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[prelude]ラナンキュラスと蝶々

 アンナマリア学院は初等部から高等部までのエスカレーター式の私立学校です。

 そこでは純粋培養のお嬢様たちが、世間から隔離されて教育を受けていました。


 制服は青に近い紺のセーラー服。襟のラインは学年ごとに異なり、セーラー襟は毎年新しいものに替えるため、三年生になってもくすむことなく真っ白です。

 それを鳥に例えて、学院生のことを、"コルリ"と呼び、アンナマリア学院を"コルリの巣"と呼ばれる方もいらっしゃいます。

 自分たちで冗談めかしてそう呼ぶ方もいました。

 リボンの色は初等部は赤。中等部は青。高等部は緑。

 膝下までのスカートはプリーツにきっちりアイロンがかかり、シワ一つありません。

 服装の乱れや言葉遣いの乱れは心の乱れ。

 初等部の頃から厳しい先生やシスターに指導されます。

 父親の海外赴任のため中等部や高等部から編入する生徒もたまにいますが、校風に馴染めず浮いてしまうことが多かったそうです。


 神戸 星水晶はごく普通の少女に見えるけれど、近づくと目を離せなくなる…そんな子でした。

 背は高く、足は長くしなやか。ふわふわした淡い茶色の髪は柔らかく、風が吹く度に楽しげに揺れています。

 胸は大きく膨らんでいてスタイルがよく、いつも背筋はぴんと伸びています。

 それなのに性格は内向的で、慎ましやか。

 幾重にも重なり、繊細で淡い花びらをつけるラナンキュラスを想わせる女の子でした。


 わたくしとは正反対…。長い黒髪や小柄な体型など、容姿に惹かれて近寄る人は多いけど、見た目で清らかな人格を期待されてしまう。

 いつの間にか、そんな風に自分を偽っていたように思います。

 

 「清楚で、花のように可憐。」


 私のことをそう表現した人がいたけれど、心の中でいつも思っていました。


 (花のように可憐で、清らかな心を持っているのは私じゃない…)



「背の高い花には蝶々が集まるのよ」


私はその甘い蜜を吸いに来て、独り占めしている蝶々。


「あの揚羽蝶、ずいぶん高いところを飛んでいますね。」


 星水晶がおっとりとそう言い、手を伸ばしても蝶々には届きませんでした。

 そして、太陽の光が目に入ったのか、眩しそうに目を細めていました。

 

 私は、星水晶の腕に納まりながら、蝶々はあなたにもう捕まっているのに、と小さく呟きました。


 星水晶のことは、密かに憧れている子が多く、私は彼女のことを独占できました。

 普段大人しくて目立たなかった星水晶が、スポーツ大会での活躍で注目されて、焦って自分のものにしてしまったのだけれど…


 星水晶も私のことを慕ってくれていて、時折悩みを打ち明けてくれたり、弱い部分を見せることもありました。

 でも、私は星水晶のお姉さまとしてしっかり支えなければと、本音で話せてはいなかったのかもしれません。

 いえ、本当の自分を見せて、嫌われるのが怖かっただけ…。星水晶が好きになってくれたのは、偽りの私なのだから。

 自分を偽ってきた罰なのでしょうか。

 私の卒業を前に、二人の仲は壊れることになったのです。

 アンナマリア学院には特に姉妹制度のようなものはなかったのですが、上級生複数人を指してお姉さまたちと呼ぶ文化はありました。

 そして、耀子様と星水晶が親密な様子で姉妹と呼び合うのに憧れて、だんだん仲の良い上級生と下級生が姉妹のように振る舞うことが増えていったようです。

 その際、姉がお祈りをするように手を組み、妹がそれを両手で包み込んで約束するという方法が受け継がれています。

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