幻惑の獣たち
更新開いてしまって申し訳ありませんでした…。
この捜索隊には、大聖堂からエヴァと旅をしたローザとノエルの姉弟も同行していた。
エヴァと別れて故郷の町へ戻る途中、追ってきた捜索隊から話を聞かれ、すぐにエヴァと別れた町へ向かったが、治癒師を探して旅立った後だった。
「妹が不治の病と言っていた。それで腕の良い治癒師を探しているんだよ。」
だが、その町にはエヴァの妹などいなかった。
嘘をつかれたことはわかったが、彼女が治癒師を探しているのは確かだった。
何か事情があると察し、エヴァが逃げるのに協力したという負い目もあって、二人は捜索隊に同行することにした。
捜索隊は馬車を追って、サンタマリア・クレール神殿に辿り着いたが、彼女が捕らえられていると聞いてノエルは驚いた。
「エヴァが捕まるなんて、相手は相当強いか、複数人の仕業だと思うよ。」
「巫女が大聖堂で護られるって、やっぱり必要だったのね。教会の権威のためだと思ってたけど…。」
「エヴァ様はそんなにお強いのか?」
二人の会話を聞いてアルベルトは驚いて割って入った。大聖堂の巫女が戦うなんて聞いたことがない。
「本人のセンスもあるけど、あれはちょっと神がかっていたと思う。護身用に姉さんの予備の剣を渡したんだけど、すぐに使いこなして中級モンスターなら一人でやっつけていたよ。」
「中級を一人で?護衛騎士と互角か、それ以上だね…。俺でも中級は苦戦するよ。」
「アルバスさんは魔法使いだろ?」
「そうなんだけどね、僕は器用貧乏ってやつだ。騎士団に籍はあるけど、どちらかというと秘書みたいな仕事が多いから。
先に言っておくけど、皆、僕の魔法には期待しないでくれよ。」
「そもそも対人なら攻撃魔法は使えないしな。」
「リュカ大神官は、悪魔の気配を感じたそうだ。そいつは僕の魔法をはね返した。ただの誘拐犯ではなさそうだ。」
捜索隊は翌日、東の荒野に着いた。危険な毒を持つサソリや、ネズミ型のモンスターがいるが、餌が少ないので個体数は多くない。
注意して移動するならそれほど危険はなかった。
そして、ついに廃墟の町コールデンに辿り着いた。すぐに魔力の痕跡がある小屋も見つかった。
「向こうもこちらに魔法使いがいることはわかっているはずだ。見え見えの罠に飛び込むか?」
「あの粗末な小屋に多くの者が隠れるところはないだろう。突入はこちらが有利だ。」
「昨日探索した後、場所を移されている可能性もある。」
カインの予想通り、エヴァは別の家屋に移されていた。
今は声を出せないように猿轡をされている。
(魔法使いといっても小さい女の子一人じゃない。いざとなったら身を挺してでも星水晶を助けるわ…)
「大聖堂の騎士たちだ。わたしもそれなりに準備して出迎えよう…」
そう言うと少女の体はメキメキと音を立てて、大男の姿に変化した。
また、地面の影からは山羊や鷲や鹿などの頭を持つ、ローブを纏った人型の獣たちが姿を現した。
その時、星水晶は鳥肌が立つような寒気を覚えた。
「あちらの方からとても嫌な気配がいたしました。」
「僕も感じた。行ってみよう。」
魔力の痕跡のある小屋は結局無人だった。捜索隊は星水晶の言う方向にある廃屋へと向かった。
ローザとノエルの姉弟がドアを蹴破って中の様子を覗うと、共に旅をしたエヴァが捕まっているのが見えた。
「エヴァ様がいたぞ!」
その声を契機に人型の獣たちが襲ってくる。騎士が応戦するが攻撃が当たらない。カインは叫んだ。
「これは幻覚だ!惑わされるな!」
幻覚だと思おうとしても、実体があるとしか思えず、皆襲ってくる化け物をつい避けてしまう。
エヴァを捕らえている大男のところに最初に辿り着いたのはカインだった。
すると、星水晶のところに山羊頭が向かってきた。
『きゃああぁっ』
『何、これ…っ』
幻覚と思われた獣は、星水晶には攻撃することができた。星水晶というより、守護霊たちだ。
『うぅ…気持ち悪いですわ…』
3人とも、獣の攻撃の影響でぐったりしている。
星水晶も強い衝撃を受けて膝をついた。
すぐにアルベルトが山羊頭を引き離そうとするが、攻撃が当たらないため、星水晶を護る手段がない。
悲鳴を上げそうになるのを堪えて星水晶は叫んだ。
「騎士たちに、神様のご加護があらんことを!
悪魔は人に直接手出しすることはできません。恐れないでください!」
星水晶の声で、辺りが少し白く明るくなったように見えた。
獣たちの影も少し薄くなり、騎士たちは心を奮い立たせてカインの加勢へ向かった。
ローザは捕らわれているエヴァの傍まで辿り着いた。
「あの女を狙え!」
大男は星水晶を襲うよう獣たちに指示を出した。
カインは大男と対峙しながら一番護りたかった星水晶側を離れてしまったことを後悔した。
他の者が怯んでいたために必要だったが、失敗したと思った。
(俺が、離れず護るべきだった…。)
思わず視線を向けると、星水晶は、アルベルトに護られていた。
それを見た瞬間、心がひび割れるような音が聞こえたような気がした。
悪魔が人を傷つける際には、人の心につけ込む。そしてその人の心を操るのだ。




