[prelude]未来を変えたい
私の卒業を控えた高等部三年生の冬のことです。
警護を撒くため、私は星水晶の腕を取って、人気のない校舎裏の林に飛び込みました。
「お姉さま…」
「しーっ、静かに。」
大胆なことをしたけれど、平気でした。その時は、星水晶に会えることが全てでした。
「お姉さま…海外の大学を受けられるのですね。」
「ウエストミンスターよ。ロンドンの。
お祖母様の遺言で、両親が星水晶と引き離そうとしてるの。
でも、私は星水晶との未来を諦めたわけじゃないわ。
星水晶が卒業したら、ううん、大学卒業後でもいいの。二人で、どこか誰も知り合いがいない所で暮らしましょう?」
私は、星水晶の腰に腕を回して、きつく抱きしめました。
星水晶は驚愕し口元を押さえ、ボロボロと大粒の涙を流して私の頭を濡らします。
「い、いいえ…お姉さま。私は、身を引こうと思います。」
「今すぐに答えを出さなくてもいいの。卒業後も気持ちが変わらなければでいいのよ…」
星水晶は、無言でゆっくりと首を振りました。
「実は、以前からお姉さまと関係を絶つように説得されていたのです…」
よく考えた上での結論だと、言われました。
「私のせいでお姉さまが名家の庇護をなくして、両親とも友人とも、二度と会えないなんて、そんなことは許されないですわ」
「私のことなんていいの、星水晶を愛しているから。」
両親がどうでもいいとは、嘘になるから流石に言えませんでした。
「ごめんなさい、ごめんなさいお姉さま…」
そう言って、星水晶は林から風のように去っていきました。
一度も、振り向いてはくれませんでした。星水晶の決意は固かったのです。
星水晶は、私と二人で逃げようという提案は、全く想定していなかったようです。
断られて当然です。今まで良き姉として、本心を晒さず接して来たのに、最後には自分の気持ちを優先したのですから…
本当に無欲で清らかなのは、やはり星水晶だけでした。
私はどうしても星水晶と一緒に生きたいという欲を捨てられなかったのです。
翌週、失意のうちに私はロンドン行きの飛行機に乗りました。
離陸後、空港の保安検査場で外していたブローチをつけようと何気なく触れた時、突然ビジョンが見えました。
これまでも時折、先の未来で起こることが見えたことがあったのです。
そういったことも星水晶には打ち明けられずにいました。
「嘘…!」
思わず叫んでしまい、通りがかったキャビンアテンダントが心配そうにどうしましたかと声をかけたところで我に返りました。
星水晶は、しばらく後に、私を追いかけて乗った飛行機の事故で死んでしまう運命だったのです。
(身を引くと言っていた星水晶が私を追って渡航するかしら…
もしかして、本当の気持ちは違ったのかもしれないわ)
確かめるためにも、何とかしてこの未来を防がなくては…
今まで未来視で見たことを変えようとしたことはなかったけど、やってみよう。
私は到着ロビーでトイレに行くふりをして、手紙とブローチを星水晶に宛てて送りました。
”急いでいて詳しく書けないけれど、信じてください。私を追ってきてはいけません。
このブローチはあなたに託します。
必ず会いに行くから、私だと思って大事に持っていて。 耀子”
試験の後、お祈りをしたいと言って大聖堂へ向かいました。
そして、お祈りをしたその時、雷に撃たれたような衝撃があったのです。
星水晶がどこか違う世界で焼け焦げてボロボロの姿で発見されるビジョンが見えました。
(やっぱり事故は避けられない!でも、今から日本に戻って星水晶に会えば、まだ間に合うかもしれないわ!)
私は大聖堂から逃げ出しました。
しかし、先ほどの衝撃のせいか、体がとても、とても重くて、だんだん目の前が真っ暗になっていきます。
ついに地面に倒れ伏しました。
(こんなことになるのに、自分の未来は視えないのね…もし視えていたら、ロンドンに来なかったのに。ああ、星水晶にもう一度会いたかった。私に止められないなら、どうして星水晶の未来が視えたの…?)
もう再会が叶わないと知って、神様に祈ります。
(どうか、星水晶の命をお救いください。)
死の間際にある私の姿を、神様は見ておられました。
意識が途切れた後、私に話してくださいました。
「このまま天に召されたら二人は再会できる。それではいけないのか?」
(それでも私は、星水晶に生きて欲しいのです。)
長いような、短いような時が過ぎ、次に目が覚めるとそこは見知らぬ世界でした。
時系列的には0話なので、後日、章やタイトルで整理する予定です。
お姉さまはいかにして星水晶を救うのか、気になった方はよかったらブックマークお願いします!




