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[prelude]神戸 星水晶とお姉さま

 私、神戸星水晶かんべ せいらはアンナマリア学院の2年生。ちょっと変わった名前でしょう?

名付けは、家の事情もあるのだけど…。

 成績は家庭教師と私の努力の末、中の上。

 容姿は親譲りで整ってはいたけれど、背ばかり高くて、女らしくなくてあまり好ましくなかったと思います。

 良家の子女が通うお嬢様学校のアンナマリアでは、どなたも女の子らしく小柄で、品があって、たおやかでしたもの。

 そんなお嬢様たちの中でも、特別お綺麗だったのは、一学年上の一条いちじょう 耀子ようこ様でした。


 艷やかな長い黒髪に、アイドルや女優さんかのようなほっそりとした体型。私とは骨格が違うのかしら、折れてしまいそうなほど華奢でしたわ。

 華族のおひいさまもかくやというような肌の白さに、お顔の作りは繊細でいて華やか。花のかんばせとはこういうお顔立ちを言うのね…それはもう、うっとりするほどでした。

 それに、性格はとてもお優しくて、どなたにも親切で、学年首席で、名家のお生まれで…私の憧れの方だったのです。

 

 私は髪や目が少し淡く茶色がかっていて、天然のウエーブがかかっていて、校則違反のパーマや染髪をしているのではないかと噂になったこともあって…

 先生方には説明していて注意されるようなことはなかったけれど。一時期気にして短く切ってしまったのもかえって目立ってしまったわ。

 私、隠していたけれど、皆さんに比べて、育ちがあんまり良くないらしいの。

 だから、初等部から学院にいるのにちょっと浮いていました…

 耀子様くらいになると東京駅にお散歩に行けるようなところにお家があるらしくて、それに比べたら恥ずかしくって、話しかけることもできなかったのです。


 初めてお話したのは、スポーツ大会のとき…

他のクラスは陸上部の方が選手で、私はみんなが嫌がった1200m走に出ることになってしまったの。

 ほぼトップスピードで走り抜くようなペースだったから、頑張って走ったけれど、最後私しかいない状態でゴールしたわ。

 そうしたら、実行委員の耀子お姉さまは

「あなた、よく頑張ったわ」

と声をかけてくださったの…


「い、いいえ…!わっ、私…っ」


 息を切らして、声をかけていただいた驚きと恥ずかしさに声を詰まらせた私を、体調が悪いと思われたのか、燿子様は医務室に連れて行ってくださいました。


「もう大丈夫ですわ…ご心配をおかけしました…」


 ドキドキしているけれど、これは走ったせいではありません…

憧れの燿子様と二人きりだから…!

 ベッドに横になる私を覗き込んだ燿子様。

 今日は綺麗な黒髪をポニーテールにされていて、絹糸のようなそれが、シーツにさらりと音を立てて滑っていく。


「あなた、速かったわ。運動部ではないのに、すごいわね。」


「いえ、そんな、とんでもないことですわ…」


 無我夢中で、酸欠になりながらどうにかゴールしたのでしょう、記憶がほとんどありません… 

 それより、燿子様がこんな近くに…くすみそばかす一つないお肌の透明感…毛穴なんて何処へかに消えてしまってるわ…

日焼けなんてしたらこれが失われてしまう!人類の損失よ…

外でスポーツ大会なんてやっている場合ではないわ…


「次にあなたが出る競技は、騎馬戦だったかしら?」


「ええ、でも怪我もありませんし、私、出られます。」

 

 私には馬という大切な役目があるのです。

 気合を入れて起き上がると、燿子さまが上目遣いで祈るようにこう言ったの。


「あなたと私は同じ白組よね。実は、三学年で一人欠員が出たの。馬になってくださらない?」


 学年別の紅白戦なので、代わりに出ることは可能ですが、私が燿子様の馬に…?!


「大将の馬を任せるなら、あなたがいいと思うの…疲れているところ悪いのだけど、どうか」


「イエス・マイマスター!」


 私は思わず、祈るように手を組んでいた燿子様の両手を包んで叫んでしまいました。はしたなくも…

 燿子様はそんな私の言葉に思わずといった風にクスクスお笑いになっていました。


「あら、マスター?せっかくだからシスターはどうかしら。私はあなたのお姉さま…。ね?」


 感激で口元を抑えたとき、先程包んでいたお姉さまの残り香でしょうか、甘く素敵な香りがいたしました…

 結局、私の早とちりで大将は燿子様ではなかったのですが…燿子様の馬として役立てなかったのは一生の不覚でした…!

 

 もう一つ、早とちりがありました。遅れてゴールしたと思っていたけれど、私はなんと陸上部の方々を抜いてしまっていたようなのです。後続の方は400mトラックの半周以上遅れていたらしくて…

 陸上部の方々は前の立て続けのリレー競技で体力を使ってしまっていたのかもしれません。

 偶々とはいえ、こうして、私は燿子様をお姉さまと呼ばせていただくことになったのです。


 お姉さまと一緒にいるときは、周りに近寄る人はあまりいなかったの。

 きっと、お姉さまに恐れ多くて話しかけられなかったのね…わかるわ…私も未だにあまりに美しくて緊張してしまうもの…


 私の大好きな、最愛のお姉さま。

お姉さまが卒業される前、海外へゆかれたまま、行方がわからなくなってしまって。

 私は、お姉さまが心配で心配で、どうにか少しでも足跡を追えないかと、終業式の後すぐ空港へ向かって、飛行機の事故に遭ってしまった…

 そして、お姉さまの家に代々受け継がれるブローチを大切に握りしめて死ぬ直前、異世界へ飛ばされたのです。

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