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大聖堂からの手紙

 サンタマリア・クレール神殿の本殿。

ロマリア大聖堂とは違って装飾の少ない白壁に聖人の絵が浮き出るように描かれている。

ドーム型の丸屋根には窓がついており、天井から光が降り注ぐ。

その光の中心で巫女が祈りを捧げていた。

エヴァ様だった。


 耀子様はまだ戻っていない。エヴァ様は、ずっと意識の中にいた耀子様がいなくなって、ぽっかり穴が空いたように思えた。

 教皇の近衛でカインの弟、アルベルトが本殿の中でエヴァ様が祈り終わるのを待っていた。


「何か用?」


 聖母像を背に振り返るエヴァ様が眩しく、アルベルトは目を細めて敬礼した。

普段は切れ長で凛々しい目元が、祈りの最中はやわらかく下がり、背後の聖母と似た穏やかさを湛えていた。


「実は、大聖堂から二通、手紙が来ています。セイラさんに巫女試験を受けさせるため審問官を向かわせる件と、もう一つはエヴァ様を連れて戻るようにと…」


「へぇ、そう。それで?」


「でも、我々は貴女を無理やり連れ戻すことはできないでしょう?」


 エヴァ様は答えず、いつも通り微笑んでいるアルベルトをじっと見つめた。

 もし戻りたくないと言ったらアルベルトはどうするんだろうとエヴァ様は考えた。

とはいえ、迷惑をかけたいわけではない。

男性にそういうことを言うと、遠回しに私を連れて逃げて、という意味に勘違いされる可能性もある。


「…私はカインが好き。その上で言うけど、大聖堂には戻りたくない。」


(めちゃくちゃ眉間にシワが寄っている…)


 アルベルトはそれを見て、恋する乙女の顔ではないと思い、つい口角が上がってしまいそうなのを堪えた。

これはあくまで個人的な話ですがと言いながら、アルベルトは答える。


「結婚するとなれば巫女は辞めるしかないでしょうが、何せ兄を好きになる女性は多いので…。それに、兄はセイラさんのことが好きなようです。

巫女が恋愛感情を持ったからといって、生涯神様に仕えられないわけではありませんよ。」


エヴァ様はますます眉間のシワを深くする。


「勘違いしないで。恋だけが理由じゃない。

私も一度は巫女として神様に一生仕える覚悟をしたわ。でも、神様は私の自由を制限しないというのがわかった。

 大聖堂にはうまく、戻れないことを伝えておいて。」


(巫女が人を愛することを禁止されているわけではないし…。

教皇の命令の方が優先されるけれど、教皇の近衛が人さらいのような真似をするのは、心優しき教皇の本意ではないよな。)


「弟だからわかるんですが、(あの人)はっきり好きだと伝えられたことはあまりないはずなので、案外コロッといくかもしれませんよ。まずは素直に告白してみるというのはどうでしょうか?」


「そうなの?」


「そもそも仲良くなるのが難しいタイプですから。勇気出して手紙渡した娘とか、デートに誘われても、何で話したこともない俺が?って断るんですよね…。」


 エヴァ様は、カインにそんな一面があるとは知らず、驚いていた。星水晶に積極的に言い寄っている姿を見ていたからだ。


(でも、エヴァ様なら…。兄さんと同じくらい剣の腕があって、気が強くて、あの兄さんについていけるのはエヴァ様くらいしかいないな。

セイラさんも素敵な女性だけど、兄と性格が合うかというと…わからないんだよな。)

 

 もちろん多少性格が合わなくても愛があれば乗り越えられるケースもあるだろうが、セイラは言い寄られても、気があるようなないような態度のままだった。

 彼女はどうもコロコロと態度が変わって掴みどころがない。男は女を手に入れて、完全に掌握したと思った途端に興味を失う生き物だ。

謎が多い部分があったり、熱を上げているのにいつまでも落ちないでいる女に、男は更に熱を上げる。

 それでいて儚げだったり貞淑だったりするものだから、真面目で恋愛経験がないカインにはたまらないのだろう。

仮に手に入れた場合は束縛が凄そうである。


 女に振り回されるのが好きという性の男もいるだろうが、ああいう魔性の女に関わった男に待つのは、身の破滅。

もしくは、魔性の顔を持つ男と魔性の女に振り回され、泥沼になる周囲の人間関係。

果たして恋愛経験ゼロの箱入り巫女が太刀打ちできるだろうか…。


 しばし二人共が沈黙した後、エヴァ様が質問した。


「…アルベルトだったら、巫女に好きだと言われたらどうする?」


 目下、神殿関係者と巫女という関係で障害になるのはその点が大きい。


「私でしたら、気持ちに真剣に向き合います。

ただ、教皇の近衛には信用というものがあります。大聖堂に関係なく出会った方ならまだしも、それが職務上の縁で出会った巫女であれば私は責任を取らなくてはなりません。」


 教皇の近衛を辞め、どこか遠くへ。巫女が自分を忘れられるように行方をくらます。

 エヴァ様はアルベルトの答えについて考えた。

カインは、サンタマリア・クレール神殿を辞めてテーベ王国に行くつもりだという。

ならば巫女だということはさほど障害にはならないのではないだろうか?


 後日、シスターの間で星水晶がカインの告白を断ったという噂が流れた。

それも、召使のいるお城に住めないから、という何とも彼女らしくない理由だったので、何かプロポーズを受けられない事情があるのではないかという話だった。


「なに、それ。」


そのことを聞いたエヴァ様は、思わず部屋から走り出て行った。

これまでの流れ

剣一筋のカイン、いきなり星水晶の裸を見てしまってめちゃくちゃ女子を意識してしまう。

星水晶(美凪様)と夜に見つめあいキスしそうになるが突然拒否。

星水晶はシスターになり疎遠に。

仲直りして一緒に出かける。

カインが星水晶に告白。

と同時にエヴァがカインに一目惚れ。

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