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 ポピーがそうっと星水晶の部屋のドアを開けた。 

 熱で記憶が混濁したのかもしれないから、しばらくそっとしておこうということになったが、星水晶の様子が気になって見に来たのだ。


 寝ていると思ったが、部屋をまた出る時に気づかれ、声をかけられた。


『こそこそして、どこへ行くつもり?』

 

 ポピーは指をもじもじさせて、様子を見に来ただけだとごにょごにょと説明した。


『話す時はもうちょっと口を大きく開けて、背筋を伸ばして。それと、わたくしのことはセーラ様と呼ぶように。』


(何この偉そうな態度。この女、ほんとに優等生のふりするのやめたのかしら?)


 どうしてだろう、星水晶の表情がなぜか不気味だ。病み上がりで青白く、唇も乾いていて疲れたように見える。

それなのに口角を無理やり上げていて不自然だ。

嫌いだと思っていた時にも感じなかった別の怯えがポピーの体に走った。

本心では反抗したいのに、命令されると、逆らってはいけない気がした。

 ポピーは背筋はぴんとして、つま先も揃えて、できるだけ堂々とした威厳を見せることにした。そうすることで、なんとか言われたとおりはきはきしゃべることができ、口の悪さも調子を取り戻したのだった。


「文句を言いにに来たのよ悪い?

みんなが心配するのをいいことに我儘放題。

それとも失くした記憶でも戻った?おひめさま。」


『我儘ですって?セーラは病人なのよ?』


 当然じゃない、と言外に匂わせて、真狒姫は掛布を口元まで引き上げ、機嫌を損ねたように目を閉じる。

中にいる星水晶は未だ眠っていた。

真狒姫がベッドが硬いと文句を言うので、追加で来客用の布団などを運び込んでいる。

質量を増した布団にゆったりと寝転び、次のバザーで売って資金にする予定だった上等な布で縫ったやわらかな寝巻きをまとい、軽くてあたたかいガウンを羽織っている。

 食事は病み上がりであまり食べられないのもわかるが、いらないと言って手を付けないらしい。

 ポピーは心底がっかりしたような表情でため息をついた。


「身寄りもないくせに贅沢言って、嫌って言ったってここ以外に行くところなんてないでしょ…」


 真狒姫がなんとなく目をやった先に、先ほどまでなかった花瓶が置かれているのに気づいた。

ピンクや白色のコスモスに似た花だ。

 だが花の大きさは4分の1ほどで小さく、茎が細くてみすぼらしい。

 こんなのセーラにふさわしくないと、花瓶を投げてやろうかと思ったが、部屋がよけいに殺風景になるだけだと思い直した。


『その花、せめて花瓶いっぱいに生けて。』


「今をいつだと思ってるのよ!?冬も近づいてるのに花瓶いっぱいの花なんてあるわけないじゃない!

これだって、陽当りのいいところを毎日探してようやく見つけたんだから。」


『お庭になければ温室からとってくればいいじゃない。』


「結婚式とか、王室のお祝いで使う特別な花なら魔法使いの温室で育てられていて、冬でも薔薇が咲くらしいわよ。実家の道具屋で両親が花器と一緒に手配してるのを聞いたことがあるの。でもそんなものは手に入らない。ここではね。」


庭には少しばかりの野菜と、枯れ草があるばかり…。

 ポピーの両親は事故で亡くなっていて、まだその傷は癒えていないことを真狒姫も知っていた。それでもこうして自分から話題に出し、亡き両親を偲ぶことで、心の整理をつけていこうと努力しているように見えた。


『この花、おまえが摘んできたの?』


「シスター達はお勤めで忙しいもの、私は時間があったから。」


 ポピーはそっぽを向いているが、スカートに枯れ葉がついているし、肌にはすり傷があった。こんなちっぽけな花で部屋を飾るために、藪に分け入って一生懸命探してきたのだとわかる。

 花は地味極まりないが、それを摘んできたポピーの白い肌、鮮やかな赤い巻毛、輝くブルーの瞳の方がずっと華やかで、部屋に彩りを添えていた。

 真狒姫はこれまでずっと苛立ち、星水晶らしく見えるように作った表情だったが、初めて自然に口元を綻ばせた。

そして、ちょっと優しい口調で呼びかける。


『健気な子は好きよ。もっと近くへおいで。』


 それが母親が娘を呼ぶような声で、ポピーはなんだか甘えたくなった。

 膝に頭を乗せて、胸にぎゅっと抱きしめてもらいたいような…

吸い寄せられるように一歩近づいたが、ふと嫌な予感がして、あわてて身を引いた。


「ちょっと!?セイラとあたしは今までそんな感じじゃなかったでしょっ、あたしは最初っからあんたが気に入らないんだからね!」


 ポピーは恥ずかしかったのか、舌を出して部屋からぱたぱたと出ていってしまった。


『マナーはなってないけど、見た目もよくてかしこそうだからしつけて小間使いにしてもいいと思ったのに。

…でもつまらないの、あの子の守護霊に邪魔された。』


 真狒姫はため息をついて横になる。

まだ星水晶の代わりに動いたり話したりするのにも慣れておらず、すぐに疲れてしまう。

()の半分も出せないだろう。


『もう少し堕落してもらわないと…。』


 今のことは、美凪や星水晶には共有しないことにした。

「ご先祖さまがみてる 開花する少女たち」

文子様とフィーネ様が過ごした明治初期の番外編を投稿しました!

小説家になろう、秋の歴史2023の参加作品で、本編とはまた違った雰囲気になっております。

https://ncode.syosetu.com/n1800il/

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