お砂糖とスパイスとすてきなシスター
星水晶たちシスターは、明日に控えたバザーのため、台所で大忙しだった。
この国のクッキーはしっとりとした食感が特徴だ。
砂糖は、てんさいに似た植物で、寒冷地でも栽培できるのはこちらでも同じ。
しかし、問題は小麦粉で、寒冷地のためライ麦粉のような独特の風味がある種類で、製粉技術も未発達だった。そこで、ナッツの粉を混ぜてクッキーに風味をつけていた。
星水晶はシナモンと一緒に粉状にした砂糖と、冷やしたバターを使ってショートブレッドのようなサクサクしたクッキーを作ってみた。
まず、冷えたバターと、シナモンシュガーと一緒にふるった粉を指でポロポロになるように混ぜ合わせる。
ある程度纏まったら、しばらくその生地を寝かせてから、練らないように形作り、伸ばして、食べやすいサイズに切る。
それを竈で焼いて完成。
休憩と味見がてら、お茶をいただくことになった。
「…!わ、美味しい。絶対紅茶に合うわ〜」
シスター・メアリーは、リスのように頬張っていて可愛かった。
「サクサクした食感がいいですね。」
シスター・エリカは、ニコニコして上品に召し上がっている。
もちろん、シナモンが苦手な人もいるため、以前と同じクッキーも用意していた。
シスター含む、9人のうち4人は、シナモンなしのクッキーを好んだ。
こちらでシナモンクッキーを流行らせて店を出そうという文子様の案は、バザーでの売れ行きを見て決めることになった。
クッキーが焼けるまでの雑談…。
「私の守護霊様ってどんな方ですか?」
シスター・ミラが聞く。
『うん。おじさんや。あかんわぁ、言葉がわからへん。
でも、陽気そうなお人や。服装からすると暑い国?もしかして、他国から来た移住者だったりする?』
最後の部分だけセイラが耳打ちすると、ミラは驚いて赤面していた。
「…!ええそうです。何代も前に。」
常に側で護っているのが、陽気なおじさんということは配慮のため伏せておいた。
「私にも教えて!」
今度はローズがねだった。
「はい、聞いてみましょう」
『身なりなどから察するに、貴族の方?気軽に話しかけるなと怒っていますわ。』
(もしかして…ローズは貴族だったの?)
(ど、どうしてそれを…)
何か訳ありの様子だった。
クッキーも焼き上がり、片付けをする年長組。
メアリー、ポピー、ミラ、ジョーの年少組はクッキーの袋詰め作業を任されていた。
ミラはジョーと仲良く、たいてい二人組で行動している。
そして、二人はセイラの隠れファンだった。
「守護霊と話すセイラ様、神秘的だったわ…」
「私も聞いてみれば良かった〜。でも勇気が出なくって。」
「ポピーは、あのセイラ様にグイグイ話しかけられて、すごいなって思ってたのよ。」
ポピーは恥ずかしくなって顔を赤くした。
(セイラのこと好きなのに、意地悪をしていたあたしのこと、嫌じゃないんだ。)
むしろ、ミラとジョーはポピーの口撃をさらりと受け流すセイラが、かっこ良くて好きだったらしい。
セイラの、切れ長の目は優しさと慈しみに満ちているが、時おり憂いを帯びる。
陽にあたったことがないような白い肌は冴えざえとして、犯し難い美しさがあった。
加えて異世界から来た異質さもあり、背が高く凛としたセイラが歩いているだけで、周囲の人は会話を止めて視線を奪われるのだった。
「セイラがあんな風だから…私と同じように、怒って感情を乱して欲しかったのかもしれないわ。
仮面をはいでやるって思ってた。」
「まあ、ポピーったら大胆ね。」
バザーのクッキーづくりをきっかけに、セイラも、そしてポピーもシスターたちと打ち解けられるようになっていった。
翌朝、バザーが始まった。信者から寄付された衣料品や道具、手作りのクッキーを並べて売る。
星水晶は、肌寒くなってきた季節もあって、文化祭を思い出していた。
クッキーはすべて値段が同じなので、メアリーや初めて手伝うポピーを中心に売り子になってもらった。
今日はバザーの参加者も多く、クッキーの売れ行きも好調だった。
プラチナブロンドの髪をした少女が一人でクッキーを買いにきて、メアリーと話していた。
「これすごくおいしいね!シスターが作ったの?」
「もう食べちゃったの?
香りのついてる方はシスター・セイラが作ったの。
ほらあそこにいる、一番背が高いシスターよ。」
「へぇ…。そうなんだ。お家で待ってるお姉ちゃんのために、もう一袋くださいな。」
「はい、どうぞ!」
少女は目を細めて笑顔でクッキーを受け取った。黄金色で少し珍しい瞳をしていた。
その時星水晶は品を並べていたのだが、今までに感じたことがないような寒気と、悪意ある視線を感じたような気がして動けなくなった。
(神のみ業に近づく行いは、悪魔の怒りを買うと言われています)
ふと、なぜかリュカ大神官の言葉を思い出した。
(クッキーの作り方くらいでまさかそんな…気のせいよね?)
ようやくあたりを見回してみたが、何気ないバザーの風景に違和感などありはしなかった。
「ほーら、これ。」
少女が、クッキーの袋を鎖で両手を繋がれた女の目の前に置いた。
「誰が作ったかわかる?」
女はぐったりとしていたが、うっすら目を開けた。
「せ…いら…」
「せいかーい!」
「やめて…星水晶には手を出さないで!」
女は暴れて少女を睨みつけた。
「セイラには手を出さないよ。セイラにはね。」
「もっといいもの見つけたから。」
少女は舌なめずりをした。その舌は蛇のように先が割れていて、黄金の目はギラギラと光っていた。




