文子様の決意
神殿では、アルバスが捜索隊に請われて人探しの魔法を使っていた。
エヴァの書き置きの手紙を使って現在の様子を遠隔視する魔法だ。
手紙に指先から魔力を流していく。
すると、一瞬巫女の姿は見えたものの、アルバスの指先から魔力が逆流し、手紙が赤い炎に包まれた。
「うわっ!!」
慌てて近くの水差しで消化したものの、アルバスは軽度の火傷を負ってしまった。
「どうした、アルバス!」
「わからない…一瞬、鎖に両手を繋がれた女性が視えた。その後すぐ魔力がはね返されるような感覚が…」
「火傷はそこまでひどくないな。水で冷やしておいて、近くの街から治癒師を呼ぼう。」
「そうして貰えると有り難い。」
すぐにアルバスは井戸へと向かった。
捜索隊は、巫女が危険な状態にあることがわかってすぐに出立することになった。
アルバスによると、エヴァが捕らえられているところは東の荒野にあるらしい。
荒野には打ち捨てられた集落があり、エヴァが立ち寄ったという話もあるのでおそらくそこだろうという話になった。
「アルバスの魔法がはね返されたとき、悪しき者の気配を感じました。」
リュカ大神官はとても心配されていて、神官に捜索隊に加わるよう促したが、悪魔を恐れており、無理に行かせても退けることができない可能性があった。
やむを得ず、リュカ大神官自ら赴こうとしたとき、文子様が声を上げた。
『私を捜索に連れていってくださいませ!』
「セイラ!?!」
『私は経験は浅いとはいえ聖職者で、魔法使いですわ!きっとお役に立ちます。』
文子様は手に魔力を纏わせ、アルバスに見てもらった。
「本当だ!どうして…今急に使えるようになったのかい?」
『さきほど、思い出しました。私は異世界からまいりましたが、元々はこの世界の生まれだったのですわ。
アルバス様ほど器用に魔法は使えませんが、捜索に同行させてくださいませ!』
リュカ大神官は少し考え込む様子だったが、セイラを同行させることにした。
「シスター・セイラ。あなたなら、いかなる時も神様を信じられるでしょう。頼みましたよ。」
(そんな、文子様…)
『星水晶さん、耀子さんかもしれない巫女に会いたいんでしょう?
ここで切り札を出さなければいつ使うんですの?』
文子様は美しく微笑んだ。
星水晶の、行方不明の巫女の、捜索隊の皆の役に立ちたい。
どうせ消えるなら、誰かの役に立ちたい…。
そんな気持ちが痛いほど強く伝わってきて、星水晶とその中の二人はたくさん喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
『文子さん、えらいことしてくれはりましたなぁ』
問題は一智佳様だったが、呆れ顔で捜索隊への参加は認めてくれるようだった。
『魔法は…本当に最後の最後の手段にしておくれやす。』
激怒するより、心配している様子だった。
(わかりました。)
「俺も、セイラの護衛として捜索隊に加えて貰えないでしょうか?」
カインもセイラのことが心配で、もし一緒に行くのを止められたら辞職してでもついて行く覚悟だった。
結局、リュカ大神官のはからいで、カイン及びアルバスも手の治療が済み次第合流することになった。
「セイラ!」
シスター・イザベラとシスター・パトリシアが駆けてきた。
「イザベラ様、パトリシア様。そんなに走っては危ないですわ。」
「だって貴方…巫女様の捜索に行くなんて危険だわ!」
二人はシスター・エリカから知らせを聞いてすぐさま飛んできてくれたのだ。
「シスターではなく神官が行くべきじゃないの…」
パトリシアはそう言って唇を噛む。
セイラはそんなパトリシアの唇を指でなぞって止めさせた。
「いいえ、同じ聖職者ですもの、女も男もありませんわ。
神様にお仕えするものとして、精一杯役目を果たしてまいります。
きっと無事に修道女寮に戻ってまいりますから。」
パトリシアは涙目になってセイラを抱きしめた。イザベラも二人の上から腕を回して別れを惜しんだ。
セイラは、二人に感謝の握手をし、簡単に荷物をまとめて旅立った。
「風とともに去っていったわ…」
「ポピーになんて説明しよう。あの子また怒るわね。」
「ううん、今度はきっと寂しがるわよ…」
捜索隊の出立準備が整った。
土地勘のあるアルベルトが先導し、殿はカインがつとめることになった。
星水晶は馬に乗るため、美凪様に代わってもらった。
「ここから東の荒野まで、馬を飛ばせば一日で着く。セイラさんは馬には乗れるようですが、駆けられますか?」
『大丈夫です!お任せください。』
美凪様は力強く肯く。
流石に今は色恋にかまけている空気ではないと感じているようだが、心の中ではこれから起こるであろうロマンスへの期待があった。
『騎士に危機を救われる…吊り橋効果…私を巡って争わないで…』
馬を走らせながら、脳内では何やら恋愛小説が展開されているようだった。
美凪様はいつでも美凪様で、何だか緊張がほぐれた。




