二人-reflection-
フィーネ様が大聖堂に来てすぐの頃。
ミレーユとフィーネ様はロマリア大聖堂の巫女だった。二人は大聖堂で出会った。
年相応に幼かったフィーネ様に対し、ミレーユは思慮深く大人びた少女だった。
年の近い二人はとても仲が良く、毎日時間を見つけては一緒に遊び、手紙を交わした。
ある日、手を繋いで、中庭を散歩しながらフィーネ様は言った。
「ミレーユ!わたしたち、いつまでも一緒にいようね。」
「とっても素敵ね、フィーネ様。」
「死が分つまで、二人の友情を誓うわ。」
「いいえ、死すらわたしたちを分かつことはできない。神様の元で再会できるもの。」
巫女は結婚しないので、死ぬまで大聖堂で暮らすことになる。幼い二人は永遠を信じて約束した。
ミレーユが、拐われるまでは。
ミレーユが両親と街で面会していた時、事件は起こった。
或る団体が、ミレーユを手元で育てたくはないかと両親を唆し、隙をついてミレーユをさらったのだ。
すぐ親元へ返すという約束だったが、結局連れて行かれたミレーユは帰ってこなかった。
ミレーユは言葉を話し始める頃から巫女の力を発現し、審判の後すぐに大聖堂へ連れて行かれた。
親は本当は寂しいと思っていたが、教会に説き伏せられて泣く泣く手放したという事情があったのだ。
大聖堂の巫女制度において初めてのスキャンダルであり、ミレーユが行方不明になったこともあって、信徒の同情を誘った。
この事件以降、大聖堂は批判され、孤児などの例外を除いて子供が巫女として連れてこられることはなくなった。
また、親が納得し、最終的に自分の判断で巫女になるかどうか決められるように制度が変わった。
フィーネ様は突然の別離にショックを受け、ほとんど寝ることも食べることもできない状態になった。
まだ幼いうちに連れてこられた1人ということで、最終的には、病気療養のため大聖堂を出ることになった。
故郷のコールデンへ戻ったフィーネ様は、家族や街の人々のいたわりと励ましのお陰で徐々に元気を取り戻した。
そして16才になったとき、一生を巫女として生きると決意してロマリア大聖堂へ戻っていった。
その頃にはフィーネ様は聖なる巫女の力を強く発現し、歴史に残る神託や悪魔を聖槍で退けるなど数々の功績を残した。
その後、ミレーユを誘拐した宗教団体が出した声明文から場所が特定され、ミレーユは解放された。
「ミレーユ!あぁ、無事で良かった!私、ほんとに会いたかったのよ!」
「フィーネ様…。」
フィーネを誘拐し匿っていた宗教団体は異端審問の末、解体された。
誘拐の実行に関わった疑いのある人々は捕まった。
「ミレーユは私と一緒に大聖堂に帰るのよ。ご両親は麓の街で待っているわ。」
「いいえ。私、あそこへは戻りません。」
「異端の教派に長くいたから?大丈夫、あなたはこれから…」
「戻らないと言ったのよ。フィーネ様…。」
「ミレーユ、巫女様との話は終わったかい?」
「ヒース…」
突然、部屋に見知らぬ青年が入ってきた。護衛騎士が止めたが、ミレーユは青年の下へ駆け寄って、2人は身を寄せ合った。
「僕達、故郷へ戻ったら結婚するんです。」
「え…?」
「今は巫女として一生を終えるかどうか、自分で決められるようになったはずでしょう?
私、もう戻りません。神様の声も、最近は遠くなってしまってはっきりと聞こえないし…。」
「それは…きっと長く異端の教えの内にいたからよ!大聖堂に戻ったら、神様にもっとも近くなるし…それに私がついているわ。正しい教えを学び直しましょう。」
フィーネ様はミレーユに手を差し伸べたが、ミレーユがその手を取る様子はなかった。
フィーネ様はふらりと長椅子の背に手をついた。
「そんな…私たち巫女がそんな風に自由に振る舞っていたら、巫女はどんどん減ってしまって、神様の声を届けられなくなる。
そうしたら人々は迷い、何が正しいか分からなくなってしまうわ。」
「フィーネ様、私はそうは思いません。巫女制度があるのはこの国だけです。それでも世界には正しく神様に導かれている人はたくさんいます。」
フィーネ様は倒れ込んだが、運良くソファがあったのでみっともない倒れ方はしなかった。
そして、指を組んで神様に祈る。
(どうか、ミレーユが大聖堂を離れても神様のお導きによって正しい道を歩み続けますように…。)
ミレーユはフィーネに、結婚後に暮らす予定の街の名前を書いて渡した。
「着いたら手紙を書きますね。私が嫁ぐテーベ王国は遠いので、なかなかお会いする機会はないと思いますが…。」
何度か手紙を送ったが、ミレーユからは一度返事が来たきりだった。




