守護天使への祈り
セイラ(美凪様)は、アルバスと、カインに前後を護られながら進む。
アルバスは、セイラの魔法について質問を投げかけた。
「ところで、セイラはどんな魔法が使えるんだい?」
『初めて出したのは赤みがかった光の槍のようなものです。おそらく、攻撃魔法でしょうか?
モンスターは逃げていきましたが、当たっていないのでどんな力かわかりませんわ。』
「光の…槍…?」
アルバスはうわぁ…と呻いて天を仰いだ。
「それ、聖槍って言うとんでもないやつだよ…」
カインも眉間に指を当てて悩んでいる。
「俺も詳しくはないが、まさか…」
「その魔法が使えるだけで審問官は手放しで聖人認定だね。巫女どころか時期教皇候補だよ…」
(チェストー!がそんな凄い魔法だったなんて…)
チェストー!改め聖槍は、希少な魔法だったらしい。それほど神聖な魔法であれば文子様に負担もかかるだろう。
「過去にその魔法が確認されたのは、悪魔に拐われたといわれているフィーネという巫女、ただ一例だけだよ。
その巫女も、幼い頃に行方が分からなくなっているから、魔法がどのようなものかはわからないんだ。」
(聖槍…こちらの世界でも聖遺物なのですね。)
「是非使っているところを見たいものだ。」
以前のカインと同じ、アルバスの目も、探究心に燃えていた。
『聖槍とは生と死、そして復活の象徴…。おいそれと使えるような魔法ではなさそうですわね。』
神妙な顔で美凪様は話す。
…うまく誤魔化せただろうか。文子様に負担をかけたくないので、見世物のように魔法を使うわけにいかなかった。
『死の象徴だとすると、世界を滅ぼす魔法かしら…』
『美凪さん、怖いこと言わないでくださいます?』
『復活もある意味怖いけどな。
うちはカトリックやないから、あの世から化けて出たとしか思えへん。』
キリスト教では、最後の審判の時に死者も復活して裁きを受けると言われている。
「思い出した、ということは以前はこの魔法を使っていたことになるけど、どのくらい覚えてる?」
アルバスは更に突っ込んだことを聞いてくる。星水晶が答えに窮した時、先頭のアルベルトが止まって声をかけた。
「もう少し先に町がある!日暮れまでに着けるように少し急ごう!休んでから、早朝発つよ!」
「わかった!」
カインが声を張り上げ、馬に駈歩の合図を出した。
何とかぎりぎり日暮れ前に町へと着いた。
星水晶が西の空を見ると、地平線に太陽が沈んで隠れる瞬間が見えた。
町に大人数が泊まれる宿はないため、教会で少し休ませてもらうことになった。
温かいお茶と、持参した携行食でお腹を満たす。
カインやアルベルトなど、騎士は馬の世話をしに行っており、体力の限界だったアルバスとセイラは先に休ませてもらった。
「そういえば、東の荒地は行方不明になる前のフィーネ様の故郷だったんだよ。
痩せた土地で作物が育たないけど、石炭が取れたんだ。」
「そうだったのですか。今は無人と聞きましたが…」
「フィーネ様が行方不明になったのは故郷の町コールデン。そこは悪魔に滅ぼされてしまったんだ。」
悪魔。唆し、欺き、妨げるもの。
それはすなわちサタンだ。
聖なる巫女を拐かし、故郷の町を滅ぼし、今再び巫女を拐かしている。
次に滅ぼされるのは、他の町、あるいは国か…。
星水晶は急に寒気を感じて、借りた毛布をしっかり巻き直した。
(悪魔を恐れないようにしよう。)
そして、大切に持ってきたブローチと経典を胸に抱き、祈りの言葉を呟いて目を閉じた。
「神様、限りない慈しみに感謝します。貴方が私を救われた時、私を照らし、守り、支え、導くよう守護の天使に委ねてくださいました。
私を守る御使いたちよ、貴女がたに感謝します。
貴女がたは、私が神様のもとに帰るまで絶えず旅路をともにいてくださいます。
主の憐れみによって貴女がたに委ねられた私を、照らし、守り、支え、導いてください。アーメン。」
星水晶は、ご先祖さまたちは神様がつけてくださった守護霊だと思っていた。
彼女たちは本来、耀子様の持つブローチに宿った守護霊だったが、異世界に転移した時、星水晶と共にいることを選んだため、今は間違いなく星水晶の守護霊だった。
お祈りをすると、脅えた心がすっと安らいで、星水晶は眠りについた。
「兄さん、そっちはもう終わった?」
騎士たちは馬の状態を確認しながら洗ってやり、水と餌を与えた。
どの馬も問題はなさそうだ。
カインとアルベルトで、セイラとアルバスの馬も洗ったので、二人が最後だった。
「ああ、アルも疲れただろう、ゆっくり休んでくれ。」
「大したことないよ。まだ眠れそうにないから、少し話をしない?」
「…俺は少しでも寝たいな。」
「いいじゃない、ちょっとだけ。」
カインは、そんなアルベルトを正直、うっとおしく思った。
アルベルトに頼まれると、カインが断れないのをわかっていて言っているのだ。
「アルが上官だからな。命令なら聞くが」
「何だよその言い方…。久々に兄弟で少し話したいって言ってるだけなのに。
じゃあどっちが上か、勝負して決めない?負けた方が言うことを聞く。」
カインが無言で頷き、二人は剣を構えた。
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