表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/72

お砂糖とスパイスとすてきなシスター

 星水晶たちシスターは、明日に控えたバザーのため、台所で大忙しだった。 

 この国のクッキーはしっとりとした食感が特徴だ。

 砂糖は、てんさいに似た植物で、寒冷地でも栽培できるのはこちらでも同じ。

しかし、問題は小麦粉で、寒冷地のためライ麦粉のような独特の風味がある種類で、製粉技術も未発達だった。そこで、ナッツの粉を混ぜてクッキーに風味をつけていた。


 星水晶はシナモンと一緒に粉状にした砂糖と、冷やしたバターを使ってショートブレッドのようなサクサクしたクッキーを作ってみた。

 まず、冷えたバターと、シナモンシュガーと一緒にふるった粉を指でポロポロになるように混ぜ合わせる。

ある程度纏まったら、しばらくその生地を寝かせてから、練らないように形作り、伸ばして、食べやすいサイズに切る。

それを竈で焼いて完成。


 休憩と味見がてら、お茶をいただくことになった。


「…!わ、美味しい。絶対紅茶に合うわ〜」

シスター・メアリーは、リスのように頬張っていて可愛かった。


「サクサクした食感がいいですね。」

 シスター・エリカは、ニコニコして上品に召し上がっている。


 もちろん、シナモンが苦手な人もいるため、以前と同じクッキーも用意していた。

 シスター含む、9人のうち4人は、シナモンなしのクッキーを好んだ。

 こちらでシナモンクッキーを流行らせて店を出そうという文子様の案は、バザーでの売れ行きを見て決めることになった。


クッキーが焼けるまでの雑談…。


「私の守護霊様ってどんな方ですか?」


シスター・ミラが聞く。


『うん。おじさんや。あかんわぁ、言葉がわからへん。

 でも、陽気そうなお人や。服装からすると暑い国?もしかして、他国から来た移住者だったりする?』


 最後の部分だけセイラが耳打ちすると、ミラは驚いて赤面していた。


「…!ええそうです。何代も前に。」


 常に側で護っているのが、陽気なおじさんということは配慮のため伏せておいた。


「私にも教えて!」


今度はローズがねだった。


「はい、聞いてみましょう」


『身なりなどから察するに、貴族の方?気軽に話しかけるなと怒っていますわ。』


(もしかして…ローズは貴族だったの?)


(ど、どうしてそれを…)


何か訳ありの様子だった。


クッキーも焼き上がり、片付けをする年長組。

メアリー、ポピー、ミラ、ジョーの年少組はクッキーの袋詰め作業を任されていた。

ミラはジョーと仲良く、たいてい二人組で行動している。

そして、二人はセイラの隠れファンだった。


「守護霊と話すセイラ様、神秘的だったわ…」


「私も聞いてみれば良かった〜。でも勇気が出なくって。」


「ポピーは、あのセイラ様にグイグイ話しかけられて、すごいなって思ってたのよ。」


 ポピーは恥ずかしくなって顔を赤くした。

(セイラのこと好きなのに、意地悪をしていたあたしのこと、嫌じゃないんだ。)


 むしろ、ミラとジョーはポピーの口撃をさらりと受け流すセイラが、かっこ良くて好きだったらしい。


 セイラの、切れ長の目は優しさと慈しみに満ちているが、時おり憂いを帯びる。

 陽にあたったことがないような白い肌は冴えざえとして、犯し難い美しさがあった。

 加えて異世界から来た異質さもあり、背が高く凛としたセイラが歩いているだけで、周囲の人は会話を止めて視線を奪われるのだった。


「セイラがあんな風だから…私と同じように、怒って感情を乱して欲しかったのかもしれないわ。

仮面をはいでやるって思ってた。」


「まあ、ポピーったら大胆ね。」

 

 バザーのクッキーづくりをきっかけに、セイラも、そしてポピーもシスターたちと打ち解けられるようになっていった。 


 翌朝、バザーが始まった。信者から寄付された衣料品や道具、手作りのクッキーを並べて売る。

 星水晶は、肌寒くなってきた季節もあって、文化祭を思い出していた。

 クッキーはすべて値段が同じなので、メアリーや初めて手伝うポピーを中心に売り子になってもらった。

 今日はバザーの参加者も多く、クッキーの売れ行きも好調だった。


 プラチナブロンドの髪をした少女が一人でクッキーを買いにきて、メアリーと話していた。


「これすごくおいしいね!シスターが作ったの?」


「もう食べちゃったの?

香りのついてる方はシスター・セイラが作ったの。

ほらあそこにいる、一番背が高いシスターよ。」


「へぇ…。そうなんだ。お家で待ってるお姉ちゃんのために、もう一袋くださいな。」


「はい、どうぞ!」


 少女は目を細めて笑顔でクッキーを受け取った。黄金色で少し珍しい瞳をしていた。


 その時星水晶は品を並べていたのだが、今までに感じたことがないような寒気と、悪意ある視線を感じたような気がして動けなくなった。


(神のみ業に近づく行いは、悪魔の怒りを買うと言われています)


 ふと、なぜかリュカ大神官の言葉を思い出した。


(クッキーの作り方くらいでまさかそんな…気のせいよね?)


 ようやくあたりを見回してみたが、何気ないバザーの風景に違和感などありはしなかった。



「ほーら、これ。」

 

 少女が、クッキーの袋を鎖で両手を繋がれた女の目の前に置いた。


「誰が作ったかわかる?」


 女はぐったりとしていたが、うっすら目を開けた。


「せ…いら…」


「せいかーい!」


「やめて…星水晶には手を出さないで!」


 女は暴れて少女を睨みつけた。


「セイラには手を出さないよ。セイラにはね。」


「もっといいもの見つけたから。」


 少女は舌なめずりをした。その舌は蛇のように先が割れていて、黄金の目はギラギラと光っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ