騎士カイン
その晩の護衛は、最初に女性の生死を確認した騎士のカインだった。
長い黒髪で、海のような青い瞳をしている美青年だ。年は22才と若いが、元々は近衛を勤めていたため、血を見ることもない平和な神殿の護衛騎士よりは場馴れしていた。
しかし治癒されて、生まれたままの姿で元に戻ってしまったときは驚いた。
すぐに顔を背けて目を瞑ったが、一番近くで見守っていたのでしっかり見てしまった。
女性の裸には…馴れていなかったのだ。
彼は羞恥と後悔を覚えていた。
(…まさか若い女性だなんて思わないじゃないか)
そしてそのような相手に対して、夜中に護衛をすることになってしまった。流石に二人きりではないが…
落ち着かない様子でいると、同僚の騎士、アルバスにからかわれた。
「次の交代、早めにしてもらうか?」
「結構だ。後の者に迷惑がかかる…」
むっとして睨むと、アルバスは肩をすくめてまた警護に戻った。
「……ぉ…」
ふと、彼女が何か喋った気がして覗き込んだ。
カインの長い黒髪がシーツをさらりと撫でる音がした。
「お姉さま…」
意識はないようだが、そう言って彼女は涙を流していた。
長いまつ毛の端から一滴、転がるように…
そこから目が離せないでいると、突然彼女がぱっちり目を開いた。
アルバスが声をかけようとしたのを、カインは刺激しないように、しーっと口に指を当てた。
突然知らないところで目を覚まして、知らない人間に囲まれてはパニックになるかもしれない。
ましてや、あの大怪我だ。何か恐ろしいことが彼女の身に起こったのは間違いない。下手に刺激すると脅えさせてしまうかもしれない。
彼らの心配をよそに、彼女はすっと起き上がって、落ち着いた様子で口を開いた。
「夜は兵がついてしもうたの。しょうもないこと…」
「あなたは…!意識がなかったのでは?」
まるでもうずっと起きていたような言い方だった。
取りあえず、カインはアルバスにリュカ大神官を呼びに行かせることにした。
「セイラは、まだ意識はあらへんよ。私たちはこの子のご先祖さま。」
「ご先祖様…?」
「おじいさんおばあさんのお父さんお母さん、さらにそのお父さんやお母さん。ずっと遡って、むかぁしむかし。」
「貴族なら辿れるだろうが…」
聞き慣れない言葉に、カインは首を傾げる。
「この世界に来るとき神様が、私たちに言わはったの。この子を助けてって。
あなたにも、助けてもらったわ。おおきに…」
そう言うと、また意識を失って倒れたので、カインは彼女の体を支えてまたベッドに寝かせてやった。
「一体、彼女は何者なんだ…?」