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東京駅 -reflection-

 気がつくと、耀子様は東京駅の丸の内北口の広場に佇んでいた。

 通り雨でもあったのか、足元一面の水たまりに映る姿は耀子様自身だった。

最後に着ていたはずの服もきちんと着たままで、街角時計を見ると、夕方の4時ちょうどを指している。人影はまばらだ。


 (良かった、ここからなら歩いて家に帰れるわ…。)


 バッグもスマホも持っていなかった。パスポートもなく手続きせず帰国しているのは、もしかすると違法なのかもしれないが、非常事態なのでそんなことは言っていられない。


(そもそも、今までのことが夢だったのかも…)


 こうして無事でいるということは、異世界の別の人間に乗り移っていたと思うより、夢を見ていたと思う方が現実的だ。

 水たまりを避けるようにターンした瞬間、耀子は目眩を覚えて頭を押さえた。

 視界の端で、水たまりの中の東京駅の大時計の針が回転しているのが見える。ぐるぐると高速で回る、回る…


 たちまち周りの風景は一変していた。

でも明らかに異世界ではない。

景色が低い。周りにビルなどがない。

町行く人々は着物を着て、舗装されてコンクリートだった道はなくなっていた。

耀子様はしばらくぽかんと呆けてしまったが、すぐに嫌な予想をしてしまう。


「嘘でしょう!?」


 異世界の次は過去に飛ばされるなんて、もうどっちがマシかのレベルである。

 確かにもう少し近い未来が見たいと思ったが、エヴァ様がいた時代から見て近い未来は、この時代の日本なのだろうか…

 

 一度は元の世界に戻れたと思ったのに、また迷子になったショックで、近くの石に座りこんでしまった。途方に暮れて、道行く人をぼんやり眺めていた。

 女性は着物が大半だが小物は洋風だったり、時折洋装の紳士も見かける。だとすると今は明治時代か…。

 エヴァ様のいる時代の文明は明らかに産業革命前。明治維新が産業革命後の19世紀後半だから、少し先の未来と言えなくもない。100年単位だが。 


(さっきまでいた東京駅はまだ建っていないはず。日本で鉄道が初めて開通してすぐの時代だもの…)

 

 この服装では目立っているはずだが、周りが特に気にする様子はない。

 目の前を振袖の綺麗な女性が通り過ぎた。1人だけふわふわと長いウェーブヘアで日傘を差し、華奢な背をぴんと伸ばして歩く姿が耀子の目に止まる。


(つい最近、私はどこかでこの人を見たのではなかったかしら…)


 ぼんやりとしていた記憶を呼び覚ます。

そうだ。あの髪型、顔立ち…般若面の女が抱き上げた振袖の女性ではないだろうか?

 耀子様は声をかけようとして立ち上がり、女性を追いかけたが、足がもつれて転んでしまった。


「あなた、どうしたの?」


 振袖の女性は日傘を隣の少し年上の女性に預け、耀子様を助け起こし、裾についた砂を払おうとして手を止める。


「まあ、この子洋装だわ!ちょっと、家に来てよく見せてもらえませんこと?」


「お嬢様!勝手に連れていってはいけませんよ。きっと最近来た外国人邸の娘でしょう?迷い子かもしれません。」


「大丈夫、代わりの着物を用意させましてよ。文子はすぐそこの呉服屋の娘なのですわ。」


 文子と名乗る女性は、覗き込むように上から笑いかける。強い目線が顔ではなく服に注がれ、少し怖かった。


「お嬢様、お話聞いておられました?

…でも、近くでこの子を探している人もいないようですねぇ。日差しも強いし一度連れて帰って使いを出しましょうか。」


 耀子様は両手を2人に引かれて家に招かれた。

 文子様と世話人らしき女性は耀子様を見ているようで見えていない気がした。

別の人物を通して見ているような…。


 先程からずっと同じ暖簾が続いている。そして、文子様はその1つに入っていった。 

 中の店も広く、色とりどりの着物を広げて買い物を楽しむ客で賑わっている。


「どうぞこちらへ。」


付き添いの女性に連れられて、奥の座敷へ入る。


「さぁさ、汚れてしまったその着物は替えましょうね。脱いだ服はお預かりして洗ってお返ししますから。」


「洗濯のついでにどんな形になっているか調べても構わないですわね?」


 あれよあれよという間に服は脱がされ、どんな着物がいいかと鏡の前に連れて行かれたが、そこにはとても美しい金髪の少女が座っていた。透き通る肌、光り輝く金髪の巻き毛。


(…!フィーネ様?)


 耀子様はエヴァの記憶で、伝説の巫女であるフィーネ様の姿を知っていた。

この特徴的な聖衣からして間違いないだろう。


(あの世界で行方不明のフィーネ様は、私達の世界に飛ばされていたということね…。まるで星水晶みたいに。)


耀子様はそっと鏡に近づいた。


(この表情…見覚えがある。そうだ、私と同じ…。)


 鏡の中のフィーネ様は、寂しい目をしていた。孤独で、自分が嫌になり、それでも好きな人に近づきたいと思っている。願いのこもった強い目。


(フィーネ様は特別な巫女だった。大聖堂に閉じ込められ、親しい友人もなく、孤独だったのかもしれない。)


 鏡を見つめていると、耀子様の意識はフィーネ様の過去の記憶へと沈んでいった。

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