り憑いた。 一智佳様の死後も彼女の魂と一緒にいて、石を見守り文子様と転生する機会を窺っていたが、そんな時、ひょんな事から一智佳様は異世界へ行く機会を得た。

 彼女が守護霊として星水晶の中で目覚めた時、目の前にはどこにも行けず、ずっと眠っていたはずの文子様が立っていたのだ。

容姿は石がついたブローチのカメオに掘られていたので知っていたが、想像以上だった。

仕草や話し方は上品なのに、くるくる変わる表情。負けず嫌いで感情的になりやすい性格。


(べっぴんやのに、ほんまスレてへんというか…まっすぐでおもろい子。

聖人が夢中になるのもわかるわ。)  


一智佳と聖人は好みがとても似ていた。


『しかし、とうに式神に文子さんの魂を追わせているのだが、見つからない。

星水晶に反応しているのは魂の残滓だろう…。』


 黒い嵐がやんだあと、フィーネ様のいた場所に、金眼の少女が現れた。…悪魔だ。


「ごきげんよう、美しいゴーストさん。さっきぶりね。」

ようやく一智佳様が出てきましたわー!

フィーネ様を生き生きと虐げているのは九堂の女の血…?


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