かしまし三人娘
ご先祖様の台詞を区別するため、『』表記にしています。
『一智佳さんったらずるいですわ!』
『ずるいわ、あの素敵な殿方と最初に出会うのは私だったはずなのに…!』
『な、何を言ってますの美凪さん…
そうではなくて、今晩は文子が行動する日だったのに一智佳さんが行ってしまったことですわ!
それで、あかん、バレたわぁって戻ってくるなんて…』
『ほんまに、シュッとした男前やったわぁ。
10年経ったらうちの好みにジャストミートやろうけどなぁ…』
はんなりおっとり、頬に手を当てて、綺麗に切り揃えられたボブヘアをかしげるのは、一智佳様。
異世界に興味津々の京女である。
文子様にきゃんきゃんと文句を言われても、美凪様に嫉妬されて睨まれようと、聞いているのか聞いていないのか、暖簾に腕押しといった様子。
『それに、ご先祖様とはどういうことですか!文子は化けて出るつもりはありませんわよ!』
『せやかて文子さん、守護霊って発音しにくいねん。うちはご先祖様でええかなぁと思うんやけど…』
『この短期間で独学で会話できるようになったのはすごいと思うけど、発音だけはちょっと…
一智佳さまが話すとなぜか関西弁のように聞こえるのよね。』
女三人寄れば姦しい。
生前は淑やかな大人の女性だったはずだが、守護霊になってからは誰に気を使う必要もない。
ただ、今は星水晶の心に居候しているようなものである。
今は眠っているからいいものの、この姦しさではそろそろ目覚めそうだった。
早朝、朝日も登りきらない頃、リュカ大神官とシスター・エリカがセイラの様子を見に来た。
「お二人共お疲れ様でした。あとは私たちが見ていますから、どうか休んでください。結局、報告や引き継ぎで休めなかったでしょう」
交代の護衛騎士が来てからもカインは休むことができなかった。
護衛は二人組なのでアルバスもそれに付き合っていて、結局この時間だ。
「しかし、結局目覚めたと言っていいのか…とりあえず名前だけはわかりましたが、どこの誰か、全くわかりません。一体何者なのでしょう…」
「神様の思し召しということもわかりましたよ。私たちはそれに従うだけです。」
カインは、まだ神殿に来て間もないため、リュカ大神官の言葉を不思議に思った。
「祖先の霊を自称する者の言葉ですよ。それを信じられるのですか…?」
一智佳様が最初に守護霊と自己紹介していれば、異世界の人にも「ああ、守護霊ね!」と共通の概念があったので理解してもらいやすかったのだが、ご先祖様と言ってしまったため、祖先の霊がこの世に未練があって取り憑いている…というようなニュアンスになってしまった。
(未練という部分は間違いではないが…)
王族や土地を治めていた貴族が亡くなった後、祀る儀式はあるものの、宗教国家である聖ロマリア国では、祖先崇拝はほとんど行われていなかった。
「ここは神様の住む家で、命を助けられるために送られた子なんです。あの魔法陣も、治癒師がいたことも、すべて神様のなさったことですよ。それを認めるのは当然のことです。」
リュカ大神官はカインに笑顔で頷いた。
何が起こっても、例えそれがどんな不幸なことでも、神様がなさったことだから、信じていると。