最悪の目覚め
真夜中、文子様がこっそり、替わってほしいと星水晶にお願いした。
どうしてもやりたいことがあるというので、半分寝ぼけながら了承して、星水晶は眠った。
早朝、一智佳様と文子様の喧嘩する声で目が醒めた。
星水晶が生きてきた中で最悪の寝起きだった。
『文子さん、ええかげんにしよし。誰かに見られたらどないしますのや?』
『見られないように真夜中に練習してたんですわ!少しくらいいいじゃないですか!』
今朝の星水晶は珍しく機嫌が若干悪かった。
「…美凪様。どういうことか説明してください。」
『どうもこうも、星水晶ちゃんが魔法使いに行っていいって言ったんじゃないの?』
「そうは言ってません。体は貸しましたけど」
落ち着くために冷たい水を一口飲んで、布を浸して顔を拭った。
『今後、魔法は使ったらあかん。』
『そんなの横暴ではありませんか!』
そう叫ぶ文子様は涙目だ。スン、スンと鼻まですすり始めて、流石に可哀想なので一智佳様をたしなめようとした。
「どうして、文子様は魔法を使ってはいけないのですか?」
『…何となくわかってはると思うけど、文子さんは体が弱いんや。』
「守護霊なので体はありませんが…」
『生前っていう意味や。文子さんは20才になる前にこの世を去ってはるからな。』
(文子様が…!?)
星水晶は、これまでの様子を思い返した。
星水晶の体を長く使うことができず、他の二人よりとても疲れている様子があった。魔法を使うとひどくぐったりしていた。
そんな文子様が魔法を使い続けたら…嫌な想像を打ち消すように星水晶は頭を振った。
『頼むし、文子さんに魔法をなるべく使わせんといて。できるなら今後一切使わずに生きていって欲しいと思ってる。』
しかし、その願いは文子様のある決意によって実現することはなかった。
ロマリア大聖堂では耀子様が逃げ出した後、捜索が行われていた。
どうやら荷物に紛れて出たらしいが、その荷物が運ばれた街での目撃情報はなかった。
「街に立ち寄っていないとすると、まさか山に…?無茶な、か弱い女性一人で!」
「確か東の大陸へ戻る姉弟の護衛兵がいた。もしかしたら二人が何か知っているかもしれないな。」
「すぐに捜索隊を編成して追いかけましょう。」
教皇もいなくなった巫女のことを心配していた。
「アルベルト、君は東の大陸出身だ。捜索隊に入りなさい。」
「はい、承りました。」
アルベルトは跪き、教皇の手を取った。
「大聖堂を出たことが神のお導きなら、きっと巫女をお護りくださっています。神のご加護が彼らの上にありますように。」
教皇は巫女と、捜索に協力する人々の無事を祈った。
耀子様は街から街へ常に移動しており、なかなか捕まらなかったが、足取りを追って、ついにサンタマリア・クレール神殿に捜索隊が到着した。
そこにはカインの弟、アルベルトと、ローザ、ノエルの姉弟も含まれていた。
「久しぶり、兄さん!」
「アル。こんなところでまた会えるとはな…」
カインはぎこちなく挨拶する。アルベルトは、カインとは違い茶色の髪に空色の瞳。柔和な笑顔に似合わず、カインより背も体も大きい。
久々に見るとまたさらに大きくなったように思う。
「兄さんが入れ違いで東の聖殿に行ったって聞いたときは驚いたよ。シュバルツ村に近いとはいえ、どうしてこっちに?」
「ああ、リュカ大神官に声をかけていただいてな…それより、巫女を探していると聞いたが。」
カインは歯切れ悪く説明した後、話を逸らした。
「そうなんだ。エヴァという巫女が大聖堂を抜け出してしまって。
でも凄いんだよ、荷馬車の護衛をしながら一人で旅しているみたいだ。」
「エヴァか…ヨウコではないんだな。」
「え?うん。」
アルベルトはもっと話したそうだったが、また後でとカインに言われて渋々戻っていった。
「あれがカインの弟か。似てないな?」
「弟は母親似だ。」
「どんな色男かと思ったが、カインほどではないな!」
「何を期待していたんだ…。」
カインは若い女性を虜にするタイプで、アルベルトは落ち着いた年上の女性に好かれそうなタイプだった。




