巫女試験
「初めまして。審問官のヤンと申します。」
黒髪のヤン青年はなるべく威圧しないように跪いて挨拶した。
目の奥では油断なく観察をしているがにこやかで親しみやすい雰囲気を心がけている。
対して、ヤン青年より少し若いヨハネス審問官は、肘でつつかれるまで挨拶もしないで星水晶を見ていた。
「あ、審問官のヨハネスです。よろしくお願いします。まず、お名前と年齢、出身地をお願いします。」
(こいつ…今まで年端もいかない女の子にこんな固っ苦しいこと言ってたのか?)
ヤンはヨハネスと組むのは初めてだったが、ちゃんと打ち合わせていれば良かったと後悔する。妙齢のシスターに対して、あまりに不躾だ。
「初めまして…神戸星水晶と申します。年は17才、出身は日本です。」
まるで受験の面接だ。これから何を聞かれるのだろう?知らない人に元の世界や日本のことを話すのはためらいがある。
神殿以外でも異国の信徒を受け入れてもらえるんだろうか…。
守護霊様たちのようにもっと堂々と話せればいいのに、と思いながら言うと、何故か審問官だけでなく神官やシスターが驚いて声を上げる。
皆が星水晶をまじまじと見ている。
「えっ」
こういう反応をされると怖い。
「あの、資料には20代と書かれていたんですが…。」
周りがざわつくのに困惑したヨハネスが遠慮なくヤンに尋ねる。
「…!」
星水晶は事態を悟って青ざめる。
「そ、そうですよね、もともと実年齢より上に見られますから…」
サバを読んでいると思われていたら大変恥ずかしい。うつむく星水晶を見て皆の空気が凍りつく。
どうやらこちらの世界でも、女性の年齢を実際より上に言うのは大変失礼なことのようだ。
顔以外はベールで隠れていて、落ち着いた雰囲気や背丈、成熟した胸からそのくらいだろうと周りの皆思いこんでいた。
ヤンもヨハネスも初対面の印象に違和感はなかった。正確な調査が必須の審問官にとってかなりの失態である。
(調査はやり直し。資料まとめるのにヨハネスと徹夜だな…)
大体、今回の失態は大した調査もなくすぐに審問にかけろとせっついた大聖堂が原因だというのに。
ため息をつきそうになるのを堪えてヤン審問官は笑顔を取り繕う。
「申し訳ありません、大変失礼いたしました。セイラさんは、この辺りのご出身ではないんでしたね。ニホンからどういった経緯でロマリアへ?」
「あのう、荒唐無稽な話ではございますが…事故で瀕死になって、こちらへ飛ばされてきたんです。」
「?はあ…」
「神様によって神殿の祭壇に飛ばされ、エヴァ様によって命を救われたのです。
こちらに来たのは8ヶ月ほど前になりますが、ほとんど寝込んでいて、教典を学び始めたのも2ヶ月くらい前ですね。」
言葉足らずの星水晶を見かねて、立ち会っていた神殿の神官がヤンに耳打ちした。
ヤンは、怪訝な顔をしてペンをクルクル回す。
「奇跡のような話ですね。」
そして聖なる巫女、フィーネ様が持つ聖槍の力も使ったという。
その話が本当ならそれだけで合格としてもいいくらいだが、真実かどうかを審問官が見極めなければならない。
「それで、ご家族は?」
「父と母が日本におりますが、場所が場所ですから…連絡は取れないと思います。」
星水晶はふいに故郷や両親を思い出して、淋しげな表情を浮かべた。
「巫女になればご家族に対して補償金として小金貨100枚お渡しすることになっていますが」
「渡せるのであればそうしますが…それにそういったお金でしたら受け取ってもきっと寄付してしまうと思います。」
ただでさえ税の申告で税務署に目をつけられやすいというのに歴史に存在しない国の通貨を贈られても困ると思う。もし届いたらぜひオーパーツとして研究機関へ寄贈して欲しい。
ヨハネスは家族とも会えずにいる幸薄そうな身の上の女性を不憫に思った。
『ええと…大聖堂って、星水晶ちゃんが異世界から飛ばされてきたって知らないんだっけ?』
(お姉様宛てに手紙を送りましたけれど、預言のおかげで治癒術士の方に助けていただいて無事でしたという内容ですから…)
もちろんその手紙はエヴァ様にも耀子様にも届かず、大聖堂の上の方の人に報告がいったかも定かではない。
てっきりリュカ大神官から聞いているものと思っていた。
異世界から来たことなどを言ったほうがいいのか迷ううちに話は進んでしまう。
「洗礼は受けていますか?」
「はい。日本で幼い頃に受けております。」
「あなたは神様を信じますか?」
「はい。」
星水晶は信徒として扱ってもらえるようでホッとした。
「巫女とは神様に献身する人です。
献身とは、良いときも悪いときも、どんな犠牲を払っても、いつも神様を第一に考えることを意味します。その約束をする準備はできていますか?」
「はい。私が巫女でなくても、信徒であればそうしなくてはなりません。」
「いいでしょう。それでは、あなたがこれまで罪の回心のためにしてきたことをレポートにしてください。
ああ、字が書けなければ誰かに代筆してもらってもかまいませんよ。」
「いえ…大丈夫です。」
それを聞いてヨハネスは、外国に来て数ヶ月でもう文字が書けることに驚いた。余程知能が高く勉強熱心なのだろうと感心した。
本来なら、文字の書けない少女もいるため口頭で話を聞いている。
ヤンの意図としては出自を偽っている場合、代筆だと罪を知られることになるため自分で書くと言い出すと思ったのだ。
身辺調査も行う必要があり、それと合わせて審査にかけるためレポートにした。
「ヨハネス君はもう少し愛想よくしような。」
「すみません…緊張してしまって…」
いつもはああではないらしい。
「ところでヤン先輩。ニホンってどんな国ですか?」
「俺も知らんよ。これはいよいよ調査に苦労しそうだ。一度ジルド支部長に報告して指示を聞いてみよう。」




